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仲間

散々遅くなってしまい本当に申し訳ありません!

少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

  「儂は魔人族・・・・・・そう呼ばれておる種族じゃ・・・・・・」


 僕が聞いた質問に対して答えたメルトの言葉を聞いたとき、僕に衝撃が走った。


「ね、ねぇ・・・・・・メルト。 今魔人族って言ったよね? 」

「そう言ったのだが・・・・・・。 お主どうしたのじゃ? 顔色がおかしいぞ? 」


 確認するようにメルトに聞き返すが、どうやら僕の聞き間違えでは、無いらしい。


「あ、あのさ、メルト・・・・・・実は・・・・・・」

「ねぇ、メルトさん。 そもそも魔人族って何なの? 僕聞いた事無いんだけど? 」


 僕がメルトにある事を告げようと意を決して口を開きかけた時、僕よりも先にフェルがメルトに質問をしてしまい、言い出すことが出来なかった。


「? 何じゃ、お主、知らんのか? と、そうかお主確か此処から出たことが無いんじゃったな。 」

「うん。 だから僕種族のこと言われても何も分からないんだ。 で? 結局魔人族ってどんな種族なの? 」


 フェルの発言に一度悲しそうな顔をしたメルトは、フェルの言葉に納得すると魔人族について嬉しそうに話し始めた。


「そうじゃのう。 まず初めに特徴として挙げられるものは、皆が皆強大な魔力を持っていることじゃな。 儂ら魔人族は八大種族の中でも、一番魔術師が多いからの。 」

「へー。あれ? でもメルトさんも魔人族なんでしょ? それだとおかしくない? 」

「何がじゃ? 」

「いやだって、メルトさんから殆ど魔力感じないんだけど・・・・・・」

「なに、ただ単に儂が特別魔力量が少ないだけじゃよ。 まあこれのせいで、色々と苦労したものじゃよ。 」

「ふーん、他には何か無いの?」

「他・・・・・・他か・・・・・・まあ後は比較的好戦的な奴が多い事かの。 喧嘩っぱやいと、とゆうか戦闘狂の様な奴が多いな。 」

「まあそれは、メルトさんを見てれば分かるよ。 」

「何!? お主それはどうゆう意味じゃ!! 」

「わ!? ちょっと!? 危ないじゃないか!! 武器振り回さないでよ!? そうゆう所が喧嘩っぱやいって言ってるんだよ!! 」


 僕の横でフェルとメルトが戯れ合っているが、今の僕にはそれに反応している余裕は無かった。

 武器を振り回していたように見えたけど、きっと気のせいだろう。

 楽しそうに笑っているメルトを見ていると、どうしてもあのことを言うのが躊躇われてしまう。

 僕がうんうん言いながら、言うべきか言わないべきか悩んでいると、そこにアレスが近寄ってきた。


「あの、勇気様。 大丈夫ですか? 」

「アレス・・・・・・ごめんね心配かけて、今の僕そんなに酷い顔してる? 」


 僕の事を心配そうに見つめているアレスに、笑い掛けようとしたがどうにも上手く笑う事が出来なかった。


「いえ、それはいいのですが・・・・・・。 あの・・・・・・勇気様、悩んでいる事ってメルトさんについてですか? 」

「うん。 僕そんなに顔に出てた? 」

「はい、恐らくメルトさんも気付いてます。 」


 どうやら僕は隠し事が出来ない質らしい。

 ふぅと一息ついてから、僕はアレスに悩んでいることについて打ち明けることにした。


「ねえ、アレス。 さっきメルトが何て言ったのか覚えてる? 」

「え、ええ。覚えていますが・・・・・・」


 アレスは僕がいきなり言い出したことの意味が分からないのか、頭に疑問符を浮かべている様だった。

 それはそうだ、さっき迄の会話を聞いていたなら、誰でも分かる事だ。

 僕もいきなりこんな事を聞かれたら、疑問に思うどころか、下手したら大丈夫かと心配してしまうだろう。

 案の定アレスも僕の事をそんな感じで見ているようだし・・・・・・


