ダンジョン攻略と仲間との別れ
1月25日改稿
僕達がこの世界に来てから、数日が経った。
あれから、ダンジョンに潜ったり、魔法や体術の練習などをして毎日を過ごしていた。
そのお蔭か僕のステータスはこんな感じになった。
赤塚勇気
職業:弱虫
称号:気の弱いもの、勇者、努力家
年齢:17
性別:男
レベル:17
体力:1500
筋力:650
魔力:1350
俊敏力:540
持久力:520
知力:780
器用さ:860
魔法適正:雷、火、水、風、土
スキル
アイテムボックスlevel5
鑑定level4
全属性魔法level7
格闘技level6
治癒魔法level8
ユニークスキル
???
加護
勇者の加護
結構僕としては強くなったようには感じているけど、他の皆は一番低い人でもこの3倍は少なくとも越えている。
その事を考えるとつくづく自分が弱いというのが実感できてしまう。
しかし悲観的になっても仕方ないので最近は自主的に図書館や中庭で魔法や体術の練習などをしている。
もうそろそろいつも練習している時間になるのでいこうと思い、扉を開けると、ここ最近で特によく話すようになった人が丁度目の前を通りすぎるところだった。
「あ! こんばんわ。土御門くん。 君も行くところだったの?」
「ん? ああ。 なんだ。 誰かと思ったら勇気じゃんか。 そうそう、俺も今からいこうと思ってさ。 どうせなら一緒に行こうぜ?」
土御門くんは名案だとばかりに、僕にそう提案してきた。
この人はクラスメイトの一人で、名前は土御門清正。
職業は大魔術師だ。
見た目は髪を金に染めており、魔術師用のローブを器用に着崩して身に付けているためパッと見た感じチャラそうな印象を受ける。
実際はそこまでチャラくは無いのだが、見た目や言動のせいで、皆からはチャラ男と認定されている。
しかしその職業が表す通り、魔術師としての能力は同じ系統の職業の人たちと比べて頭1つ分くらい抜けている。
だが、基本的にその才能をあまり良いことに使うことがない。
この前など髪を染める染髪料が無いと知るや、自身の髪を完全な金髪に変えてしまう魔法を作り出したり、その前に至っては、城にある大浴場を覗くために透視魔法を作り出したりしていた。
まあその時はある女子が気付いて、未然に防げたため問題にはならなかったが……
と、まあこんな感じの人ではあるが悪い人ではない。
僕の職業を知ったときには僕でも活躍できるようになる魔法を作ろうと言ってくれたし……
何でそんなことを言ってくれたのかとこの前聞いてみたら、何でも与えられた境遇だけで、周りから決めつけられるのが嫌なのだと本人は言っていたが、意外と見た目とは裏腹に辛いことを経験しているのかもしれない。
まあ、そんなこんながあって、最近では魔法を教えてもらったり、新しい魔法を一緒に考えたりしている。
土御門くんは僕に声を掛けたあと、笑みを浮かべながら先に進み出したので、その後を追って、僕も目的の場所に向かった。
「さ・て・と、姫様はどこにいるかな~?」
目的の場所である図書館に着くと、土御門くんは周囲を見回して、一緒に勉強しているもう一人を探し始めた。
「土御門! 勇気! こっちよ!」
声のした方を見ると、エリアが不機嫌そうな顔をして椅子に座っているのが見えた。
「おお、こえ~こえ~。 そんじゃ行こうぜ勇気。 あれ以上待たせたら、何されるかわかんねーからな」
「うん、それもそうだね」
僕は苦笑いをしながらも、土御門くんに賛成すると、エリアが待っている机に近付いていった。
「二人とも遅かったじゃない。 何してたのよ?」
僕達が机に辿り着くなり、エリアはジロリと僕達を睨みながら訊ねてきた。
「いやいやいや、ちょっと待ってくれよお姫様。 俺達別に遅れてないぜ?」
