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15話 いっぱいいっぱい

 ……この場に来てからずっと、いくつもの強烈な視線が僕に向けられてる。


 今は、いつも通り恨めしい視線のカレンさんに、協力してくれた他二人の影。それと、僕の魔術をまだ耐え続けてる騎士のお兄さんなどなど。


 でも、そんないくつもの視線を足し合わせたてもまだ足りない、ずっと重たい感情をぶつけてくるのは――。


「――どうして、当たらないの……! っもう!」


 僕より上回る速度で、空中に銀の残光を引きながら突っ込んでくる姫。


 確かに速いけど……でも。


「姫の弱点は実戦経験の少なさです。その速度は脅威でも、速すぎて直線的だから、見切れる目を持っていれば避けられる」


「そんな簡単に見切れるはずないわ……! アルベルト、魔術師なのに!」


「身体強化と同じですよ? こうやって目に魔力を集中させたら、ほら」


 パンッと空気が破裂する音を伴って、僕の胸に突き出される小さな拳。そんな速度でもちゃんと見えてれば。


「――ね?」


 こうやって半身になるだけで……ローブが触れるほどのすれすれでかわせるんだから。


 遅れて届く、観衆が息を呑む音。


「それなら! もっと! 変化をつけて……!」


 僕の横を通り過ぎた姫が、とんぼ返りで戻ってくる。しかも今度は……接触の瞬間、不自然に軌道を曲げて!


「っと! 危なかったです、今のは……!」


「またダメ……ッッ。もぉ!!」


 ああ、姫、ちょっと退行してます。まだ何人か見てますからね。もうちょっと大人に……。


 でも、そんな態度に反して。連続して向かってくる姫の動きはずっとクレバーだ。さっきまでの直線的な動きじゃなくて、高速移動中、なんなら空中でも急激に方向転換してくる。


 これは……魔力の放出だね?


「その魔力、そういう性質もあるんだ。魔力だけで、物理的な力を生み出せる……」


「もおおぉ……っ!」


「おとと、危ない。さすが姫、成長が早い……」


 姫の動きがどんどん洗練されてく。


 加えて。姫はまだちゃんとした魔術使えないけど、この特殊な魔力が万能すぎて魔術を使うまでもなく隙が無い。


 たぶんこの魔力、純粋に出力が高いだけじゃなく、術者が求める形へと自在に変わるような性質があるのかも。さっき無詠唱で姫の周囲を無酸素にしたけど、何にも通じてなかったのはきっとそのせい。


 でも、だからって思いっきりやって姫を大怪我させちゃったらまずいから。


「ちょっとずつギアを上げて試すしかない、ね」


 ――と、いうことで。僕たちの衝突はどんどん激しさを増していく。


 そして、この広間が僕たちの魔術でボロボロに崩れかける頃には。




「――――ぅううううう゛ッ。これじゃっ、…………アルベルトが、いなくなっちゃうぅ……っ!」




 こぼれる涙をぐしぐしと拭いながら、必死に眦をあげて。頬を真っ赤にしながら、それでも僕に向かうことをやめない姫。


 ……こ、これじゃなんか、僕が悪者みたいな。カレンさんや騎士のお兄さんたちからもすごく責める視線を感じるよ。


 というか、いなくなるって? もしかして姫、まだ僕が黙って逃げると思ってる?


 ……そういえばちゃんと説明してなかったっけ。


 僕はもう、姫の人生を歪めてたことを知っちゃったから。僕みたいな半端者が、迷惑をかけちゃってたんだから。


 だからもう、たとえ陛下に命令されていても――――――無責任にいなくなったりはしないって。


 そう、言おうと思った直後。


 ――明らかに今日最速の拳が、僕の眼前に迫る。


「っはや――。姫、これ僕と約束した出力を超えて……!?」


「アルベルトがいなくなったら、だ、誰がわたしを撫でてくれるのっ!? ホントのわたしを見て、褒めてくれるの!? そんなひとだれもいないの! ねえっ!」


「ちょっと、姫……っあぶな」


「――ねえお願い、いかないで……。ぉ……がぃ、ぉねがい、お願いおねがいおねがい!!!」


「あの、姫! 僕はもう、姫のもとを去ろうとは――」


 明らかに平常じゃない、いっぱいいっぱいになってる姫に、なんとかそのことを伝えようと。


 そう、思った時だった。


 色々と許容量を超えちゃったらしい姫は……とうとう言っちゃったのだ。




「――ぜったい、死んでもはなさないッ!! アルベルトはわたしの……――――わたしだけの、パパなんだからぁ……っ!!」




 パパ!?


 それ、ここで言っちゃ一番まずいやつ……。ていうか、いつものごっこ遊びでもパパとまでは言われてなかったのに……!


 ほらみんなポカンとして……カレンさんはなんか、頬っぺた真っ赤にして鼻の穴膨らませてるけども。


 どうするこれ。っとりあえず、周囲の視線はこの際おいて、まず姫の誤解を――




「――聞いたか? 宮廷魔術師団長。娘はどうやら、私の知らないところで年下の父を持ったらしい」


「洗脳……それに近いことでしょうな。うちの部下が申し訳ありません。落とし前はこの私が」




 王のいるエリアへ繋がる道の先に、人影が

……!


 いつの間にと驚く前に、放たれるは――


「――【黒焔】、地獄の釜(プルガトリオ)


 黒々と煮えたぎる、禍々しい業火。


 こともあろうに、姫まで巻き込む規模で――!? とにかく姫だけは……!


 圧縮した空気の層に、大理石の盾。焼け石に水でも、出せるだけの水を間に浮かべて。


 そこまで準備した時点で、黒炎の帯は凄まじい圧で僕たちを包み込み、そして。


 咄嗟のことで姫より防御が薄かった僕は、瞬く間に大火に全身を焼かれ……蒸発する水分で眼球が損傷し光を失う。


 そのまま、押し寄せる炎の圧力で吹き飛ばされ――




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