プロローグ 日常の終わり
8月19日改稿しました
月曜日の朝とはいつも誰しもが少なからず憂鬱になるだろう。
僕こと赤塚勇気もその一人だ。
何の特技もなく、気も小さく、見た目も見るからに弱々しく、他の人より少しだけアニメなどに詳しいだけの僕にとっては、学校と言うものは、只、気まずいものでしかなかった。
教室に入って、席に座るとあるクラスメイトが話しかけてきた。
「どうした。 朝から元気がないぞ。 もっと元気よくせんか!」
今話しかけてきたのはクラスメイトの大山武志くん、見た目は筋骨隆々としていて、少し怖い見た目だが、中身は心優しい兄貴肌の男子だ。
「そうだぜ! せっかく一週間が始まったってのに何でお前そんな元気ねーんだよ!」
こっちの子はクラスメイトの神埼晶さん。
ボーイッシュな感じで男女共に人気がある女の子だ。
彼女は陸上部のエースで、俗に言うスポーツ女子といった感じだ。
髪は短く切り揃えていて、いかにも運動部らしい見た目だ。
「おはよう。 大山くん、神崎さん」
僕は二人に挨拶した。すると二人は少し心配そうな顔をした。
「? どうしたの二人とも? 何か気になることでもあった?」
「いやなに本当にいつもより元気がなさそうだから何かあったのなと思ってな」
「ああ、大丈夫だよ。 只、またあの人達に会わないと行けないなーと思ってね」
と僕が二人に言うと、
「おいおい、それってもしかして俺達の事かよ。 なあ、弱虫くん?」
「え、マジかよ。 おいおい、それちょっとひどくね?」
「そうだぜ弱虫くん? 俺達とお前のなかじゃねーかよ? それとも何か? 前みたいに体に分からせないと駄目か?」
「ああ、おはよう。 坂田くん、遠山くん、古泉くんそれと何度も言うけど僕の名前は弱虫じゃなくて、勇気だからね」
今話しかけてきた三人は、坂田くんと遠山くんと古泉くん。
ある一件以来僕の事を馬鹿にするようになった三人だ。
まあ、約一名違う人が混ざっているけど。
「ギャハハ! お前のどこに勇気があるんだよ、ええ? なあお前ら?」
「そうだぜ弱虫君。 忘れちまったのか? あの時のスピーチのことをよ」
「あれはマジで笑ったぜ! 校長の奴が「新入生を代表して赤塚勇気君に挨拶をしてもらいます」ていって、お前が出てきたと思ったらよ、プハハ。 駄目だ、話してたら思い出してきて、笑えてきた」
僕の前であの思い出したくもない過去のことを三人は面白そうに語っていた。
「マイクの前に立ってよぉ、しゃべんねーと思ったらいきなり「む、無理です。 僕には出来ません」って言いながら、涙目になっててよ。 あれ見た瞬間笑いが込み上げてきたぜ!」
「「だよな!!」」
「テメーは昔からそうだよな弱虫くん? なにかあるとすぐ逃げ出してよ~」
「え? 何何、昔からってどゆこと?」
「あ~癪だが幼稚園から一緒の腐れ縁だよ、だから色々知ってるぜ? こいつの恥ずかしい話」
口元を歪めながら、坂田くんは笑いを堪えきれなさそうだ。
坂田くんの言う通り、不本意ながら僕たちは俗に言う幼馴染みだ。
だけど、昔から僕のことを馬鹿にしたりしてくるので、仲が良いわけではない。
まさか高校まで一緒になるなんて思ってなかったけど……
そんな僕の気持ちなんて知らずに、僕の過去に興味津々な二人に坂田くんが口を開こうとしたところで、
「お前ら、いい加減にしろよ? 人の古傷何時までもいじってんじゃねーぞ」
三人の姿を見かねた神崎さんが抗議してくれた。
「そんなこと言ってもよ~、面白いもんは面白いんだし、しょうがねーだろ、なあ?」
「ええい! 止めんかお前ら。 みっともない。恥を知れ!」
それでも三人が止まらないと感じたのか大山くんが僕の前に割り込み、三人に立ちはだかると、体を使って壁に成ってくれた。
「んだよ、大山。 邪魔すんじゃねーよ」
その行動を不快に思ったのか坂田くんが大山くんを睨み付ける。
「お前ら。いい加減勇気をからかうのを止めんか」
「うるせぇーな。 てめぇには関係ねぇだろ!」
それでも退こうとしない大山くんと坂田くんに一触即発の空気が周囲に張り詰める。
そんなことをしていると、不意に教室の扉が開き、ある人が入ってきた。
「お前達、何をしている席に着け。 HR.を始めるぞ」
今入ってきたのは教育実習生として、担任をしている小鳥遊深雪先生。
常に冷静で、生徒に対して少し距離を置いているような態度とあまり表情を変えることがないため、冷たいように感じられているが、生徒の事をしっかりと考えてくれている優しい先生だ。
