二度目の敗北と慟哭
雪の影響で学校が休みになったため、時間が少しだけ出来たので、書き上げました。
戦闘描写は余りないですが、ご了承下さい。
「ス、スライム?」
漸くボスを倒したと思った僕達の前に現れたのは、某ゲームでお馴染みのスライムだった。
体は半透明で、若干向こう側が見えており、一応固体のように固まってはいるが、よく見ると流動しているのが分かった。
「なんだ~。スライムか。焦って損した~。」
僕が余りにも場違いな魔物の登場を笑いながら、視線を二人に向けると、その顔はこの世の終わりのような顔をしており、体も微動だにしていなかった。
「?二人共どうしたの~?スライムだよ、スライム。楽勝じゃん!何そんな顔してんの?」
僕が二人の態度を疑問に思いながら、話し掛けた。
「何をいってるのですか、勇気様。スライムが楽勝?そんなことあるわけが無いじゃないですか!」
「ど、どうしたのアレス。そんなに興奮して。え、何そんなにヤバイの?こっちのスライム。」
アレスの普段見せない態度を見てると、先程まで安心していたのが嘘のように、僕の中に不安が生まれてきていた。
「お兄さんの世界のスライムがどんなのか知らないけど、とにかくスライムはヤバイよ。」
フェルも何時もの元気一杯で明るい雰囲気はなりを潜めており、スライムから一時たりとも視線を反らそうとしていなかった。
「一寸待ってよ!何がそんなにヤバイの!?」
そう口にしながら、僕の中にはどんどん不安や恐怖が増えていった。
正直そんなにヤバイものでない、何とかなるだろうとタカを括っていると、予想していたよりもヤバイ返答が返ってきた。
「いいですか、勇気様。まずスライムには物理攻撃が効きません。攻撃してもあの流動している体が衝撃を吸収してしまうからです。」
「それとね、お兄さん。あの体から出てる粘液にはぜっ!たい!触れちゃダメだからね!あの粘液生物だろうが物だろうがお構い無しに溶かしちゃうから。」
二人の返答を聞くと、さっきの余裕は何処にいったのやら、僕の身体中に嫌な汗が流れ始めた。
「じゃ、じゃあ。あいつはどうやって倒すの?まさか倒せないの?」
僕が一番最悪なケースがあり得るのかと二人に聞くと、幸運にもそれはなかったが、しかし最悪なのは変わる事はなかった。
「一応は倒せます。見えますか?スライムの体の中に何か石みたいな物体が有りますよね?」
アレスに言われてよく見てみると、確かに石みたいなものがあったが、それは常に動いており、とてもじゃないが捉えることが出来る速さではなかった。
「あれを壊せたら倒せるのですが、大概が届く前に溶けてしまって、砕けないのですよ。運良く砕けても武器が駄目になってしまうので、基本的に遭遇したら逃げます。」
確かに折角倒せたのに、殆ど収穫もなく、武器が駄目になるだけなら誰も倒さないなと納得したが、それによってよりいっそう僕達がどんな危機的状況に在るのかを理解できてしまった。
「それほんと?じゃあ不味いじゃん!!あれどうやって倒せばいいの!?」
「お兄さん。さっきから僕達それで悩んでたんだよ?」
僕の言葉を聞いたフェルに呆れられてしまった。
そんなことを言われても、僕が知っているスライムは雑魚敵であり、誰でも倒せる存在だったのだから、そこら辺は許して欲しいが、今は言ってもしょうがないのでグッと言葉を飲み込んだ。
三人で話し合っていると、不思議なことに気付き、二人を見ると、同じことを思っていたようで二人共此方を見てきた。
「ねえおかしくない?何であいつは一向に動かないの?」
今僕が言った通り、スライムは僕達の目の前に現れてから、一度も動こうとする素振りが見受けられなかった。
三人で考えようとしたとき、突如スライムが移動を開始した。
だが、僕達の方に来ることはなく、全く別の方向に向かって動いていった。
その向かう先には先程どうにか倒したキング達の死体があり、何をするのかと見ていると、突然キング達の体を自身の身体に取り込んでいった。
徐々にキング達の体が溶けていき、その体積を減らしていっていると、少しずつスライムの身体に変化が起こり始めた。
一頭身だった体が一回りほど大きくなっており、手には棍棒のようなものを持っていた。
スライムは他のオークやオーガの死体を次々と取り込み、その体積を徐々に増やしていき、遂には見下ろされる程に成ってしまった。
「嘘…何これ。どうなってるの!?
