戦闘と本気
今回は2話連続で更新します。
面白いと思ってもらえたら嬉しいです。
「「勝負!!」」
その掛け声と共に 二人の戦いが幕を開ける。
最初に仕掛けてきたのはメルトだった。
彼が一直線に突撃しようとするのを確認し、それを掌を使って受け流そうとした。
しかし、一瞬或いは刹那の瞬間身体を嫌な予感が過り、僕は咄嗟に掌ではなく、籠手でメルトの拳を弾く。
攻撃を受け止められたメルトは悔しがるどころか、嬉しそうに笑みを浮かべ後ろに跳んで僕から距離を取りると、また先程と同じ構えを取った。
僕もそれに見て構えようとしたが、不意に籠手からジュッォオオーという物が溶けるような音が聞こえてきた。
何が起きているのかと、確認のために籠手を見ると少しずつではあるが、籠手の表面が溶けていっているのが分かった。
幸いなことに触れた時間が短かったからなのか、直ぐに侵食は止まり、籠手の自動修復で元には戻ったが。
「防がれてしまったか。並みの冒険者なら今の一撃で死んでおったぞ?」
「そうなんだ。まぐれでも防げてよかったよ。まだ死にたくないしね。」
僕は自嘲気味に笑いながら、肩をすくめた。
実際先程防げたのは完全なる偶然であり、恐らく同じことをやれと言われても出来ないだろう。
「ふ、まぐれか…まぐれでも防ぐのすら普通は出来ないのだがな。」
メルトはそんなことを呟きながら、又此方に向かって一直線に走ってきた。
「ぬぅおりゃー!!」
メルトは掛け声と共に、突きを僕に放ってきた。
素手で触るわけにはいかないので、それをさっきと同じように籠手を当てて弾くと、僕はカウンター気味にメルトの胴体に掌底を叩き込もうとする。
メルトはいち早くそれに気付くと、蹴りを僕の腕に向かって放ち、軌道を反らす。
そのまま詰め寄りながら、僕は籠手を使って、メルトは手や足などを使い、お互いの攻撃を次々と防いでいった。
「いたっ!うわ!何これ!」
何回かの攻防の後、お互いに後ろに飛び諏佐ると、僕は自分の手を見て驚愕の声を上げた。
メルトとの攻防の影響だろう。
掌は所々爛れてしまっており、真っ赤に染まっていた。
それを見た僕は瞬時に天空魔法を使って、傷口を塞ぐ。
「ふむ、お主。回復魔法も使えるのか…なかなか優秀ではないか。だが、いいのか?このままではお主は一生儂に勝てんぞ?儂は体力という概念が存在せんからな?」
「え、そうなの!?」
メルトの思わぬ言葉に僕は戦闘中にも関わらず、動揺してしまった。
「それはそうじゃろう。何度も言うが儂は元々スライムじゃ。液体生物であるスライムにそんな概念あるわけなかろう?」
それを聞いて自分がどれだけ理不尽な闘いをしているのかを再認識した。
メルトに限界が無いとしても此方は普通の人間だ。
確かにレベルの向上や、ステータスのお陰で前よりは持つだろうが何れは限界が来てしまう。
それに加えて魔力も底を尽いてしまったら、回復も出来ず一方的にやられるだけになってしまう。
(ヤバイよ。どうしよう、此方の攻撃は効かないのに…ん?いや、ちょっと待てよ?確かあのとき…)
僕があることを思いだし、攻略の糸口に気付きかけたその時、痺れを切らしたメルトが此方に攻撃を放とうと動き出す。
「そちらが来ぬなら、此方から行くぞ!」
これにより勇気の考えが纏まらないまま、メルトとの戦いが再開してしまう。
メルトが先程のように又正面から突撃しようするのを、勇気が手を使って受け流そうとするが、不意にその姿が消え失せてしまう。
突如として消え失せたメルトに勇気は戸惑いを隠せず辺りを見回していると、背中に衝撃が走り、壁まで吹き飛ばされそうになってしまう。
