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もやしさんの憂鬱  作者: あかなす(前とまとまと)
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第3話 闇の中で…

シャムシエルが朝ごはんを食べながら寝ていた…



………本当に変な人。

完全に睡眠不足…



凛子がシャムシエルの分のパンをちぎって口に入れる…

口に入れられたパンを食べるシャムシエル。



…食べた。

面白いな…



またちぎって口に入れる。



…また食べた。



全部、食べさせ終わると食器を洗って片付ける。



「…もやしさん、部屋で寝た方がいいんじゃないんですか?」


「……え?」


シャムシエルが目を開ける。



……あれ?

朝ごはん食べてなかったか?

片付いてる…?



リビングのソファーに座る凛子。


「…ここにいますので部屋でゆっくり寝てください。」



「…でもいつ闇がくるか…」


「目の下にくまありますよ。」



「…大丈夫だよ 」


笑顔で答えるシャムシエルだか顔が疲れている。

凛子がため息をつきながら毛布を持ってくる。



「…どうしたの?…毛布なんか持ってきて。」



凛子がシャムシエルをリビングの2人かけのソファーに座らせて毛布をかけながら横に倒す。



「…まったく、面倒な人ですね。ここで寝てください。…わたしは横にいますので。」



「……………優しいんだな。」


シャムシエルが微笑む。

凛子が嫌そうな顔でシャムシエルを見る。



「もやしさんが倒れると面倒なので…」



「…面倒って…」


シャムシエルがため息、混じりに笑う。



「早く寝てください。」


凛子は無表情のまま本を読み始める。



「…ありがとう。少し寝るよ…何かあったらすぐに起こしてね。」



「……おやすみなさい。」




…本当に変な人。

わたしなんか、ほっておけばいいのに…

他人が優しいなんて皮肉だな。


闇堕ち…か。


自覚ないなぁ…

闇の中に引き込まれても違和感も恐怖もない…





2時間ほどたった頃、インターホンが鳴る。


……誰か来た。

来客の顔を液晶画面で確認する。



「こんにちは。…セバスチャンです。」


「こんにちは。あの人、寝てるんですが…」


「構いませんよ。あなたに渡したい物があったので…」



…開けていいのかな?

