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もやしさんの憂鬱  作者: あかなす(前とまとまと)
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第7話 新しい家族


「歩けますよ…」


凛子が言う。


「何言ってるんだ、ダメに決まってるだろ?」


シャムシエルが凛子を抱えて歩きながら言う。


「裸足で歩くと怪我をする。」


後ろを歩く霧山が言う。



「…お前は本当についてくるんだな…」


シャムシエルが霧山を見る。



「心配するな、…もう殺さない。」



……よく分からん男だな。

殺すと言ったり家に連れていけって言ったり…



「…大丈夫ですよ。霧山さんはそんな事しませんから。」



凛子がシャムシエルに言う。



「…だといいが。」



凛子と霧山…

何の話をしていたんだ?



シャムシエルの家に帰ってきた3人。


「とりあえず、そこのソファーに座っててくれ。」


シャムシエルが凛子を抱えてバスルームへ向かう。



「おろして下さい。」


「…足を洗わないと。あと怪我してるかもしれないし…」



シャムシエルがそう言うと風呂場で凛子の足を洗おうとする。



「足くらい自分で洗えますよ。」


凛子が慌てる。



「…じっとしてろ。」


凛子の言葉を無視して洗い始める。



「…!…痛っ!」


「やっぱり怪我してるじゃないか。」



洗い終わるとタオルで拭いてまた抱えてリビングへ連れていく。



「…歩けます。」


「手当てが先!」


リビングで怪我の手当てをする。



「手慣れているな…」


霧山がじっと見ながら言う。



「昔、よく怪我をする子と住んでいたからな。」



…さつきさんの事かな?



「……よし、終わった。」


「ありがとうございます。」



「さて、なにか飲むか?霧山、あと凛子も…」



「じゃあコーヒーを頼む。」


霧山が言う。


「私はいいです…」


「ホットミルクだな。」


シャムシエルがじっと見る。



「……いらないで……」


「じゃあ酒、飲むか?」


ニヤリと笑いながらシャムシエルが言う。


「うっ!…お酒はいらないです!………じゃあホットミルクお願いします。」




ホットミルクとコーヒーをテーブルに置く。

シャムシエルがソファーに座って言う。


「…で?…話って何だ?」



座ったままの霧山が頭を下げる。



「…どうした?」


シャムシエルが驚く。



「すまなかった!俺が間違っていた…」


霧山が頭を下げたまま言う。

そしてみずきの事、悪魔の事をシャムシエルに話す。




「………俺は関係ないよな?」


「ああ、その通りだ。…すまない。」



シャムシエルがため息をつく。


「…もう、いいよ…謝らなくて。」



「…どうかしてた。」


霧山が言う。



「……その悪魔は消えたのか?」


「ああ、消えた。」



「そうか…」



悪魔や天使は死なない。

自分で消えようと思わない限り…

その悪魔も俺と同じように人間に恋をして…消えたいと考えたという事か…




「…大丈夫ですか?」


凛子がシャムシエルの顔を心配そうにのぞき込む。



「え?……ああ、大丈夫だよ。」




霧山が凛子をじっと見る。


「……?……どうしました、霧山さん?」


「決めた!」



「…決めた?何をですか?」


霧山が凛子を見て言う。



「凛子、今日から君を私の妹にする。」


「へ?」


凛子とシャムシエルの目が点になる。


「みずきが亡くなる前に両親も交通事故で亡くしたんだ。だから私にも家族はいない。君が私の妹になれば…もう、ひとりじゃないだろ?」



「霧山さん…」



ひとりじゃない…

わたしの……お兄さん?

いきなり過ぎて混乱する…




「…そういう訳だ、シャムシエル!私の妹に変な事はするなよ!」


霧山がシャムシエルを睨む。



やっぱりよく分からん男だ…

妹って…血の繋がりがないのに兄弟?

