レイが背負うもの
ユラは、気づくと空中に放り出されていた。
「え?! “どこここ“ 再びっ!!」(3話参照)
「下、見てみな」
エリオンに促されて視線を向けると、
遥か下の方に夜の街が広がっていた。
「ぎゃーーー!!」
思わずお腹に回されたエリオンの腕にしがみつく。
「高い!怖い!落ちる!!」
「落ちねーよ」
エリオンは笑っている。
「本当ですね?!」
「たぶんな」
「いーーやーー!」
命の危機!
とんでもない魔法体験だ。
エリオンは楽しそうに笑っている。
「冗談だよ。落とすわけない。それより、景色見てみろよ」
「………夜景がキレイ。夜なのに、わりと明るいんですね」
「魔導灯だな。夜道を明るくしてる」
「防犯ですか?けっこう、治安良さそう……」
「今見えてるとこ、地平線の方まで、全部俺らの国」
「あんなに遠くまで……?!この街だって、かなり大きいのに」
「そ。ユラちゃんが毎晩しゃべってるレイが、背負ってるもんだ」
「……王子って……責任重大、ですね……」
「怖気付いた?」
「え?それって、どういう……?」
「レイと結婚すると、もれなく王妃だ」
「そんなつもりで来てないですよ!」
「……そう?でも、毎晩会ってるんだろ?」
「毎晩ではありません、鏡が光った時だけです」
「だいたい同じだろ」
「……ちなみにユラちゃん、恋人いるの?」
「いませんけど……」
「ふーん」
一拍置いて、
「……じゃあ、そういう経験は?」
「はあ??!なんてこと聞くんですか!」
「王子の周りにいるし、確認しとかないとー」
「………やっぱり王族の方って、そういう決まりがあるんですか?」
それは、王族あるあるですよね?
ユラはむしろ興味深そうに聞いた。
「いや、ないけど。血筋なんて魔法でわかるし」
「じゃあ、なんで聞いたんですか!」
「んー。単なる興味?」
「おまわりさーーーん!!ここに変態がいまーーす!!」
「わ!ちょ!暴れるな、ここ空中!!」
一方地上では。
レイが悶々としながら待っていた。
エリオンだから危険はないだろう。
二人が消えてしまったので仕事でも片付けようと、執務机に向かったものの、一向に進まない。
ペン先で机をトントン叩いているうちに、紙にはインクが滲んできてしまっている。
そこへ、ヘロヘロのユラを連れたエリオンが戻ってきた。
レイは立ち上がる。
「ユラ!大丈夫?」
「はい……なんとか……。衝撃体験でした…」
「エリオン、いきなり女性を掴んで転移するなんてーー」
「いやー、ユラちゃんの初体験もらっちゃったわ〜」
(空中散歩だけど)
「妙な言い方はやめてください!」
レイは、なんだかさっきからずっとモヤモヤしている。
理由はわからない。……ただ、落ち着かない。
それにしても……
「……二人とも。ずいぶん仲良くなったみたいだね?」
「なってません!遊ばれてるんです!」
エリオンはニヤニヤしている。
「ユラちゃんも、意味深な言い方するなよ」
「誰のせいよ!」
二人の様子を見て、レイはきれいに微笑んで言った。
「エリオン。もう、帰れば?」
エリオンが文句を言いながら帰った後。
「ユラ、空はどうだった?」
いつものようにソファで向かい合って、二人は話していた。
「夜景がキレイでした!私の国よりもずっと暗いのかと思ってたけど……
明るいし、なんか治安良さそうだなって」
「そうだね……歴史的には色々とあったけど……
今、この国は落ち着いている」
「レイや王様が頑張ってるから、ですね」
ユラは屈託なく笑って言う。
「そう言ってもらえると、嬉しいよ」
レイはなんだか、心を優しく撫でられたような気がした。
その夜は、月の光が消えるまで、
二人はゆっくりと話を続けた。