幾らなんでもでかすぎでしょこれ!?」
フロアにあった死体を全て取り込んだスライムは全長10メートル程もあり、しっかりと手足で立っていた。
手に棍棒を持っており、頭から角が生えているその姿はオーガを巨大化させた者を彷彿とさせた。
「!?ヤバイ!二人共避けて!」
僕の掛け声と共に僕を含めた三人はその場から急いで飛び退いた。
そのすぐ後に辺りに轟音が響き渡り、スライムの棍棒によって地面が抉り取られていた。
「束縛しろ!」
フェルの声と共に鎖がスライムの身体に巻き付き、その身体を拘束していった。
「やった!」
フェルが嬉しそうな声を上げて喜ぶが、その直ぐ後その声は驚愕のものに変わってしまった。
バキンッ!バキンッ!という音と共にスライムの身体を拘束していた筈の鎖が次々と千切られていってしまったのだ。
慌てて鎖を更に巻き付けていくが、それでどうにかなるわけでもなく、遂には全ての鎖が破壊されてしまった。
「う、嘘…こんな簡単に壊されるなんて…」
フェルは今までになかった状況に対応仕切れていないのか、半ば放心状態に成ってしまいその場で立ち尽くしていた。
「危ない!!フェル!避けて!」
フェルの状態に気付いたのか、その好機を逃すまいとスライムが再度棍棒をフェルに向かって振り下ろした。
僕はフェルを助けるために、縮地を使い、駆け寄ろうとするが如何せん距離が遠すぎてしまい、間に合いそうになかった。
それでも諦めず、駆けていくがそれを嘲笑うかのように棍棒が振り下ろされた。
ドン!という音を発てて、棍棒が地面と激突し、そのまま地面を粉砕し、穴を穿った。
「フェル!」
その光景を見て、僕の脳裏に考えたくない最悪の状況がつぎつぎと浮かび上がってきた。
スライムが棍棒を持ち上げていくのを確認すると、僕はその穴の中を凝視した。
すると、不思議なことにそこにはフェルの身体らしき物はなく、ましてや血の一滴さえも、存在していなかった。
それを見て、フェルが無事である事を分かると安堵の息が漏れるが、すぐにではフェルは何処に?という疑問が襲ってきた。
「勇気様!」
アレスの声が耳に入り、周囲を見回すと、腕の中にフェルを抱えているアレスの姿が目に入ってきた。
「ああ…よかった。無事だったんだ。」
フェルの無事である姿をしっかりと確認することが出来、今度こそ安心していると、アレスの叫び声が聞こえてきた。
「勇気様!後ろ!」
「え?て!うわ!」
アレスの言葉通り後ろを振り替えると、スライムが今度は僕を潰そうと棍棒を振り下ろしていた。
慌てて縮地を使い、アレス達が居る方まで下がると、また一つ大きな穴が地面に出来上がっていた。
「勇気様!油断しないで下さい!」
「いや、ごめんごめん。フェルの無事な姿見たら安心しちゃって。」
声を荒げるアレスを宥めながら、視線を後ろに向けるとじっと此方を見詰めてスライムの動きが止まっていた。
「で?どうする?何か今は動き止めてるけど、あれ相当ヤバイよね?」
「ええ、正直打つ手がないです。フェルも未だ立ち直れてないみたいですし。」
アレスの言葉通り、フェルが虚ろな目をしたまま、未だにアレスの腕に抱えられていた。
普段目にしている姿を知っていると、その姿はとても痛々しく見えてきた。
「フェルは…大丈夫なの?」
「肉体的には全く怪我などはありません。ですが精神的に危険です。やはりあの鎖が全く効かなかったことが相当ショックだったのでしょう。」
フェルは此処に来るまで頻りに鎖の事を自慢していた。
これがあればどんな敵も止められると…
それが効かない相手がいきなり現れたのが相当堪えているようだった。