「ふん、私より遅かった時点で、遅刻よ。 ち・こ・く。異論は認めないわ」
「おいおい、そりゃねーよ、姫様~。 なあ、勇気も何か言ってくれよ~」
土御門くんがエリアのあんまりな言葉に耐えかねて、困り顔をしながら僕に意見を求めてきたが、僕自身もどう言い返せば良いのか分からず、二人して言葉に詰まってしまう。
「あーもー、イライラするわね!」
「ごめんって、エリア。 謝るから、そんな怒んないでよ。 次からは気を付けるからさ。 ね? 土御門くんもそれでいいでしょ?」
「しょうがないわね。 今回だけよ? 次私より遅かったら、容赦しないからね。 分かった!?」
「了解、了解」
エリアは納得はいかないようだが、一応許してはくれたようで怒りを静めてくれた。
「まあいいわ。 それじゃあこれから魔法についての授業を始めるわよ!」
エリアの掛け声と共に、今日も又僕達の魔法の勉強が始まった。
~数時間後~
「ん~~。 じゃあ、もう時間だし。 このぐらいで終わりましょ」
「それもそうだね。 そうしようか」
「いや~やっぱ集中すると、時間が経つのははえーな~。 まあ、色々分かったことはあったけど」
僕達はある程度の区切りを付けると、今日の分を終えることにして、片付けをし始めた。
持ってきた本を本棚に返したりしていると、不意にエリアが話しかけてきた。
「そういえば、貴方達明日は朝からダンジョンに潜るんでしょ? だったら早く寝なさい。 片付けは私がやっておくわ」
「え? でも……」
確かにエリアが言う通り明日は朝からダンジョンに潜るらしいので、何時もより早く寝たほうが良いとは思ったが、流石に女の子に全部押し付けるのは気が引けた。
僕が迷っていると、エリアが僕の持っていた本を強引に奪ってしまった。
「あーも~、いいから! ほら、さっさと寝る!」
「あ、ちょっと、エリア……」
「まあまあ、勇気。 姫様もこういってんだし、お言葉に甘えようぜ?」
「いやでも……」
「ほら! いいから、行こうぜ! よっと!」
土御門くんは埒が明かないと思ったのか、僕の体に腕を回したと思ったら、そのまま肩に担いで歩き出した。
「じゃな~、姫様。後宜しく~♪」
「ちょっ、ちょっと! 土御門くん! 離してよ!」
結局土御門くんは僕の意見など無視して離してくれなかったので、僕は何処か納得いかないまま、部屋に戻り、ベッドに横になると眠りについた。
~~ダンジョン内部~~
その日の朝予定通りにダンジョンに潜った僕達は現在ダンジョンの五層目に当たるところにいた。
昨日何だかんだあったが、部屋に帰ったらすぐに寝てしまっていた。
そんな自分に呆れながらも、朝食を食べ終わった後、準備を整え、ダンジョンに潜ってからかれこれ二時間が過ぎようとしていた。
「お前達大丈夫か?」
そんなことを考えていると休みなく動き続ける僕達を心配してラルクさんが声をかけてきた。
ラルクさんは何時も着ている鎧に加えて、剣と盾を持っており、警戒しているのか、辺りを注意深く観察していた。
「問題ないって。 なあ?」
ラルクさんの言葉に反応した坂田くんが皆に聞くと、僕を含めた全員が頷いていた。
ラルクさんはそれを確認した後、一度深呼吸すると、攻略を再開した。
ダンジョンの中なので、やはり魔物は出てくるは出てくるのだが、僕以外の全員が強すぎるせいか、殆ど相手にはなっておらず、思っていたよりもサクサク攻略は進んでいた。
因みに今の僕達は王国から与えられた国宝級の武器や防具に身を包んでいた。
僕は籠手と甲冑靴と動きを阻害しない程度の防具。
それに加えて手には魔法の発動を補助する手袋を身に付けていた。
付け加えるとこの籠手と甲冑靴には能力が備わっており、魔力を込めると衝撃波を放てるようになっていた。
何でも職業のことを不憫に思った王様が、僕のために用意してくれたらしい。
