序章
ある街の裏路地の一角に二人の男がいた。
片方は、壁にもたれかかり、地べたに座り、もう片方は座っている男に向かい合う形で立っていた。
座っている男の見た目は、三十代前半位だろか。体型は中肉中背。男の腹部辺りからは、恐らく助からないだろうと思える位の量の血が流れていた
対して、立っている男は二十歳前後くらいの青年だった。青年はやや背が高く細身ではあったが、その体は筋肉でしまっているのが見てとれた。
顔つきはそれなりに整っていたが、目の色が明らかに普通のそれと異なっていた。共に目の色は黒なのだが、普通の目の黒よりもずっと黒いのである。
まるで、全てを飲み込む漆黒の様に。
「わりぃ、先に往くわ、輝」
座っている男が、立っている男に向かって言った。
「ああ、あの世というやつがあったら、そこで酒でも飲んで待っててくれ」
「俺はあんたの仕事を引き継がないといけないから、往くのは遅れる」
輝と呼ばれた青年は、そう応えた。
座っている男はその応えに満足したかのよな表情を浮かべ、静かに息を引き取った。
輝は一瞬ではあったが、悲しそうな顔をした。
「さて、さっさと仕事の続きを終えて飲みに行くとしますか」
そう言いながら、青年は陽炎に包まれて炎に燃やされているような街中へ入って行った。
その夜、とある製薬会社の医療研究機関が壊滅した。
医療研究機関とは銘打ってあるものの、その実、公に知られている裏組織『永遠乃悪夢』が生体兵器を開発するために人体実験が行われていた場所であった。
そして、壊滅した夜に、ある一人の実験体も喪失したのであった。