「いやさ、さっきメルトは魔人族は八大種族で最も多くの魔力量を持っている種族だって言ってたよね? 」

「はい、確かにそう言っていましたね。 それが何か? 」


 やはりアレスは僕が何を言いたいのかがよく分からない様だった。

 まあ流石にたったこれだけの会話で察しろというのはどだい無理な話なのだが・・・・・・


「あ、あの・・・・・・勇気様? 」


 数秒程口を閉ざしてしまっていた僕に再度アレスが声を掛けてきた。

 これ以上黙っている訳にもいかず、もう一度息を吐いてから言葉を続けた。


「いやね? さっきのメルトの話と僕の持ってる知識だと決定的な違いがあるんだよ。 」

「違い……ですか? 」

「そう。 まず僕が知ってる限りだと、この世界は八大種族じゃなくて、七大種族(・・・・)の筈なんだよ。 それに魔人族は数百年前に滅ぼされた(・・・・・)って事になってるんだ。しかも人間族の手によって……。 」

「え? 」


 僕の話を聞いたアレスは信じられないといった顔をしていた。

 正直僕自身も理解出来ていると言ったら嘘になってしまう。

 しかしこれは紛れもない事実だった。少なくとも僕が知る限りではあるが……


「勇気様。 それは本当なんですか? 」

「少なくとも僕はそう教わったよ? 昔魔人族と戦争があって、その時に滅ぼされたって言われてる。 」

「そんなことって……。 じゃ、じゃあメルトさんの家族は……。 」


 アレスの質問に僕は首を横に振る事しか出来なかった。

 仮に戦争で生き残っていたとしても、戦争自体が数百年前の出来事なのだ。

 魔人族の寿命がどのくらいかは分からないが、少なくともメルトの知人に限ってしまえば、あまり多くは生きていないだろう。

 アレスも僕の言いたいことを理解しているのか顔を俯かせてしまった。

 しかしホントにどう切り出せばいいんだろう……。ちらっとメルトの方を見てみると、メルトが笑いながら三節棍を振り回していて、フェルが必死に避けるという光景が広がっていた。

 ……ホントにどうしよ? 僕が考えを再開しようとすると、フェルが半泣きになりながら駆け寄ってきた。


「ちょっとお兄さん!? 何で助けてくれないのさ!? さっきこっち見てたよね!? 」

「いや、楽しそうにしてたから……。 」

「何処をどう見たら楽しそうに見えるの!? 何処をどう見ても、僕の命の危機だったよね!? 」


 僕の返答に心外だとばかりにフェルが地団駄を踏みながら、拗ねてしまったのをアレスが必死に宥めていると、少し遅れて荒い息を吐きながらも、何処か満足気な顔をしたメルトが近づいてきた。

 よく見ると目が血走っていて正直怖かった。


「ふはは、実に楽しかった。 そうじゃろ、フェルよ? 」

「何処が楽しいんだよ!! 僕全然楽しくなかったよ!! 」

「まあそうゆうな。 そうじゃ! もう一度やれば楽しいと思えるかもしれんぞ? フェルよ、又やろうではないか!! 」

「絶対ヤダ!!! 」


 あのいつもニコニコしているフェルが本気で威嚇しながら、メルトの頼みを全力で拒否していた。よっぽど怖かったんだろうな~。 何かフェルを見ていると可哀想になってきた。


「ねぇ、フェル。 」

「ん? 何お兄さ…… ふひゃあ!? 」


 僕の声に反応してこっちを向いたフェルの頭に不意打ち気味に手を置くと、そのままフェルの頭を撫でた。

 最初は何をされているのか分からなかったのか、それともいきなりでびっくりしたのか呆然としていたが、やがて嬉しそうに目を細めて、尻尾を右へ、左へと動かしながら擦り寄ってきた。

 多分これで機嫌も治るはずだと、フェルのふわふわの耳とかを撫で回していると、フェルの横でアレスが物欲しそうな目で此方を見つめてきていた。

 流石にそんな目を向けられて、無視する訳にもいかず、余っている方の手でアレスの頭を撫でてあげた。フェルとは違いふわふわとしてないが、さらさらとしておりとても撫で心地が良かった。


