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もやしさんの憂鬱  作者: あかなす(前とまとまと)
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第6話 魔術師の男

霧山が病院に見舞いに来ていた。

彼の妹、みずきは幼い頃から病弱で長い間、入院していた。病室のドアを開ける。1人の男が見舞いに来ていた。2人は楽しそうに話している。みずきが霧山に気づく。


「………あっ、お兄ちゃん。」


みずきが微笑む。


「…なんだ、また来ていたのか?」


ため息混じりに霧山が言う。


「…こんにちは。」


男が霧山に言う。



不思議な雰囲気を持った男が最近、見舞いに来るようになっていた。


……何者だ?

何か独特の雰囲気の男だな。



「…じゃあね、また来るよ。」


男が立ち上がる。


「うん、また来てね。」


みずきが笑顔で手を振る。



「……何者なんだ、あいつは?」


「分かんないの……でもいい人よ。」


「………そうか?」


霧山がムスッとした顔で言う。



「…そんな顔しないでよ。」


みずきが微笑む。






霧山が目を覚ますと自宅のベッドの中だった。



「………夢か…」


みずきの夢を見るのは久しぶりだな。

あの少女にあったからか?



「…………。」









シャムシエルの部屋。



リビングで凛子が本を読んでいた。

シャムシエルはその隣でパソコンを見ている。



…………そういえば

もやしさん、なんの仕事してるんだろ?



「……あの、」



「…ん?」


シャムシエルが凛子を見る。



「もやしさん…ずっと家にいますけど、何の仕事してるんですか?」



「……俺の仕事?」


他の事に興味を示した……いい傾向だな。



「…はい。このマンション…結構、高そうですよね?…なのに家にずっといるから……」



「株で儲けてるんだ。」


「………へ?」


パソコンの画面を凛子に見せる。



「ほら、株の売り買いで稼いでるんだ。…俺、人間じゃないしな。普通に働くは無理だろ?」



「……株?………それでこのマンション買ったんですか?…」



目が点になる凛子。



「うん、結構、儲かるぞ。」


シャムシエルがコーヒーを飲みながら話す。


「…………元天使が…株?」


「うん、元天使が株で儲けてる。」


シャムシエルが笑いながら言う。



…株で儲けてるんだ。

たしかに普通に仕事してる姿は想像しにくいな…


凛子がシャムシエルをじっと見る。



「何か欲しいものあるなら…」


「今のところは何もいらないですよ。」


凛子が無表情のまま即答する。



「そうか。……何か飲むか?あと甘い物も食べる?」


「…じゃあ、紅茶をお願いします。甘い物は…」



少し前にお昼食べたばかりだし…

あんまり、お腹減ってないし。



「…今はいいです。」


「食べるだろ?」


シャムシエルが凛子をじっと見る。




「そんなに、お腹、減って…」


「食べるよな?」


シャムシエルが凛子をじっと見る。




……食べるって言うまで続きそうだなこのやりとり。


凛子がため息をつく。



「少しだけなら…」



凛子がそう言う前にキッチンでお茶の用意をしていた。



……太らせようとしてるのかな?

