俺のおかげ②
ユラとの交流を重ねるうちに、
レイは、自分でも気づかないほどゆっくりと変わっていった。
気づけば、夜を待つようになっていた。
昼間の執務中にも空を見上げては、不思議な彼女を思い出して、少し頬が緩む。
天気の悪い日には、何だか気が沈んだ。
けれど、城のものたちが気づくことはなかった。
ーーただ1人を除いて。
夜。
レイの部屋の応接スペースに、くつろぎきった様子で1人の男が居座っている。
「さあ、吐け。何かあっただろ」
「エリオン。さっきから言ってるだろう」
「僕はいつも通りだよ」
「嘘だな。最近やたら天気を気にしてるし、空を見てはニヤついてるし、夜はさっさと部屋に帰る」
「ニヤついては、いないと思うけど」
否定しながらも、レイはさりげなく、窓の外を見る。
「ほら!今も気にしてる」
「いや、明日は視察で出るから空模様が気になっただけだよ。……エリオンも、そろそろ帰ったら?」
そろそろ、月が差し込む時間だ。
何となくソワソワしているレイに、エリオンはますます不審がる。
「もしや、お前とうとうーーー」
その時、レイの鏡が白い光を放ち始め、ユラが現れた。
「……だから、帰れって言ったのに」
レイはため息と共にさっと立ち上がると、ユラに手を貸す。
「こんばんは、レイさん」
「いらっしゃい、ユラ。今日は、いつもより早かったね」
二人の慣れたようなやりとり。
「レイ!!お、お前!」
「やたら帰らそうとすると思ったら……!!」
エリオンは仁王立ちで、叫ぶ。
「なんだソレ!!」
ユラは、初めてレイの部屋に他の人間がいるのを見て驚いた。
アッシュブラウンの髪に、琥珀の瞳。
背は、レイよりも少し高い気がする。
黒っぽいローブを着た男は、
ーーでた〜!!異世界イケメン魔法使い!!
「こほん。レイさん、こちらの方は……?」
「前に少し話しただろう。僕の幼馴染のエリオンだよ」
「あぁ!天才魔法使い!」
「……誰だよ、そんな恥ずかしい呼び名教えたのは」
「いつも自分で言ってるじゃないか」
レイがしれっと答える。
「違う。俺はエリオン・ダルモールだ。
……って、問題はそこじゃない!誰だお前、どっから湧いた?」
「彼女はユラだよ。……話せば長いけど、別の世界から来ている」
「別の世界?!」
「……知られてしまったものは仕方ないな」
レイは小さく息をつく。
「話すよ。……だから、とりあえず座ろうか」
「エリオンさんは、魔術師団の副団長ってレイさんから聞いてたんですけどーー」
「あー。“さん“とかいいよ、めんどくせーし。」
エリオンは、敬語とかもいらねー、と、手をひらひらさせた。
「そう?じゃあエリオンにするね。」
「……え、切替早くない?……そしたら、レイもレイでいいだろ」
ユラはここで初めて、とまどうように視線を巡らせた。
「えっ、レイさんを呼び捨ては、ちょっと恐れ多いというか……」
レイは微笑む。
「僕は構わないよ。僕も、ユラを名前で呼んでいるし…」
「い、いいんですか?……じゃあ……れ、レイ……」
「うん」
「……ちょっと待て!なんだこの甘酸っぱい空気は!」
「別に、普通じゃないか」
レイは真顔で返す。
「エリオン。ユラは魔法の話が聞きたいらしいよ」
「そうなんです!瞬間移動とか!空を飛ぶとか!」
「瞬間移動って……転移のこと?別に、レイだってやるだろ」
「僕は、君ほど気軽にはできないよ」
「そう!だからレイさん、じゃなくて、
レイはまだ見せてくれないんです」
「ユラ。空を飛ぶなんて、危険なんだよ?万一落ちたらーー」
「それは、わかりますけど…」
エリオンは2人の会話を聞いて、ニヤリと口元を歪めた。
「よし!いいぜ、空見せてやる」
「え?」
ユラが問い返した瞬間、エリオンはユラの胴をガシッと掴みーー
「っ!エリオン、待て!」
レイが手を伸ばす。
けれど、その指先が届くより早く――
上空へと転移した。