「ん、んぅ。 」


 アレスは初めは恥ずかしそうに頬を染めていたが、次第に気持ち良さそうにふにゃっとしていったと思ったら、時折アレスは艶めかしい声を出して、身を捩らせていた。その光景を見ていて、何かいけないことをしているように思えてしまい、アレスから視線を外すと、僕達の事を生温かい目をしながら、ニヤニヤとした笑みを浮かべて此方を眺めていたメルトと目があった。

 何か無性に恥ずかしくなってきた僕は、アレスとフェルの二人の頭の上から手を引っ込めた。


「「あ……。 」」


 僕が二人の頭から手を退けると、二人は残念そうな声を出したが、僕の視線の先にいるメルトに気づいたのか、顔を真っ赤にして、俯いてしまった。

 僕も二人同様顔が熱くなっていくのを感じていると、メルトが少し残念そうな顔をしながら、近付いてきた。


「なんじゃ。 もう終わりか? 気にせずに続ければいいものを……。 」

「い、いや。もういいよ。 」

「そうか。 つまらんな…。 」


 メルトが溜め息をつきながら、ホントに残念そうにそんなことを言ってきた。それに何も言い返せずに、僕が黙っていると何故かメルトもそれ以上何も言わず、口を閉ざしてしまっていた。

 僕が不思議に思って、メルトの方を見てみると、メルトはただじっと僕の事を見つめていて、視線を一度も外すことなく話しかけようという素振りを全く見せなくなってしまった。

 何だろう…、数秒程視線を交わせていると、何となくだがメルトが何を待っているのかが、分かったような……、そんな不思議な感覚が僕を襲ったように感じた。

 お互いに何も言わずに、黙っているという、無言の圧力に耐えられなくなった僕は覚悟を決めることにした。


(どのみち無事外に出れたら、何時かは分かるんだ。 それが遅いか、早いか…、違いはそれだけ……、なら! )


「あ、あのさ……メルト。 」

「……何じゃ? 」

「その……魔人族についてなんだけど……。 」


 どうしてだろう……。たった一言……、たった一言言うだけなのに、無性に喉が渇く。心臓の鼓動も早くなってきて五月蝿いし、それに加えて胸が締め付けられるように痛くなってきた。

 必死に声を出そうとするが、上手く声が出せない。出せたと思ったら、掠れてしまっていて言葉になっていなかった。


「どうしたんじゃ勇気。 顔色が悪いぞ? 魔人族が……一体何じゃ? 」


 メルトが催促するように声を掛けてくるが、それにすら返事をすることが出来なかった。

 必死になって声を絞り出そうとしていると、何時の間にか冷え切ってしまっていた手の平を、不意に暖かい物が包み込んだ。

 それに触れていると、不思議と安心できて、徐々にだが冷え切っていた体を温めてくれていた。

 手の平に感じるものが何なのか確認するために、視線を向けると、心配そうな顔をしたアレスが僕の手を握りしめていた。

 僕の視線に気付いたらしいアレスは何も言わずに、頷いた後、先程よりも強く僕の手を握り締めた。

 そんなアレスに苦笑しながら、少し乱暴に頭を撫でてから、僕はもう一度メルトに向き直った。

 大丈夫……。 心の中で呟いた後……


「あのね、メルト。 魔人族は……、もういないんだよ。 」


 僕はやっとメルトにその言葉を告げることが出来た。一度口にすると、先程の緊張など嘘の様に消え去ってしまい、何時の間にか動悸も収まっていた。

 僕の言葉を聞いたメルトは一瞬悲しげな顔をした後、何故か僕に微笑んだ。


「そうか……。 スマンのう勇気。 儂に伝えるのは辛かったじゃろ? 」

「確かに辛かったよ……、でもメルトの方がもっと辛いでしょ? 」

「そりゃあ、辛くないと言ったら嘘になるが……。 何故かのうそれ以上に何処か安心感を感じてしまっておるのじゃよ。 」

「どうして? 」


 僕はメルトが何故そんなことを言うのか分からず、反射的に聞き返してしまっていた。


「どうして……か。 勇気には未だ伝えておらんかったが、実は儂は一度死んでおる。 」

「え? 」

「まあ、普通は驚くじゃろうな。 まあ察しとると思うが、儂は元々スライムではない。 人からスライムになった存在じゃ。 人であった時は冒険者をしておっての、 当時はそこそこ知名度もあったし、実力も認められておった。 」