咄嗟に手を着き、体制を立て直そうとするがメルトがそれを許さない。
そのままメルトは勢いを殺そうとしている勇気に駆け寄り、腹部に向かって強烈な蹴りを叩き込む。
「ぐぅえ!!」
勇気はいきなり加えられた一撃に苦悶の声を上げながら、壁に向かって一直線に吹き飛び、威力を殺すことも出来ずに、壁へ叩き付けられてしまう。
勇気が壁に打ち付けられて、顔をしかめながらも、反撃しようとするが、メルトは攻撃の手を緩めず、更に追い討ちを掛けようとする。
「くそっ!!させるか![我が眼前にいる敵からその頑強なる壁をもって我が身を守れ!]アースウォール!」
それを間一髪のところで勇気は魔法によってメルトを取り囲むように壁を作り出し、阻止することに成功し、安堵の息を漏らしていると。
「勇気よ。こんなもんが儂に通じると思ったのか?」
壁の中にいるはずのメルトから自信たっぷりの声が聞こえることに、疑問を感じていると、べちゃっ!という音と共に、壁の中から何かが這い出てきてそのまま地面に落ちた。
その正体を瞬時に察した勇気はしまったと思いながら、それが元に戻るのを阻止することも出来ず、見守るしかなかった。
攻撃を加えようとも考えはしたが、液体状の時に攻撃が通じるとも思えず黙っているしかない歯痒かさに奥歯を噛み締める。
数秒すると液体は先程まで闘っていたメルトの姿に戻った。
見るたびにあの状態から何故今の姿なるのか、理解出来ず、疑問だけが頭に残った。
「ねぇ、何でメルトがスライム状からそんな姿になるのか聞いてもいい?」
「断らせてもらおうか。どうしても聞きたいなら、儂を倒せれば教えてやろう!」
言い終わるとと同時に、メルトが再度勇気に向かって駆け出し、拳を握ると勇気を吹き飛ばさんと襲い掛かる。
勇気はどう倒そうか考えながら、その攻撃を籠手を使って弾く。
メルトはそれを分かっていたかのように、特に気にすることもなく続けざまに回し蹴りを放つ。
勇気は上体を反らすことでそれを避けると、メルトに衝撃弾を撃ち込もうと腕を構える。
音もなく、そして形もなく打ち出された弾は一直線にメルトに向かったが、どうやったのかメルトは華麗にそれを避けてしまう。
その体勢のまま、メルトは突如虚空に向けて腕を振るう。
その行動の意図を把握出来ずに立ち尽くしてしまった勇気の横を何かが通りすぎていき、そのまま壁に着弾する。
勇気は警戒心を解くことなく、壁を確認すると、そこには拳大の穴が開いており、その周りをジュゥワァという音を発てながら溶かしているのが目に入る。
それを見た勇気は、メルトが何をしたのかを察することが出来た。
恐らくだがメルトは勇気が弾丸を放ったのを避けた後、お返しとばかりに自分の肉体の一部を弾状にして此方に放ったのだろう。
その事に行き着いた勇気は直撃したときの事を考えてしまい少しばかり顔が青ざめてしまう。
それを見たメルトがしてやったりという顔をして不敵に笑う。
「くくく、どうだ?驚いてもらえたかの?」
「ええ、今まで感じたことがないほどに…」
「クハハハ!そうかそうか、それならば行幸だ。」
僕の答えが予想通りだったのだろう。
メルトは戦闘中だというのに、悪戯が成功した子供のように酷く嬉しそうに笑い声を上げる。
「それにしてもお主。運がいいのう。当たったと思ったのじゃがな。」
メルトは一頻り笑った後、未だに笑みを絶やすことなく此方に話し掛けてくる。
その行動に今が戦闘中であることを勇気は忘れそうになってしまうが、どうにか自分を律する。
「偶然ですよ、偶然。あんなの意識して避けるとか無理ですよ。」