そんなフェルを二人共心配していると、急にフェルが立ち上がった。
「フェ、フェル?大丈夫なの?」
虚ろな目をしたまま、立ち上がったフェルに声を掛けるが、返事が返ってくることはなく、代わりに微かな呟きだけが聞こえてきた。
「効かない筈が無いんだ…僕の鎖はどんなものでも拘束できるんだ…こんなの間違えに決まってる…」
そう呟きながら、何度も何度も鎖を使ってスライムを拘束するが、悉く鎖は千切られていった。
「ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえないー!!!!」
「フェル!」
その余りにも痛々しい姿を見ていることが出来ず、僕はフェルの身体を抱き締めた。
「あ…お兄さん?どうしたの?離してよ。僕はあいつを拘束しないといけないんだから。」
「嫌だ。絶対離さない。」
「ねぇ…離してったら。」
「嫌だ。離さないったら離さない。」
「この…離せって言ってるだろうが!」
頑なに離さない僕に痺れを切らしたのか叫びながらフェルが暴れるが、それでも僕はフェルを抱き締めることを止めなかった。
「大丈夫だから…落ち着いて、ね?」
「大丈夫な訳あるか!僕の鎖で拘束できないんだぞ!じゃあ僕はどうすりゃいいんだよ!あの部屋から追い出されて、新しい力が手に入って、これなら誰にも負けないって思ったのに!なのにこんな直ぐに圧倒されて!何なんだよ!何が大丈夫なんだよ!」
「フェル…」
「もう嫌だ…何でなんだよ…強くなったと思ったのに…ねぇ…僕はどうすればいいの?お兄さん…もう負けるのは嫌だよ…あの時みたいに圧倒されて惨めな気持ちになるのはもう嫌だよ…」
フェルは次第に声を小さくしていくと、遂には泣き始めてしまった。
その姿は今にも壊れてしまいそうで、何時もの明るい雰囲気は何処にもなかった。
「大丈夫…だってフェルには僕達が居るじゃないか。」
フェルの身体を優しく抱き締めながら、僕はフェルに言葉を掛けていった。
僕の言葉がフェルに伝わるかどうかなど分からないが、それでも今ある僕の気持ちをフェルに伝えた。
「フェル…僕は元々弱かったから、正直フェルの気持ちはあんまり分かんない。だって僕にとっては負けるのが当たり前だったもん。」
「ほらやっぱり…どうにもならないんじゃないか…」
僕の言葉を聞いてフェルは更に不貞腐れてしまっていた。
しかし僕の次の言葉を聞くと、反応が変わった。
「でもね、フェル。僕にはアレスがいた。初めに目が覚めて、辺りを見るとスケルトンに囲まれてて、もう駄目だ!って思ったけど、アレスのお陰で助かったんだよ。」
「そんなの只お姉さんが強かっただけじゃん…」
「そうかもね…でもね、確かに僕は弱いかもしれないけど、アレスと一緒に闘ったら色んな魔物に勝てたんだよ。嬉しかったよ…だって僕なんかよりずっと強い敵に勝てたんだもん。」
「それは…そうかもしれないけど、お兄さん個人の力じゃないじゃん。」
「そう…僕だけじゃ絶対に勝てなかった。でもアレスと一緒なら勝てたんだよ。それに今ではフェルも居るしね。もっと心強いよ。」
「お兄さん…さっきの見たでしょ?僕の力じゃあいつには勝てないんだよ。僕は弱いんだから。」
「うん…そうだね、フェルじゃ絶対勝てないだろうね。」
「っ!何なのさっきから!僕を慰めるふりして僕の事馬鹿にしてるの!?」
僕の言葉を誤解してしまったらしいフェルが怒りの眼差しを僕に向けてきた。
「違うよ。」
「じゃあ、何なの!?」
「フェル…質問だけど。一人で倒すのと二人で倒すのに違いってある?」