「じゃあ、何でメルトは死んじゃったの? 強かったんだよね? 」

「まあ、簡単に言えば油断じゃな。 自分は誰にも負けんと、いきがっておった。 結果儂は無茶な依頼を受けて、死んでしまったのじゃがな。 」


 メルトはその時の事を思い出しているのか、少しだけ遠い目をした後、話を再開した。


「致命的な傷を負って、死を待つばかりだった儂の所にレキ・アリサと名乗る奴が近づいてきたのじゃよ。 」

「レキ……アリサ? 」

「何じゃ勇気、知っておるのか? 」

「いや、知らないはず……。 」


 その名前を聞いて、ある人達の事が頭を過ぎったが、関係ないはず……、とゆうか関係があるはずがない・・・・・・・・・・

 僕は頭の中に生まれた可能性を無理やり振り払うと、話を促すべく、此方を不思議そうな顔で見ているメルトに声を掛ける。


「気にしなくていいよ。 ただの思い過ごしだから。 」

「むぅ、まあ勇気がそう言うなら仕方がないのぅ。 」


 メルトは僕の返答に納得してないようだが、それ以上は何も聞かずに、渋々ではあるようだが又語り始めた。


「それでじゃな、そいつは儂に近づくとこう言ったのじゃよ。『僕のお願いを聞いてくれるなら、記憶を保ったまま生き返らせてあげるけど、どうする? 』とな。 無論死にたくなかった儂は直ぐに了承した。 儂の返答を聞いて嬉しそうに笑ったそいつはいきなり手を伸ばして儂の体に触れてきおった。 そして何かを呟いたかと思ったら、急に辺りが真っ白になっての、気付いたらスライムになっていたということじゃ。 」

「何者なのそいつ。 死んだ人を生き返らせるなんて普通ありえないよ。 」


 僕がそう言うと、メルトが呆れた顔で溜め息を吐いていた。


「つい先程、似た様な事をした奴が何を言っとるんじゃか……。 」

「似た様な事? 何言って……、あっ!? 」


 そう言えばそうだった。人と魔物の違いがあるけど、言われてみれば僕がやってた事はその人がやった事と本質的には何も変わらなかった。

 僕も倒した魔物……つまりは死んだ存在・・・・・を僕の配下として、生まれ変わらせている。

 てことはその人は僕の[覚醒]と似た様な力を持ってるってことか……。


「やっと分かったか。 まあいい、話を続けるぞ? 儂を生き返らせた後、そいつは 『そう遠くない未来にユウキ・アカツカと名乗る少年が君の下にやってくる筈だ。 で、その少年が現れたら、サシで勝負してあげて欲しいんだ。 あ、それとその子が現れるまでは、僕が指定した場所にいてね? 僕のお願いはこれだけ。 勿論少しだったら力も貸してあげる。 どう? 簡単でしょ? 』と、まるで儂を馬鹿にするように言ってきたのじゃよ。 それにイラついた儂は直ぐ様『任せろ!! 』と言ってしまっての、それ以来ずっとここにおるのじゃよ。 」


(どうゆうことだ? そいつは僕がこの世界に来ることが分かってたのか? でもどうやって……。 )


 僕が考えを巡らせていると、そんな僕にはお構いなしにメルトが再開したので、仕方なくそちらに耳を傾けた。


「それからは大変じゃったよ。 どれだけ待ってもお主は来ぬし。 それに加えてここじゃと外の事が一切分からんからのぉ。 毎日色々な事が気になってしまって仕方がなかった。あれからどれだけの時間が過ぎた? 外はどうなっておる? 他の奴らは今頃何をしとる? 何時までここで待ち続ければいい? そもそもホントに来るのか? あいつは嘘を言っていただけではないのか? などの事を毎日の様に考えておった。

 そんな事ばかり考え続けておるとの、次第に自分が可笑しくなっていく様に感じたのじゃよ。 このままでは出会う前に壊れてしまう……! そう考えた儂は借りていた力を使って、お主らが戦ったオークキングとオーガキングを生み出した後に、眠りにつくことにしたのじゃ。 勇気、お主が現れるその時までな。 だからのう、勇気。 儂は今嬉しいんじゃよ……。 永遠に来ないと思っていた待ち人が来たと思ったら、もう知る事等出来ないと思っていた同胞達についても知れた。 例えそれが仲間たちの訃報であったとしてもな……。 」


