食料事情と新たな仲間
すみません。ダンジョン攻略が進むといっておきながら、全く進めることができませんでした。
楽しみにしていた方たちは申し訳ありませんでした。
3月24日改稿
僕は階段を降りた先に広がっていた、ありえない風景に思わず絶句してしまっていた。
「な、何で地下に森があるの!? てか、あれ……? もしかして、いつの間にか外に出ちゃったの?」
何故か僕達の前には地下にあるはずがない青々とした緑が輝く森林が広がっていた。
「いえ、勇気様。 何も不思議なことなんて無いですよ? ダンジョンというものに常識は通用しませんから」
驚いている僕とは違い、アレスは特に驚いた感じは無く、これくらい当たり前という顔をしていた。
色々とツッコミたいところはあるが、アレスは何も不思議に思っていないようなので、仕方なく納得するしかなかった。
「じゃあ、他にも有り得ないものがあったりするの?」
「はい。 場所によっては海があったり、マグマが流れていたりもするそうですよ?」
うわ~絶対そんなとこ行きたく無い。てかマグマが流れてるような場所そもそもいけないんじゃ?
何かもうほんとに常識が通用しなさそうだから、深く考えるのは止めよ。
「ま、まあ、いいや。 じゃあ進もうか」
「はい」
納得できないこともあったが、言ってもしょうがないと自己完結してから、僕の後をアレスが追う形で歩き出し探索を再開した。
「でも、驚きはしたけど、ここ空気が綺麗で何か気持ちがいいね」
「確かにそうですね。 でも、油断しないでくださいよ? ここはまだダンジョンの中なんですから」
「分かってるって」
二人で軽口を叩きながら、奥へ奥へと進んでいった。
途中猿のような魔物とも遭遇したが、そこまで脅威となることもなく、さくさく進んでいった。
何故なら両方ともアレスの戦斧の一撃で全滅してしまったからだ。
……余りの強さに何も言えなかった。アレスが敵になるなんてことが無いように気を付けよ。全く勝てる気がしない。
それからも出てくる魔物を倒したり、素材を回収しながら、更に奥に進んでいくと、湖を発見した。
不思議なことに湖の周りだけ綺麗さっぱり木が無くなっており、ポッかりと空間が空いていた。どれだけ見回しても周りには草があるだけで他には何も存在していなかった。
「ねえ、アレス。 そろそろ休憩しようっか。折角良さそうなところ見つけたんだし」
僕が休憩を提案すると、アレスは少し考えた後頷き「それもそうですね」と賛成を示してくれたので、湖の近くで休むことが決定した。
「さてと、じゃあついでにご飯も食べちゃおっか。 ここなら魔物が出ても対処できるだろうし」
「そうですね。 それがいいと思います。 ですが、何か食べるものがあるのですか?」
アレスが訊ねてきたので、僕はアイテムボックスから先程倒した魔物たちを取り出した。
「いや、これ食べられないかなーって思ってさ。 確か魔物の肉って美味しいんだよね?」
「まあ、物にもよると思いますけど、概ねそうだと思いますよ? ですがどうやって調理するのですか?」
「それはね、これを使おうと思って」
僕はそういってアイテムボックスから調理器具の一式を取り出した。
実はダンジョンに潜る前に、もしものためにと入れていたのである。
……まあ正直こんなに早く使うことになるとは思ってはいなかったが。
「調理器具はあるし、火も魔法で起こせばいいでしょ? 水は目の前にあるんだし、駄目なら魔法で何とでもなるでしょ?」
僕の言葉に納得したアレスと一緒にまずは料理するための下準備を始める。
森の中から二人で木の枝を集め、集めた木の枝に魔法で火を着けた後、包丁を使って魔物から肉を剥ぎ取る。
血に塗れたそれを丹念に水で洗い、土魔法で作った棒に串刺しにする。
今回は初めての調理ということで、シンプルに丸焼きにすることにした。
これならよっぽどのことが無い限り、不味いなんてことは無いだろう。
そうこうしているうちに肉に徐々に火が通っていき、いい臭いが漂い始めてきた。
僕の横にいるアレスは爛々と目を輝かせながら肉が焼き上がるのを今か今かと待っていた。見た目に反して、食べることに目が無いようだ。
アレスに急かされながら、十分に火が通ったのを確認してから、肉を手に取り、ご飯にすることにする。
どんな味がするのか、期待しながら僕達は魔物の肉に齧り付く。