「何なのいきなり…」
「いいから、答えてよ。」
「そんなの簡単じゃないか。個人の力か、団体の力か、だよ。」
「その通り。じゃあさフェル。君は自分一人だけの力であいつに勝ちたいの?それとも…単純にあいつに負けたくないの?」
フェルの目を見詰めながら、僕は問い掛けた。
「それは…」
「どうしたの?答えてよ。」
僕が急かすように言うと、堰を切ったかのようにフェルは話始めた。
「僕は負けたくないんだよ!もう誰にも負けたくない!今もこれからもずっと!でも、僕の力じゃ勝てないんだよ!」
「でも、今は僕もアレスもいる!」
僕がそう言うとフェルの身体が一瞬だけど震えた。
「確かにフェルだけじゃ勝てないと思う…でも三人なら勝てるかもしれない…いや!絶対に勝てる!」
「お兄さん…」
「僕達は仲間でしょ?出来ないことを一人で抱え込まなくてもいいんだよ?辛かったり、助けて欲しかったら言えばいいんだよ。」
そう言いながら、僕はもう一度フェルの身体を優しく抱き締めた。
すると、アレスも此方に歩み寄ってきて、フェルの身体を抱き締めた。
「お姉さん?」
「全く勇気様の言う通りです。何を遠慮してるんですか。何時もの何の遠慮もしない貴女は何処にいったのですか?」
「だって…僕の我が儘だし…」
「はあ…私は貴女にとって姉なのでしょ?だったら可愛い妹の頼みくらい聞きますよ…」
「え?今、なんて?」
アレスの言葉が信じられなかったのかフェルは思わず聞き返してしまっていた。
「聞こえなかったのですか?仕方ありませんね。もう一度だけ言いますよ?ちゃんと聞いてくださいね?何回も言うのは恥ずかしいですから。」
「うん。」
そう前置きすると、アレスは口を開いた。
「私は貴女の姉なんですから、もっと頼って下さい。妹の頼みくらい聞いてあげますから、それに妹に頼られるというのは嬉しいものなのですよ?」
そう言って、アレスは今までフェルに見せたことのなかった笑顔を浮かべながら、フェルにそう囁いた。
「アレスの言う通り、君にとっては僕も兄なんでしょ?じゃあもっと頼ってよ。それで、可愛い妹にカッコつけさせてよ。」
アレスの言葉に便乗するように、僕もフェルに自分の気持ちを伝えた。
「うぐっ、お兄さん…お姉さん…僕二人に頼ってもいいの?助けてくれるの?」
フェルは涙を必死に堪えながら、僕達二人に懇願してきた。
「勿論。ねえ?アレス?」
「ええ、姉と兄の威厳というものを見せてあげます。」
僕達の言葉を聞いて、遂に耐えられなくなったのか、涙を流して、フェルは僕達にお願いをした。
「僕…あいつに勝ちたい!でも僕だけじゃ勝てないから二人の力を僕に貸してくれる?」
そのお願いを僕は耳にすると、アレスが頷くのを確認して、アレスと共に返事をした。
「「勿論!!(です!!)」」
そして、僕達はフェルの身体を離すとスライムの方に向き直った。
「それじゃあ、フェルも立ち直ったことだし、いこうか、二人共!あのデカイスライムを倒すよ!」
「了解です。勇気様。」
「任せてお兄さん!迷惑かけた分頑張るぞー!!」
僕はちゃんと立ち直ることが出来たフェルの事を嬉しく思いながら、スライムを倒すべく駆けていった。
その後ろをアレスとフェルの二人が付いていき、各自攻撃を開始した。
こうして、スライムを倒すための闘いが幕を開けた。
次回からは本格的なスライム討伐が始まります。
次は何時更新できるか分かりませんが楽しみにしていただけたら嬉しいです。
拙いとは思いますが戦闘描写も出来るだけ頑張っていきたいと思います。
それでは、ご意見、ご感想をお待ちしております。




