第4話 仮面の男
家に戻る2人。
「先にお風呂入っておいで。」
「…はい。」
シャムシエルがキッチンへ向かい夕食を作り始める。
凛子が服を脱いで湯船につかる。
……あの人はどうして堕ちそうになってたんだろ?
あの男の人の周りの空気が黒くなってた…
それにもやしさんの事、殺すって言ってた…
もやしさん、何かしたのかな?
お湯の中から黒い手が無数に出てきた。
「え?」
凛子の体を黒い手が掴む。
「ちょっと、嘘…」
凛子が湯船で抵抗するがそのまま引きずり込まれる。
キッチンにいるシャムシエルが闇の気配に気づく。
急いでバスルームへ向かう。
「凛子!…ごめん、開けるぞ!」
バスルームのドアを開ける。
湯船の中に凛子の姿はなかった。
「…嘘だろ?」
焦りながら湯船に手を入れるシャムシエル。
真っ黒な世界。
無数の黒い手が凛子を下へ下へと引きずり込む。
お風呂くらいゆっくり入らせて欲しかったな…
このまま堕ちていくのかな?
バサッ!
…羽根の音?
もしかして…
凛子の腕を掴む大きな手。
「凛子!」
明るくなったかと思うと湯船の中にいた。
…よかった、引き戻せた。
湯船の中で思わず凛子を抱きしめる。
シャムシエルの服はびしょ濡れだった。
「…ごほっ、」
凛子が苦しそうに咳き込む。
「…大丈夫?」
「…はい。」
「…よかった。」
シャムシエルがほっとする。
「………あっ…」
凛子が裸である事に気づくシャムシエル。
「ごめん、すぐ出るよ。」
凛子から手を離すと湯船から出る。
「………。」
凛子が湯船の中で黙る。
…あれ?
セクハラって言わないのか?
「………ありがとう、ございます。」
湯船の中で背中を向けたままの凛子が言う。
「…どういたしまして。」
シャムシエルが微笑みながらバスルームを出る。
濡れた服を脱いで着替える。
少し時間をおいて凛子もお風呂からあがってきた。
「…大変だった、な……!」
リビングに入ってきた凛子がしゃがみこむ。
シャムシエルがそばに行く。
「どうしたの?!」
凛子の顔が真っ赤になっていた。
「…あつい、きもちわる、い…です。」
…のぼせたのか。
凛子をソファーに座らせる。
「…水、持ってくるね。」
水を飲ませて横にさせて冷たく冷やしたタオルを額にのせる。
まさか、風呂の中までくるとは…
厄介だな…
赤い顔をして苦しそうな凛子を見る。
「水…飲む?」
「…いえ、大丈夫…です。」
………あれ?
もやしさんの顔が近い…
………………?
ひざ枕?!
凛子が急に起き上がる。
「急に起き上がるとダメだよ…」
凛子がまた倒れる。
シャムシエルが冷えたタオルを置き直す。
目が回る…
「……なんで、ひざ、枕……セクハラ…ですよ…」
「はいはい。…大人しくしてなさい。」
シャムシエルがため息をつく。
恥ずかしいのか?
…やっぱり子供だな。
シャムシエルが微笑む。
霧山の部屋。
……何だったんだあの少女は。
あの子も闇堕ちしそうになっていたな。
アイツが…助けようとしてる?
「………。」
霧山が女の子が写っている写真をじっと見る。
「……みずき。」
「…あなたは…なぁに?」
若い女性がシャムシエルに話しかける。
「…俺が見えるとは、珍しいな。」
「…そうなの?」
若い女性は不思議そうな顔をする。
「名前は?…俺はシャムシエル。」
「わたしはさつき。はじめまして、シャムシエル。」
さつきが微笑む。
シャムシエルが目を覚ます。
「………夢か。」
…いつの間にか寝てたな。
凛子の寝ているベッドに腰掛けて本を読んでいたがいつの間にか寝ていた。凛子はまだ寝ている。
さつきがいなくなってもう何年たつだろう?