バリッ!という音をたてながら肉を噛み千切ると、噛んだ所から肉汁が溢れだす。
口に含んだ肉を数回粗食した後、僕は驚愕の声を挙げる。
「マズッ! 何これ!? 見た目美味しそうなのに滅茶滅茶不味い!」
「うう……私のもです。 流石にこれは食べれません」
二人とも肉の余りの不味さに思わず肉を吐き出してしまう。
見た目は美味しそうなのに、食べてみたら滅茶苦茶不味かった。
身はパサパサしているのに加えて、噛む度に溢れでてくる肉汁がとても苦くて食べられたものじゃなかった。
そうとうショックだったのか、アレスは涙目になって、残念そうに肉を見つめていた。
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「はあ、何だよも~。 まさかあんなに不味いとは思わなかったよ。 ねぇ、アレス。 どうしようか? 他に食べる物なんてここら辺に無さそうだよ? もういっそそこら辺にある草でも食べる?」
「いえ、流石に私も草は食べたくないです。 ……ですがどうしましょう? うう、何か食べられると思ったせいか余計にお腹が空いてきました」
アレスの言葉を証明するように、アレスのお腹からクウゥ~と可愛らしい音がなった。アレスが顔を真っ赤にしながらお腹を抑えるがいっこうに鳴り止みそうになかった。
かくいう僕自身もアレスほどでは無いがお腹は減っている。
二人して溜め息をつきながら途方にくれてしまう。
流石にこんなところに来て、死因が餓死とか嫌だったから、あの後色々試行錯誤したが結果は実らず、ただ周囲に食べられない肉が量産されていった。
まあそのお陰で大量の素材を入手出来たが、今はこんなもの何の足しにもならない。
当初の予定ではこれからは魔物を倒してはその肉を食べて過ごそうとしていたのに、最初から計画が頓挫してしまった。
これでは他の魔物にも期待できなさそうだし、それ以前に空腹のせいでここから動けそうに無かった。
「どうするかな~。 流石に何も食べずは無理だよ。 ただでさえ疲れるのに、このままじゃダンジョン攻略どころかすぐに倒れちゃうよ」
「確かにどうしましょう。 私もこれは予想外です。 う~ん、おかしいですね。 魔物の肉は美味しい筈なんですが……」
そうこうしているうちにグ~っと僕のお腹も鳴り始めてしまう。
「駄目だ。 意識したら余計にお腹が空いてきた」
もう終わりだと諦めかけていた僕の頭に正に神の声が聞こえてきた。
[条件を満たしました。スキルを覚醒します]
スキル:調理、解体、採取
「おお! やった、やった! これでなんとかなるかもしれない!」
僕は新しく手に入ったスキルに最後の望みを託しながら、スキルの説明を読んで、思わず笑みがこぼれてきた。
スキル:調理
効果
食材を見ただけで、調理方法が理解可能。また料理自体の味も向上。
スキル:解体
効果
魔物の死体を見ると、解体方法が理解可能。(例:毒の摘出方法など)
スキル:採取
効果
採取した薬草の品質が向上及び効能なども理解可能。
今……僕達は今この場で最も欲しているスキルを手に入れた。
僕は込み上げてくる喜びを抑えることなく早速とばかりに新しい素材を取り出して、解体に移る。
「えーっと? あ、成る程。 これが原因か……」
スキルのお陰でさっきまでとは比べ物にならないスピードですいすい解体を進めていくとついに肉が不味かった元凶に行き着いた。
内蔵に毒袋らしき臓器があり、前はそれを破ってしまっていたようだった。
破らないよう丁寧に抜き取り、その他に毒腺のようなものもあったので取り除いていき、そこから繋がっている管も細かく剥離させていく。
因みに取り出した物を鑑定したら、こんな風に書かれていた。
フォレストモンキーの毒袋。
[危険が迫ると、毒を分泌される。
毒が分泌されてしまうと、肉は食べることが出来なくなる]
説明文を読んだ後、注意しながら他の素材からも慎重に取り除いていき、除去が終わらせると先程取ってきた薬草などを細かくし、肉と一緒に煮込んだ後、棒を指して、火にかけて焼いていった。
一応毒袋は破らないように、土魔法で作った容器に入れた後、アイテムボックスに仕舞っておいた。
必要は無さそうだが、折角手に入ったのだから、持ち帰ろう。何となく捨てるのは気が引けた。
「よし、今度こそ美味しい筈」
肉の毒取りを終えた僕は肉を火にかけてじっくりと焼き上げていく
