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そばにいてほしい



「やったーー!初めてレイに勝った!!」


ユラは両手を振り上げて喜んだ。

いつもの応接スペース。

向かい合う二人の間には、チェス盤が置かれていた。


「アプリで特訓した甲斐があったわー」



レイは、膝に肘をついたまま、ぼうっとチェス盤を眺めていた。


「……負けてしまったか」


彼らしくなくソファの背にもたれる。



どことなく、ぼんやりしている雰囲気。


「レイ……なんか今日、調子悪い?」


「いや、いつも通りだよ」


レイは微笑むが、なんとなく顔も赤いように見えた。


ユラは一瞬だけ迷ってから、そっとレイの額に手を当てた。


「え!熱あるんじゃない?!」


レイは、ユラの行動に目を見張ったが、気まずそうに視線を逸らす。


「もう!具合が悪いなら言ってよ。

なんで普通に話してチェスなんかしてるの!」


「……他の者にはバレなかったんだけどな」


「そういう問題じゃないでしょ!」


ユラは、少し呆れたようにため息をつく。


「もう、寝た方がいいよ」





「ちょっと、そのままだと寝づらいよね。上着、脱ぐ?」

「……そういえば、最近のレイって、夜なのにちゃんとした服着てるね」


「女性の前であまりラフなのもどうかと思って」


「……そんなの、気にしなくていいのに」


ユラは、レイが脱いだ上着を受け取ると、近くの椅子の背にかけた。


ユラはレイを支えて立たせ、寝室に案内させる。

レイは内心不思議な気持ちで、大人しく従った。





ユラに促されて横になったレイは、

ふと、思い出したように笑った。


「なに?」


「いや……初めて、寝室に女性を連れ込んでしまったなって」


「じっ!冗談言ってないで早く寝なさい!」



ユラは真っ赤になって叫ぶ。

レイはくすくす笑った。





「……そろそろ、戻ろうかな。……レイ、ちゃんと休んでね」



ベッドわきの椅子に座っていたユラが立とうとした時、


気づいたら、彼女の手を掴んでいた。


自分でも、なぜそうしたのか分からなかった。



「あ……ごめん」



我に返って、手を離す。



ユラも目を見張っていたが、

やがて優しく微笑んで、また座りなおした。


「……やっぱり、もう少しいようかな」





二人とも、何も言わない。

静かな時間が流れる。


ユラが、控えめな声で言った。


「レイの普段の仕事姿とか、見たことないけどさ……」


レイは視線で先を促す。


「なんとなく分かる。

たぶんレイって、全部一人でやろうとするタイプなんじゃないかな」


ユラは、穏やかな目でレイを見ている。


「王子だって人間なんだから。具合悪い時くらい休まなきゃ」


「エリオンとかさ」


「レイに頼られたら喜ぶ人。……絶対いっぱいいると思うんだよね」


ちょっと笑って。


「“レイ信者“みたいな人たち」


「そう、かな……」


レイは少し考え込む。



仕事が増えて喜ぶ者はいないと思っていた。

だから、出来ることは自分で片付ける。


それが当たり前だった。


だが――


頼られて嬉しい、という発想は

今まで一度もなかった。



「うん、絶対いるよ」


「信者、か」


ユラといると、自然と笑顔になる。

彼女は、本当に不思議な人だ。




ゆっくりと会話しているうちに、

いつの間にか、レイは眠っていた。


ふと意識が浮上して、目を開ければ、

ユラが座ったまま眠っている。



帰らなかったんだ。



レイの口元が緩んだ。


近くにあった布を彼女の膝にかけて、

ユラの寝顔をしばし眺めた後、もう一度目を閉じた。



翌朝、レイが目を覚ました時には、

ユラにかけた布だけが、椅子に残っていた。


ユラは、鏡の力で自動的に戻ったのだろう。




ユラとは、ずっと一緒にはいられない。


誰もいない椅子が、レイの胸をしめつけた。


さっきまで、そこにいたのに。





僕は、ユラのことーー






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