本当に変な人…

面倒見がいい?のかお人好しなのか…


…私なんかほっておけばいいのに。


………そういえば、あの人。



凛子がお茶を用意しているシャムシエルのそばに行く



「もやしさん…」


「ん?」


「この前、突然、現れたあの男の人…」


「ああ、霧山か?」


「何したんですか?…殺すとか言ってましたよ…」


凛子がシャムシエルを疑わしい目で見る。



「……分からん。」


「え?分からんって…殺すとか言ってるんですからなにかしたんですよね?」



「…堕ちそうだったから、話しかけただけだ。そしたら急に殺すだの何だの言い始めた。」



「……本当に?」


凛子がシャムシエルをじっと見る。



「本当だって…なんで殺そうとしてるのか俺が知りたいよ。」



……あの男の人も堕ちそうになってた。

自分も堕ちそうなのにこんな事を思うのは変だけど。

あの人には堕ちてほしくないな…







夜、シャムシエルがお風呂に入っていた。

凛子はリビングで本を読んでいる。



……………デ



「……?」



………イ…………デ………




「………誰?」



凛子が周りを見渡す。



………オ……イデ……



コッチ……二………オイ……デ……



凛子の目が曇る。


「……呼…ん…でる?」



……オイデ……



凛子が立ち上がり玄関に向かう。




コッチ二………



オイデ…………………………………






シャムシエルがお風呂からあがってきた。

ドアの閉じる音が聞こえる。



「……?………凛子?」



リビングに凛子の姿がなかった。


「…!!」


闇に引き込まれた気配はない。

さっきドアの閉じる音がしたな…


急いで、玄関に向かうが凛子の姿はない。



…まずいな、呼び出されたか。




凛子がマンションから出て外を歩く。

目は虚ろで顔に表情はない。

暗闇から無数の手が手招きする。




……オイデ……


…コッチ二………





凛子が手招きする方向に向かって歩く。

偶然、霧山が通りかかる。



「あの子は…」



……様子が変だぞ。


凛子のそばに行く。


「…大丈夫か?」


霧山が声をかけるが反応がない。

凛子の肩を掴んで自分の方に顔を向ける。


「しっかりしろ!」



「……!!」



凛子の目に光が戻る。


「…あれ?……ここは?」



周りを見渡す。


…どうして外に?



「…どうして、外にいる?……靴も履かずに。」


「…え?…裸足?…どうして?」


凛子が自分の足下を見る。

裸足で歩いていたようだ。


「……えっと、霧山さん?……でしたっけ?」



「ああ、そうだが。…君はどうして外にいるんだ?」


「……どうしてでしょう?……家で本を読んでたんですが気がついたらここに…そういえば、声が……」



「…声?」




……オイデ……


……ハ……ヤク…………



凛子の目がまた曇る。


「……行かな…い…と………」


凛子がまた歩き始める。



……なんだ?様子がおかしいな。



霧山が凛子を抱える。


「……家はどこだ?」


「…!!……え?ちょっと、下ろしてください。」


凛子が抱えられて正気に戻る。



「裸足で歩くと怪我をする。……家はどこだ?」


凛子が周りを見渡す。



「…………ここ、どこですか?」


「え?!」


「…ここにやってきたばっかりで…家がどこか…分かりません。」


霧山がため息をつく。


…アイツは何をしてるんだ?

夜に外に出すなんて…

闇からの力が強くなるのに。

とにかく、どこかに移動するか。



「…この辺りに神社か寺があればいいんだが…」


「……お寺?どうしてですか?」


「清らかな土地は闇のやつらは近づけない。…さっき声がするとか言っていたな、何と言っているんだ?」


「…こっちにおいでって…言ってました。」


「…そうか。」


かなり末期だな。

…俺でも闇の声を聞いたことはない。



霧山が凛子を抱えて歩く。



…どうして、赤の他人のわたしを助けるんだろ?

この人ももやしさんと同じ……優しい。




しばらく歩くと小さな神社を見つける。


「…ここならなんとかなりそうだな。」


神社の中に入っていく。

夜なので誰もいないようだ。

凛子を下ろして自分の上着をかける。


「部屋着だけじゃ寒いだろ?」


「すいません、ありがとうございます。」


霧山がズボンのポケット中から小さな小瓶を取り出すと蓋を開ける。中から煙が出てきて鳥の形になった。


「……鳥?」


「伝書鳩みたいなものだな。この鳥の頭を触ってあいつの事を考えてくれ。」


鳥の頭に触れる。

もやしさんの所まで、お願い。

鳥が飛んでいく。


「あの鳥がここにいることを伝えてくれるはずだ。」



「あの…ありがとうございます。」


「気にしなくていい。」


「でも…」


霧山が凛子をじっと見る。


「…少しだけだけど顔色がよくなっているね。」


「そうですか?」


「…でも、まだ完全によくなっていない。このままでは……」


凛子が下を向く。


「…どうして、赤の他人がそんなに優しいんですか?」


「……優しい?……普通、困っている人がいたら助けるものだろ?」


霧山が不思議そうに言う。


「……わたしなんか…」


霧山が凛子の顔を真っ直ぐに見て言う。


「自分の事を卑下するものじゃない。」


「…え?」


凛子が驚く。


「君は君だ。この世に一人きりで代わりの人間などいない。…自分に誇りを持ちなさい。」


「この世にひとり…代わりはいない?」



霧山が頷く。

そして凛子の頭を撫でる。



「………君を見ていると、妹を思い出すよ…」


「妹さんですか?」



「病弱な子でね。18の時に病気で亡くなった。明るく前向きな子だったよ…」



…18歳。

私と同じ歳の子。



「あの子がいなくなって心が壊れてしまった。…後を追いかけようと何度も考えたよ…」



…私はどうしてこの子にこんな話をしてるんだ?

