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17話 復活

 騎士マグワイアは、剣を振るって黒い炎の残滓を払うと叫んだ。


「動ける者は、陛下たちの後ろにいるやつらを警戒しろ! 殿下のそばには俺がつく!」


 アルベルトの魔術を耐えきっていた精鋭――マグワイアの部下である騎士たちは頷くと、剣を抜き、そのわずかな人数で陣をしく。


 それを見た王はこめかみにぴくりと青筋を浮かべ、しかし平静な声音を繕って言った。


「――君たちはいったい誰に剣を向けている? その忠誠、私に向いていると思っていたのは勘違いだったか?」


「……陛下、お許しください。このマグワイア、確かに一度は王へと剣を捧げましたが。……ここ最近の国内での混乱とその対処……心を痛める騎士は部下にも多く」


「まさか、君もあれを私の失策だと宣うクチか?」


 マグワイアは青筋を立てた王を見て、やはりこれ以上の陳情は無駄と悟る。国内にあれだけの被害が出ているにも関わらず、いまだ有効な手は打たれず国民は危機に瀕しているというのに。


 ――昨今、隣国の旧王派残党がアトラス王国各地で散発的にテロを起こしている。人や建物を破壊し、作物を荒らすのだ。


 加えて、今年のアトラス王国はひどい天候不順で不作だったこともある。元から余裕のなかった農村などはひどく困窮していた。


 だというのに。王は最低限の派兵を指示したのみで、リソースの多くを隣国新政府との賠償交渉に充てている。交渉を優位に進めるためと、多くの兵を隣国国境へ展開している始末だ。


 それはともすれば、国内の安定や実際に被害を被る民を蔑ろにしているように見えて。国内へ入り込んだ反乱因子を着実に摘む指示をしたキルリエラは、また意図せず評判が上がる形となっている。


 そんな思いが、非難の視線へ現れてしまっていたのか。……王はもはや、憎しみさえ露わにしてマグワイアを睨む。


「私は国主だ。政治には高い視座をもって臨まねばならない。ああ、確かに被害に遭う国民には何らかの手当てがいるだろうしかし……! そのための原資は? 今後同じことを起こさないためには? ……この災いを、福へと転じさせるにはなにをすればよい!? それを考え為すのが、国王というものだ!」


「…………確かにそうかもだが、それで大きなリスクなく助けられる命を見捨てるのかよ。優先順位の判断がおかしいんだ……。俺にはもうあんたが、歴史に名を残すでかい手柄を上げたがってるようにしか見えないんだよ……」


 マグワイアがこぼした言葉は、王の耳には届かない。宮廷魔術師団長以下の称賛を受け、大義をもったつもりで事を為そうとしているだけだ。


 そして。王の中にだけある大義は、もはや実の娘を手に掛けることすら正当化してしまうほどに膨れ上がってしまった。


 王は自信満々に、アルベルトを探るキルリエラを指差し言った。


「――かの娘、キルリエラ・アトラスは逆賊である。かねてより王制を揺らがしかねない動きを見せていたところに、とうとう実際の行動を起こしてしまった」


 宮廷魔術師団長を始め、王側の戦力がその言葉に耳を傾ける。


 マグワイアは戦闘態勢を解かず、如何にしてキルリエラを守るか頭を巡らせ続ける。


「調査の結果、娘の裏で糸を引いたのは先ほど誅した若き宮廷魔術師と判明している。かつて戦争の悲劇に沈んだコール村の生存者……その行き場のない恨みが、結果私に向いてしまったことを悲しく思う」


「……陛下、それについては申し訳ありませぬ。先代の宮廷魔術師団長より強引に推薦されてしまい、私としても宮廷へ迎え入れるしかなく。……しかし、思えばあのとき拒絶しておくべきであった。あの若作りの魔人に、もはや宮廷での力などなかったのだから」


「うん、しかし過ぎたことは仕方がない。お前でなかろうと、先代魔術師団長であり魔術学園長でもある者に請われれば、一度は受け入れるだろう。このような危険分子を宮廷へ推薦した彼女の咎は、また追って沙汰を下すとして」