「すまんのう。 先生。 直ぐに席に着く。 ほらお前らもさっさと自分の席にいかんか!」
「ちっ! 分かったよ。 分かりましたよ。 たく」
そういって坂田くん達は自分の席に戻っていった。
「よしそれでは今からSTを始める。 今日の連絡事項は……」
そうやって先生が話始めて、また何時もと何も変わらない1週間が始まるんだと思っていたら、いきなり地面が揺れ始めた。
「おい、やべぇぞ! 地震だ!」
一人の男子生徒が叫ぶと、みんなは一斉に慌て始めた。
「みんな落ち着け! 早く机の下に隠れるんだ!」
先生の言葉で冷静さを取り戻したのか皆は次々と机の下に隠れ始める。
僕がいきなりの事で戸惑っていると、
「何をしている! 赤塚お前も早く隠れろ!」
「は、はい!」
小鳥遊先生の声に驚きながら僕は慌てて、机の下に隠れた。
少し経つと地震は収まり、安全なことを確認してから小鳥遊先生が机から出て、僕達に声をかけた。
「全員怪我はないか?」
小鳥遊先生が確認するように言うと、皆はお互いの体を見比べて怪我が無いかを確認していった。
少したつとクラスにいる全員から何処にも怪我が無いことが小鳥遊先生に伝えられた。
「よしでは、私は一度職員室に行くから、戻ってくるまで、静かに待ってるように」
そういって、先生が職員室に向かうため扉に手をかけ開けようとしたが、
「? な、なんだ? どうなっている!?」
何故か扉が開くことはなかった。
「どうしたんじゃ、先生? 早く職員室に行った方がいいんじゃないのか?」
先生の行動を不思議に思った大山くんが声をかけてみると、
「ああ、私も早く行きたいのだか、何故か扉が開かなくてな」
先生の言葉にクラスの空気が少しざわつき始め、僕達に緊張が走った。
「何? そんなわけ無いじゃろう。 大方さっきの揺れで扉が歪んで開けにくいだけじゃろ。 先生ちょっと退いてくれ。 俺がやってみる」
「ああ、頼んだ」
先生が大山くんの言葉に従って横にずれると、大山くんは指を鳴らしながら、扉の前に向かった。
「なーに、任せておけ。 ふん!」
大山くんは取手に指をかけると、扉に力を入れ始めた。
「ふんぬぁー!! ど、どうなっとる!? ホントにビクともせんぞ、おい誰か! 手を貸せ!」
大山くんの言葉を聞いた男子が次々と扉に向かい、一緒に扉を押し始める。
「ぶはっ! だ、駄目じゃビクともせん! どうすれば……そうじゃ! 誰か後ろの扉を確認してくれんか! そっちなら開くかもしれん!」
大山くんを含めた男子が床にへたり込みながら、息を整えていると、大山くんがそう叫んだ。
最後の望みを託すように、一番近くにいた生徒が後ろの扉に駆け寄るが、
「駄目だ! こっちも開かねぇ! どうなってんだよこれ!?」
「窓も駄目だ! 鍵すら開かねぇ!」
教室から出られないという事実が発覚すると、クラス中がパニックに包まれた。
「どけ! んなもん、俺がぶっ壊してやる!」
坂田くんが椅子を持ち上げながら窓にで殴りかかる。
しかし、窓に当たると椅子はガン!と音を立てた後、坂田くんの手元から無くなっていた。
見ると坂田くんが持っていた椅子が跳ね返えされたのか、坂田くんの後ろに転がっていた。
それでも諦めずに、椅子を拾い、何度も何度も椅子で殴りかかる。
やがて、ガキン!という音がなり、皆が窓が割れたのかと期待の眼差しを向けた先にあったのは、窓が割れるどころか、逆に椅子が砕けてしまっている衝撃的な光景。
「いってぇ。 んだこれ。 どうなってやがる」
坂田くんは殴ったときに手が痺れたのか、その場で手を押さえながら踞ってしまった。
「おいおい、これやべーんじゃねえか?」
「う、うん」
神崎さんが話し掛けてくるが、突然の事態に動揺してしまい、しっかりと返事をすることすら出来ない。
「みんな落ち着くんだ!」
先生が皆を落ち着かせるために叫ぶが、パニックが収まることはなかった。
ある男子生徒は泣き叫び、女子生徒の中にはお互いに必死に恐怖から逃げるように抱き合っている人や、手を握り合っている人もいた。
そんな中、僕達の前でもっとおかしな事が起こった。
「な、なにこれ!? 皆見て! 床に変な文字が出て、光り始めてる!」
ある女子生徒の叫び声がクラスに響いた瞬間、床から光が放たれ、僕達の視界を覆った。
そして僕達は……
この世界から姿を消した。