表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/20

18話 天の怒り

 久しぶりに、すこし怒ってる。


 僕にすがりつく姫の、よりによって頬に火傷の痕があった。姫はぜんぜん気にしてない……どころか、僕の体を揉みくちゃにすることで必死だけども。


 それでも、きれいな女の子の顔に傷をつけるなんて。実行したのは団長でも、独断で王族に手なんて出せるわけないから、指示したのは絶対陛下だ。


 コール村を滅ぼした時と同じように、自らは手を汚さずに……。


「――姫、ちょっと……っはなれてくださいね」


「んんん! まって? もうちょっとだけ……」


「もう、状況が状況なんですから」


 力、つよい……。姫ずっと身体強化しっぱなしだから。


 よいしょ、と。


「ああ。んん、パパのイジワル……」


 パパ呼びが標準になっちゃってる……? それは僕が社会的に死ぬからやめて欲しいな。


 ……そのお願いは後でするとして。いま大事なのはあっちの――。


「――なぜお前がまだ生きている、アルベルト・コール! あれほどの魔術をその身に受けていながら……!」


 陛下、えらく興奮してるみたい。……そんなに怖いかな? かつて自分の指示で消え去った村の者が、こうして敵として目の前に立つのは。


「なんだ、その目は? 頭を垂れろ、私は王だ! その……見下すような目をやめろと言っている!」


「陛下、どうか取り乱されませぬよう! あの男は得体が知れませぬ……! 私の黒焔を受けてあの程度の火傷。それに千切れた腕が元通りになるなど――!」


「……っ。だが、お前が、お前なら……あの生意気な小僧を殺せるな……!? ――やるんだ!」


「はっ。――お前たち、構えろ! 魔術師は私に合わせアルベルト・コールを討て! 騎士と影はそれぞれの判断で敵の近接戦力を抑えろ!」


 なるほど。騎士たちを僕に差し向けることはなく、あくまで自分主体の魔術師陣で僕の相手をしようとしてる。団長はいわゆる、古き魔術師だね。


 自身の魔術に自信を持ち、魔術師同士の戦いでは魔術の腕で勝敗を決める。肉弾戦や近接戦闘職の助けを受けることは恥……みたいな価値観だけども。


「でも。一対一じゃない時点で、ね?」


 保険なのかもしれないけど、部下の魔術師たちにも声を掛けてる辺り、なんだか中途半端な誇りみたい。さっきも不意打ち受けてるし。


 まあ、いいや。それじゃあ、さっさと行こうか、と。体内で魔力を練りながら、敵に近づこうとした時だった。


 さっきから僕と姫のやり取りを邪魔せず、ずっと陛下の方を警戒してくれていた騎士のお兄さんが、とうとう僕に向かって口を開く。


「……少年。待ってくれ」


「? どうかしましたか、お兄さん」


「お前さんみたいな子にその呼ばれ方は、ちょっと変な気分になるな……」


 変な気分とは。……ああ、もう団長たちは魔術の行使に入ってる。話は手短に。


「ああ、気にしてることは分かる。いい、話はすぐ終わるから。単刀直入に言うが――――少年は、殿下を連れてここを逃げてくれ」


「え?」


「お前さんが魔術、近接とも相当できるのは分かってる。だが、さすがに宮廷魔術師団の頭が率いる魔術師集団には敵わんだろ。ここは俺たちが受け持つから、若人たちはとっとと逃げてくれ」


 そしてお兄さんは「じゃあな」と残し、騎士剣を片手に団長たちの方へ駆けていく。


 ……やる気満々だったんだけどな。果たして、あの人に任せちゃっても大丈夫なんだろうか?


