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もやしさんの憂鬱  作者: あかなす(前とまとまと)
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第1話 もやしさん

闇堕ち。


人間が絶望し闇に堕ちること。


闇落ちした人間はヒトの姿のまま、自身と周りにいる者全てを傷つける化け物になるかヒトの姿を失い永遠に闇の中で彷徨うかのどちらかになる。




……人間は




「育ててやっただけでもありがたいと思え!」




………何の為に、生きるの?




「タダ飯、食いが!」




…………早く、楽になりたい…




「少しでも金になればいいなぁ」



「私、ハワイに行きたいわ」




………………早く




……はやく






死にたい………







闇のオークション。

公では扱えない品や動物、人間などが金で売り買いされている。




バイヤーがスマートフォンで会話している。



「……そうです。ご希望の商品が出品されています。」


「……予算は?……分かりました。では落札しますね。」




彼の名は、セバスチャン。

黒髪に青い目。

黒いスーツを着た見た目は30代前半の男性。

端正な顔立ちをしている。




別のバイヤーがセバスチャンに声をかける。


「…何か、せり落とすのか?」


「ええ。お得意様のご希望の品が出たので…」


「ああ、あの変わり者の金髪だな。」


「…そろそろ、出品される時間ですね。…では。」


「おう、またな。」



セバスチャンがオークション会場に向かう。



「…ここまでとは、、珍しいですね…」



舞台には1人の少女が立っていた。






高級マンションの最上階。



パソコンを見ている金髪の男性。

彼の名はシャムシエル。

金髪で黒い目、見た目は30代前半。

目元だけピエロのような仮面を付けている。

シャムシエルのスマートフォンが鳴る。



「……もしもし。…そうか、分かった。後の手続きは任せる。」



電話を切ってつぶやく。


「……しばらく、忙しくなりそうだな。」



デスクには笑顔の女性の写真が飾ってある。


「…君との約束はずっと守っていくよ…。」






闇オークションの会場の控え室。

舞台に立っていた少女がセバスチャンといた。



「…あなたを購入したのは別の方です。これからその方の元へ連れていきます。…いいですね?」


少女は頷く。






それから数時間後。

シャムシエルの部屋のインターホンがなる。



「…セバスチャンです。お連れしました。」


「…ああ、早かったな。」



セバスチャンとフードを被ったままの少女が部屋に入ってくる。



「…彼があなたを購入した方です。」


「初めまして、お嬢さん。俺はシャムシエル、よろしく。」



シャムシエルが少女の目の前に立ち、微笑みかける。

少女はうつむいたままだ。



「名前は立花凛子(たちばなりんこ)、…日本人です。」



セバスチャンが少女のフードを外す。

黒い髪に黒い目。

身長は150cmほどで痩せこけている。

目つきは悪く目の下にくまがあった。



……ここまでとは、、

なかなか手がかかりそうだな…



「…こちらが書類です。後で目を通しておいてください。」


「ああ、分かった。」


「あと、こちらの金額を口座から引いておきますね。」


「……けっこう、安かったな。」


書類に書いてある金額を見てシャムシエルが言った。



「あと、着替えなども買っておきましたのでこちらの物も口座から引いておきますね。」



洋服などが入った紙袋をシャムシエルに渡す。


「さすがやり手のバイヤーだな。仕事が早い。」


「当然の事ですよ。…何かありましたら、連絡してください。…私はこれで。」


「分かった。」



セバスチャンが帰っていった。

凛子は下を向いたままだ。



「さて、、」


シャムシエルが凛子を見る。

服も本人も薄汚れている。

体もかなり細い…



……ちゃんと食事とってないな…



「とりあえず、お風呂だな、、こっちにおいで。」


バスルームへ凛子を連れていく。

着替えの入った紙袋を渡す。



「…この中に着替えがあるらしいからお風呂に入っておいで」



凛子が頷く。

彼女がお風呂に入っている間にお茶の用意をする。




……ここまでとはな。


堕ちていないのが不思議なくらいだ。




闇落ち


絶望した人間が闇に落ちること。



堕ちた人間は


ヒトの姿をしたまま自身と周りにいるモノ全てを傷つける化け物となるかヒトの姿を失い永遠に闇の中をさまよい続けるかどちらかになる。