アレスと二人一緒になって焼き終わるのを今か今かと待っていると、先程よりもいい匂いが肉から漂い始めた。
肉にしっかり火が通ったのを確認して、焼き終わったのをアレスに片方を渡してから、お互いに頷き合うと、早速とばかりに焼きたての肉に食らい付く。
肉を噛み千切ると、さっきと同じように肉汁が溢れ出すが、味が全く違った。
噛む度に濃厚なスープの様な肉汁が溢れ、口の中に広がっていく。
さっきとは違って肉もパサパサしておらず、しっかりとした歯応えもあった。
「美味しい! ねえ、アレス。 美味しいね!」
僕は肉の余りの美味しさに感動しながら、アレスの方に視線を向けて、目を見開いてしまう。
何故ならそこには涙を流しながら、一心不乱に肉に齧り付いているアレスがいたからだ。
「ちょっ! な、何で泣いてるの!?」
「だって……ごんなに美味しいもの……今まで食べたごと……有りませんでしたから、嬉じくて……」
「だ、大丈夫だよ。 そんなに焦って食べなくても一杯あるから。 だから、落ち着いて食べて。 ね?」
「うう、ありがとうございます」
アレスにそういった後僕も食事を再開する
気が付いた頃には大量に焼いた筈の肉はアレスによって殆ど全て食べ尽くされてしまっていた。
クイクイと服が引っ張られたのでそちらを向くと横にいるアレスが物足りないような顔で僕を見ていた
流石にそんな顔をされて断る訳にもいかないので、アイテムボックスから追加を出していくとアレスの顔がパアァという音が聞こえそうな程嬉しそうに破顔していた。
次々と解体した端から焼いていくが、焼いた分は全てアレスのお腹の中に収められてしまった。
おかしい。軽く50匹ぐらい焼いたはずなのに、ものの数分で無くなってしまった……
「ご馳走さまでした。 勇気様。 とても美味しかったです」
「う、うん……満足してもらえたならよかったよ……」
アレスは満面の笑みを浮かべているが、僕は苦笑いを浮かべていた。
多分今僕が見ていた光景を見たら皆同じ顔になると思う。
だって一つが僕の世界でいう肉屋とかが切り分ける前のブロック肉ぐらいの大きさだったし、正確な重さは分かんないけど、確実に100キロはあった筈なんだけど……
「そ、それにしてもアレス。 君って結構食べるんだね」
「すみません。 余りに美味しかったものですからつい食べ過ぎてしまって。 それに何故か異常にお腹が減ってしまって……」
顔を赤らめながら、アレスが言うが、アイテムボックスには100体近くの死体が入っていた筈なのにもう半分以下しか残ってないのを見ると、苦笑いしか浮かばなかった。
……これからの食生活が少し不安になってきた。大丈夫かな?まさか異世界で食費に悩むことになるとは思わなかった。
「ま、まあ! 美味しかったならいいや! 約束通りまた作ってあげるし、これより美味しいものを作れるように色々と頑張ってみるよ」
「ほんとですか!? 楽しみです!」
嬉しそうに笑うアレスの思わぬ食欲に驚きながらも、その後は湖の畔でゆっくりと休憩を摂っていった。
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休憩を始めて少したった後に森の方から何かが近づいてきているのが分かった。
「ん? 何か近寄ってきてるね? アレス分かる?」
「……すみません、分からないです。 どうやら敵意は無いようなのですが」
僕達は近寄ってくるものの方を向きながら何がやって来るのか注意深く観察しながら待っていると、徐々にその姿が見えてきた。
「ん~? ねえ、あれってもしかして狼かな?」
「はい、恐らくそうだと思います。 ですが……変ですね」
「変? どうゆうこと?」
アレスの言葉の意味がわからず、聞き返すと、
「いえ、通常狼などの動物型の魔物は集団で動く筈なんですよ。 ほら、あの猿達も集団でしたよね?」
アレスに言われて思い出してみると、確かに数百の猿に一度に襲われたのを思い出した。
アレスが一撃で絶滅させたので、そこまで脅威に感じられず、印象が薄くてすっかり忘れていた。
普通に考えたら、あの数に囲まれたらそれで詰みなんだろうけど、改めてアレスの凄さを再確認した気分だ。
あの時は驚いた。まさか斧を巨大化させて横薙ぎに首を斬り飛ばすなんて……首が切り離されて胴体から吹き出す血が無駄に鮮やかだった。
猟奇的なシーンの筈なのに感動しちゃったんだよね。まあそのまま一回転したから危うく僕の首も刈り取られる所だったけど……
