不思議な出会いと決め台詞
「よし!行くぞ!」
僕が叫び声を上げ、他の二人がそれに追従する形で突貫しようとするが、それはいきなり聞こえた声によって阻まれてしまった。
「ふむ、お主ら。話は終わったのか?」
突如として爆音と言っても差し支えないような大声が辺りに響き渡った。
今の声はフェルでもアレスでもましてや僕でもない。
とゆうことは必然的に可能性は一つに絞られる。
僕は警戒を緩めることなく、視線を上に向け、声を発したであろう存在に話し掛けた。
そう今自分達を見下ろしている存在であろうスライムに。
「あの、もしかして今の声君?」
「いかにもその通りだ。挑戦者よ。」
僕が確認のために問いかけると、それを肯定するように、頷きながら声を発した。
「えっと、君喋れたの?」
僕は考えられる当たり前の事を口にした。
このスライムは先程まで全く喋る素振りなど見せず、只叫び声を上げていただけだったのだ。
そんな存在が喋り始めたのだから、何か壮大な理由があるのだろうとそう考えた。
「いやなに、ずっと眠っておったからな。身体も本調子ではなく、半ば寝惚けておったのだ。それが先程完全に目覚めただけだ。」
スライムから出ているとは思えない渋い声を出しながら、予想の斜め上の返答がスライムから返ってきた。
僕がその姿に呆れていると、隣から小言のようなものが聞こえてきており、そちらに視線を向けると、
「じゃ、じゃあ僕。寝惚けてたやつにやられて、落ち込んでたの?ハハ…何それ…」
フェルが先程までの事を思い出したのか、酷く虚ろな目をしながら、項垂れていた。
その姿に大丈夫だろうか?と心配にはなるが、まあ大丈夫だろうと、自分を納得させ、会話を再開させた。
「それで?話し掛けてきたってことは、何か僕達に言いたいことがあるんでしょ?」
「いや?特に無いな。強いてあげるなら格好いい名乗りを上げてから始めたいぐらいだな。」
このスライムはいちいち此方の予想外の事を言わないと気が済まないのか…と、若干赤く染まった頬を気付いてないように振る舞いながら思った。
断じて確信を持って言ったのに、外れてしまい、それが恥ずかしくて頬を染めているわけではない。
無いったら、無いのだ。
「何だよそれ、分かったよ。ほらフェル!何時まで落ち込んでんの!さっさと名乗りを上げてあいつ倒すよ!」
半ばやけくそ気味になりながら、未だに回復していないフェルの背中を叩いて、フェルを正気に戻した。
「嘘だ…て、イタッ!?な、なに!?」
「フェル?僕の言ったこと聞いてた?」
「な、何?何でお兄さん、若干怒ってるの!?」
「いやだからさ、僕の言ったことちゃんと聞いてた?」
未だに状況を理解できていないフェルにもう一度聞き直した。
少し苛立ちながら言ったせいか、フェルは怯えてしまい、上手く話せない状態になってしまっていた。
「えっと、その…」
「フェル?ちゃんと聞いてなくては駄目ですよ?いいですか、あのスライムが名乗りを挙げろと言ったので、さっさと言ってあのスライムを倒すぞと勇気様は仰ったんです。」
フェルがしどろもどろになっていると、見かねたアレスが助け船を出していた。
「そ、そうそれ!名乗りだよね!?うん!大丈夫!ちゃんと聞いてたよ。」
「はあ~、まあいいや。それじゃ行くよ?」
二人がしっかりと頷くのを確認して、視線を元の方向に戻した。
「ん?話し合いは終わったのか?」
「ええ、すいません。待ってもらって。」
「問題ない。パーティーとは得てしてそうなるものだからな。」
そう言うと、スライムは何処か遠い昔を思い出すかのように、虚空を見つめていた。
まあ、正直大きすぎて、目はよく見えないし、スライムだからか表情の変化もないから、予想でしかないが。
「と、すまんな。では始めようか。
我が名はアッシドスライムのメルト!あるものの命によりここを守護するものなり!挑戦者よ!この先に進みたくば、我に汝等の力を示せ!」
スライム…じゃなかった、メルトさんはそう言って手に持っている棍棒を地面に突き刺して、此方を見つめてきた。
恐らくそちらの番だと言いたいのだろう。
いきなり言われても良いのは思い浮かばないが、やけくそ気味に言い放った。
「え~と、わ、我が名は勇気!勇者にして、このダンジョンを攻略するものなり!」
正直滅茶苦茶恥ずかしかったが、何とかそこそこ良いのが言えてると思った。
僕が言い終わると、それに続くようにアレスとフェルが名乗りを挙げた。
「我が名はアレス!勇気様の配下にして、我が主に立ち塞がるものを悉く粉砕するものなり!」
あの、アレスさん?何でポーズまでとってるの?しかも何でそんなに生き生きしてるの?
