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規格外のオンライン  作者: Hamlet
第1章―FFO編―
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第二ノ塔攻略 その1

 さんさんと降り注ぐ太陽の光が高層ビル最上階の陰気な部屋を仄かに照らす。窓際にはくっきりとした窓の形の日差しがいくつも並んでいる。


 そこに二人の男性が入ってきた。入室と同時に部屋が認識し、部屋の電気が全体を照らす。さっきの陰気な雰囲気は既にどこかに飛び去っており、焦げ茶色の革製ソファが金属のような艶やかな光沢を放つ。

 一番奥にある最も豪華そうで、かつ手入れを忘れぬ使用者の執念が感じられるソファにこのビルの長――正式にはプロトアリス社の社長がどっさりと音を立てるような勢いで腰掛ける。同時にミシシという嫌気のある音をソファが出すのは、体重を物語っている。


 その横にある同様に手入れされたソファ。そこに彼の秘書である者がゆっくりと腰掛ける。当然理由は彼が手入れした代物だからだ。


 数分後、新たな来客がこの場所へやってきた。外は七月のとてつもなく暑い外気にさらされているので、天国の如くクーラーがガンガンに効いたこの部屋に入った途端、体をピクリとさせた。

 さて、ここに二人のVIPがそろった。一人は社長、そしてもう一人はこの国の総理大臣である。まだ若いながらにして、総理大臣の座に上り詰めた男である。


 社長は日本国の総理であろう人物が入室してもなお、豪快にソファに腰掛けながらくつろいでいた。秘書の方は素早く起立し、深々と頭を下げた後着席した。その幾秒か後に社長自らが立ち上がり、軽い会釈をして再びソファにどすんと腰掛ける。



「プロトエリス社及び派生企業の最高責任者緒乃蔵(おのぐら)です。今回はどのようなご用件で?」

 淡々と流れ作業のように自己紹介を言い終わった後、総理が軽い自己紹介を行って前方に映るソファに失礼なく座った。


「それで、今回の件ですが。今起こっている大事件……」

 最後まで言い終わる前に乱入してくるのは社長の言葉だった。

「それは電話でも直接でも何度も聞きましたよ。ですから私の会社が開発したVRスーツは、日常的な視点から見た安全性なんですよ? テロなんてことに考慮はできません」

 こないだと同じことを聞く羽目になる総理、その横からしかめっ面で蛇睨みをぶつける秘書。


「それでは、なぜ安易にテロリストにハッキングされるようなネットワークなんですか? そこの安全性がないと私は言ってるんです」


「とかくバーチャルネットテロなど歴史上一度も起こっていない。何故私がすべての責任をとらなければならんのでしょう? 我々の意見も少しは聞いてくださいな」

 挑発的な口調は依然変わらない。

「それでしたら、しっかり我々に協力してください。全世界での問題なんですよ?」


「あぁ、分かってますよ。それなりに協力しますから。開発社として!」

 最後の開発社としてを大いに強調して、総理に挑発の眼差しを隠して向けた社長だったが、総理はそれを冷静にスルーして黙って社長室を出て行った。それに続くように秘書も素早く退室する。








 デスゲームが開始されて今日で三週間目。

 やはり外部からのなんらかの手助けは無い。恐らく向こうの世界では囚われた人々を助けようと、各VRゲーム及びネットワーク企業が必死に自社のゲーム世界への介入を図っているだろうが、それも恐らくは無理な話だろう。


 九大街をはじめとした大きな規模の街には、クエスト受注用の掲示板よりもはるかに大きい、現実でのニュースを見れる掲示板が存在する。ファンタジーと名のついたFFOというタイトルにそんなもの似合わん! と、それを聞いたときに罵声を上げる者がいるだろうが、別に現実の電子掲示板ではなく普通の木の板で作った大きな掲示板に、魔法とかいう要領で内容が追加されていく仕様になっている。