他の人は後衛組は杖や弓矢、中衛組は槍等を、前衛組はは刀や斧、ナイフ等の自分達の職業にあった装備を身に付けていた。
例えば、大山くんは僕と同じように籠手、神崎さんはナイフ、坂田くんは刀、土御門くんは杖をそれぞれ持っていた。
魔物との戦闘になると大山くんは敵を叩き潰し、神崎さんは背後から忍び寄って切りつけ、坂田くんは鞘から一瞬で抜刀して魔物を切り伏せ、土御門くんは魔法で殲滅を繰り返していた。
残念なことに皆が武器を使いこなして魔物を倒しているのに比べて、僕は騎士団の人達の助けを借りてでしか魔物を倒せずにいた。
内心でため息を吐いていると、
「おい、赤塚。 こいつ倒してみるか?」
「あ、はい。 お願いします」
毎回のごとく騎士団の人達に魔物を弱らせてもらった後に、此方にとばしてもらい、魔法を使って壁を作り、身動きを封じてから、籠手の衝撃を圧縮して弾丸のようにしてから、止めを刺していった。
勇気自身は気付いていないが、この行動を見ていた騎士団の人間は勇気に対して感心していた。
最初の頃は邪魔だな、帰れよ、等と思うものも少なからずおり、嫌々ながらも一緒に行動していたのだが、殆どの者が気紛れに魔物の相手をさせた時に勇気に対する評価を改めていた。
それは自分達の手で弱らせた魔物を、更に危険が無いように動きを封じた後、止めを刺すという確実な方法を取っていたからである。
加えて衝撃波に形を与え、放つという行動も大きく関係していた。
通常この武器はそのまま的に向かって放ち、押し潰す、又は吹き飛ばすという使い方しかされておらず、球状に変化させて放つことなどしたことがなかったからである。
正確に言えばしなかったのではなく、出来なかったのだが……
元々形が無いものに、形を与えるには高度なイメージ力と魔力操作が必要であり、それが可能だった者が一人もいなかったのである。
しかし、勇気自身はただ相手を視認しなければ職業の特性が発揮されないのを発見し、折角の目に見えない攻撃ができるのなら遠距離から狙撃でも出来ないかと連日練習した結果習得出来たから、使っていただけであり、自分に出来るなら他人にも出来ると思っているため、実は凄いとは思ってはいない。
「しっかし、拍子抜けだな。 てっきりもっと強いのがうじゃうじゃいると思ってたのによ。 これじゃ攻略なんて楽勝じゃね?」
坂田くんの言葉に何人かが同意していた。
確かに僕自身も、今のところ其処までこのダンジョンが脅威だとは感じられなかった。
僕以外の全員の能力が高すぎるのもあるのだろうが、それ以上に敵が弱すぎたからだ。
「お前達、自分の力を余り過信するなよ? ダンジョンでは何が起こるか分からないんだ。 それにここはまだまだ全然浅い。 弱くて当たり前だ」
ラルクさんが注意するように言った後、気を引き締め直し、周囲を警戒しながら進んでいると、僕達の前方に綺麗に光る何かが宙に浮いているのが見えた。
「綺麗……」
女子生徒のそんな呟きが聴こえる中、僕はあれが何なのか確認するために、ラルクさんに視線を向けた。
すると、視線の先にいたラルクさんは訝しげな目をした後、何かに思い至ったのか、顔を驚愕に染め、僕達に指示を出そうと声を出そうとしたが……
「お? 何かあるじゃん。 頂き~」
ラルクさんが何かを言う前に坂田くんはそれに近づくと、何の警戒もせずに触ってしまった。
「馬鹿野郎! 確認もせずに触るやつがあるか!」
ラルクさんが坂田くんに怒鳴ったが、その時にはもう遅かった。
坂田くんが手に持った石の様なものは、より一層輝きをましていくと、突然砕け散った。
その瞬間辺りを光が包み込み、数秒後目の開けた僕達の目の前に、何かがいた。
「あれはまさか……おい、お前達! 全員直ぐに下がるんだ! 坂田も早く此方に来い!」