付き合い長そうだし、、、いっか。


玄関を開けるとダンボール箱を持ったセバスチャンがいた。



「お元気そうでよかったです。」


「…あの人、寝不足で。出来ればもう少し寝させてあげたいんですが…」




セバスチャンがリビングで寝ているシャムシエルを見る。


「…予想通りですね。…彼はいつも、無理をする…」



「そうみたいですね。」


器用なようでどこかぬけてるしなぁ…

本当に変な人。



セバスチャンがダンボール箱を部屋の隅に置く。


「私が読み終えた本ですが…よかったらどうぞ。」


「…ありがとうございます。」



「お茶、入れますね。何か飲まれますか?」


セバスチャンがキッチンへ向かう。

凛子もついていく。



「…あの人と付き合い長いんですか?」


「そうですね、かなり長い付き合いです。」


セバスチャンが上着を脱いでシャツの袖をまくり慣れた手つきでお茶の用意をする。


…台所に何があるか分かるんだ。



凛子の足下に黒い影ができる。

セバスチャンが凛子の足下の影をじっと見ると黒い影が消える。


「…?」


凛子が自分の足下を見る。



「…大丈夫ですよ。私がいる間、闇の者達はあなたに近寄れない。」



「…どうしてですか?」



セバスチャンが笑顔で凛子の前に紅茶を置く。


「…冷めないうちにどうぞ。」



キッチンでお茶を飲む2人。


「初めて会った時より少しだけ顔色がいいですね。」


「……そうですか?」


「彼とはうまくいってますか?」



「……どうでしょうか?……よく分からない人ですね。」



セバスチャンが笑う。


「たしかに。彼は謎の行動が多いですね。…でも嘘は言わないですよ。……本当にあなたを救いたいと思っている。」



「だから、よく分からないんです。……どうしてわたしなんか…助けようとするのか…」



「…あなたの為でもあるけど彼自身の為にもやっているんですよ。」



「……え?」



「彼は大事な人を失って抜け殻になってしまった。……その心の穴を人助けをする事で忘れようとしているんですよ。……彼の頑張りに付き合ってもらえると助かります。」



……大事な人。

そう言えば昔に誰かと約束したとか言ってた…





リビングで目を覚ましたシャムシエルに気づくセバスチャン。


……目を覚ましたようですね。



「凛子さん、…彼に変な事されてませんか?」


セバスチャンが笑顔で凛子に聞く。


「……変な事?……そうですね…」



キッチンの入口にシャムシエルが現れる。


「ちょっと待て!…変な事はしてないぞ、セバスチャン!」



「おや?…目を覚ましたようですね。」


セバスチャンがニヤリと笑う。



「まったく!どうしていつも変人扱いなんだ。」



「…変人じゃなくて、変態ですよね?」


凛子が無表情のまま言う。



「本当に君は失礼な事をいうね…」


シャムシエルがため息をつく。



「すいません、思ってることを言ってしまいました。」


「…はいはい。」



セバスチャンが2人を見て微笑む。


「そろそろ、お昼ですね。よければ私が作りましょうか?」


「…ああ、頼む。」


「ではパスタはいかがですか?」


「それでいいぞ。」


パスタを作り始めるセバスチャン。


「…冷蔵庫の中の物は何を使ってもいいですか?」


「ああ。…パスタは…」


「…分かってます。ここの引き出しですよね?」



……セバスチャンさんも料理するんだ。

器用な男の人が2人もいる…



「凛子さん、どのくらい食べられそうですか?」


「…えっと、半分くらいでお願いします。」



出来上がったパスタをお皿に半人前ほど乗せて凛子に見せる。


「…これくらいですか?」


「はい、ありがとうございます。」


セバスチャンが笑顔で言う。


「もしかして、彼は普通の量を作って残していいよ、と言っていたのでは?」


「…どうして、分かるんですか?」


凛子が驚く。



「出された食事を残すのは気か引けますよね?…食べれる量を確認しないと…ね?」


セバスチャンがシャムシエルをチラッと見る。



「…………。」


シャムシエルが黙る。


…そういや、凛子にどれだけ食べれるか聞いてなかったな。



3人でパスタを食べ始める。



「…何か用があったのか?」


「凛子さんに読み終えた本をお持ちしたかったので。」


「ふーん、」


珍しいな…

セバスチャンがここまで動くのは。


「あと……誰かが無理して寝不足ではないかと思いましてね。」


セバスチャンがシャムシエルを見てニヤリと笑う。


「…!」




……この2人、本当に付き合いが長いんだ。

…仲良さそう。

友達か…

わたしにはいないな…。




「……凛子?…どうした?」



「…え?」


「ボーとしてたから…」


シャムシエルが心配そうに凛子を見る。


「……大丈夫です。」



「ならいいけど。…お昼、食べたら散歩でも行くか?」


「もやしさんが行きたいならどうぞ。」



「……もやしさん?」


セバスチャンが不思議そうな顔をする。



「……俺の名前は覚えにくいらしい。」


「そうなんですよ。……覚えにくいです。」



セバスチャンが笑いながら言う。


