3話 濃い自己紹介
「えー、あー・・・まあ、此処にいる三人は、俺があっちで冒険してた時に出来た仲間だ。じゃあ、三人とも自己紹介よろしく」
隼人は三人に詰め寄られた後、説明するからと言って場を整えて彼女達に自己紹介をさせる。いろいろと厄介だから、説明を丸投げしたとも言うが。
「まずは私からね。私の名は、ティア・バーリミオン。彼方の世界では、「生命喰らう夜の女王」とか呼ばれてたわ」
ティアはそう告げた後、その場でドレスの裾をちょこんと持ち上げて軽くお辞儀をする。
彼女の容姿は金髪ツーサイドアップに紅目、160cmを超える若干高い身長に黒いドレス姿をしており大人びた雰囲気を醸し出している。顔は、高校生くらいの少女にしか見えないが。
「・・・早速だけど一つ聞いていいかな?」
「いいわよ。えっと、サヤだったわよね?で、何かしら?」
そして、そのティアの自己紹介を聞いて早速沙耶が手を上げてティアに質問をする。それをティアが許可した為沙耶はその内容を告げる。
「じゃあ、言わせてね。・・・その物騒な2つ名は何!?」
質問の内容。それは、「生命喰らう夜の女王」というあまりにも物騒な2つ名は何なんだというものだった。
確かに、それは初めて聞いた人からはとても気になるものではあるだろう。
・・・何せ、隼人も初めて聞いたときは自分の耳を疑ったくらいなのだから。
それはさておき。ティアはその質問に対して、凄く簡潔に、そして凄く納得できる答えを出した。
「そのままよ?だって私、吸血鬼なんだから」
「へー、ヴァンパ・・・はぁ!?」
ヴァンパイア。人の血を吸い生きる、こちらの世界では空想の存在。
太陽で焼け、ニンニクが嫌いで、十字架が苦手で・・・などなど、いろいろな弱点があるがそれでもお伽話では恐怖の対象として描かれている。
「ちょ、ちょっと待って!ヴァンパイア!?本当にあのヴァンパイアなの!?」
「ええ、その通りよ。まあ、そうは言っても日光浴びても弱体化する程度だし、ニンニクは普通に食べられるし、十字架はなんとも無いんだけれどね」
だが、地球での認識は彼方では通用しないことの方が多い。ティアを例にあげれば、
・日光で弱体化
・ニンニク食べれる
・十字架平気
・流水で弱体化、但し渡れる
という感じで弱点の2つが無効化、2つは効果こそあるもののダメージは入らない。
「そ、そうなんだ・・・」
それを聞いた沙耶は、「なんかイメージと違う」みたいな顔をしている。彼女も多少なり隼人の影響をうけサブカルチャーに染まっているため、そういうのに憧れはあったのだ。
「・・・ふふっ、やっぱり兄妹なのね」
「え?」
「前にハヤトに同じことを言った時、同じ顔をされたのよ」
「・・・そうなの?」
「ええ」
そしてその顔を見たティアは面白そうに微笑む。兄妹だから、やっぱり似ているんだなと思ったという。
「・・・っと、私の紹介はこの位かしら。次はシュネーよろしく」
「わ、分かりました」
ティアがそう言った後、シュネーは少し緊張した様子で、そして一拍置いてから自己紹介を始める。
「私は、シュネー・フリージアと申します。種族は人族で、年齢は16歳です。・・・えっと、クライノートでは「可憐なる破壊魔」っていう不名誉な2つ名で呼ばれてました」
シュネーはそう言って、沙耶達に向けて軽くお辞儀をする。
容姿は、150cmくらいの身長で服はTシャツみたいな服に短パンという動きやすさ重視の服装をしている。髪は淡青色のそれをサイドテールにしており、瞳は美しい瑠璃色だ。
「・・・その2つ名?はもしかして全員にあるのかしら?」
風香は、その2つ名について興味が湧きシュネーに質問を投げかける。もしかしたら、息子にもあるんじゃないか?という純粋な興味からだ。
「いや、俺には無「勿論ノーチェさんもハヤトさんも持ってますよ」って、おいぃ!?」
それについて、隼人が真っ先に否定しようとしたが、それはシュネーによって阻まれる。
なお、隼人が否定しようとした理由は至極単純だ。
「恥ずかしい」。ただそれだけの理由である。
一応、彼が異世界に行ったのは中二の時であり、魔法とかそういうのを見て厨二病ぽいなと思ってしまっていたのだ。
そして、その上で付けられた2つ名。彼方では誰も変とは思わないものであるが故にあまり気にしてはいなかったが、此方で口にするのは恥ずかしくて仕方がなかったのだ。
「へぇ〜・・・お兄ちゃんはどんな痛い2つ名を付けられてたの?」
「痛い言うな。俺は・・・「凶剣の大魔道」って呼ばれてた」
その言葉を聞いた沙耶が隼人に質問すれば、隼人は頭を掻きいかにも恥ずかしそうな顔をしながらその痛い2つ名を言った。