「我が名はフェル!同じく勇気様の配下にして、我が鎖をもって、主に襲いかかるものを封じ、我が氷をもちて、全てを凍てつかせる者なり!」
アレスに続くようにフェルもかっこよくポーズを決めていた。
ちょっと止めてよ!僕だけショボく感じるから!
「ふむ、そこの二人は中々分かっているようだな。それに比べてお主は…」
「う、五月蝿いな!そんな直ぐに考え付くわけないじゃん!わかったよ!じゃあもっかいやらせて!今度はちゃんとやるから!」
メルトが何処か憐れむような視線を僕にだけ向けてきていた。
その視線に何処か負けたように感じてしまい、堪えきれずにメルトにそう言い放ってしまった。
ちなみに、何でメルトからさんが抜けてるかって?何かもうあの人尊敬できそうにないからである。まあ元から人ではないが。
それはそれとして名乗りである。
ああいってしまっては、下手なことを言えば滑ってしまう。
メルトは寡黙を装っているようだか、期待しているのが見え見えだ。
何か言い案はないかと、アレスとフェルの方を見ると、何故か此方も期待の眼差しを向けてきていた。
三人からそんな視線を向けられてしまい、今まで感じたことの無いようなプレッシャーを感じながら、必死になって脳をフル回転させた。
そして、恐らく数秒しかたっていないだろうが、僕からしたら数分はたったと感じられるほど集中し、今考える限りの最高のを名乗りを挙げた。
「我が名は勇気!秘めたる力を覚醒させし、勇者にして、魔神を滅ぼし世界に平和をもたらす英雄なり!!」
前の世界にいた頃、よく見ていたアニメのキャラのように片目を指を使って隠すようにしながら、もう片方の手でマントをたなびかせ、後ろに雷のエフェクトを入れながら、決めポーズをする。
僕の名乗りが終わると何故か辺りに静寂が起こっていた。
失敗したか…と内心で落胆していると、そんな空気を壊すかのように割れんばかりの拍手が三人から巻き起こった。
「素晴らしい!やれば出来るではないか!」
「勇気様、格好いいです!」
「お兄さん!カッコよかったよ!」
流石に三人からこれほど褒められると若干恥ずかしくなってしまった。
「いや~どうもどうも。」
それから一分程拍手は鳴り響き続けた。
「さてと、では。名乗りも挙げたことだ。そろそろ始めるか。」
やっと始まるのか…戦ってもいないのに感じる倦怠感を忘れようと目を閉じると先程の事を思い出してしまい、その内容に苦笑いを浮かべながら、僕は武器を構えた。
僕の姿を見た二人はそれに続くように武器を構え、視線を上げると僕達三人の視線は自然とメルトに合わさった。
これから闘いを始めるかと思うと、先程迄の嘘のように感じてしまう、
メルト自身のことも不思議と何年も一緒に旅をした仲間のように感じられてしまい、闘おうという意志がいまいち出せなかった。
彼方も同じことを感じているのか何処か慈しむような目をしていた。
しかしそれでも闘いを避けることなど出来る筈もなく、僕は意識を無理やり切り替えると、身体に徐々に力を込め何時でも飛び出せるように準備を始める。
「では、始めるとするか。準備はいいか?」
「うん、全く問題ないよ。ねえ、二人共?」
「はい、問題ありません。」
「何時でも行けるよ。」
「だ、そうだよ?」
「ふむ、あいわかった。では、始めるとするか!」
僕の返答を聞くとメルトは恭しく頷いた。
すると又しても自然と僕の目と視線があった。
たったそれだけの事で、メルトの意思が伝わり、アレスとフェルの二人にアイコンタクトを飛ばす。
二人もそれだけで理解できたのか、頷いてくれた。
「では、いざ尋常に」
メルトが武器を構え、戦闘を始める合図を出すために、声をあげる。
それに合わせるように、僕達三人も一緒に声を出した。
「「「「勝負!!!」」」」
その掛け声と共に、僕達は飛び出した。
まず始めにフェルが複製したジャマダハルを数本メルトに向けて、投げつけた。
メルトは特に防ぐこともなく、そのまま突き刺さるが、次の瞬間ジャマダハルは跡形もなく、溶けてしまった。
「やっぱ、駄目か~。じゃあこれなら、どう!貫け!アイスジャベリン!」
フェルが呪文をいうと、ドリアードの時に使っていた、氷の槍を作り出した。
しかしその大きさはあのときの比ではなく、メルトが持っている棍棒と同じぐらいの大きさを有していた。