「なるほど!白くて長いですもんね。凛子さん、上手いこと言いますね。」



「……ほんと、言いたい放題だな」


シャムシエルがため息をつく。



お昼を食べ終えて外へ出る。

シャムシエルが凛子の手をとろうとすると…



「どうして、手を繋ぐ必要があるんですか?」


手を引っ込めながら凛子が言う。



「手を繋いでおけば闇に引き込まれてもすぐに引き戻せるだろ?」


「…拒否します。」


「でもね…」


凛子がシャムシエルの前を歩く。


「…いつ引き込まれるか分からんだろ?」


「変な仮面をつけたおじさんと少女が手を繋いで歩いてたら通報されますよ。」


「え?!…そんな事ないだろ?」


「…とにかく、拒否します。」


「ひどいなー」




街路樹を歩く2人。

突然、周りにいる人間が消える。


「…なんだ?…空間が歪んだ?」



シャムシエルの足下に魔法陣が浮かあがる。


「!……まさか!」



「…もやしさん?」



シャムシエルの足下の魔法陣が光りシャムシエルの体を縛る。


「動けない!…こんな事するのは、、」




「久しぶりだな、シャムシエル。」



1人の男が現れる。


「…やっぱりお前か?」


「もやしさん…誰ですか?あの人。」



「あいつの名前は霧山 貴之(きりやまたかゆき)、魔術師だ。」



「……どうだ?…動けないだろう? お前の為に作った魔法だからな。」




霧山がシャムシエルに近づいていく。

シャムシエルの前に凛子が立つ。


「凛子?何をして!…早く逃げろ!」


「…君は、人間?」


「この人に何をするつもりですか?」


凛子が無表情のまま霧山に聞く。



「霧山、凛子に手を出すな!彼女は関係ない!」



「……殺すだけだよ。そこをどいてくれ。そいつに捕まえられたのか?…後でお家に帰してあげよう。」



「…家に返されると困ります。」



「…え?」


霧山が驚く。



「あと…不本意ですがわたしはあの人の所有物なので…彼を殺されると困ります。」


凛子が嫌そうな顔で言う。


「不本意ってどういう事だよ…」


シャムシエルがため息をつきながら言う。




「…所有物?…どういう事だ?」


「買われました。あの変人に…」


凛子がシャムシエルを指差しながら言う。



「凛子…今、その話するとちょっと…やばいよ。」


シャムシエルが焦る。


「…?…そうなんですか?」





「…買う?…お前、この少女を買ったのか?!」


霧山が手に魔力を集める。


「…やはり、殺すべきだな!」



「やめてください。」



「どけ!凛子!…逃げるんだ!」


シャムシエルが叫ぶ。




「どきなさい。こいつを殺して君を自由にしてあげるよ。」




「……あなたに誰かを傷つけて欲しくないです。」



「!!」


…何だこの少女は?



「あなたも堕ちそう…ですよね?」


「!!…なぜ、分かる?」



「誰かを傷つければ堕ちますよ。私が言うのも変ですがあなたには堕ちて欲しくないです。」



「もしかして……君も?」



「…どうしても殺したいなら……わたしにして下さい。」


凛子が無表情のまま霧山を見る。




「何を言って……人間である君を傷つけるなんて、出来ない…」



シャムシエルが魔法陣の呪縛から逃れようともがく。


「…凛子に手を出すな!」



「…わたしはここをどきません。」


凛子が霧山をじっと見る。



「君は…そいつが何者か知っているのか?」


「変な人だってくらいしか分かりません。」



「……?変な人?」


霧山が不思議そうな顔をする。



「私を買って、闇堕ちしないように必死に守ってくれてます。……変な人です。」



「…結局、変人扱いなんだね…」


ため息をつくシャムシエル。



…まったく、不思議な子だ。

失礼な事を言ってくるけど俺の事を守ろうとしてる…


「霧山!彼女は関係ない…」



「お前は黙ってろ!私は、彼女と喋ってるんだ。」





霧山が凛子を見る。


目付きが悪いな…

体も細いし顔色も悪い。


手に集めた魔力が消える。


「…わかった。今回は諦めよう。…君に免じて。」



霧山が凛子の頭を撫でる。


「…私も君に堕ちてほしくない。…闇の誘いにのってはいけないよ。」



「………。」


凛子が黙る。



空間の歪みが元に戻る。

シャムシエルの足下の魔法陣が消えて動けるようになる。

霧山の姿が消えた。


「凛子、大丈夫?」


シャムシエルが凛子の肩に手をのせる。


「大丈夫です。」


凛子がシャムシエルの手をはらう。


「……セクハラです。」


「……はいはい。」


シャムシエルがため息をつく。



口では失礼な事ばっか言うけど…

俺の事をかばってくれた。

本当は優しい子なんだな…



「…ありがとう。」


「え?」


「庇ってくれたよね?」



「別に……もやしさんに死なれると………帰る場所がなくなりますから…」



無表情のまま目線をそらして答える。


…表情には現れてないけど照れてるのかな?


シャムシエルが微笑む。




つづく

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