「凶剣の大魔道」。剣士なのか、魔道士なのか。その辺りの判断がつかない呼び名だ。質問した沙耶も、どっちなのかを悩んでいる様子だ。
だが、一つだけ言えることはあった。それは、
「凶剣の大魔道か、かっこいいじゃねえか凶剣の大魔道さんよ」
「父さんマジで止めてくれ。心に刺さる」
口にするたび、隼人にダメージが入るということだ。
ちなみに、修造もそこそこサブカルチャーについての知識はある。よって、こういうので隼人がダメージを負うことも把握している。
もっとも、だからと言って煽らないとは言っていないが。むしろ、この人は率先して煽りに行く方である。
隼人は「厄介な奴に知られた」みたいな顔をしながら修造に頼む。彼はこういう精神攻撃には耐性がないので結構ダメージが大きいのだ。
「・・・あっ、そろそろ私も自己紹介していいかな?」
「あ、ああ。いいぞ」
そして隼人がゲンナリしているのを見て話題転換にノーチェが自己紹介を始める。
「私はノーチェ・トゥインクルだよ。2つ名は「隻眼の悪魔」だね。年齢は20歳・・・。って、信じてないでしょ」
その紹介を聞いて、3人は一斉に疑いに満ちた目をノーチェに向ける。
ノーチェの容姿は、銀髪を結わずに腰くらいまで下げ、瞳は金色だが左眼はその銀色の髪に隠れてしまっている。そして、服装は普通のワンピース。ここまでは普通だった。
身長は、20歳にしては低すぎる130cmほど。そして、前の2人には標準程度に有った胸はノーチェには全く見て取れない。ようするに、ぺったんこだ。
「ノーチェちゃん。見栄はるのは良くないよ?」
とてもでは無いが、20歳には見えない容姿である。彼らが信じなかったのも無理はない。
だが、先ほどにも言ったように・・・此方の常識は、彼らには通用しないのだ。
「私は人族じゃない、"魔族"っていう種族なの。種族としての寿命が人族の2倍くらいあるから成長も遅い。・・・ほら、ここ。角生えてるでしょ?」
「・・・あ、本当だ。小さいけど」
ノーチェが髪の一部を持ち上げれば、そこには小さいものの褐色の角が確かに存在していた。
魔族は彼方の世界でいう人族と魔物の中間あたりにいる種族である。よって、個体差はあるものの角や爪、牙といった人族には無い特徴があったりするのだ。
「ひんやりしてて、硬くて・・・へえー、意外な感覚」
「っ・・・!」
沙耶はそれをペタペタ触り感覚を確かめている。だが、触られてるノーチェの顔は何処か辛そうだ。
理由は簡単で、単にくすぐったいだけである。ノーチェは角を触られるなんて経験をほとんどしたことがない。そのせいで、その行為に全く慣れていないのだ。
しかし、触っている沙耶本人はそれに気がついていない。物珍しそうに、角を触り続けている。
「っ、そ、そろそろ、止め、て・・・!」
「えっ、あっ、うん。・・・って、どうしたの?息荒いけど」
「触られ慣れていないから、少し、くすぐったくて・・・!」
「・・・ごめん」
「こっちが、説明してなかっただけだから、気にしないで・・・!」
しかし、流石に本人がそう言えば沙耶も触るのをやめる。申し訳無さそうにしてる顔の奥に、僅かに物足りないという感情が見え隠れしていたのをノーチェは見逃してはいなかったが。
「・・・俺たちは彼方の世界で、最終的にはこの四人で旅して、そしてこの世界に戻ってきた。勿論、ティア達もそれを望んだから今こうしてここにいる。此奴らの紹介はそんなもんだな」
隼人は、そんな沙耶とノーチェのやりとりを確認した後そう話を締めくくる。
吸血鬼、人族、魔族。統一性なんて無いパーティだ。
だが、沙耶達には一つ気づいていないことがあった。
それは、それは創作物の世界ではほぼ統一された認識であり、そういったものによく触れている沙耶と修造は本来今気づかなければいけなかったものなのだ。
・・・本来、吸血鬼や魔族といった種族は、どういった立場で描かれるか?
勇者と共に旅をしている物語もあれば、人族と共存している物語もある。しかし、そういったものは比較的少ない。
一番多いのは・・・人族の敵として描かれる事。
そして、それは彼らのいた世界でも例外ではなかった。
吸血鬼も魔族も、彼方の世界では確固たる人族の敵だったのだ。
それは、彼方の世界では永遠に変わることのない事実である。
そして・・・人族にとって、人族に仇なす種族に加担する者もまた敵として認識される。
彼もまた、その中に入る者だったのだ。
何せ吸血鬼と魔族、人族に仇なす2種族に加担しているのだから。
しかし、この場にいる隼人の家族達は、その事実にまでは辿り着いてはいなかった。
彼らの異世界での動向は徐々に明かして行く予定なので気長にお待ち下さい。