「いっ!けっー!」
フェルの掛け声と共に氷の槍が射出され、メルトの身体に向かって一直線に飛んでいった。
「むうん!」
メルトは唸り声をあげながら、手にしている棍棒を構えると、それを上から降り下ろし、槍を粉々に砕いてしまった。
「こんなものか!」
メルトが棍棒を担ぎ直しながら、叫びをあげる。
「いいえ!まだです!」
「むぅ!」
その声と共に砕け散った槍の後ろからアレスが現れると、斧をメルトに向けて、降り下ろした。
それを瞬時に把握したメルトは棍棒では間に合わないと直感したのか、棍棒を握っていない左手でそれを防ごうと、手を前に突きだそうとした。
「させないよ!束縛しろ!」
しかしアレスに向かおうとしている手はフェルが呼び出した鎖が絡めとられ、動きを封じられてしまう。
「この!小癪な!」
しかしメルトは圧倒的な力にものを言わせ、一瞬で鎖を粉々にしてしまったため、少しの時間しか動きを止めることが出来なかった。
時間にしたら数秒の出来事、しかしそれにより手が届くよりも一瞬早くアレスの斧がメルトの顔に決まった。
「ぐあ~!おのれ!」
メルトが苦悶の声をあげ、先程斬られた箇所を手で抑える。
しかし、手が外されるとそこには傷の1つも付いてはいなかった。
「なんての、お主ら忘れておらぬか?儂はこんな成りをしておるが、スライムだぞ?斬撃など効かんわ!」
メルトが言い放つと同時に手にした棍棒を僕達に降り下ろす。
それを僕達は難なく回避をすると、僕は魔法の詠唱を開始した。
「これならどうだ!ああ、我。今ここに我が身を糧として大いなる太陽を生み出さん。」
詠唱を始めると僕の周りに淡い赤色の魔力が漂い始め、それが徐々に僕の頭上に集まり始める。
「それは!?させるか!」
メルトは今行おうとしていることが分かったのか、詠唱を阻止しようと、勇気に襲い掛かろうとする。
「させません!」
「させないよ!」
しかし、それをさせまいとアレスがメルトの右足を斧で切り裂き、バランスを崩したところをフェルの鎖が拘束した。
「おのれ~!こんなもの!」
メルトがフェルの鎖の拘束から逃れようと暴れるが、それをさせまいと壊れた端から、次々と新しい鎖が現れ、その身を地面に拘束し続ける。
「その炎をもって万物総てを燃やし尽くし、我が敵を灰燼の成せ!」
そうこうしているうちに、勇気の頭上には太陽を彷彿とさせる球体が出来上がり、それは全てを燃やし尽くさんとばかりに凄まじい熱気を放っていた。
「二人共、離れて!いくよ、焼き尽くせ!紅炎爆発!!」
勇気は二人がメルトから離れるのを確認すると、メルトに向けて今しがた出来上がった魔法を解き放った。
「ぐ、ぐぬぅわ~~!!!」
メルトに着弾したそれは、凄まじい熱量を伴いながら、地面に激突すると目も開けられぬような光が辺りに降り注ぐ。
それに伴い熱風が巻き起こり、勇気たちをも吹き飛ばそうとする。
それに耐えながら、暫くして目を開けると、そこには幾ばくか身体が小さくなったメルトがいた。
「嘘…」
あの熱量を受けても未だに原形を留めていることに驚きながらも、胸に残る違和感を噛み殺して、勝利を喜ぼうすると、
「ん、ん~。いや、危なかった。あと少し遅れたら殺られる所じゃったわ。」
僕達の耳に死んだはずのメルトの声が聞こえてきた。
「嘘でしょ!あれ受けても死なないの!?」
「言ったじゃろ。儂はスライムじゃと。あの程度の炎など利きわせんわ。まああと少し遅れたら蒸発しとったかもしれんがな。」
メルトは豪快に笑い声を上げながら、そう告げてきた。
此方としては内心穏やかではなかった。
先程使ったのは今僕が使える魔法でも最高クラスの物であり、あれ以上のものなど殆ど残ってなどいなかった。
それに加え、あの魔法より強力なものとなると詠唱の途中で割って入られてしまうのが非を見るよりも明らかである。
「お主達。これで終わりか?」
「未だだよ。僕達はまだ負けてない。」
メルトの言葉に反論するように言い放つと、メルトは口角をニッと吊り上げた。
「そうこなくてはな。さて、では少し趣向を変えてみるとするかの。」
「?何を…」
するとだ、と僕が言い終わる前にメルトの身体が変化し始めた。
縮んでしまってなお数メートルもあった身体が徐々に縮んでいき、最終的に僕達と殆ど変わらない大きさに変化していた。
