第5話 心の奥にあるもの…
「…へ?」
凛子が驚く。
シャムシエルが笑顔で言う。
「あれ?言ってなかったか?」
「そうよ♪シャムシエルは人間じゃなくて…」
リリスが笑顔で言う。
「堕天使……いや、なりそこないだからな。…元天使だな。」
…元天使?
本当に?!
……話が飛びすぎて理解できない…
たしかに仮面付けてる変人だけど…
人間じゃないの?
あっ、だからあの時…羽根の音がしたんだ…
「………えっと、、堕天使ってなんですか?」
頭の中が混乱中の凛子が聞く。
「禁忌を犯して天界から追放され堕ちた天使よ。シャムは天界から追放されたの。…でも完全に堕ちてないのよね~」
ママが説明する。
「…完全に落ちてない?…あと追放されたって…何したんですか?」
「シャムの場合は不純な理由だから完全に堕ちなかったみたいなの。」
「……人間を愛しただけだからな。」
シャムシエルが言った。
「え?…追放された理由って…それだけですか?」
「ああ、それだけ。…天使が人間に恋をするのは禁じられている。」
………人間を好きになっただけで追い出されるんだ。
「……えっと、てんかい?…の1番えらい人に謝って許してもらう事は出来ないんですか?」
ママとリリスとシャムシエルの目が点になる。
「……あれ?…変な事、言いましたか?」
「一番偉い人ね…たしかに謝ったら許してくれそうだけどねぇ~」
ママがため息混じりに言う。
「絶対、許してくれない奴がいるからねぇ~」
リリスが言う。
「…そうなんですか?」
「今、天界を仕切ってる奴だよ。天界で1番、厳しいやつだ。」
シャムシエルがため息混じりに笑う。
「……?一番えらい人は優しいんですか?」
「…優しいというか、寛容な人ね♪」
ママが言う。
「ちょと~♪凛子ちゃん、いらっしゃい。ガールズトークしましょ♪」
凛子がオカマたちに連れていかれる。
「………どうして、何も言ってないの?」
ママがシャムシエルに言う。
「……凛子は俺に興味がないんだよ。……聞かれなかったから言わなかっただけだ。」
シャムシエルがカウンターの椅子に座る。
「ふぅ~ん。」
ママがシャムシエルをじっと見る。
「興味を持たれないのが不満みたいね…シャムちゃん♪」
「…別に、不満じゃないよ。……俺はあの子が闇落ちしないようにするだけだから…」
「なに、寂しそうな顔してるのよ♪」
リリスがシャムシエルの顔を覗き込みながら言う。
「うるせーよ、、」
「天界きっての色男がまるで童貞くんみたいな反応ね♪」
リリスがニヤニヤしながらシャムシエルを見る。
「………で?もうヤっちゃったの?」
ママが興味津々な顔で聞く。
「するわけないだろ…露骨な言い方するな…」
シャムシエルがため息をつく。
……俺にというより
何にも興味がないんだよな…
奥でオカマたちと話している凛子を見る。
あんなに濃いキャラに囲まれてるのに表情が変わらない…
……でも。
たまに目をそらして話する時があるな…
あと下向いて黙る時も…
少しは変わってるのかもな…
「…そういや、一番偉い人なんだけど…」
リリスが話し始める。
「何かあったのか?」
「最近、天界にいないみたいよ。」
「そうなのか?…あの人がサボりとかは考えにくいな。」
「人間界に来てるらしいよ。」
「あらあら、じゃあ1番厳しい人が怒ってるんじゃないの?」
ママが笑いながら言う。
「ダメよ!凛子ちゃん!それはお酒よ~!!」
奥で凛子と話していたオカマが叫ぶ。
3人が奥のオカマ達の方を見る。
「…!どうした?…凛子?」
シャムシエルが慌てて凛子のそばに行く。
奥の座席で真っ赤な顔をした凛子が横になっていた。
「私のグラスのお酒、間違えて飲んじゃった…」
オカマの1人が説明する。
「何してるんだよ…凛子は未成年だぞ。…水とおしぼり…」
ママが鬼の形相でオカマ達の所に歩いていく。
「お前ら!何しとるんじゃ?!…未成年に酒飲ませるんじゃねぇ!!」
「ごめんなさい~!」
「許して~!」
拳を振り上げるママと逃げるオカマ達。
店の中で仁義なき戦いが始まる。
シャムシエルが凛子を抱えて店を出る。
「また来るわ…」
「きゃ~こわい。」
リリスも店を出る。
「あっ、こんな時間。そろそろ行かなきゃ。…送っていこうか?すぐ車、呼ぶわ。」