「……ふは。そうですな、そこはなにとぞお願い申し上げたく……! しかし差し当たっては――」


「ああ、まずは。そそのかされたとはいえ、王に牙剥く大罪を犯し、王国へ大きな動乱を招きかねない行動に出た我が娘を」


 もはや、王たちの頭の中では前言を翻すつもりなど到底ないだろう。マグワイアはちらと後方に視線を向ける。


 そこにいるのはひどく痛ましい、小さな背中の少女が一人。広範囲にわたって崩壊した壁の残骸を掘り起こし、もはや生きてはいないだろう少年を泣きながら探している。


 できることなら、あの類まれな術師であり、キルリエラの頑なな心をほぐした少年と、ぜひ言葉を交わしたかったものだが、と。マグワイアはそう心の中で思う。


 いくら治癒魔術を使えたところで、あれだけの火力を浴びて生きてはいられまい。意識を失った時点で魔術を使う芽は完全に消え、そのままお陀仏だ。


 ……さて、では何かしら行動を起こさねばだが。この寡兵で宮廷魔術師団長をはじめとした戦力に打ち勝つのは相当に厳しい。


「殿下も、おそらく俺の話を聞けるような状態じゃない。……部下たちには悪いが、囮をやってもらってる間に俺が殿下を連れて逃げるのが一番マシ、か?」


 決断にかけられる時間はもはやない。ならば、やるしかないだろう。


 優秀な部下たちだ、なにも言わずとも意図は察してくれる。逃げる確率を上げるため、敵の隙をついて一気にこの場を離脱する。


 キルリエラを狙う攻撃を止めようと部下たちが動くとき。そこが好機だ、と。そう意識を集中させるマグワイアの視線の先で。


 王はこちらを指差し、口を開け。


 そして、とうとう。


「さあ。我が娘を、討――」


 王命を吐き切る、その直前だった。




 ――――まるで、背後で爆発が起きたかのように。




 信じられない量の魔力が、瓦礫の下からあふれ出した。


「ッ!?」


 全員が動きを止めるほどのそれ。マグワイアはとっさに後ろを振り返り、そして見た。


 魔力の発生源で、瓦礫がとけるように分解されていく。あまりにも強烈な魔力がそうさせるのか、金色の光の中で壁の破片が細かい粒子と化していき、最後には消え失せる。


 そうして、なくなった瓦礫の山の代わりにあるのは、ただ周囲を照らす眩い光のみ。それも次第に薄れていき。


 現れたのは。




「――――ぱぱぁ……っ!!」


「――待たせてごめんね……姫」




 マグワイアは驚愕する。そこには、ところどころに火傷を負ってはいるものの、明らかに致命傷とは言えない姿のアルベルトが。


「オートで万象回帰(リグレッション)発動するようにしてたんですけど、治しきれなくて……」


 なにやらとんでもないことを言っている。マグワイアは眉根を寄せる。


 自動的に? 治癒魔術を? そんなことが可能なら戦闘で魔術師は死なないではないか。聞き間違いか? と。


 ……しかしどうやら、さすがに失った腕までは戻っていないようだが。


「ああ、姫。それ()、持っててくれたんですね。汚いのにありがとう……」


「っ……!!」


 と思っていたら。殿下が大事に抱えていた真っ黒の腕を受け取ると、おもむろに切断された腕の断面を元あった場所にくっつける。


「いたた。【……】――補填(プレア)


 唱えると、黄金の光が散った次の瞬間には……なんと、焼き切れていた断面がくっつく。しかも、遠目だが「炭化した腕」から「火傷だらけの腕」くらいにはマシになっているように見える。


 マグワイアは夢でも見ているのかと、己の目をこすった。


「とりあえず、急場なのでこれくらいで。……さて、それじゃあ姫――」


「――っああああよかっだぁ……っ! やっぱり、やっぱりっ、いなくなったりしなかった……! だって、パパがいないとわたしも生きていけないもん! 置いてかれるわけない!」


「……うん、そうだよ。もう、無責任に姫から離れることはないって誓う。ごめんね、心配かけたね。もう大丈夫だからね」


 そうして、この場の全員が呆気に取られているうちに。


 大泣きするキルリエラにべったりしがみつかれながら。アルベルトは彼女の少し焦げた銀色の髪を優しくかきあげて、じっとその泣き顔を覗く。


「ちょっと、火傷してる……。防ぎきれてなかったんだ。……じゃあもう、いいですよね」


 そして、言った。




「――――彼らはみんな……敵だね」




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