その姿は年齢にしたら40~50歳位の初老の老人のようであり、髪は白く、瞳は柘榴のように真っ赤に染まっていた。
そして、胴着のようにも見える布から覗く筋肉ははち切れんばかりに鍛えられており、とてもスライムとは思えなかった。
「ふむ、これでよい。では、第2開戦始めるとするかの。」
メルトが構えるのを見て、僕達は慌てて武器を構えた。
「あ~待て待て。今から闘うのは勇気だけじゃ。アレスの嬢ちゃんとフェルの坊主は下がっておれ。」
メルトから突然の指名を受けて戸惑っていると僕の隣にいるフェルから怒りの声が上がる。
突然の大声に驚き思わず耳を塞いでしまいながら、何事かと視線を向けるとフェルがメルトをこれでもかというくらい睨み付けていた。
「メルトさん!僕は女の子だよ!!」
「おおすまんな。そうじゃったか。気付かんかったわい。」
メルトは謝っているが、その視線はフェルのある部分を凝視していた。
初めは何処を見ているのか分からなかったのか首をかしげたが、視線を追った先に在るものを目にして、顔を真っ赤に染めた。
「どこ見てるのさ!それに別にこれからおっきくなるもん!」
「お主何の事をいっとるのじゃ?儂は何も言っとらんぞ?」
「今見てたでしょ!」
「何処をじゃ?言わなければ分からんぞ?」
「そ、それはその…う~、お兄さん!さっさとあの変態爺やっつけてよ!」
メルトが嫌な笑顔を浮かべながら、涙目のフェルを弄っている光景を眺めていると、此方を向いたフェルが顔を真っ赤に染め、ある部分を抑えながら僕にそう懇願してきた。
「わかったから、ほら泣かないで。ちょっとメルト!フェルも女の子なんだからあんまりからかっちゃ可哀想でしょ!」
「くくく、いやすまん、反応が面白くてついな。」
フェルとのやり取り楽しそうにするメルトを見て、僕の意志が僅かに揺れ動く。
「ねぇ、メルト。物は相談なんだけどさ…」
「何じゃ?」
「闘うの止めて、僕達の仲間にならない?」
僕の言葉を聞いたメルトは目を見開き、一瞬だけ嬉しそうな顔をする。
「ふ、それもいいかもしれんの。」
「だったら…!」
メルトは薄く笑みを浮かべたのを見て、僕は僅かではあるが期待してしまう。
しかし、その顔は次の瞬間には悲しげなものに変わってしまっていた。
「だがそれはできん。」
「やっぱり、どうしても駄目なの?」
「ああ、無理じゃ。儂はここを守ることと、挑戦者を倒すように言い付けられとる。それを破ることなど出来ん。」
「そう、残念だよ。折角言葉も通じて、笑い合えるのに闘わなくちゃいけないなんて。」
分かっていたこととはいえ、面と向かって無理だと言われるのはやはり少し堪えた。
「しょうがない、それが運命じゃからな。だからこそ全力をもってお前の相手をしよう。」
そう言ってメルトは顔を引き締めると、拳を握り左手を腰の高さまで下げ、右手を前に突きだすような構えをとった。
その身体からはとてもスライムとは信じられない闘気のようなものが出ており、此方を真っ直ぐに見つめていた。
「分かったよ。じゃあ僕も持てる限りの力を出して、相手をさせてもらうよ。」
構えたメルトを見て、脱力をしながらメルトとは逆に手を開いたまま胸の辺りで肘を曲げると左手を少しだけ下にしながら、受けの構えをとった。
「ほう、変わった構えだな。それにお主、中々の闘気を放っておるではないか。」
「これでも一応武術をやってたからね。」
「成る程の。つまりそれはお主の世界の構えな訳か。」
「まあそうなるね。」
言葉を交わしながらも、一瞬たりとも隙を見せないメルトに対して心の中で賛辞を送っていると、メルトが嬉しそうに笑っていた。
「では、始めるとするかの。」
「ダンジョンの守護者、メルト=バーグナー!」
「覚醒の勇者、ユウキ=アカツカ!」
「いざ、尋常に…」
少しの静寂の後、二人の拳が交わる。
「「勝負!!」」
こうして二人の本気の戦いが幕を開けた。
            
活動報告にも書かせていただきましたが、直すべき部分が大量にあると指摘されたため、時間を見つける度に修正を加えていこうと思います。
何かおかしな点などありましたら、遠慮などせず是非とも教えていただけると嬉しく思います。
それではご意見、ご感想お待ちしております。