リリスが電話をかける。
「ああ、頼む。」
家に帰るとリビングのソファーに凛子を寝かせる。
「とにかく、水、飲んで…」
凛子が水を飲む。
顔が赤くボーとしている。
「……もやしさん、」
「なんだ?」
「…どうして、仮面…付けてるんで、すか?」
…目がすわってるな。
「…どうしてって説明するの難しいな…」
凛子がシャムシエルに近づいていく。
シャムシエルか後ろに下がる。
「前、見えてるんですか?」
凛子がシャムシエルの仮面に触る。
「ちゃんと、見えてるよ。…近いよ、凛子。」
仮面から見えるシャムシエルの目をのぞき込む。
「…元天使って…本当ですか?」
「本当だよ…」
質問攻め…
顔、真っ赤だな…
体も熱くなってる。
「仮面、外してもいいですか?」
凛子が仮面の紐を引っ張る。
「待て待て!やめろ…引っ張るな…」
凛子の手を掴んでとめる。
「どうして、ダメなんですか?」
「いや、ちょっと外すのはやめて欲しい…というか、近いよ凛子…一応、俺は男だから…」
顔が真っ赤で目のすわった凛子がシャムシエルをじっと見る。
「………男?…今まで1度もおそったこと…ないのに?」
「…女の子にひどい事はできないよ。」
シャムシエルが焦る。
「じゃあ、なんでかったんですか?」
「…だから、闇堕ちしそうだったから…」
凛子がシャムシエルの両頬をつまむ。
「いみが、わからない…ですよ…」
「痛いよ、離して…」
酒で性格が変わってる。
早く寝てくれないかな…
凛子がシャムシエルの服のえりを掴む。
「…どうして……」
「…ん?」
「どうして……ほっておいてくれないんですか?」
「……え?」
「ほっておいてくれれば……いいのに!わたしなんか、…どうなってもいいのに!…どうして………」
「…ほっておけるわけないだろ?」
「…もう、いいんですよ!…はやく、楽に…死にたいのに!!」
凛子が心の中にあるものを吐き出す。
「死にたいなんて…簡単に言うな!」
シャムシエルが怒りながら言う。
「……生きる、理由なんて…ない…のに……」
シャムシエルが凛子を抱きしめる。
「だめだ。……生きるんだ。」
「わたし…は………」
シャムシエルが強く抱きしめる。
「だめだ…。生きてくれ…」
ほっておけばいいのに…
どうして、
助けようとするの……
…わたしなんて
生きる価値も
理由もない…のに…
次の日の朝。
ベッドで横になっている凛子がいた。
…頭が痛い。
気持ち悪い…
吐きそう……
「…大丈夫か?」
心配そうに凛子を見る。
「………頭が、痛いです…」
…昨日、間違えてお酒飲んで
その後…
もやしさんに絡んだような気がする…
よく覚えてない…
何か変な事言ってない…かな?
「……………あの、」
「ん?」
「昨日、わたし、変な事言って…」
「……覚えてないの?」
「…うっ…もやしさんに絡んだような気が…する……んですが…」
シャムシエルがニヤリと笑う。
「覚えてないの?……昨日のこと。」
「うっ、、わたし、何を……したんでしょうか?」
凛子が焦りながら起き上がる。
「横になってた方がいいよ…」
「うっ、、」
…気持ち悪い。
また横になる凛子。
「まさか、あんな事、するなんてなぁ~」
シャムシエルがニヤニヤしながら凛子を見る。
「え?……わたし、何をしたんですか?!」
「あはは、冗談だよ。…大丈夫、変な事はしてないよ。」
「……本当ですか?」
シャムシエルが微笑みながら言う。
「…大丈夫。」
「………。」
…どうしてかな?
もやしさんが言うなら大丈夫かな?って思い始めてる。
昨日、何があったかあんまり覚えてないけど…
温かかった…。
「…水、持ってくるね。」
「…はい。」
凛子の部屋の隅から黒い手が伸びる
黒い手をじっと見る。
…あの手に触れたら
また引きずり込まれる…
…………あの手に
触れレバ………
楽に…
ナレル………
黒い手が凛子の方へ伸びてくる。
こノ手に……
触レレバ…………
「…水持ってきたぞ……凛子?」
「……!」
黒い手が消える。
「……どうした?」
「…いえ、……何でもないです。」
シャムシエルが部屋の隅を見る。
……少しだが闇の気配がする。
このままだと闇堕ちするのも時間の問題だな。
何か考えないとな…
つづく