いつまで経っても君が忘れられない…
心に穴があいたままだ。
私がいなくなっても消えないで…
困ってる誰かを助けてあげて。
…君の言葉を支えになんとか生きてきた。
立花凛子…日本人です。
凛子が来てくれて少し心が救われた…
そんな気がする。
惰性で生きてきた日々…
凛子のおかげで生きる目的が出来た。
シャムシエルが凛子の頭を撫でる。
「……んっ…?…」
凛子が目を覚ます。
「…おはよう。」
「……おはよう、ございます。」
凛子が寝ぼけたまま起き上がる。
「…また、夜這いですか?」
「……だから襲わないから。」
シャムシエルがため息をつく。
朝ごはんを食べる2人。
……また夜中に見ててくれたんだ。
このままだとこの人が倒れそうだなぁ…
寝不足で。
シャムシエルの目の下のくまが少し濃くなっている。
凛子がじっと見る。
「…どうしたの?」
「……いえ、後で少し寝た方がいいですよ。」
「…心配してくれるんだ?」
シャムシエルが微笑む。
「うっ、、倒れられると面倒なので…」
凛子が目をそらして言う。
……表情には出てないけど
少し感情が出てきてるな。
いい方向に向かってる…
シャムシエルが微笑む。
「じゃあ、少し寝るから。何かあったら起こしてね。」
シャムシエルが朝食を食べた後、リビングのソファーで横になる。
「…はい。分かりました。」
凛子が隣のソファーで座って本を読む。
寝ているシャムシエルをじっと見る。
…どうして、仮面つけてるんだろ?
寝ているシャムシエルに近づく…
仮面をとめている紐に手を伸ばす。
これを解けば仮面、外れるよね?
「……………。」
伸ばした手を引っ込める。
…勝手に外したらさすがに怒りそうだな。
凛子が離れようとした時…
シャムシエルの手が伸びて凛子を抱きしめる。
「……!!」
「ちょっと、、もやしさん!」
「……さつき…」
「……え?」
もやしさん、寝てる…
「……さつき。」
「………。」
さつき?……もやしさんの大事な人?
すごい力…離れられない…
…………でも
…………………暖かい。
「え?…あなた………なの?…本当に?」
さつきが驚いた顔をする。
「そうだよ。…それにしても、君は…美しいな。」
シャムシエルがさつきの手をとって自分の方に引き寄せる。
「上手いこといって!…女の人、全員に言ってるんでしょ?」
さつきが照れながら言う。
「違うよ。…君にしか言ってない。」
目が合った瞬間に恋に落ちた。
彼女だけを…愛していた。
年老いても、
どんな姿になってもこの気持ちは変わらない…
「…さつき。」
君がいない世界で生きる理由なんてない…
「………ん?」
なんだ?
…暖かい。
それにいい香りがする。
……シャンプーの香り?
目を開ける…
そして腕の中にいる凛子に気づく。
「……!…凛子?」
ソファーで横になって凛子を抱きしめて寝ていた。
腕の中の凛子は眠っている。
……?
なんだ?
何がどうなってるんだ?
…俺はソファーで寝てたよな?
凛子は隣に座ってて…
「………。」
凛子をじっと見る。
「………ん、…」
凛子が目を覚ます。
寝ぼけながらシャムシエルを見る。
「………もや、しさん?」
「おはよう。」
寝ぼけながら凛子がシャムシエルの背中に手を回す。
「……えっと…凛子?」
シャムシエルが焦る。
…あれ?
セクハラって言わないのか?
凛子が完全に目覚める。
「……!!」
慌ててシャムシエルから離れる。
「……………。」
凛子が黙る。
顔は無表情のままだか驚いているようだ。
「…おはよう、凛子。」
「………………おはよう、ございます。」
時計を見ると12時を過ぎていた。
「…もう、昼だな。……昼ごはん、作るね…」
凛子が頷く。
シャムシエルがキッチンに向かう。
……………えっと、
何でこうなったんだ?