 メルトは終始嬉しそうに笑いながら話をしていたが、不意にメルトの眼から涙がこぼれ始めた。


「メルト……。 」

「おっと、すまんな。 ふはは、年は取りたくないのぅ……。 涙腺が緩くなっとる様じゃ。 」


 メルトは僕に申し訳なさそうな顔をしながら、涙を拭おうとするが涙は止まるどころか勢いを増していった。

 必死になって涙を拭いながら、メルトはずっと申し訳なさそうにしている。

 そんなメルトを見ていると徐々に罪悪感のような、後悔のようなものが胸の内に込み上げてきた。


(何で……。 何で何も言わないんだよ。 )


「メルト……。 ごめん。 」

「ん? 何故お主が謝る? 」

「だって……。 僕に出会わなければ、メルトは泣かなくて済んだんでしょ? 悲しい思いをしなくて済んだんでしょ? 」

(そうだ。 僕さえいなければ、メルトは悲しまずに済んだんだ。 )


 不意に僕の口からそんな言葉が漏れた。 


「メルトはずっと、目覚めることなく何も知らずに辛い思いも、苦しい思いも、悲しい思いも、嫌な思いも、何も……何も感じずにいれたんでしょ!! 」

「勇気……。 」


 何時しか僕はまるで何かを認めたくないかのように、叫び始めていた。 


(そうだ、その通りだ。 メルトを悲しませたのは僕だ。 メルトに見たくもない現実を突きつけたのも僕だ。 )


「辛い現実なんて、目を逸らしたくなる現実なんて……そんなの知らない方がいいに決まってる!! 」

「勇気。 」


(そうだ。 僕は何て馬鹿なんだ。 僕は今までそうやって生きてきていたのに、何で忘れてたんだ。 嫌な事も、辛い事も、苦しい事も全部僕には関係ないって目を背けてきていたじゃないか。 )


「僕は何なんだよ! 自分の事を棚に上げて、いっちょ前に悩んだりして、結果的に知りたくもない現実突きつけて! 」


(何がどうすれば悲しい思いをさせずに伝えられるかだ。 出来てないじゃないか! )


「元々僕には無理だったんだ! 自分の問題も自力で解決出来ない人間が悩んだ所で他の人が悲しまずに円満に済む方法を考えつくなんて出来るわけなかったんだ!! 」

「勇気! 」


(結局僕は何も出来ないんだ。 どんな力を手に入れたって、根本的なものは何一つ変わってないんだ。 異世界にいようが、元の世界にいようが僕は弱いままなんだ。 )


「僕なんて……、僕なんていない方が……」

「勇気!!! 」


 僕が言い終わる前に、僕の体に強い衝撃が走った。


「メル……ト? 」


 気付けば僕に体はメルトによって抱きしめられていた。アレスやフェルとは違って体は固く、ゴツゴツしていたが不思議と不快には感じなかった。


「勇気、すまんかったな。 」

「? どうして、メルトが謝るの? 悪いのは僕だよ? 」

「お主が悪いなんて事があるか。 悪いのは儂だ。 」

「違う、そんなわけないよ。 悪いのはメルトに悲しい思いをさせた僕だ。 僕が全部悪いんだ。 僕が弱いから、強くないから、何も出来ないから、メルトに悲しい思いをさせたんだ。 」

「違う。 それは儂が弱かったからだ。 お主には何の責任もない。 そもそも何故お主の性になる? この結果は儂の選択の結果だ。 お主が気にすることではなかろう? 」

「だって、僕がいなかったら、メルトはこんな所にずっといる必要なかったんだよ? ずっと何も分からずに苦しむこともなかったんだよ? 」

「確かにその通りじゃな。 」

「だったら…… 」


 メルトは僕が言い終わる前に、体を離すと、僕の肩を掴んでじっと僕の目を見ながら、口を開いた。


「じゃが、お主がいなかったら、儂は生き返る事が出来んかった・・・・・・。 お主は儂を救ってくれたのじゃよ。 じゃからもう泣くでない。 」

「え? 」


 メルトに言われて初めて、僕の眼から涙がこぼれていた事に気がついた。

 無意識のうちに僕は大量の涙を流していたようだ。

 必死になって拭っても、後から後から涙が溢れてきて、一向に収まる気配が無かった。一心不乱に拭っていると、メルトがいきなり頭に手を置いたかと思ったら、そのまま僕の頭を撫で始めた。


