二日目
「ふあ~、結構よく眠れたなー」
僕は体を伸ばしながら、徐に立ち上がった。
「て、あれ? ここどこだっけ?」
いつもとは違う部屋に少し戸惑うが、すぐに此処が何処であるのかを思い出した。
「あ、そうだった。 僕勇者として異世界にいるんだった」
少し寝惚けていた状態から頭を回転させ、状況を理解する。
まだ少し実感が薄かったが、今僕がいるのはいつも起きていた自分の部屋では無いと理解すると、異世界に来たという実感がわいてきた。
「さてと、どうしようかな? まだ皆起きてないだろうし」
徐に窓の外を見てみると、未だ外は少し暗く空が白んでいるのを見て、自分がいつもの癖で早くに起きたことを理解する。
「う~ん、でもお城の人は誰かしら起きてるよね?」
使用人の人たちが居たのだから、大丈夫だろうと当たりをつけて、僕は自分の部屋から外に出た。
すると、丁度向かい側の扉が開いた。
「ん? おお、勇気か! おはようさん。 お前さんも早くに目が覚めてしまったのか?」
一瞬誰だろうと思い、声の主を確認したところ、大山くんだった。
どうやら僕と彼の部屋は、思っていたよりも離れていなかったようである。
「大山くん、おはよう。 まあね。 何か元の世界に居たときの癖が抜けてなくてね。 そういう大山くんも随分早いね?」
僕は話し掛けてきた大山くんに挨拶と共に率直な疑問をぶつけた。
「いやなに。 わしもお前と一緒でな、いつも通りの感覚で起きたんじゃが、することが無くて暇での? 少し体を動かそうと思ってな」
大山くんの言葉を聞いた後、自分の中で思案してみることにした。
確かに眠気覚ましには丁度いいだろうし、何より能力の確認になると思った。
「成る程ね。 確かにいいかもね。目を覚ますにもいいし、今日からの訓練の前に体の調子の確認もできるし」
僕が大山くんの言葉に納得していると、不意に名案を思い付いたと言うような顔を大山くんがした。
「そうじゃ、お前さんも一緒にどうじゃ? 一人より二人の方が出来ることも増えるじゃろうし」
大山くんが僕に提案してきた。
確かに元々そのつもりであったし、少し体を動かしたいという気持ちもあったので、僕は提案に乗ることにした。
「じゃあ、そうしよっかな? 僕も丁度暇で何かしようと思ってたんだ」
僕が賛成したのか嬉しいのか、大山くんはニッ!と笑みを浮かべた。
「そうかそうか、なら早速城の者を探して、何処か運動できる場所がないか、聞いてみるとするかの」
言い終わるや否や、大山くんが意気揚々と走っていってしまった。
「ちょ、ちょっと待ってよ! 大山くん!」
それを見ていた僕は一瞬呆気に取られたが、直ぐにその後を慌てて追っていった。
少しすると使用人の男の人と話をしている大山くんをどうにか発見することが出来た。
その使用人の人は此方で言うタキシードのような服装をしていたので恐らく執事か何かだと思う。
その人にに何処か良い場所は無いかと質問すると、中庭が良いだろうと、紹介された。
しかし紹介されても場所が分からないと言うと、「では、ご案内します」と言ってくれたので、お言葉に甘えさせてもらうことにした。
数分ほど歩くと広い開けた場所が見えてきた。
中々の広さを持っており、剣などの武器も壁に立て掛けられていた。
普段は騎士団の人達が訓練で使っているらしいが時間が時間なためなのか、辺りは静まり返っており、時々鳥の鳴き声が聞こえてきていた。
「こちらが中庭にございます。 普段から騎士団の方々が御使用なされておりますので、運動などなされますときはこちらをご自由にお使いください。 何かご用が有りましたら、そちらの扉を通った先の部屋に居りますので、何なりとお申し付けください。 それでは」
僕達から見て、後ろにある扉を指差すと、細かい説明をすると、執事のお爺さんは扉に向かって歩いていった。
「うわー、すごい広いね。 ここ」
僕はそのあまりの大きさに驚きの声をあげていた。
恐らく僕がいた元の世界でいうと、学校の1つでも建てれるんじゃないか、というほどの広大な庭が目の前に広がっていた。
「確かにの~。 凄い広さじゃ。 これなら多少激しいことをしても周りに迷惑を掛けることもなさそうじゃな」
大山くんと二人で感嘆の言葉を口にしていると、不意に後ろから声がかけられた。
「お、勇気に武志じゃねーか! お前らも運動しに来たのか?」
声のする方を見てみると、そこには神崎さんがいた。
何時もの見慣れている制服姿ではなく、此方で言うジャージのようなものを着ている神崎さんは何処か新鮮に見えた。
次いでに言うなら、僕と大山くんも同じ格好をしている。
今朝起きたときに、着るものがなにか無いかと、部屋を探していたときに発見したのだ。
「お、なんじゃ誰かと思ったら、晶か。 お前さんも来たのか」
「おう、何かいつもの癖で早く目が覚めちまってよ。 暇だったから、そこら辺にいた人に運動できる場所が無いか聞いたら丁度いい場所があるって教えてもらったから、早速来たんだよ」
神崎さんは元々陸上部だったから、普段から早朝から運動してたのかな?