ラルクさんが慌てるように指示を出すと、皆は急いでラルクさんの指示に従い、後ろの下がった。
「ラルクさん、ありゃ一体なんだ?」
突然目の前に現れた怪物が何なのか気になっていると大山くんが代表して、ラルクさんに質問した。
しかしあの怪物を見たときから僕は嫌な予感がして仕方がなかった。
ラルクさんは視線を怪物から逸らさず、正面を向いたまま、声だけでその質問に答えた。
「あれは本来なら80階層にいるはずのミノタウロスという魔物だ。」
ラルクさんの言葉を聞いて、僕は驚きを隠せなかった。
直ぐ様僕は記憶を探り、前に読んだ本の内容を思い返した。
前に読んだ本によると、ミノタウロスとは下半身が人で上半身が牛で、手に斧を持っている魔物だ。
曰く、その怪力は凄まじく、どんな固い壁も壊してしまう……そう本には書かれていた。
加えて、通常なら中堅者ぐらいの実力のあるもの同士が協力し、複数のパーティーで討伐しなければいけない存在とも書かれていた。
「くそ! お前達撤退するぞ! 走れ!」
ラルクが指示を出し、皆が逃げようとするが、ミノタウロスが待ってはくれるはずがない。
「グルァァァアアアア~!!!!」
ミノタウロスが咆哮を挙げると、勇気達に向かって突進してきた。
「ヤバイ! お前ら、避けろ!!」
全員がどうにかして突進を避けることに成功したが、その代わりミノタウロスによって退路が塞がれてしまった。
それを見たラルクは忌々しそうな顔をしながら、次の指示を飛ばす。
「くそ! こうなったら仕方ない。 各自戦闘体制! 無理はするなよ! 逃げるだけの時間を稼げればいい! 少しの判断ミスが命取りだ! 前衛は足止めをしながら機動力を奪え、中衛はそれをサポート、後衛は魔法の詠唱を始めろ!」
ラルクの指示に従い、全員が素早く行動を開始する。
初めに中衛組が補助魔法を前衛組にかけると、前衛組が駆け出し、ミノタウロスの振るった斧をどうにか掻い潜りながら、足めがけて攻撃を浴びせていく。
そして背後に守られながら、土御門を筆頭に後衛組が次々と魔術の詠唱に入っていった。
「グワァぁ~!!」
前衛組の攻撃を鬱陶しく思ったのか、ミノタウノスは降り下ろした斧を持ち上げると、斧を地面と水平に構え、体ごと回転させながら襲い掛かってくる。
「全員下がれ! あれに当たるなよ! 当たったら死ぬと思え!」
忠告を聞いた前衛組が一斉に後退を始めると、迫ってくるミノタウロス目掛けて後衛組の魔法が炸裂した。
「「「我が眼前にいる敵をその雷をもって貫け! サンダーボルト!」」」
魔法の詠唱が響いたかと思うと、洞窟内にも関わらず、突如として上から落雷がミノタウロスに降り注いだ。
「グァアァ!」
電撃によって体が痺れたのか、ミノタウロスの動きが止まると、それを好機と見た前衛組が再び攻撃を再開した。
「ぬぉりゃ! 地砕き!」
「くらえ! 一閃!」
大山と坂田がそれぞれ攻撃を当てると、ミノタウロスは苦悶の声を挙げるが、声をあげたのみで倒れることはなかった。
更に運の悪いことに痺れが直ったのか、緩慢ながら体を動かし、身を屈ませ、角を前に突きだし突進する姿勢に変わる。
「ヤバイ! お前達逃げろ!」
攻撃を避けようと、動こうとした時、焦りのためか一人の女子生徒が躓いてしまい、地面に倒れ込んでしまった。
「いや、誰か助けて! 足が動かないの!」
女子生徒は必死になって立ち上がろうとするが、怪我をしたのか、それとも恐怖かは分からないが、その場から動けないようだった。
しかし、それを見たミノタウロスが容赦することなどあるわけがなく、女子生徒に向かって、一直線に突き進み始める。
その光景を見た勇気は助けないと、心の中で叫ぶが恐怖のせいか体が思うように動かなかった。
(異世界に来てまで逃げることはしない、そう誓ったはずなのに、何で動けないんだよ!動けよ!)