「あ〜そういえば、そうだったね。 じゃあ何であの狼一人なんだろ?」
「恐らく群れを追い出されたのでしょう、可哀想に」
アレスの言葉を聞いて、思わずあの狼に同情してしまう
だから……僕はアレスにある提案をした。
「ねえ、アレス。 あの狼助けてもいいかな?」
確認のためにアレスに聞くと、最初は驚いたようだか、優しく微笑みながら頷いてくれた。
「私は問題ないです。 どうぞ勇気様の望む通りにしてください。 ですが……気を付けてくださいね?」
「うん、分かってる。 ありがとう」
アレスにお礼をいってから、僕は狼に近寄っていく。
近付くにつれて、狼の体が傷だらけで、所々血が滲みだしていて見るからに痛々しそうだった。
それに気づいた僕が慌てて駆け寄ろうとしたが、
「ウ~グワゥ! グルル~」
近付く僕を警戒してか、狼が僕を威嚇してきた。
僕は両手を上に挙げて、危害を加える気が無いことを示すが、中々近付かせてくなかった。
どうしたものかと考えていると、突然狼が倒れた。
「あ! ちょっ、ちょっと! 大丈夫!」
狼に襲われるかもしれないことも忘れて、駆け寄っていくと、襲われる事も無く無事に狼の元まで辿り着くことが出来た。
抱き抱えてみると、体がどんどん冷たくなっていたので、慌てて治療を始めた。
「大変だ! 早く治療しないと!」
狼に僕の天空魔法にある完全回復魔法をかけると、逆再生するみたいにみるみる傷が治っていった。
「よし。 傷はこれで治ったみたいだ。 次は……目が覚めた時に食べる為に何か作っておこうかな」
先程したように猿の魔物な肉を取り出し、調理していると匂いに釣られたのか、狼の目がうっすらと開いていった。
目を覚ました狼はキョロキョロと辺りを見回して状況を確認し始めたみたいだ。
少ししてから僕の所で視線を固定して、警戒するように此方をじっと見つめてきた。
「大丈夫だよ。なにもしないから。ほら、お食べ」
僕が優しく微笑みながら、狼の前に今焼き上がったばかりの肉を置くと、最初は警戒している為か近寄らなかったが、結局食欲には勝てなかったのか、恐る恐る肉に噛みついた。
「グル? ワン! ワン!」
一度食べて何も異常が無いのを確認して安心したのか、嬉しそうに吠えながら夢中になって、肉を食べていく。
数分後そこそこ多く焼いた筈の肉はそこにはなく、狼が物欲しそうな目で此方を見つめてきていた。
「何? 未だ食べたいの? 一寸待っててね。 直ぐ焼くから」
「ワン! ワン!」
僕の言っていることが分かるのか、返事をするように吠えた後、尻尾が千切れてしまうのでないかというほど激しく振りながら、嬉しそうに僕の周りを歩き始めた。
僕がその光景に何処か既視感を覚えた。
何で既視感を覚えるのか疑問に思いながらも肉の調理していると、そこに遠くで見守っていたはずのアレスがやって来た。
アレスの顔を見て、先程の既視感の正体が分かった。
(そうか、さっきのアレスとそっくりなんだ)
「? 勇気様、何故私の顔を見て、そんな微笑ましいものを見たみたいな顔をしてるんですか?」
「い、いや、何でもないよ気にしないで。 所でどうしたの、アレス? 何かあった?」
僕が疑問に思いそう訊ねると、
「何か誤魔化された様に感じますが……まあ、気にしないでおきましょう。 いえ、このままでは材料が足りなりそうなので、狩ってこようかと思ったのですが、駄目でしょうか?」
「う~ん……? 分かった。 じゃあ、お願いしようかな? 気を付けてね?」
「はい、では行ってきます。 少しだけ待ってて下さい」
少し悩んだ後、アレスに伝えると頷き返して、森の中に消えていった。
「はい、焼けたよ。 熱いから気を付けてね」
焼けた肉を狼に渡すと待ってましたとばかりに肉に食らいつき、美味しそうに食べるのを見ていると、大量の死体を持って、アレスが歩いてきた。
「あ、おかえり。 て、また随分一杯狩ってきたね? 怪我とかしてない?」
アレスが持ってきた死体をアイテムボックスに入れながら、僕はアレスに訊ねた。
「ご心配ありがとうございます。 この通り問題ありません」
「そう? ならいいけど。 にしても多いね」
アレスが持ってきた死体の数はゆうに200を越えており、最初よりも量が多かった。
「森に入って、直ぐに偶然大きな群れを発見できたんですよ」
