奇跡の代償
その後も、姫の滞在は穏やかに続いた。
幾度か親睦の席が設けられたが——
レイはすべてに、変わらぬ態度で応じていた。
月夜のたびに、月光石は光った。
だが、その輝きは弱いまま。
鏡の接続は不安定な状態が続いていた。
会える日があっても、時間は確実に短くなっていた。
声しか届かない夜もあった。
ある日、レイはエリオンを呼び出した。
「帰ってクタクタのところ呼びつけるから何かと思ったら……」
エリオンは鏡の石に手を触れ、眉をひそめる。
「……確かに、おかしいな」
「石の魔力が、極端に減ってる」
レイは静かに言った。
「新月の日、なぜか……ユラの世界に行った」
エリオンの目がわずかに細くなる。
「それだ」
「お前、無意識にこの石の力を借りて転移したんだ」
レイは言葉を失う。
「自分で転移したなんて……気が付かなかった」
「戻る時も……ユラが戻される時と、同じで」
「……僕の、せいだ」
胸の奥が冷たくなる。
エリオンは腕を組み、少し考えてから口を開いた。
「この月光石は、月夜にしか繋がらなかったんだろ」
「月の魔力の補助が前提だったはずだ」
石を指で軽く弾く。
「……次の満月が、限界だな」
「そこからは月が欠けて、魔力が減っていく」
「こいつ単体じゃ、もう繋がらない」
レイの顔から血の気が引く。
「そんな……」
「もう一週間しかない……」
「まだ、何も解決できてないのに……」
レイは、鏡を見たまま動けなかった。
エリオンは、片眉をわずかに上げた。
一瞬だけ、レイの表情を見つめる。
それから、確かめるように口を開いた。
「……ルドリアの姫は、断ったんだろ?」
「断ったよ」
「エリオンには、言ってなかったけど……
僕は、ユラを選びたい」
「でもこれは国の未来に関わることだ……」
「ユラを彼らに会わせることもできない」
「宰相達を納得させるには――」
言葉が止まる。
エリオンは小さくため息を吐き、肩をすくめた。
「そっちは……俺の出る幕じゃねぇな」
レイは何も言わない。
「石の方は、俺も少し探ってみる」
視線を外したまま、続ける。
「……間に合えばいいけどな」
次の瞬間、空間が歪み、エリオンは転移して消えた。
レイはしばらく動かなかった。
鏡の中には、ただ自分の姿だけが映っている。
満月まで——
あと七日。