…人間の言うことは謎が多いな。



「どうして、皆、俺を変なやつ扱いするんだ?」


シャムシエルがため息をつく。



「それは本当に変な人だからですよ…」


凛子が言う。



「…やっばり、変なやつなのか。心配だな…私の家に来るか?」


霧山が凛子に聞く。



「待て待て、勝手に連れていくな。」


シャムシエルが霧山に言う。



「行きたいのはやまやまですが…わたし、この人に買われたので…」


凛子が嫌そうな顔でシャムシエルを見ながら話す。



「キミは本当に失礼な子だね…」


シャムシエルがため息をつく。

霧山が時計を見る。



「こんな時間かそろそろ帰るか。…そうだ、次の休みにどこかに出かけよう。」


「……え?」


「どこに行きたいか考えておいてくれ。」


凛子の頭を撫でながら霧山が言う。



「おい、シャムシエル。凛子に変な事するなよ!」


「…しないよ。」


シャムシエルがため息をつく。

霧山が帰っていった。



「何だったんだ、あいつは…」


「霧山さんも…優しいですね。」


凛子がつぶやく。



「……霧山も?」


シャムシエルが聞き返す。



「…!」


凛子が驚いた顔でリビングに戻る。



「…どうした、凛子?」


シャムシエルが不思議そうな顔をする。



「…もう寝ます。疲れました。」


「…ああ、おやすみ。」


凛子が自分の部屋に入る。




………霧山も…優しい…か。

俺の事もはいってるのか?

よく分からないが霧山が兄になったらしいし…



「このまま…いい方向にすすめばいいけどな……」




凛子が自分の部屋のベッドで寝ていた。


……わたしの代わりはいない。

自分に誇り…


………お兄さん?


ひとりじゃない……



無事でよかった…



もやしさんも霧山さんも…優しい。



………どうして、わたしの事をほっておいてくれないんだろ?



わたしなんて…



自分を卑下するものじゃない。



そう言われたけど。

わたしなんて……





数日後の朝。

玄関に霧山がいた。


「……本当に来たな。」


シャムシエルが霧山に言う。


「今日は凛子と私で出かけるからな。お前は来るな。」


「そういってもなぁ…」



「もやしさんは寝てて下さい。」


出掛ける支度を済ませた凛子がやって来て言う。



「そうだ。目の下にくまができてるぞ?…大人しく、寝てろ。」


霧山が不思議そうな顔で言う。

凛子を見て心配そうな顔をするシャムシエル。



「心配するな。暗くなる前に帰ってくるし、できるだけ明るい場所に行くから。……行くぞ、凛子。」



「行ってきます。…ちゃんと寝てて下さいね。」


凛子がシャムシエルに言う。



「心配してくれるの?」


シャムシエルがニヤリと笑いながら凛子に言う。



「……うっ……倒れられると面倒なので。」


少し恥ずかしそうな顔で凛子が言う。



「…はいはい。」


シャムシエルが微笑む。



「何かあったらすぐに連絡する。」


「分かった。」



……霧山と一緒なら大丈夫かもな。


凛子と霧山が外に出る。



「…どこか行きたい場所はあるか?」


「うーん、行きたい場所…」


凛子が悩む。



「……動物園はどうだ?」


「霧山さんにおまかせします。」


2人は電車やバスに乗って動物園に向かう。


……動物園か。

学校の遠足以来かも?



「…もし、闇の声が聞こえたらすぐに言ってくれ。」


「はい。」




動物園に到着する。

凛子がぞうの前で立ち止まる。


「…大きい。」


「そうだな。…動物園なんて久しぶりだよ。」


「…そうなんですか?」


「…どこに行くか私も思いつかなくてな。ここなら明るいし、気分転換になるだろ?」


霧山が微笑む。


その後も色々な動物を見る2人。


「少し、休憩するか?」


「はい。」


近くのベンチに座る。



「…大丈夫か?」


「はい。…大丈夫です。」



…歩き疲れたな。

こんなに歩いたの久しぶり。



「……歩き疲れたか?帰りはおんぶしてやろうか?」


凛子が焦る。


「え?!…いえいえ、大丈夫ですよ。」


「……冗談だよ。」


霧山が微笑む。



怖そうなイメージがあったけどよく笑う人……それに優しい。



「…霧山さんは優しいですね。」



「…どうだろう?…よく分からんな。……そう言う君も優しいだろ?あいつの心配をしていた。」



…私が……優しい?