そんなことを考えながら、僕も神崎さんに挨拶をすることにした。
「おはよう、神崎さん。 僕達も同じで、目が覚めちゃたから、運動でもしようと思ってきたんだ」
「ああ、おはよう勇気。 それだったらよ一緒に走らねーか? 一人より三人の方が楽しいだろうしよ」
神崎さんがそう提案すると、
「おお、それはいいな! よしならば早速走るとしようか!」
そういって、二人ともとてつもない速さで走っていってしまった。
「て、ちょっと待ってよ! 二人とも僕のこと忘れてない!?」
いきなりのことで少し固まってしまったが、僕は慌てて二人を追って走り始めた。
「ま、待ってよ二人とも~」
ーーー数分後ーーー
「ちょ! ちょっと! ま、待ってよ二人共。 あ、駄目。もう……無理」
必死になって二人を追いかけたが、追い付けるわけもなく、僕は酷い息切れを起こしてしまい、地面に倒れ込んでしまっていた。
こんなところでもステータスの差を見せ付けられるようで少し嫌な気分になった。いやまあ二人がわざとやったとは思ってはいないが、それでも嫌なものは嫌なのだ。
僕が地面に突っ伏していると、僕の事を思い出したのか、慌てたように此方に駆け寄ってきた。
……よく見ると二人共全く汗をかいてなかった。 いや、まあいいんだけどね!?
僕が軟弱なのは今に始まったことじゃないし……。
止めよ。何か悲しくなってきた。
「酷いよ、二人とも! 一緒に運動しようって言ったのに、僕をおいてけぼりにするなんて!」
僕は二人に八つ当たり気味に言うと、二人は苦笑いを浮かべながら頭を下げてきた。
「いやすまんすまん、いつも以上に体が動いたもんじゃから、興奮してしまってお主のことを完全に忘れとったわ」
「あたしも悪かったよ。御免な?」
申し訳ないように頭を下げてきたのを見て、少しキツく当たり過ぎたかもしれないと思い、二人を許すことにした。
「いいよもう別に……。 それに元々僕が二人に付いていくこと自体……出来なかっただろうし」
僕がそう言うと、未だに申し訳なさそうな顔をしながらも、二人は顔を上げてくれた。
そもそもの話、いくら異世界に来て、僕の運動神経が以前よりかは良くなっていると言っても、僕より遥かにステータスが高い二人と同じスピードで走るなんて土台無理な話だったのだ。
その後僕たちは数十分程軽めの運動をした後、各自自分の割り当てられた部屋に戻り、着替えを済ませた後朝食を食べる為に食堂に向かった。
僕たちが和気合い合いと朝食を食べていると、不意に誰かの声が食堂に響いた。
「皆! すまないが、少し話を聞いて欲しい」
声がした方を振り向くとそこには甲冑を着込んだ男の人が立っていた。
「昨日会ったとは思うが、自己紹介をしていなかったな。 私の名前はラルク
この国の騎士団で、団長をしている者だ。
今日から昨日言った通り、訓練を始めて貰う。
だがその前に、これから君たちが行っていくことについての説明をしておこうと思う。
まず午前はこの世界の知識を学んでもらい、午後からはチームに別れて、訓練をしてもらう。
大きく分けるとこの二つになるが、何か質問があるものはいるか?」
団長さんがそう質問をすると、先生が手を挙げた。
「確か貴女は小鳥遊さん……だったかな? 何か質問が?」
団長さんが先生に声をかけると、
「はい、先ず一つ目が午前とおっしゃていましたが、どうやって時間の確認はどうするのですか?