アレスに何があったのか聞いていると、ふと足に何かがすり寄ってきた。
「もうお腹一杯になったの?」
「ワン!」
僕が質問するとまるで返事をするかのように一度吠えた後、いきなり僕の顔を舐めてきた。
「うわっぷ! アハハ! 一寸やめてよ~」
そう言うと名残惜しそうだが、直ぐに止めて、今度は撫でてほしいとばかりに、此方に頭を向けてきた。
「もう、しょうがないな~。 ほ~ら。 よしよし」
「クゥ~ン」
僕が頭や体を撫でるとくすぐったいのか体を時々震わせながら、甘えるような声を出していた。
「さてと、じゃあ。どうしようか?」
ひとしきり撫で終わった後、僕は狼から手を離した。
離すときとても名残惜しそうな目を狼がしたが、どうにか撫でたい衝動を我慢して、アレスと狼をこれからどうするかの話し合いを始める。
「どうするもこうするも、一緒に連れていくのではないのですか?」
「それも一つの手だけど。 でも……」
「では、いいではないですか。 本人も勇気様と一緒にいきたそうですよ?」
アレスが視線を狼に向けたので僕もそちらを向くと、一緒に連れってって!といいたそうな目で此方を見ていた。
いやまあホントにそう思っているのかは分からないけど、僕には懇願しているように感じられた。
「う~ん? じゃあ、君僕達と一緒に行く?」
「ウォン!」
僕が質問すると、その言葉を待ってましたとばかりに声をあげ、僕に飛び付いてきた。
「うわ! ちょ、ちょっと、もう落ち着いてよ。 あ、そうだ。 これから一緒に行くなら名前考えないとね」
「アレス、何か希望ある?」
「いえ、特には。 それに勇気様がお付けになった方がいいと思いますよ?」
アレスの視線を追うと、そこには目をキラキラさせながら、僕に付けて欲しいとばかりに尻尾を振る狼がいた。
アレスにそういわれ、狼にそんな表情をされてしまっては断ることも出来ず、僕はどんな名前がいいかと悩み、あれこれ考えているとふとあることに気付いた。
「あれ? てか、まずこの子がどんな魔物なのか、知らないじゃん僕」
よくよく考えてみると狼が何の種族かも知らないのである。
ならばと僕は鑑定を使って調べることにした。
グレイシアウルフ
[伝説上に存在する神獣フェンリルの子孫。
牙は全てを噛み千切り、咆哮は全てのものを凍てつかせると云われている。
氷結魔法を得意とする。]
思っていたよりもずっと凄い狼だったみたいだ。
フェンリルの子孫とは思わなかった。でもフェンリルの子孫……か。あ!これいいかも……あ、でも安直すぎるかな?
まあとにかく一度聞いてみよう。
「じゃあ、君はフェンリルの子孫だからフェルだよ。 どう? 嫌?」
僕が確認のために問い掛けると、嬉しそうに尻尾を振って頷いてくれた。
どうやら気に入ってくれたようだ。
[条件を満たしました。スキルを発動します]
不意に僕の頭の中に声が響き、それと同時に突如フェルが輝き始めた。
「ね、ねえ、アレス。 これってもしかして?」
「はい。 恐らく勇気様の思っている通りだと思います」
二人して見守っていると徐々に光が収まっていき、思っていた通りの事が起きた。
「やっぱりか。 え~と、フェル? 僕のことが分かる?」
アレスのときと同じように人間の姿に変わったフェルはアレスとは少し違う銀色の髪をしており、その瞳は紅かったアレスとは対照的に海を思わせるような深い青い色をしていた。
下にはズボンのようなものを、上には軽装鎧のようなものを身に付けているけど腕の部分は露出していて、手首の近くまで鎖が巻かれており、手には確かジャマダハルという名前の武器を持っていた。
アレスの大人しそうな外見違って、フェルは活発で元気一杯そうな印象がある。
フェルの見た目について分析していると、フェルが僕と目が合った瞬間突然抱きついてきた。
「うん! 分かるよ! とゆうか、分かるに決まってるよ!」
「えっと、僕の力のせいでそんな姿になっちゃったけどごめんね?」
「何言ってるのお兄さん! 寧ろ嬉しいよ! これでお兄さんとお話が出来るもん!」
ほ、よかった、嫌われてなくて。
これで嫌われたらどうしようかと思ったがどうやら杞憂で終わったようだった。
フェルの言葉に安心しつつ、フェルが離れてくれるまで、僕はフェルの頭を撫で続けた。
次回からはちゃんと攻略が始まると思うので楽しみにしててください。
ご意見、ご感想等をお待ちしております。
ではまた次回。