今まで誰にも話さなかった事なのに…



「…でもそんな事をすればあの子が悲しむ。辛くても生きなければと思ってどうにか生きてきた。」



凛子が霧山の腕に触れる。


「……それで、闇堕ちしそうになってたんですか?」


「…ああ、でも不思議だな。…君を見ていると心が洗われるようだ…」



…前に見た時はこの人の周りの空気が黒く見えたけど今は黒く見えない。

…どうしてだろ?



「…病気で…じゃあもやしさんはなんの関係が?」


「もやし?」


不思議そうな顔をする霧山。


「あっ、あの人です。」


「…シャムシエルの事か?」


「そうです。」


霧山がバツの悪そうな顔をする。


「…実はな。」


「…?」


「君に会って、少し正気になって気づいたんだが…アイツは何も関係ない…私の、その勝手な考えと言うやつだ…」



「…どういうことですか?」


「私の妹は…悪魔と恋に落ちてな。妹が亡くなったのを悪魔のせいにする事で自分の気持ちを落ち着けていたんだ。…そんな気分の時にアイツが話しかけてきて…アイツをその相手の悪魔と重ねて…」



……また話が現実離れしてきてる。

悪魔と恋に落ちて?


凛子の頭の中が混乱する。



「……その相手の悪魔さんを恨む気持ちがあの人に重なったって事ですか?」



「…そういう事だな…」


霧山が焦りながら頷く。



「やっと気づいたよ。自分の過ちに…」



「…相手の悪魔さんはどうしたんですか?」


「消えた。」


「…?悪魔さんが……消えた?」


「ああ、あの子が亡くなった日にやって来て…もうこの世界に存在する意味はないと言いながら消えていった。」





シャムシエルのマンション



「まだか?」


シャムシエルがイライラしながら言う。


「あんたねー!急に呼び出して本当に人使いが荒いわね!」


リリスがイライラしながら言い返す。


「早く見つけないと…」


「そんなに慌てないの!…少し待って」


目を閉じて意識を世界に張り巡らせるリリス。


「……まだ闇に落ちてはない…わね。……そんなに離れた場所じゃない…」


「方角は?」


「…神社?かお寺?…小さいけど清らかな土地にいるわ…」



「小さな神社なら少し離れた場所にあるぞ…そこにいるんだな?」



霧山が作り出した鳥がシャムシエルの肩にとまる。



「…ん?」


…この鳥、魔法?


鳥が玄関の方に飛んでいく。


「…ついて来いって事か?」



「…どうしたの?」


「どうやら…見つかりそうだ。」


そう言うと急いで鳥のあとを追う。



「……まったく!人使いが荒いんだから~!」


リリスがため息をつく。


…でも見つかりそうでよかったわ。

あんなに焦ってるシャムシエル、久々に見たわね。












「…そういえば、君はアイツに買われた…とか言ってなかったか?」


霧山が凛子に聞く。


「………両親に売られました。それであの人が買って助けようとしてくれてます。」



「………そうか、、君も1人になったんだね。」


「…え?」


「私も1人だよ。…両親も妹も亡くなった。」



霧山が凛子の頭を撫でる。


「……私はもう大丈夫だ。…闇堕ちしない、生きる希望が出来た。」


「……希望が…出来た?」


霧山が微笑む。



「……そういえば。名前を聞いてなかったね。…私の名前は霧山貴之だ。」



「…わたしは立花凛子です。」



「…凛子か、いい名前だね。」



凛子の肩に霧山の作った鳥がとまり、消えた。



「どうやら……迎えが来たみたいだね。」




「凛子!!」


シャムシエルが凛子のそばに走ってくる。



「あ、もやしさ…!!」


シャムシエルが凛子を抱きしめる。


「…よかった、無事で。」


「ちょっと、何すんですか……」



凛子が離れようとするがシャムシエルは凛子を離さない。



「闇に引き込まれたのかと思った…」


安心した顔をするシャムシエルを見て離れようとするのをやめる凛子。


「………。すいません、迷惑かけて…」


「…無事ならそれでいい。」


シャムシエルが微笑む。



「おい!…話がある。お前の家まで案内しろ。」


霧山がシャムシエルに言う。



「……?……何で霧山が凛子と一緒なんだ?」


シャムシエルが不思議そうな顔をする。



「さっさとお前の家に案内しろ、話はそれからだ。」




つづく




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