表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ワンライ投稿作品

夜半捕物顛末

作者: yokosa

【第74回フリーワンライ】

お題:

美しき悪


フリーワンライ企画概要

http://privatter.net/p/271257

#深夜の真剣文字書き60分一本勝負

 軒丸瓦を両手で掴んで、ぐいと上体を持ち上げる。細い身体のどこにそんな力があるのか――あるいはだからこそ身軽なのか――、そのままほとんど飛ぶように棟を飛び越えた。

 それは夜に吹く一陣の風だった。波打つ瓦に足を取られることもなく、無音で屋根を駆け抜けていく。小揺るぎもせず低く水平に走るその姿はあやかしと見まがうばかりだった。

 鬼瓦を蹴って隣の屋根に飛び移る。

 夜陰に溶け込むその黒い人影を眼下から浮かび上がらせるものがあった。夜の底でぼうと瞬く明かり。無数のそれが鬼火のように沸いて出た。赤提灯に御用の二字。

 同時にしじまを引き裂く無粋な笛の音。

 御用提灯が追い立てる格好だが、瓦を跳ねる当の軽業師は意に介したそぶりもなかった。だが、それも前方に赤提灯が点るまでだった。行く手に御用を見て取ると、直角に切り返して南の街路へ飛び込んだ。

 着地するやいなや、紺の頬被りを懐にしまい、立ち去ろうとするが。


「そこにいるのは誰だい」

 手提げ提灯の誰何があった。


 近頃市中を騒がす夜盗が横行していた。今夜は夜盗の盗みをまんまと待ち伏せることに成功し、お上の面目を保つためにもこれを絶対に捕縛する必要があった。

 捕り手たちは西から夜盗を追っていた。不届き者との距離は徐々に詰まるものの、突如屋根を飛び降り、見失ってしまった。数に任せて三人一組に分かれ、辻という辻を洗う。

 すると捕り手たちは不審な物音を耳にした。男女の口論。

 一隊がそちらへ向かうと、一組の男女が言い争う姿があった。その足下に落ちた提灯が燃えているのを認めると、彼らは直ぐさま半棒を構えて怒濤と押し寄せた。

 御用を目にした男の方が慌てて逃げ去る。これは男が言い寄った痴情と合点した捕り手は、一人を残して男を追った。

 残った捕り手は手提げ提灯の火を消して、泣きすする女をなだめた。男が言い寄るのも無理はない美女だった。

「怪我はないかい。どこか痛むかい」

 女は恐怖に言葉もない様子で、ただ首を振った。懐から紺の手拭いを出して目元を拭った。


 結局夜盗を見失った捕り手は、翌日与力に怒鳴り散らされることになった。

「まんまと待ち伏せにかかった盗人を取り逃がすとは、てめえらどういうことだ。ただの酔っ払い捕まえて戻って来やがって」

「面目次第も……しかし先程も申し上げたように、男女の事件もありまして。見過ごすわけにはいかなかったんで。男の方が下手人の可能性もありましたもんで」

「その考えが甘いってんだ。だいたい、今天下を騒がすあの夜盗めは、男じゃなく女だ!」

 捕り手の脳裏に、あの後いつの間にやら姿を消した、紺の手拭いで顔を覆う美女が浮かんだ。だらしなく着物を着崩す市中の女と異なり、夜なのに妙に動きやすそうな軽装。ふくよかさとは縁遠い引き締まった体つき。

 それこそひょいと身体を屋根の上に持ち上げられそうな……



『夜半捕物顛末』了

 お題を見て「女ネズミ小僧」をイメージした。

 が、うーん。色々苦しい。前半はいつもと違う書き方で割りと楽しかったんだけど、時間が押すわ、書き始めてみるとオチが微妙だわで残念な結果になった。

 もうちょっと江戸時代について調べてから再チャレンジしたいところ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