あの子は絶望の中に引き込まれている…

いつ堕ちてもおかしくない状態だ。



シャムシエルのスマートフォンが鳴った。

相手はセバスチャンだ。


「どうした?セバスチャン……」


「…彼女には聞かせたくない話ですので。」


「なんだ?」


「出品者は非公開です。……ですが、両親は捜索願いを出さないという契約がされています。」


「……なるほど。」


「オークションの事は口外されませんように。……では。」


「分かった。」



………両親は捜索願いを出さない。


つまり、出品者は両親もしくは両親に許可をとっているという事。


絶望の原因のひとつのようだな…




凛子がお風呂から出てきた。

テーブルにはハーブティーとカップケーキが並べられていた。




「……遠慮しなくていいからね。今日からここは君の家だから。」



「………。」



「そこに座ってお茶でもどうかな?」


凛子がソファーに座る。

シャムシエルをじっと見る。

彼は笑顔で凛子を見る。




「……。」



背が高くて金髪…

ハーフ?アメリカ人、イギリス人?……

目元だけ仮面…

コスプレ?

変態?

……どうして何も無いわたしを買ったんだろ?



「お菓子、食べていいよ。」



「………なまえ、」



「ん?」



「もう一度、名前。…教えてもらっていいですか?」




「名前?……俺はシャムシエルだよ。」



「……しゃむ、、、」



「シャムシエル。」



「……しゃもじ?」



「…いや、……シャムシエル。」



「ししゃも?」



「シャムシエル!……わざと言ってないか?」



シャムシエルが焦る。

凛子が黙って悩む。




「………もやしさんって呼んでいいですか?」



「どうして、そうなるの?!」



「……覚えにくいです。」



「いやいや、覚えられるでしょ?」



…なんだ、この子は。




「しゃ、しゃ……しゃむ、しゃ、、」



凛子がめんどくさそうな顔で舌打ちをする。



「…今、舌打ちしなかった?」


「気のせいですよ…」


凛子は無表情のままだ。



「しゃ、しゃ、しゃ……しゃ……」




「…………分かった!…名前を覚えるまでだよ、、」



シャムシエルがため息をつきながら諦めた。




「そう言ってもらると助かります。……いただきます。」


凛子がハーブティーを飲む



「………。」


会話はできるようだな。

本人に自覚があるのかな?



「…あのさ、闇落ちって知ってる?」


「…知ってます。」


「そっか、君は闇落ちしそうになってるんだけど、、自覚ある?」



「…ひとつ、聞いてもいいですか?」


「ん?…何かな?」



「どうして、わたしを買ったんですか?」



「……君が闇落ちしそうだから。」


「………。」


凛子が不思議そうな顔をする。



…闇落ちしそうだから買った?

どうして?




「……ずっと昔にある女性と約束したんだ。困っている人を助けるってね。」



シャムシエルが微笑む。

凛子が小さな声でつぶやく。


「…ほっておいてくれれば、よかったのに…」




「……え?なに?」


「何でもないです。……変な人ですね。」


凛子は無表情で言う。



「ひどいなぁ~。…初対面で変な人なんて言わないでよ。」



「すいません、…思ったことを素直に言ってしまいました。」



「……すいませんって思ってないでしょ?」


凛子は無表情のままだ。



……まずは表情だな。

感情がほぼないな……。


シャムシエルが凛子を見る。



「……どうしました?わたしの顔になにか付いてますか?」


「いや、何もついてないよ。」



凛子の足元に黒い影が現れる。



「…自覚あるかは知らないけど…君は闇落ちしそうになってる。」


「………。」



「彼らは闇から君を誘いに来る。だけどその誘いにのってはいけない……いいね?」




凛子の足元にある黒い影が大きくなる…



「……誘いにのったらどうなるんですか?」



「闇の世界に引きずり込まれる。」



「……そうですか。」


凛子は無表情のままだ。




「…お茶のおかわり、いれるね。」



シャムシエルが席を立ってキッチンへ向かう。




凛子の足元の黒い影から手が伸びてくる。

伸びてくる手をじっと見る。


…これが誘い?


凛子が伸びてくる手に触れようとする。

キッチンにいるシャムシエルが闇の気配に気づく。



「…凛子?………?!」



凛子の姿が消えていた。

シャムシエルがため息をつく



「言った先から、引き込まれたよ…」





真っ黒な世界に引き込まれる凛子…



無数の黒い手が凛子を下へ下へと引き込んでいく…



このまま、堕ちていけば楽になれるかな?