「誰か! 助けて!! 死にたくない!!!」
動けずにいると、叫び声をあげる女子生徒と不意に目があった。
瞳には涙が溜まり、顔は絶望に染まっていた。
瞬間、勇気の心臓がドクンッ!と今までに無いくらい脈動を始める。
そして気付いたときには、先程まで膠着が嘘のように無くなり、勇気は倒れている女子生徒に向かって一直線に走っていく。
「いや……誰か……助けて……」
女子生徒は死を覚悟したのか、眼を瞑ってしまう。
誰もが駄目だと思ったその時、聞こえてきたのは何かが潰れる音ではなく勇気の声。
「我が眼前にいる敵からその頑強なる壁をもって我が身を守れ! アースウォール!」
詠唱が終わると同時に壁が現れるが、その場にいる全員が、この後に起こるであろう惨状を見ないためか、目を瞑る。
しかし、次の瞬間ガンッ!という誰も予想していなかった音が辺りに響き渡った。
その音を聞いた全員が眼を開けてみると、そこには荒い息をしながらではあるが、何処にも傷を負っていない勇気が立っていた。
間一髪駆けつけることが出来た勇気は魔法によって地面を隆起させ、壁を造りだし、突進を防ぐことに成功したのだ。
些か賭けではあったが、勇気はその命懸けの賭けに見事勝利したのである。
勇気の職業の関係で攻撃系の魔法は余り威力が出ないことを考慮した結果、勇気は防御や束縛系の魔法を大量に取得していた。
そして勇気の絶え間ない努力により高密度に造られた壁はミノタウロスでも破壊できないような強度に達していた。
その為、普通なら不可能であるはずのミノタウロスの攻撃を防ぐに至ったのである。
「大丈夫? さあ、早く立って! この壁がいくら頑丈でもいつ壊れるのか分からないんだから!」
勇気は女子生徒に言葉をかけながら、手を取り立ち上がらせると、笑顔を浮かべながら続けた。
「あいつは真っ直ぐにしか突っ込んで来ないんだから、冷静に対処すれば当たらない。 それに僕でも防げたんだよ? 僕なんかより強い皆なら大丈夫だよ!」
今まで見たことがなかった勇気の自信満々の笑みを女子生徒はまじまじと見た後、瞳に溜まっていた涙を拭いさり、ぎこちないながらも笑みを浮かべた。
「ええ、そうよね。 助けてくれてありがとう。 赤塚くん」
勇気の言葉で恐怖心が無くなったのか、女子生徒はお礼を言うと、他の生徒がいる方へと走っていった。
「さてと、どうしようかな? ラルクさん! 僕がこいつを壁の中に閉じ込めるから、皆を早く逃がして!」
勇気は大声をあげながら、ミノタウノスを囲むように壁を造りだし、中に閉じ込めていく。
中からはミノタウロスが壁を壊そうと暴れているのか、けたたましい音が鳴り響いていた。
「ラルクさん急いで! この壁もいつ壊れるかわからないし、もう僕の魔力も残り少ないからあんまり時間がないよ!! 僕が足止めしてるうちに早く!」
勇気がラルクに叫ぶが、判断に迷っているのか、ラルクは動けずにいた。
「し、しかし、君一人に任せるわけには……」
ラルクは守るべき対象である勇気に守られるということに戸惑いを隠せないでいると、今まで聞いたことがない勇気の怒号がぶつけられた。
「いいから、早くして! ほんとに時間が無いよ!」
「くっ! 済まない。 あと少し頑張ってくれ! 前衛組は先頭にいき、退路を開け! 他の奴等はその後に続いていき、階段から上に上がれ!」
ラルクは苦虫を噛むように歯を喰い縛った後、勇気に一言謝罪をすると、指示を出し始めた。
ラルクの言葉を聞いた前衛組は直ぐ様動き出し、群がってくる魔物を蹴散らして、退路を開いていった。
その後を追って他の人達も駆けていくのを見送り、安堵の息を漏らすと、勇気は再度ミノタウノスの方に顔を向けた。