「勇気よ。 確かにお主は強くは無いかもしれん。 だがな、お主は他人の痛みを自分のことのように考えることのできる優しい人間じゃ。 少なくとも儂らはお主にいなくなって欲しいなどとは思わんぞ? そこにおる二人は知らんがの。 」


 メルトが突然僕の背後に向かって声を掛けたので、そちらを振り返ってみると、アレスとフェルが此方に近付いてきていた。


 アレスがフェルより前に出てきたかと思ったら、そのまま僕に近づいてきて、僕の手を握ってきた。


「勇気様。 貴方は私にとって大切な主であると同時に守るべき存在でもあります。 ですから、私をずっと勇気様の御側にいさせてください。 」

「アレス……。 」


「そうだよ、お兄さん! 」

「うわっ!! 」


 アレスに口を開こうとしたら、フェルがいきなり僕の胸の中に飛び込んできたせいで、タイミングを逃してしまった。

 フェルはそのまま頭をグリグリと押し付けてきたかと思ったら、胸から顔をあげて花が咲くような笑顔を浮かべた。


「お姉ちゃんの言う通りだよ、お兄さん!! 僕達にとって、お兄さんはいなくちゃ駄目な存在なんだから、勝手にいなくなろうとしちゃ駄目! 此れからも僕達はずーっと一緒にいるんだから、ねっ? 」

「フェル……。 」


 二人の言葉に反応してしまい、又しても涙が溢れてきて、前がよく見えなくなってしまった。

 そんな状態になりながらも、僕は確認をするように三人に向かって質問をした。


「ねぇ、三人にとって僕って必要な存在かな? 」


 僕がした質問に、三人は一度お互いを見たかと思うと、僕の方に向き直り笑顔を浮かべた。


「「「勿論(です。 )(だよ。 )(じゃ。 ) 」」」


 三人の返答を聞いて、止まってたはずの涙がまた流れはじめて、僕はそれを見られまいと下を向いた。

 俯いているとアレスが後ろから、フェルが前から優しく抱き締めてくれて、メルトはさっきみたいに僕の頭に手を置いた。


「勇気よ。 お主が弱くても儂らは別に構わん。 お主に無いなら、儂らが補えばいいだけじゃ。 儂らは……仲間なのだからな……。 」


「うん、ありがと。 皆、そうするよ。 此れからも宜しくね? 」


 この時僕は初めて、メルトやアレス、それにフェルに嫉妬をしていたのだと分かった。

 三人は僕なんかより全然強かったから、僕なんか必要ないと思ってしまったのだと思う。

 元の世界では、何時も誰かに守られたり、助けられたり、庇ってもらっていた。

 僕はそれがホントは嫌だったんだ。

 だから、嫌な現実から逃げずに受け止めようとしたメルトに憧れると同時にまるで逃げてばかりいる僕に当て付けられたように感じて八つ当たりをしてしまっていたのだろう。

 でも皆僕のことを下になんて見てなかったんだ。

 ずっと……対等な仲間だと……そう思ってくれていたんだ。

 ただの僕の早とちり、思い込みだったんだ。

 ……何かそう考えると僕は馬鹿だな。

 皆が僕を下に見ていると勝手に思い込んで、挙げ句に暴走してこれじゃあ、劣等感の塊みたいだ。

 こっちに来ても、結局僕は弱いままで、全然成長なんて出来ていなかった。

 このまま、弱いままなのは嫌だし、逃げるのも嫌なのは変わらないし、変えたくもない。


 でも……僕の質問に力強く頷いてくれた三人を見てるとそんな自分でもいいかもしれない……不思議とこの時はそう思えた。

















次回の投稿は恐らく来週の日曜日になるかと思います。

次は遅れないように頑張りたいと思います。

それでは皆様ご意見、ご感想などお待ちしております。

誤字、脱字などありましたら仰有っていただけたらありがたいです。

ではまた次回でお会いしましょう。

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