ヤケ酒の夜に
「ごめん、もう別れよう」
「なんか……お前は強いからさ。1人でやってけそうだし」
1ヶ月前、彼氏にフラれた。
それはもう、あっさりと。
小川由良は、ワンルームの中央にポツンと置かれたテーブルに突っ伏していた。
家族と距離を置きたくて決めた上京。
寂しさを埋めるように、がむしゃらに仕事に打ち込んだ。
そんな中で出会った人。
優しく、頼もしく仕事のサポートをしてくれる彼をどんどん好きになった。
優しくされた分、自分も支えたくて。
いつしかユラの生活は彼一色になっていた。
「……重かったのかな……わたし……」
今日の昼間、見てしまった。
守ってあげたくなるようなタイプの新人女子と、仲良さげに歩く姿を。
まだ別れて一ヶ月しか経っていないというのに、彼はもう新しい恋人を見つけたらしい。
部屋の片隅にある全身鏡に目をやる。
一人暮らしを始める時、ふらりと入ったアンティークショップで一目惚れして買った鏡だ。
額についている、乳白色でころんとした天然石が月みたいで。
そんなかわいい鏡には、仕事終わりの疲れた顔をした、どこにでもいる女が映っていた。
「……守ってあげたくなるタイプではないよねぇ」
ユラは勢いよく身を起こすと、買ってきたばかりのおつまみとチューハイを取り出す。
「あー!もうやめだ!今日はヤケ酒してやるんだから」
カシュっとタブを開けて、缶をあおる。
しかし一缶飲んだところで、またしても机に突っ伏した。
やけ酒の前にアルコール分解の限界が来た。
「明日から会社気まずいなぁ……もう……いっそどっか逃げたい…」
すると、視界の端で白い光を見た。
お気に入りの鏡が光っている。
「え……?」
満月が映っているのかと思ったら、鏡も、額縁の石も光っていた。
不思議と、怖くなかった。
優しく、包み込まれるような光。
近づいてみると、鏡面が輝いていてユラの姿は映らなかった。
「……なに、これ」
ユラはピンと来た。
異世界トリップものは山ほど読んでいる。
ーーーついに、私の番……?
ユラは鏡にそっと手を伸ばす。
指先が触れた瞬間――
鏡面が水面のように揺れた。
「おお〜……」
次の瞬間、足元が消えた。
体が前に引き込まれる。
「わ、ちょ、待って待って!」
視界が白く弾けた。