「それは……あの人が夜、わたしが闇に引き込まれないように寝ないで見張ってるんですよ。…だからいつも寝不足で。」


霧山がが驚く。


「そうなのか?!…それであいつの目の下にくまがあったのか。」


「わたしなんかの為に…」


「君はどうして、自分を卑下する?」



「……わたしは…両親に……愛されませんでした。…いつも、暴言や暴力を受けて…」


霧山が黙って聞く。


「最後は……売られました。」



…それでシャムシエルに買われたというわけか。

酷い話だな。



「…わたしはその程度の価値しかないんですよ。…だから売られた…」


「価値のない人間なんて、なかなかいない。」


「でも…わたしなんて…」


「少なくとも私は君のおかげで救われた。」


「え?」


霧山が微笑む。


「君に出逢えなかったら。今もあいつの命を狙ってたよ。そして闇堕ちしてただろうな。」



「………。」



「いきなり考えを変えるのは難しいとは思うが。とりあえずわたしなんかと言うのはやめた方がいい。…言葉には力がある。少しずつでいいから後ろ向きな言葉は使わない方がいい。」



「…………。」


凛子が下を向く。

霧山が頭を撫でる。


「少しずつ……無理しなくていい。」



……わたしのおかげで救われた?

急に妹だって言ったり、不思議な人…



「…どうして、わたしの事を妹だって言ってくれたんですか?」


「……どうしてだろうなぁ。不思議とそうしたいと思った。」


「……?」


凛子が不思議そうな顔をする。



「……危なっかしい子だからかもしれないな。ほっておくと壊れてしまいそうで…」



「…壊れる?」



霧山が凛子を見て微笑む。



「君が闇堕ちせずに大人になるのを見守りたい…そう思ったから妹にしようと思った。…迷惑だったか?」



大人になるまで…


「いえ、迷惑ではないです。でも……」


霧山が凛子の額をつつく。


「わたしなんて…って言うつもりだろ?」


「うっ……」


霧山が笑う。


「図星か?」


「…………図星…です。」










シャムシエルの部屋。




「………さて、ひと眠りするか。」


シャムシエルがリビングを見渡す。



…あれ?

この部屋、こんなに広かったか?



「………。」



リビングの凛子がいつも座るソファーの辺りを見る。



………おかしいな。

ひとりに慣れてきたはずなのに…



「……余計な事は考えずに寝るか」


シャムシエルが寝室に向かう。








「…これはどうだ?」



霧山が大きなパンダのぬいぐるみを持って凛子に見せる。



「……………。」



凛子が黙ったまま霧山を見る。



「猿の方がいいか?」


「……えっと、ぬいぐるみが欲しいなんて言ってませんが…」


凛子が少し焦りながら言う。



「今日の記念だ。ぬいぐるみじゃなくてもいいぞ。」



凛子が店の中を見渡す。

…欲しいもの。

うーん、何が欲しいんだろう?


ナマケモノのぬいぐるみを見つける。



あっ、これ可愛いかも。



小さなナマケモノのぬいぐるみを手に取って霧山に言う。


「……霧山さん、これ………!」



大きなナマケモノのぬいぐるみを手に持って霧山が言う。


「これがいいんだな?」


自分の持っている小さいぬいぐるみを見せて言う。


「…いえ、これでいいで……」


霧山が凛子が持っているぬいぐるみを棚に戻して大きなぬいぐるみを渡す。


「これだな。……あいつにも何か買って帰るか?」



……可愛いけど、大きい。


凛子がぬいぐるみをじっと見る。

霧山がその様子をみて微笑む。



「さて、そろそろ帰るか?」


「はい。」



凛子が大きなぬいぐるみを抱えながら歩く。


「ありがとうございます。…でも抱えて歩くの少し…恥ずかしいですね。」


「そうか。」


霧山が笑う。



つづく


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