「あれは騎士団に四人いる師団長の一人、マグワイアよ。わたしの陣営だといちばん強いの。……あっ、パパを除いてよ?」


「僕が最強かどうかは置いておいて。マグワイアさんは、うちの団長とかにも勝てそうですか?」


「うーん、そうね……」


 顎に手を当て、可愛らしく首を傾げる姫。


 あ、戦いが始まっちゃった。確かにマグワイアさん、自分から戦闘を代わってくれただけあってすごい手練れで、団長の魔術を切り裂いたりしてる。騎士団の師団長は伊達じゃないみたい……だけど。


 姫は、僕のローブの焦げを指でつまみながら答える。


「――今の状況じゃ、勝てないとおもう……」


「……」


「同格の騎士と魔術師、一対一ならまず騎士が勝つけど……いまはそうじゃないもの。すぐ負けちゃうことはなくっても、そのうち」


 ふむ。政治であれ戦闘であれ、正しい知識を持ったうえでの判断なら、きっと姫の言ってることは正しいんだろうね。


 でもだったらと、口を開こうとしたその時。


 姫はひどく不安げな表情で、僕の手を取った。


「だから。ねぇ……マグワイアの言うとおり、いっしょに逃げよ……?」


 ……一回取れた腕の切断箇所は、魔術で治した後も、新しく張った皮膚による白い線が残った。姫の白くて滑らかな指はその線を撫で、どこか媚びるような目つきで見つめられる。


 やっぱり、一回大怪我したのが姫を不安にさせちゃったみたい。また僕が怪我するんじゃないか、死んじゃうんじゃないか、って。姫の瞳にそんな恐れが渦巻いてるように見える。


 でも、そっか。それってつまり…………姫は、僕が正面から彼らと戦って、それでも傷を負うと思ってるってことだよね。それか、負けちゃうと思ってる?


 姫なら、分かってくれてると思ってたんだけどな。――僕が彼らに負けることなんて、ありえないって。


 それなら、もう。見せた方が早いよね。


 僕は姫の腕を優しく解き、いつもより丁寧に体内の魔力を精錬し始める。


 丹田に集め、ぎゅっと圧縮。そしたら空いた隙間へ、また湧き出す魔力を詰め込んで。


 ――圧縮、生成、圧縮、生成。その繰り返し。


 そうして、あまりの密度に弾けそうになったら、今度は魔力の塊を小さな粒状に分け、それぞれをほどよく圧縮した魔力の層で覆ってやるのだ。それで安定するから、また高密度の魔力粒を寄せ集めてさらに圧縮……と。


 そうして出来上がるのは。――体の中に、煮えたぎる魔力の炉があるような状態。


 そこから、体内の魔力炉をさらに高負荷で稼働させてやれば。


 ――体から漏れ出た魔力が、火花のように弾け始める。きらきら、パチパチ、と。


 普通に魔力を高めただけじゃこうはならない、魔力の揮発現象。


「っ! なに、これ。こんな魔力の挙動、見たことが――」


 姫は普段の片鱗が見える表情で、驚きながら魔力を検分する。


 よし。それじゃあ――あの人でなしの権力者たちにお灸を、と。僕は向こうへ歩を進めようとして……それでも。


「っま、まって! あぶないから――」


 ここまで見せても、まだ姫が僕へ追いすがるものだから。


 一線越えた陛下たちを相手に、やられるがまま逃げたって状況は良くならないし。……それになにより、僕は納得できない。


 だから。僕は姫のおでこにツンと指を当て、優しく言うのだ。


「弟子は生意気言わないの。――黙って見てる」


「っ……」


 一瞬の間の後、なんだかとろんとした顔で動きを止める姫。その隙に前へ。


「……あっ」


 姫がこぼした声は聞かなかったことにして、僕は魔術陣を二重に展開。真っ白な魔力で編まれたそれは、発動する魔術の規模に応じた巨大さに。


 そうして、高い天井まで届くその陣に、精錬した超高密度の魔力を流し込んでやる。スムーズに行き渡った魔力は強烈な白い光を放ち、そして。


 最後に、鍵となる言葉を口にした。




「【炎】と【風】――――天空神の雷槍(ケラウノス)




 直後。


 魔術陣から浮かび上がるように現れたのは、雷で象られた槍の葬列。


 僕の周囲を埋め尽くすその数――――――二千。


 全ての切っ先は、団長たちへ向けられ――。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