それと二つ目がチームに別れて、とおっしゃていましたがチーム分けのほうはどのように決めるのでしょうか?」
先生が疑問に思ったことを次々と質問すると、団長さんは納得がいったような顔をした後、説明を始めた。
「ああ、成る程。
そういうことか、済まない説明不足だったようだな。
先ず一つ目の質問だが、この城では朝、昼、夜に一回ずつ鐘が鳴るようになっているので、それを基準に確認してもらう。
二つ目の方は、先ず各々の実力を確認したのち、こちらで出来るだけバランスがとれるようにしたいとしたいと思っている。
予めこいつとは組めない、若しくはこいつと一緒のチームがいいなどのことは言ってもらえれば、できる限り対応しよう。
他の質問は? 」
団長さんがそう答えると、先生は満足したように頷き、首を横に振った。
「いえ、他には特にありません。 有り難うございます」
先生に対して、団長さんも頷き返すと、話を再開した。
「では、これから各自一度部屋に戻ってもらった後、準備が出来次第使用人に呼びに行かせるからそれまで部屋で待機していてくれ。 連絡は以上だ」
団長さんが話終わると、中断していた朝食を再開し、朝食が終わると言われた通り各自、自分達の部屋に帰っていった。
ーーーーーーー
コンコン
僕が部屋でのんびりしていると、扉を叩く音が聞こえてきた。どうやら時間のようである。
扉が叩かれた数秒後、僕に声を掛けてきた。
「赤塚様。 準備が出来ましたのでお呼びに参りました」
使用人の人の言葉を聞き、直ぐに返事を返す。
女の人の声だったので、恐らくメイドさんだと思う。
「わかりました。ちょっと待っててください。すぐいきます」
僕はそう言って、椅子から立ち上がると扉を開けた。
するとそこには案の定メイド服に身を包んだ女の人が立っていた。
「それでは赤塚様こちらでございます」
扉を開けた僕の姿を確認したメイドさんは一度礼をすると、踵を返して歩き始めた。
メイドさんが歩き始めたので、僕はその後を追うような形で後ろを付いていった。
「あの……他の人たちは」
僕が恐る恐る質問すると、メイドさんは立ち止まること無く、歩きながら返事を返してくれた。
「他の方々でしたら、他の使用人がお出迎えにあがっております」
メイドさんは僕に返事をしながらも歩き続ける後を、僕は大人しくその後を付いていったのだった。
ーーーーーー
「着きました。 こちらのお部屋にございます」
数分程歩いていくと、行く手に扉が見え始め、扉の前まで着くと、此方に礼をしながらメイドさんが扉を開けてくれた。
メイドさんが開けたくれた扉を通って、部屋に入っていくと、そこには学校の教室の様に机や椅子などが置かれている光景が広がっていた。
遠くの方に目を凝らすと、既に大山くんがいて、此方に気づいたのか手を振ってきていた。
「お、勇気! こっちじゃこっち」
大山くんが声を掛けてきたので、折角ならと僕はそちらに向かって足を運んでいった。
「さっきぶりだね、大山くん。横座っていいかな?」
「おお、構わん構わん。 元々そのつもりで呼んだのじゃしな」
大山くんの下に辿り着いた僕は一応了承をとってから横にあった椅子に腰掛けた。
「何か朝から勉強って、学校みたいだね。 一体どんなことを教えてもらえるんだろう?」
黙っているのもあれなので僕がそう言うと、大山くんも同じように思っていたのか頷き返してきた。
「確かに言われてみるとその通りじゃな。 恐らくこの国の歴史や勇者や魔神などについてを教えるんじゃろうよ」
そんな感じで二人で話をしていると、後ろから不意に声を掛けられた。
大山くんと一緒に後ろを振り返るとそこには朝食の時に一緒にいた神崎さんが微笑みながら、立っていた
「よう。 なあ、あたしも一緒に座っていいか?」
「うん、勿論いいよ。 ね、大山くん?」
「勇気のいう通りじゃ、遠慮などするな」
僕達に確認を取るように聞いてきた神崎さんは僕と大山くんの言葉に嬉しそうに笑うと、僕達の近くの席に座った。
「朝から勉強とかめんどくせーなー」
「まあ、確かにめんどくさいけど、ここで色んな事を教えてもらわないと危ないと思うよ? 何が起こるか分からないんだし」
「いやまあ、そうだろうけどよ」
神崎さんの言葉に返事を返していると、
「それでは皆さん。 全員揃ったようですので、始めさせていただきます」
ローブを着た見た目40歳くらいの男の人が話始めた。
「先ず始めに自己紹介を。 私は今日から皆様の教師をさせていただく、宮廷魔導師のダルキアンと申します。
以後お見知りおきをお願いします」
ダルキアンがそう言いながら頭を下げた後、僕達に対する異世界についての授業が始まった。
長々としてしまって、すみません。
次回は説明回です。
まだまだ物語が進むには時間がかかると思いますが、出来るだけ早めにしていきたいと思います。