凛子は目を閉じる…




「ダメだ!そっちに行くな!」


凛子の腕を掴む、大きな手。

闇の世界から引き戻される。


バサッ!


……羽根の音?




「…ダメだよ、気をしっかり持って!」


気がつくとリビングにいた。


「…あれ?わたし……」


さっきまで座っていたソファーに戻っている。

目の前には凛子の腕を掴んでいるシャムシエルがいた。


「……大丈夫?」



「はい。……わたし、どうなったんですか?」


「……闇の世界にに引き込まれそうになっていたんだよ。」




「あなたが……引き戻してくれたんですか?」


「ああ。……奥深くまで行ってしまったら引き戻せなくなるから気をつけてね。」



さっき羽根の音がした…

どうしてだろう?

真っ暗で何も見えなかった…



シャムシエルが無表情のままの凛子を見る。

……闇に引き込まれそうになったのに何とも思ってないのか?

まずいな、かなり重症だ。



「…できる限り俺の見えるところにいるように。引き込まれてもすぐなら引っ張り上げられる。」



「…はい。」


凛子が嫌そうな顔をする。



「……どうして、そんなに嫌そうな顔をするんだ?」


「……気のせいですよ。」


「そうかなぁ?」



「お茶のおかわり、入れてたんですよね?」


「あっ、そうだった!」



シャムシエルがお茶を入れ直す。

凛子はリビングで本を読む。



「……何の本、読んでるの?」


「…太宰治の人間失格です。セバスチャンさんが買ってくれました。移動の間の時間つぶし用に。」



「……その本を選んだのはセバスチャン?」



闇落ちしそうになってる子が読む本ではないような…



「いえ、わたしが選びました。他の本がいいよと強く勧められましたが…」



「…そうか。」



白い肌にやせ細った体。

目の下にはクマがあるし、目つきが悪い。

部屋着の襟ぐりから見える首元にはアザが見える。



……両親からの虐待?


シャムシエルがため息をつく。


嫌な話だな。

親が子を闇落ちさせようとしている。




「……どうして、何もしないんですか?」


本を読んだままの凛子が言った。



「え?」


「わたしの事を買ったんですよね?」


「?………そうだけど?」



「ヤルためじゃないんですか?…それとも風俗に売るんですか?」


無表情のままの凛子が言う。



「!!…はい?」


「…男が金で女を買う理由なんて、、それしかないですよね?」



「ちょっと、待って。…どうしてそうなるの?」



「仮面つけて…コスプレイヤーですか?それともそういうプレイですか?」



「待って、俺にはそんな趣味はないよ、、というかヤルとか女の子が言う言葉ではないよ…」



シャムシエルが焦る。

なんだこの子は…



「もしかして……SMですか?できれば痛いのは嫌なんですが…」



「だから、そんな趣味もないし。君にそういう事をしようと思って買ってないから。」



「………じゃあ、どうしてわたしを買ったんですか?」



「それは、君が闇落ちしそうだから…」



シャムシエルがため息をつく。

…すこし揺さぶってみるか?

感情を表に出すかもしれないな。



「……もし、俺が君を抱くと言ったら君はどうするの?」



「わたしはあなたの所有物なのであなたの好きなようにして下さい……!」



シャムシエルがソファーに座っていた凛子を押し倒す。



「……じゃあ、このまま好きにしていいの?」


凛子が目を閉じる。


「…ご自由に。」



シャムシエルが凛子の服の裾をめくってお腹を見る。

アザと切り傷、火傷の痕が無数にあった。


ひどいな…

女の子の体に傷をつけるなんて…


めくった裾を元に戻して凛子から離れる。



「…ごめん。言いすぎた。」



傷やアザは消せても心の傷は簡単には消えない。


「……体の傷、消してあげようか?」



「…どうでもいいです。…もやしさんが消したいならどうぞ。」



「…!………本当にそう呼ぶんだね。」


何なんだこの子は…



「…俺が君を買ったのは、君を闇落ちさせたくないからなんだ。」


「そうですか…」


凛子が嫌そうな顔を顔をする。



「どうして、…嫌そうな顔をするのかな?」


「気のせいですよ。」


「気のせいじゃないよ…」



前途多難だな…

シャムシエルが大きなため息をつく。



「君は嫌かもしれないけど……君が闇落ちしなくなるまで離れないからね。」



「……やっぱり変な人ですね。」



凛子が無表情のまま言う。



つづく




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