「そうか…ところでお主。これが本気か?久方ぶりに本気が出せると思ったのじゃがな。これでは些か拍子抜けなのだが…」
メルトの言葉を聞いて勇気の中に迷いが生まれた。
確かにメルトの言う通り、勇気は未だに全力を出していない。
いな、より正確に言うなら全力を出しても自分が平気なのか確証が持てないのである。
勇気には現在意識的に使用を控えている魔法がある。
それは自分が最も得意であると判定された雷魔法だ。
これの次に得意とされる火魔法でさえ、全力で使えば辺り一体を焦土としてしまう可能性があるのだ。
二番目でこれなら、一番目ではどうなるか検討もつかず勇気はその恐怖から使用できずにいたのだ。
しかし、このままではメルトに負けてしまう。
雷以外の全属性を駆使すれば、或いは勝てるかもしれないが、勝算は限りなく小さいだろうという結論が勇気の頭の中に生まれた。
だが躊躇していてもしょうがないと、勇気は覚悟を決めた。
「分かったよ。メルト。僕も覚悟を決めるよ。今から僕が使える最強の魔法を駆使して、貴方を倒してみせる!」
「ふむ、よかろう。お前の覚悟確かに受け取った。ならばこちらもそれに答えようではないか!」
メルトは僕の目を真っ直ぐ見つめると、満足そうに頷き、手を虚空に突き出す。
「出でよ!」
メルトの叫びに呼応するように、大気が震えると、空間に亀裂が走り、そこから現れた何かをメルトは掴み取った。
それをメルトは両手で手で持つと、此方に穂先に突き付けるように構えた。
それは一見すると只の薙刀のようだった。
飾りっけなど全く無く、装飾も何もされていない何の変哲もない武器のように見えた。
しかし、勇気の目には無骨といってもいいその武器がとてもつない脅威を秘めているように感じた。
「ほう…お主。これの価値が分かるようだな。ほんとに大したやつじゃのう。大概のやつがこれを見ると侮るというのに警戒心を高めるとは。」
「僕としては何で侮れるのか疑問しか湧かないんだけど…」
軽口ともとれる言葉を交わしながら、勇気は圧倒的なプレッシャーに負けまいと必死に耐える。
「さあ、こちらの準備は出来たぞ?」
メルトは言外に次はそちらの番だという目線を送ってきた。
その視線を受けた勇気は頷き、今まで一度も使うことをしなかった魔法の詠唱を始める。
「[我に宿りし雷よ。今こそその力を解放せよ。]」
勇気が唱えようとしているのは、此方の世界に来てから勇気が編み出したオリジナルの魔法。
詠唱が紡がれる度に、勇気の体から雷が迸り、地面を抉る。
「[その力は大地を穿ち、我が敵を討ち滅ぼす力なり。]」
それは勇気以外には使うことも、制御することも出来ない禁忌といっても過言ではない一人の人間が持つには余りにも強大すぎる力。
「[今こそその力を以て我が身を雷と化し、全てを貫き、翻弄する神にも等しき力を我に与えよ!]」
開発した時、その場にいたエリアや土御門から緊急時以外は絶対に使うなときつく言い付けられた勇気にとっての最強の魔法。
未だ覚醒してなかった当時でさえ、危険と判断されたその力を今の状態で使えばどうなるかなど勇気には到底理解することなど出来る筈もない。
そして最後の詠唱が終わり、魔法が完成する。
その禁忌ともいわれた魔法の名は…
「神化魔法!雷神〈カンナカムイ〉!!」
勇気の詠唱の終わりと同時に落雷のような轟音が鳴り響き、空間を閃光が覆い尽くす。
その余りの光量にその場にいた全員が思わず目を閉じる。
閃光が収まり、各自が目を開くと、そこには全身から紫色の電流を迸らせる勇気の姿があった…
それでは2話目もお楽しみください。