 しかし今現在、その掲示板は全く持って機能していない。辺り一面素の木の板一色なのだ。つまり外の世界とは完全にシャットアウトしているというわけである。



 唯一この世界で一番見合ってない定期メンテナンス及び臨時メンテナンス速報も、過去のデスゲームではなかったFFO以来一度も見ていない。この時点でメンテナンスしなくていいのか……と、疑問を抱いたのは刹那の雑念として頭の片隅に追いやった。



 さすがに三週間たてば殆どの人が現実を理解し、狂う人間もゼロに近くなった。ならば自害を選んだのか……?というとそうじゃない。街中ではいかなるダメージも通らない設定のこの世界では、たとえ自身の初期装備である。簡素な棒きれのような直剣で自身を刺したとしても、少量の違和感と衝撃が発生するだけでダメージという名の物はダの一文字も発生しない。


 じゃあなんで狂わないんだよ!? とさらなる疑問が出るはずだが、これはFFOでも五大ギルトと呼ばれる大規模ギルドが互いに協力し合って解決した。あらゆる人命を保護し、いたる町に監視役のギルドメンバーを配属してかくまった。



 ところが……これは何も知らない初心者ならば当たり前に助かることで、既にデスゲーム化したFFOでの冒険を初め、再度未開の地を歩む者達に対してはもちろん有効ではなかった。

 大規模ギルドはあちこちでパーティーで行動することを進めたが、RPG特有の宝物の欲しさないし独占欲に駆られてソロプレイをする者が頻繁に発生した。もちろん己の腕前を十分理解して低レベルのフィールドで狩る者が大半だったが、危険なダンジョンに半場掛け気分で潜って一攫千金を狙う者もいた。当然運が少しでも悪ければ死亡である。


 これこそRPGだから起こり得ることだ。RPGというゲームだからこそ……。彼女が言ったことも混ぜるとたかがゲーム、されどゲームか……。





「ハルキ~」

 遠方から自身の名前を呼ぶ女の子が現れる。デスゲームになってから初めて仲良くなったフレンド――かはどうかよくわからないが、いまだ装備を変えない彼女がゆっくり歩み寄ってくる。

 思えば最初合った彼女と比べて、今の彼女は大きく異なっている。あの時の行動言動からして自暴自棄に浸っていたと思うが、今はこの世界に馴染んで楽しんでいる。と言っても過言ではないようなテンションにまで戻った。



「とりあえず中に鎧は着たわ」

 俺の隣に腰を下ろした彼女が溜息を吐くように呟いた。現在俺達の関係は先生と生徒といった関係で、恋には程遠い――――のだが、思わず近づいてみたくなる。


「いやぁ……。鎧の前にその背中の初期装備の弓を何とかしろよ……」

 前々から俺の内心ですごく気になっていたことを彼女に言い放った。


「これ? あぁ。こないだ武器屋で売ってるのがどんなものか試してみたんだけど、なんか使いにくくて……!」

 最後は呆れかえったようにかすれ声が台詞のピリオドをうった。無理もない。と同情できる訳がない。


 FFOの攻略サイトにて様々な情報が載ってるわけだが、もちろんそこに武器というタグの弓も載っている。チラっと興味本位で依然そこを見たことがあったが、初心者用の弓である≪練習用ショートボウ≫の晒し具合を見たときは思わず吹き出してしまうほどだった。



 まぁ、そんなわけあってこのショートボウには『初心者には早すぎる弓』『使える気がしない』といった異名がつけられた。……これは汚名と言った方がいいのか?


 そんな武器でも使っていればそのうち使い慣れてくるんだろう。彼女はこの不遇な武器を巧みに使って戦闘を潜り抜けている。悪く言えばアホな命知らず、……良く言えば天才的な才能と言ったところか……。

「ま、まぁ……それなら問題ないんじゃないかな……? それとまた狩り行かない?」

 ここ数週間の彼女との会話のおかげで、俺の女子との対話力には恐るべき力が付いた。通常時の言葉で恥ずかしさのあまり詰まることはなくなり、ごくごく普通に質素な会話を展開できるようになった。



