I want to remember.
今日も僕はお墓の前で泣いていた。
最近泣いてばかりいる。
誰のお墓なのかは覚えてない。
大切な人のもののはずなのに。
あまりにショックで自ら記憶を消しちゃったみたいだ。
でも、どれほどつらい記憶なのかはわからないけど、やはり死から目を背けるべきじゃないと思う。
僕は消してしまった記憶を取り戻すことにした。
断片的にでも情報がそろえば思い出すかもしれない。
学校の友達にでも聞いてみよう。
最近ここにきてばかりで学校には行けてないけど、久しぶりに行ってみるのも悪くない。
***
学校は楽しかった。ひとりでかかえこまずに友達と会ってはなすのも大事だってことが分かった。
集めた情報によると、僕が記憶から消してしまった人はみんなから慕われていたみたいだ。
その人について話をしている時のみんなは一様に悲しそうな顔をしていた。
でもそれだけの情報じゃ思い出せなかった。
あと、僕の大切な人を知っているとしたら誰だろう。
僕がこれだけ大切にしているのだから、僕の家族もその人のことを知っているかもしれない。
僕の家でも聞いてみよう。
***
母と父に聞いてみたが泣いてばかりでなにも教えてくれなかった。
この頃ずっと泣いてばかりだった僕が言えたギリじゃないけど、僕がつらい記憶を思い出そうとしてるんだから何か教えてくれてもいいじゃないか。
何年もうちで飼ってる犬のタロウにも聞いてみたが、「ワン!」と鳴くだけだった。
まあ犬が何か教えてくれるとは思ってなかったけどさ!
家で得られた情報は一つだけ。
僕の家族とも関りがあった人だったってことだ。
あまり情報が集まらないな。
一度お墓まで戻ってみるか。
何か思い出すかもしれない。
***
やっぱり何も思い出せないか。
一通りお墓の周りを見直してみたけどサッパリ情報が得られなかった。
なにか情報は……
そんな風に考え込んでいると、僕の目の前に一人の少女が現れた。
あっ
僕は思わず声を出しそうになった。
だって小さなころからの僕の幼馴染でもある彼女は、まさしく僕の……大切な人だったから。
彼女を見た瞬間、僕は消していた記憶をすべて思い出した。
「✖✖くん、お元気ですか?」
元気じゃないよ…
「私は✖✖くんと会えなくなってから泣いてばかりいました。」
僕もだよ。
「でも、いつまでも悲しんでちゃだめだなって思って。だから、今日はここに決意を固めるために来たんです。」
君は強いな。僕なんてつらい記憶は全部忘れちゃってたのに。
「死んじゃってからいうのは卑怯かもしれませんが、多分今しか言えないと思うので言いますね。」
ああ、ほんとになんで忘れてたんだろう。
自分の名前を。
僕は自分が死んじゃってショックだったんだ。
自分のことが、君と同じくらい大切だったんだ。
決意を固めるためにここへきた君の姿をみても、最初に思い出したのは自分の名前だった。
僕はひどい男だ。
でも、せめて最後くらいはカッコをつけさせてくれ。
「✖✖くん。ずっとあなたのことが…」
「好きでした。」
「えっ!?」
そしてこの世から僕を消した。
それはまるで、自分の記憶を消したときのように一瞬の出来事だった。