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俺のおかげ






あれは、二人がまだ無邪気な子供だった頃ーー




「なあ。運命の出会いって信じる?」


「……エリオンて、意外とロマンチストだよね」


「答えになってない」


「そうだな……僕は、信じる……かな」


「でも、それがとんでもない人だったら、父上が困っちゃうよね」


「お前……夢がないな。見た目天使で中身はじーさんかよ」


「エリオンはさ……」


「うん」


「見た目ワルそうだけど、中身もそのまんまだよね」


「…………」


王子はあの頃、声をあげて笑っていた。









城の長い廊下を、数人の側近と近衛を従え、一人の男が歩いている。

高窓から差し込む陽光が白い石床に反射し、その中を進む姿は自然と視線を集めた。


近衛の兵がすっと道を空け、侍女が深く頭を下げる。

その堂々とした歩みに、誰もが無言で敬意を示していた。



「殿下」


エリオンは歩みを早め、彼の隣へ並ぶ。


「ああ、エリオン。遠征から戻ったんだね。これから陛下に報告に行くのか?」


「いえ、いま終えてきたところです。少しお時間をいただいても?」


「……そうだね……では少し、散歩でもする?」


殿下と呼ばれた男は穏やかに微笑み、周囲に一言告げると庭園へと足を向けた。





人払いを終え、他の気配が遠ざかると、エリオンは深く息を吐き、襟元を緩める。



「はぁぁぁ……やっぱ城は息が詰まるわ」


「エリオンは相変わらずだな」


「お前こそ、いつ見ても変わらないな。今日もこれから縁談か?」


問われた男はわずかに視線を伏せた。


「そう。ここ最近は毎日のように」

「……三十までには世継ぎが必要らしいよ」


重臣たちですら、まだ決めきれない。

当の本人もそれに合わせるように、選択を先延ばしにしてきた。


「そろそろ、のらりくらりも限界、か……」


「……最善を選べばいいだけだ。それは分かっているんだけどね」

「でも僕は、まだ何かを待っていたいような……」


穏やかな声音。

だがエリオンは知っている。


この男は昔から変わらない。

叱られたところを見たことがない。

どんな場でも“正しい王子”で在り続ける。


それがあまりに自然にできてしまう。

だからこそ、誰も彼の本音を探ろうとしない。




「……君の前だと、つい妙なことを言ってしまうな」


そう言って王子は自嘲気味に笑った。


「今のは、忘れてくれると助かる」





「……まあ、宰相が怒鳴り込んでくるまでは放っとけよ」


「簡単に言うなぁ……」


彼は穏やかに笑う。

その笑みは、いつだって崩れない。




エリオンの胸に、あの頃の光景がよぎる。




側近たちが近づいてくるのが見える。

自由時間の終わりだ。


エリオンはニヤリと口を歪め、背を向けた王子に向かって少しおどけて言う。


「この俺が、願掛けしといてやるよ」


「脳天に雷が落ちたみたいな出会い、期待しとけ」


王子は小さく笑った。


「期待しないで待っておくよ、天才魔術師殿。」


その姿を見送りながら、エリオンの胸はざわついた。





このまま、誰かの都合で決まる未来でいいのか。


彼が心から笑う日は、きっともう来ない。




エリオンは小さく舌打ちし、転移魔法を展開する。



王子の私室には、幾重もの結界が張られている。

だが、幼い頃から出入りしてきたエリオンの魔力は、それに拒まれたことがない。


ふっと景色が変わり、目的の場所に降り立つ。

幼い頃に見た、古びた鏡は、変わらぬ姿でそこにあった。


鏡の額縁には、月のような石――月光石がはまっている。


それだけが、わずかに光を帯びていた。








十四歳の自分と十二歳の王子。


勉学に励む彼を横目に、

古代魔法の解読に夢中になっていた日々。

その中で見つけた呪文。


『星結び』


呼び合う魂を引き寄せる魔法。


おもしろい。


内緒で、王子の運命の人を探してやろうと思った。



しかし当時は失敗した。



鏡に映るのは、かすかな人影。

輪郭すら曖昧で、遠い霧の向こうのようで。


でも、確かにいる。

きっと、そのうち現れる。


その時は、それで十分だった。




あれから十五年。

ーーーもう待っている時間はない。



王子の未来は、誰かに決められようとしている。



エリオンは祈るように呪文を紡ぐ。


白い光が鏡面を満たし、月光石が淡く脈打つ。


やがて、ぼやけながらも確かな女性の姿が浮かび上がった。


しかし、まだ霞んでいる。

こちらから迎えに行くことはできそうにない。



「どこにいるんだよ。頼むから……急いでくれ」



光は細い糸のように収束し、


すっと月光石へ吸い込まれた。










初投稿です。

気に入っていただけたら嬉しいです。

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