「狩りって……またあの森?あそこ飽きたわ! ほかの場所にしないの?」

 俺が彼女なら普通に大丈夫だと確信して選んだあの森、もちろん『淵樹海』のことではない。名前は鳳翼の森といって、あたりが紅葉に包まれている『秋』を思わせる森だ。マップには初心者にとってそれなりに手強いモンスターが頻繁に湧くが、彼女は初心者の皮をかぶった熟練者なので、問題が起こることはない。だけど装備の問題で防御力は申し分ないが……。


 そんな中購入したのがさっきの鎧で、初心者でも楽に維持費を払えてなおかつ十分な防御力を持つ鎧を選んで買った。俺が半額負担しようかと言ったが、彼女は自分でやる! とあっさり断って一週間で鎧を買うお金を溜めた。ちなみに鎧の値段は10万ほどに達する超高価格だ。何故かこのゲーム、鎧の類の装備品類が異様に高いのである。







 時は夕暮れ。夜の狩りは夜行性の危険なモンスターが湧くが、その分お金や良いアイテムがもらえる。当然安全マージンは取ってあるので犬死するようなことはない。


 街の門の真ん中立ち、門番である町の衛兵のぎらぎら輝くプレートアーマーをのんびり眺めながら彼女が来るのを待つ。どちらかというと俺が彼女を待つのは珍しい。どこかに集合する場合は、彼女が俺を待つのに退屈しているのがしばしばだ。

 今日の昼過ぎに聞いた――――同様の声が遠方から聞こえてくる。特に急ぐ様子はない。





 太陽は既に沈み、あたり一面真っ暗だ。視力補正の効果がある消費アイテムや、装備といったアイテムは使用せずとも何があるかは分かる。ただし身を隠しているウサギなどのモンスターは除いて。

 歩いていると前方に輝く6つの光点が現れた。木の後ろに隠れていたのが一匹追加、合計4体のポップだ。狩り慣れた部類の連中で、名前は≪ブラックハウンド≫。夜行性の狼型に属するモンスターだ。

 モンスターのオブジェクトは一つの原型から作られていて、犬だろうと魔獣とかいうケルベロスでも原型をたどれば『狼』に行きつく。それ故行動パターンが一緒の場合が多く、型さえ覚えれば楽々倒せてしまうというのだ。



……が、この行動パターンが厄介なのだ……。

 臨戦態勢に入った俺たち二人は、まず俺のパーティーメンバー兼パートナーである彼女が一矢放つ。勢いよく一直線に進む矢が的確に目を捉え、ぐちゃ……という嫌な音が先陣切って俺達に襲い掛かろうとしていたハウンド一体から聞こえる。

 ワォーゥと唸りながら体を(すく)めているを確認し、右手の剣で横っ腹に剣閃を見舞う。『奴らは連携プレーを行うから十分気を付けるんじゃぞ。』と、街にいる壮年のNPCが行っていたが、反対にこちらが連携プレーを行えば全く持って大したことがない。


 もはや狼方に注意をしているようなもんだ。

 一連の流れ作業を終え、ハウンドの全滅を確認した後、散ったアイテム達をせっせこ回収していった。 ちなみに、どうして最初からバックに入るようにしなかったとクレームが発生したことが前にあったが、会社は、よりフリーダムなファンタジーを求めたので、体を動かせるようにしました。と返答している。

 彼らの自由が一体何なのかたまに疑問を抱くことがある……。







 テロロロロン~♪テロロロロン~♪

 急な効果音の襲来に思わず体がピクリとした。これはメール受信の効果音だ。変更はできない。目前の水色の六角形がメールマークを包んだその記号を指で触ると、くるくる回転しながら膨張、胸の前まで来るとメールの中身が開いて内容が表示された。

――――――

ハルキ! 今すぐドルディエートナに来い!

緊急事態なんだ!


            ナギ

――――――

 思わず目を見開いてしまったのを確認したのか、隣で様子をうかがっていてたユリーカ、彼女がどうしたのと尋ねてきた。

 すぐさまユリーカに向けてメールを見せた。すると―――


「へーん! ならば私も行くわ。問題ないでしょう?」

 俺は頭を抱えた。

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