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20話 雷鳴は二度轟く

 広間を白く染め上げる、強烈な光。


 それでもみんな、光に目を焼かれながらも、けしてそれから目を離そうとはしない。


 そして。僕が右手で番えた矢を静かに放す、その瞬間。周囲から音が消え去り、雷の矢から放たれる魔力がのたうつように広がっていく。


 魔力にあてられたのか、何人かの魔術師が気を失って崩れ落ちた。


「お、おいお前たち。あれは大丈夫なのか……!? 私を守ってくれるんだろうな!? 宮廷魔術師団長よ――」


「――――少し、黙れぃ! 総員、命が惜しければッ! 持ちうる力を振り絞り、死ぬ気で! 迎ッ撃、せよ……ッ!!」


 驚いた陛下、尻もちなんかついちゃって……。それに団長も、もう取り繕えないほど焦りが顔に出てます。ちょっと震えてませんか?


 ……それじゃあ。どうか、せいぜい、頑張ってください――。


 そう心の中でこぼすのと同時に。僕は、右手で握っていた雷の制御を――解き放つ。


「ッ来るぞぉ! 【黒焔】よッ!!」


 僕の制御を外れ、彼我の距離を一瞬で埋める雷撃。射線上の床は深く抉れ、まっすぐ一本の線を描く。


 そして、その終着点で。


「ぐぉ、く、この……ッ!!」


 立ち昇る遠大な黒炎が、激しく燃え上がり火の粉を散らし。――そして、僕の放った巨大な雷をなんとか受け止めてる。


「さ、さすがだ! この私を守るべく、その卓越した力で――」


「――やかましいとッ、言っておる! 魔術のマの字も知らんボンクラが集中を乱すな! こちらは死ぬ気で…………ぐぅううううぉ!」


「ぼ、ボンクラ……」


 ボンクラだって。そんな陛下は、ただ静かに終わりを待つといいよ……。


 そう、冷たく見ているうちに。


 僕の魔術を押し返そうと、団長以外の者たちが、続々と魔術を発動し始める。宮廷魔術師たちが、その力を振り絞った魔術を。


 いろんな人物、いろんな属性、いろんな魔術。そこには様々な背景があって、そしてそれぞれに思いがある。陛下にも、そして陛下に従う……いや、利用している団長にも、同僚のみんなにも。


 僕には、その善悪を判断するような権利はないけど。……それでも、言えることはいくつかあるよ。


 僕ができるだけ客観的に見た限り、陛下より姫の方がずっと施政者に向いてるだとか。実績もそれを裏付けているだとか。


 人気の有無で王の適性を語るつもりはないけど。それでもやっぱり、陛下たちのやったことを見てる人は見てる。


 ……コール村のことだって、そうなんだよ?


 ――ただ。今、僕がぶつけようとしてるこの想いは。


「口だけは回る誰かみたいに、大義だなんだと理屈をこねるつもりはないんだ。ただ、がらんどうの僕にも……まだ譲れないものがあったんだって、姫のおかげで分かったから。だから、ね」


「……何を、訳の分からぬことを! 貴様は私のおかげで宮廷魔術師になれたというに、この恩知らずめが……!」


「そうですね。団長が僕を落とさなかったおかげで、姫やマグワイアさんみたいな人に出会えました。そのことだけは、感謝してもいいかもしれません」


 姫は言わずもがな。マグワイアさんも、姫のついでかもだけど、初対面の僕のために命を捨てようとまでしてくれたいい人だ。


「ならば……! この私に、ひいては陛下――王国自体に楯突く大罪、大人しく命をもって贖うのだッ!」


「ふふ、負けそうになって口舌でどうにかしようとするなんて。王国一の魔術師の名が泣きますよ」


「ッほざけ! 生意気な小僧が! ……だがその驕り、我ら宮廷魔術師の誇りの前に命取りとなったな……!」


 なにを……? と、そう思った瞬間だった。


 さっきまで拮抗していた、僕の魔術と団長たちの魔術が――――わずかに、押され始めた?


「ハハハッ! たった一人で、宮廷魔術師でも精鋭を揃えた私たちと戦おうなどと! それを驕りと言わずしてなんと言う?」


「……」


「確かに認めねばなるまい。アルベルト・コール、貴様は私がこれまで見た中で最上位の魔術師だ。ともすれば、一分野では私を超えているやもしれん……。だが、魔術師の実力は、魔術の技術だけで決まるわけではない! 戦術、用兵、精神性……その他さまざまな要素が絡み合い、真に一流の魔術師足り得るのだ!」


 少し前の様子が嘘のように、声高らかに叫ぶ団長。


 現金だなあ。でも確かに、僕は相手の戦力を見誤ってたのかもしれない。


 平均的な宮廷魔術師二十人相当はありそうな団長に、平均より上の宮廷魔術師が三十人ほど。確かに、普通に考えるとかなりの戦力だ。雷槍数十本分の攻撃じゃ足りなかったのかも。


 そう反省してると、後ろから掛けられる声――。


「――パパっ! ……おねがい、無理はしないで! わたし、パパがそばにいてくれるなら王女なんかやめたっていいから! だから、いっしょに……っ!」


「お熱いねぇ……。ただ、姫に王女辞められるのは俺たちが困っちまうからな。……任せな。俺が二人は絶対逃がしてみせるし、その後の生活だって――」


 そんな、心配の声に。


 僕はただ、ちらと振り返って笑みを見せて。


 そして、体内の魔力炉が唸りを上げた次の瞬間。




「――――明けの明星。二連」




「――……なッ…………ぁ!?」


 絶句する団長に向かって、再び弓引く僕は言った。


「一つじゃ足りないみたいでしたので。――どうぞ、二つ目です」


「ば、バカな……!? こんな、これを同時に二つ!? 同時操作はもう限界だったのではないのかッ!?」


「そんなこと、僕は一言も言ってませんよ? ――では、話はこれで終わりです。魔術師らしく、あとは魔術で語りましょう」


「――!! ま、待て! 待ってくれ! ……分かった、貴様は何が望みなのだ!?  地位か、名誉か、金か!? そのどれでも私が、いや、そこに転がっている陛下が! 望むものを与えると誓う、だからッ!」


 それ以上の問答はもはや無用。


 必死に腕を振って僕を止めようとする団長に。床にうずくまって頭を抱えている陛下に。


 僕は笑って、言ってやった。




「――――地獄に堕ちて。ひとでなし」




「や、やめろおおおおぉおおお!!」


 再び広間に満ちる眩い光。


 激しい雷鳴は、尾を引く団長の悲鳴を引き裂いて。やがて、視界も音も、すべてを雷一色に染め上げる。


 そうして、次に視界が晴れたその時。この場で意識を保っているのは姫陣営の者だけ――――と、いや。……まだもう一人いたね。


 僕が加減してあげたことを分かっているのかいないのか、情けなく腰を抜かして涙と鼻水を垂らす……この国の、最高権力者。


 陛下は化け物を見るような目で僕を見て、震えながら言った。




「――ひ、ひぃ……。す、すまなかった。ッいや、申し訳、ありませんでしたぁ……ッ!」




 泣きながら床に額をこすりつける、ナイスミドルが見る影もない陛下。


 僕はこっちに駆けてくる姫を待ちながら。


 ……ふう、と。息を吐いた。




 ――そうして。


 時間にすればたった数日。それでもずいぶんと長く感じた、僕の辞職にまつわる王宮内の動乱は。


 こうして、ひとまずの終幕を迎えたのであった――。




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