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近づく距離




今日も、エリオンはレイの部屋に居座っている。


「ユラちゃんてさ、可愛い顔してるよな」


レイは書類をめくる手を止めない。


「僕はそういう基準はよく分からないけど……

ユラはかわいい人だと思うよ」


「……俺が貰おっかな〜」


レイは少し眉をひそめた。


「……ユラはモノじゃないよ」


エリオンに、咎めるような視線を向ける。


「彼女の心は、彼女が決めることだ」


エリオンはニヤニヤしている。


「怖い怖い」


「……君はこんなところで油を売ってていいのか?」


「いいのいいの。俺、副団長だし。

来週から北の砦行くしな」


少し肩をすくめる。


「行ったら、しばらく帰れねーから」

「先にサボっとく」


レイはため息をついた。


「エリオンの部下が気の毒だ」







その夜、ユラは日本酒を持参した。


ユラとレイが日本酒を飲んでいると。


「飲み慣れないせいかな……少し酔った気がする」


「大丈夫?ちょっと顔が赤いかも……はっ!!」


「どうしたの?」


「ほろよいイケメン……これはゴチソウ……」


「ん?」


「いえ、なんでもないです」


自分は酒に弱いのを忘れてはいけない。

危うく思考が飛んでいきそうだった。


「……ユラも大丈夫?」


その時、部屋の空気が揺らぎ、

振り向けばエリオンが立っていた。




「今日も月夜だな~っと。お!お前ら何してんの?」


二人の方に近寄り、レイの隣に腰を下ろす。


「エリオン……また来たのか。突然転移してくるのはどうかと思うよ」


「何がダメなんだよ?やましいことするつもりか?」


「僕はそんなことしないよ。エリオンじゃないんだから」


「じゃあ問題ないだろ」


「よくないよ。マナーとしてよくない」


「レイってほんと頭カッチカチだよな、ユラちゃん?」


「ザ・王子!だよねぇ‥‥」


「ユラまで?」


レイは少しだけ肩を落とす。


「ここに僕の味方はいないのか?」





「レイとエリオンってさ、ほんと仲良しだよね……」


「子供の頃から一緒にいるからね」


「貴族の子供が、お友達担当みたいな感じで一緒に育つ、アレ?」


「そ。ユラちゃん、よくわかるな」


「それは、本とかで色々と予備知識ありますからね!」


「ユラの国は、皆、文字の読み書きができるんだよね?」


「そうだよ。子供はみんな、ある程度の年齢まで学校に通う決まり」


「それは、国民レベルの底上げできていいなー」


「僕もそう思う」


「今は、みんな一律で教えるのはどうなのかって、賛否あるけどね」


「向き不向きって、あるよなぁ」

「俺も魔術学校の頃にーー」


「ま、魔術学校?!久々にテンプレ通りですね!」


「……前から思ってたけど、何それ」


「あ、お気になさらず!それでそれで?」


「座学つまんな過ぎて、ほぼサボってた」


「あー、目に見えるようだわ……。それで成績は?」


「常にトップに決まってるだろ」


「天才だから?!何それ理不尽っ!!」


レイは思わず吹き出した。


「……っ、ふ……」


口元を押さえる。


けれど、こらえきれずに肩が揺れる。


「……ふ、はは……っ」





ユラとエリオンは、しばし無言になってレイを見つめた。


「レイが笑った」


「ええっ!!今の笑いは初めて見た!」




「……失礼」


一度だけ咳払いをする。


「なんか、エリオンがいると調子が狂うな……」


「えっ!いいよ!今のレイの方が絶対いい!」


ユラは興奮気味に言う。


「今の方が好きだって。良かったな、レイ」


「そうは言ってなかっただろう」


「いいえ、テンプレ王子より今の方が好きです!」


「また出たテンプレ」


「えーと。普段の礼儀正しい感じのレイよりってこと!」


「……ユラがそう言うのなら……」


レイは、わずかに笑った。



――今の方が好き。



その言葉が、なぜか何度も頭の中で繰り返される。


胸の奥が、くすぐったいように温かい。


どうしてだろう。


ほんの少しだけ、

嬉しいと、思ってしまった。






エリオンは、おもむろに立ち上がる。


「そんじゃ、俺そろそろ戻るわ」


「急だね」


「昼間もサボったから仕事溜まってるし」


「えっ、仕事抜けてお酒飲んでたの?!なんてやつ!」


ユラは呆れて言う。



エリオンは、ふと、レイとユラを見て。


そのまま転移して消えた。





「エリオンて……アレでちゃんと副団長できてるの?」


「彼はああ見えて、仕事はきっちりやる男だよ。城で僕と会う時も、別人のような態度だし」


「えぇ、ちゃんとしてるエリオン、想像できない……」


レイは、少しだけ笑ったまま、手元の杯に視線を落とす。


「……もう少し、飲む?」


そう言って、徳利に手を伸ばす。


同時に、ユラも手を伸ばした。


「……あ」


指先が、軽く触れる。


ほんの一瞬。


レイは、そのまま手を引くことを忘れたように、わずかに動きを止める。



その時間が、妙に長く感じた。



すぐに、何事もなかったように視線を逸らす。


「……どうぞ」


ユラは、なぜか少しだけ言葉に詰まりながら、


「う、うん……ありがと」


杯を受け取った。





二人の間に、少しだけ静かな時間が落ちる。


さっきまでの賑やかさが、嘘みたいに遠い。


それでも、気まずくはなかった。


むしろ――


不思議と、落ち着く。





気づけば、月はだいぶ傾いていた。


ユラの体が白い光に包まれる。


「あ、もう時間なんだ!」


「あっという間だね……」


レイが、ぽつりとこぼす。


少しだけ間を置いて。


「ユラ、おやすみ」


「レイ、おやすみー!」


ユラは笑って、軽く手を振る。


そのまま、光に溶けるように消えた。





レイは、しばらくその場に立ったまま、


何もない空間を見つめていた。


そこに、まだ彼女の気配が残っているようで。


目が離せなかった。





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