「ヤバイぞ。 もうほんとに魔力が無い。 このままじゃ、直ぐに壊れちゃうよ」
全身から汗を吹き出しながら、荒い息を吐き、壁に魔力を注ぎながら壊されないように神経を集中させていると、
「おい、赤塚一寸伏せてろよ」
突如として後ろから声が聞こえてきた声に、半ば反射的に反応すると、勇気の背後から斬撃が飛んでいき、壁に激突した。
斬撃は壁に激突したかと思うとそのまま壁をすり抜けていき、ミノタウロスに直撃した。
辺りにミノタウロスの苦悶の声が響く中、後ろを振り返った勇気は自分の背後にいた人物を見ると驚きで目を見開いた。
「坂田くん!? 何で、みんなと一緒に逃げたんじゃ……」
「はっ! ふざけんなよ。 やられっぱなしで終われるかよ。 ましてやお前に借りを作るなんてもっとごめんだぜ」
「全くお前も素直じゃないな。 正直に赤塚の事が心配だと言えばいいものを」
「なっ! ふ、ふざけんじゃねーよ! 誰がこんなやつの心配なんかするかよ!」
坂田が突如聞こえてきた声に反論したかと思うと、暗闇の中からラルクが歩いてきた。
「ラルクさん! 何でここ!? 前衛組と一緒に行ったんじゃ……」
「それは他の奴等に任せた。 とゆうか、他の奴等にお前を任された。 何、あとは戻るだけだ。 他の奴でも問題ないさ。 況してや前衛組がいるんだしな」
ラルクの言った通り、此処までは何事もなくこれたのは一重に騎士団の人達のお陰ではある。
確かに戻るだけなら問題はないだろう。
しかし、勇気は納得できずにいた。
「あの、一応その事は分かりましたけど、何で戻ってきたんですか?」
「あのな、赤塚。 俺は王よりお前達を守るように命じられているんだよ。
お前のお陰で他の奴等は無事逃げれたと思う。 だがお前がまだ逃げれて無いから助けに来た。 ただそれだけだ。
てゆうかお前自分が逃げる時の事考えてないだろ?」
ラルクに言われて初めて気づいた。
確かに今ここで壁を解除したら直ぐ様ミノタウロスが攻撃を仕掛けてくることになる。
勇気自身クラスメイトを助けるのに必死だったため、この後どうするかが頭から抜けていたのだ。
「たくよ、他の奴の心配する前に自分の心配しろよな。 あんなかで一番弱いのてめぇなんだからよ」
「はは、それもそうだったね。 自分で言ってたのに忘れてたよ。 でも、意外だったよ。 坂田くんが助けに来てくれるなんて……」
「は! 勘違いすんなよ。 俺はてめぇに借りを作りたくなかっただけだ。 ここでてめぇが死んじまったら、一生てめぇに借りを作ったままになっちまうからな」
ぶっきらぼうに言ってはいるがその言葉に何処か優しさを感じ、勇気は自然と笑みを浮かべた。。
「おいお前達。 おしゃべりはそのくらいにしておけよ。 赤塚後どのくらい持ちそうだ?」
ラルクの言葉で、直ぐ様話を打ち切ると勇気は自分の魔力の残量を調べた。
「そうですね、持って後1分か2分ぐらいです。 緊急時の為に少し魔力を残しておきたいので」
「分かった。 坂田! 壁の中にいるミノタウロスのやつを弱らせるぞ!」
「ああ、わかったよ」
二人は自分達の武器に手を添えると坂田は剣技を、ラルクは魔法を繰り出した。
「絶刀・透過斬」
「我が敵をその雷をもって貫き、その身を灰塵とかせ!レイジングボルト!」
坂田が放った斬撃は先程のように壁をすり抜け、ミノタウロスに直撃し、ラルクの魔法はミノタウノスの真上から雷撃を降り注ぎ、ミノタウロスが叫び声をあげる。
今坂田が放った透過斬は、見えない斬撃を対象に向けて放ち、途中に存在する障害物を一度だけ無視する事が出来る大剣士だけが、放てる武技と呼ばれるものであった。
対してラルクが放った魔法は雷魔法の中でも最上級に該当するものであり、対象に向かって何十という落雷を落とす魔法であった。