寝てただけのはずだが…
リビングに座っている凛子を見る。
背中を丸めて下を向いている。
………恥ずかしいのかな?
俺もちょっとドキドキするな。
何やってんだ、俺は。
子供相手に…
少し照れながらお昼を作り始める。
お昼を食べてリビングでくつろぐ2人。
「…………。」
凛子は本を読んでいた。
「…何の本、読んでるの?」
「……夏目漱石の吾輩は猫である…です。」
「そっか、、」
「………。」
何か気まずいな…
「さ、散歩でも行く?」
「……もやしさんが行きたいなら…」
2人で外に出る。
…どこに行くかな?
シャムシエルが前を歩く…
凛子は後ろをついて行く。
「凛子ちゃ~ん♪」
車に乗ったリリスが声をかける。
「リリスさん…」
「なになに?デート?」
「違いますよ。…冗談じゃないです。」
凛子が嫌そうな顔で言う。
「…そんなに嫌がらなくても…」
シャムシエルがため息をつく。
「これからママのところに行くけど一緒にどう?」
「そうだな。…特に用事もないし。」
3人はオカマバーへ向かう。
「あら~♪今日はリリスも来たのね…」
「シャムちゃん、こっちに来て~♪」
「え?…俺じゃなくて凛子を…」
オカマ達がシャムシエルを奥に連れていく。
「凛子ちゃん、こっちにおいで♪」
リリスが凛子をカウンターへ連れていく。
「いらっしゃい♪」
ママが笑顔で言う。
「こんにちは。」
「少しだけ、顔色良くなったわね…」
「そうですか?」
セバスチャンさんにも言われたな。
「シャムシエルに変な事されてない?」
リリスが聞く。
「……変な事?」
朝の事を思い出す。
……変な事。
昨夜のお風呂での事を思い出す。
………変な事、かなぁ?
よく考えたら結構すごいことされてるかも?
「………………。」
凛子が黙っていると…
「……え?もしかして変な事、されたの?」
リリスが心配する。
「なぁに?もうヤっちゃったの?」
ママが興味津々な顔で聞く。
「え?!………いえいえ、何もないですよ!」
凛子が焦る。
「ふふふ、、いい子ね♪」
ママが凛子の頭を撫でる。
「……へ?」
「シャムの事、頼んだわよ。…あの子がいなくなってからぬけがらみたいになっちゃったから…」
「えっと、さつきさん…の事ですか?」
「そうよ。シャムから聞いたの?」
「いえ、寝言で言っていたので…」
「……やっぱり、ヤっちゃった?」
「ちがいます!」
凛子が必死に否定する。
「…人間の女の人よ。シャムが一目惚れしてねぇ~」
その人がさつきさん。
もやしさんの大事な人…
「あの子と一緒にいる為にぜーんぶ、捨てちゃったの…」
「………?…全部、捨てる?」
「そうよ。…全部。」
「明るい子だったよね~♪」
「…そうなんですか。」
「そうねぇ~ばぁさんになっても元気だったわね。」
え?
…おばぁちゃん?!
「…………さつきさんっておばぁちゃん……だったんですか?」
2人が不思議そうな顔をする。
「もしかして…何も聞いてないの?」
リリスが凛子に聞く。
「…?……何の事ですか?」
「シャム!凛子ちゃんに何も言ってないの?」
ママが奥にいるシャムシエルに声をかける。
オカマたちに遊ばれてるシャムシエルがカウンターの方へ歩いてくる。
「…何の話だ?」
「あんたの正体よ。」
リリスが言う。
「…あれ?言ってなかったか?」
シャムシエルが凛子に話しかける。
「…?……何のことですか?」
「俺、人間じゃないよ。」
「…………へ?!」
つづく。