――――――――――――――――
ちなみに、魔法には階級が存在しており、各階級で威力や効果、難易度、魔力消費量などが異なっている。
階級には、初級、中級、上級、最上級、帝級があり、その上に国によって使用が制限されている戦略級、災害級、禁呪扱いの神級が存在している。
このように聞くとラルクはそこまで凄くないように聞こえてしまうが、最上級の魔法を使える者は殆どおらず、それ以上の魔法が使える者は天才の中でも限られた者たちであり、それこそ歴史に名を残す功績を経てた者たちであった。
実をいうと、勇気は帝級を使うことだけは出来る。使いこなせるかは別ではあるが……それはまた次の機会に
閑話休題
――――――――――――――――
「グァァアア~!」
辺りにミノタウノスの咆哮が響き渡り、突如壁の中から伝わってきていた衝撃が止む。
「よし、今のうちに逃げるぞ!」
数秒が経ち、ミノタウロスが動き出さないことを確認すると、ラルクが撤退の指示を出す。
ラルクの声に従って、勇気達は階段を目指して、走り始める。
後少しで辿り着きそうになったとき、バカンッ!と音に続くように、パラパラと何かが崩れる音が勇気達の耳に聞こえてきた。
「グルァァ!!」
後ろを見るとミノタウロスが壁を破壊し、勇気達に突進を仕掛けてくる。
「おいやべぇぞ! やろう此方に来てやがるぞ!」
「いいから黙って走れ! 追い付かれるぞ!」
後ろから迫ってくるミノタウロスに追い付かれまいと、勇気達は一心不乱に階段に向かって足を動かしていった。
階段に辿り着くと、勇気はミノタウノスに向かって最後の魔法を唱えた。
「大いなる大地よ。 我が願いに応じてその身を我の望む形に変化させろ! アースシフト!」
勇気が放った魔法により、ミノタウロスがいた地面が変化を始め、徐々にミノタウノスの体が後ろに下がっていく。
「よくやった、赤塚! 早く階段を上がれ!」
ラルクから誉められながら、上るのを再開しようとしたとき、突如ラルクが叫ぶ。
「!? おい、坂田! 避けろ!」
後ろを振り替えった勇気が見たのはミノタウロスが腕を伸ばし、勇気の後ろにいた坂田に掴みかかろうとしている光景だった。
その光景を見た勇気は反射的に、坂田の腕を掴むと、力任せに後ろに引っ張った。
それにより入れ替わるように、勇気と坂田の位置が変わり、坂田ではなく勇気がミノタウロスの手に捕まってしまった。
「いってぇ。 !? おい、赤塚!」
階段に激突した顔を押さえながら、勇気の方を向いた坂田は勇気が捕まっている光景を見て、何が起こったのか理解出来ずにいた。
「ごめんね? 坂田くん、それにラルクさん。 折角助けに来てくれたのに」
勇気はがそういうと、申し訳なさそうに苦笑いすると、ミノタウノスの体が徐々にではあるが降下をし始めた。
「おい! 赤塚! てめぇ、ふざけんじゃねーぞ! 何で俺なんかを庇ったんだ!」
「さあ、何でだろうね? 自分でも分からないよ。 強いていうなら助けたかったからかな?」
坂田は自分の質問に対する勇気の返答を聞くと、何かを決意したような顔をして、一歩前に出た。
「待ってろ! 直ぐに助けてやる!」
坂田が勇気の方に駆け出そうとしたが、坂田の身体をラルクが羽交い締めにされたせいで、止められてしまう。
「止めろ坂田! お前まで落ちるぞ!」
「うるせー! 離しやがれ! テメェ、アイツを見捨てるつもりかよ!」
自分の拘束を解こうとしないラルクから逃れようと坂田が藻掻くが、それはさせまいとより強い力で押さえ付けられてしまう。
自分のために必死になる坂田の姿を見た勇気の目から自然と涙が溢れ始めた。
「坂田くん、もう、いいよ……」
「良くねえよ! てめぇを助けるために戻ったのにてめぇが居なくちゃ意味ねーだろ! お前を連れ帰れなかったら、俺は大山達に何て言えばいいんだよ!」
「ありがとう。 助けようとしてくれて……大山くん達にはごめんって伝えといてくれるかな?」
「ふざけんな。ふざけんな。ふざけんな!! テメェ何諦めてんだよ! そんぐらい自分で言えよ勇気!」
坂田の叫びを聞いたとき、勇気の目から必死に我慢していた涙が溢れ始める。
皮肉なことに、坂田が勇気の名前を呼んだのはこれが始めてだったからである。
名前を呼ばれる……他の人にとっては何気ないことだが、勇気にとってはこれ以上に嬉しいことはなかった。
勇気にとって自分の名前とはある人達との大切な繋がりであると同時に掛け替えのない物だからだ。
「あ。やっと名前で呼んでくれた。 ずっと思ってたんだよ? ちゃんと名前で呼んで欲しいな~って。 最後の最後に願いが叶っちゃったよ」
「名前なんて後でいくらでも呼んでやる! だから、待ってろ! すぐ助けてやる!」
坂田が藻掻いている間も、ミノタウノスの体は止まることなく徐々に降下をしており、今にも落下してしまいそうになっていた。
坂田の行動を嬉しく思う反面、勇気は酷く現実的に自分が助からないと確信していた。
そして、落下してしまう前に、自分の正直な気持ちを伝えておこうと口を開いた。
「ラルクさん、もう僕は無理ですけど、皆の事お願いします。 後、王様やエリアに力になれなくてごめんって言っておいてください」
「ああ、任せておけ。 必ず伝えよう。 あいつらの事も俺が最後まで面倒見てやる! 赤塚、お前は確かに弱いかもしれない。 でもな、お前は誰より優しい正真正銘の勇者だ。 俺が保証する」
ラルクは涙を流しながら、力強く頷き、勇気の目を見ながら、そう約束した。
「坂田くん、助けに来てくれてありがとう。 あっちの世界の事があったから、まさか助けに来てくれると思わなかったから、ビックリしたよ。
ちゃんと話し合ってたら、友達になれたかもしれないのに、残念だよ……」
「ふざけんな! 俺達もうダチみたいなもんだろ! 今までした事も全部謝る! だから……だから! こんなとこで死ぬんじゃねーよ!!」
「ありがとう。 坂田くん、いや、違うか。 友達だったらちゃんと名前を呼ばなきゃ、駄目だよね? じゃあね、新くん。 最後に君と友達になれて良かったよ」
勇気は涙を流しながらも坂田とラルクに対して微笑んだ。
(最後の最後で新くんと和解出来るなんて、思ってもみなかったな。ちゃんと向き合ってればよかった……あ~あ、こんなところで死んだら姉さん達に泣かれちゃうんだろうな……それは、嫌だな~。まあでも、僕の人生にしては中々よい終わり方だと思うし、まあいっかな。)
そんなどうでもいいことを考えながら目を瞑ると、勇気を掴んでいたミノタウロスが体を支えきれなくなったのか地面から手を離し、暗黒の中に落ちていく。
そして、遂には新とラルクから視認できなくなってしまっていた。
「勇気!? おい、嘘だろ! ふざけんなよ! クソッ! 離せよ団長! 俺がアイツを助けるんだよ!」
「黙れ! お前が行ってどうなる! これ以上俺の目の前で、教え子を死なせてたまるか!」
必死に涙を我慢しながら、ラルクは叫んだかと思うと、キツく唇を噛んだ後、新を気絶させた。
(くそ……、勇気。すまねぇ。)
意識を手放しながら、最後まで勇気のことを悔やみ、新は意識を失った。
「すまない」
そして、ラルクはもう一度そう呟き、涙を流すと、新を担いで、勇気の最後を伝えるために歩き出した…
戦闘描写が難しかったです。
次回はついに勇気の真の力が!?
では、ご意見やご不満、誤字、脱字等ありましたら、仰ってください。
お待ちしております。