表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/16

13話 舞踏の準備

「――なあおい。あいつはいったいなんなんだ? いま確かに首から血を噴いて――……治癒魔術師か? 王国でも数人しか使い手がいないと聞くが」


「いいや。私はあの小僧を知っている。アレは最年少の宮廷魔術師だが、固有魔術も使えぬ凡夫のはず。治癒魔術など使えるはずがない……!」


 やっぱりみんな混乱してる。僕のこと知ってる宮廷魔術師(同僚)もいるから余計に。


 ふふふ。この治癒魔術みたいなのを習得したのはつい最近、陛下にクビ宣告されていろいろ試し始めてからなんだ。


 もちろん姫も知ってるはずないし、だからこそさっきの行動が効果的だった。


 ……さて。じゃあそろそろ、と。魔力をゆっくり練り上げようとしたその時。


 くしくしと涙を拭いた姫が、必死に平静を取り繕って叫んだ。


「全員、構えて……! でも、ぜったいに彼を傷つけないで! 無傷で捕えるの!」


「殿下、しかしっ。子どもとはいえ、やる気の宮廷魔術師相手で無傷ってのはさすがに無茶な……!」


「いいや大丈夫だ! 先ほども言った通り、アレは固有魔術すら持たない半端者。私たち魔術師が守り、貴殿ら騎士が攻めれば……気を失わせる程度は容易い!」


 よしよし。やっぱり姫の号令で、こっちに有利な状況になった。数で差があっても本気で戦えないなら大丈夫。


 それじゃ、さっそく魔術を。


 そう思って魔力を練った瞬間。反応したのは一人の騎士――。


「ッ! 全員警戒しろ! なにか、妙な魔力を感じるぞ……! 魔術師殿、防御は頼んでいいんだな!?」


「大丈夫だ、騎士殿。アレから感じる魔力はごく僅か! あの程度、基礎魔術で簡単に防げる……!」


「そう、なのか? いや、宮廷魔術師のあんたが言うならそうなのか……」


 ふふふ、ほんとにそうかな? 魔力を外に漏らさないよう注意はしてるんだけど……何かに気づいた騎士さんの言葉、無視しちゃって大丈夫?


 じゃあ、試してみてもらおうか。


 僕は腹の底から湧き上がる魔力を、通常の五倍程度までぎゅっと圧縮。次から次へとこれを繰り返して魔力を精錬する。


 これを中空に組み上げた魔術回路、つまり魔術陣に流し込むだけで、魔術は発動するんだけど。


 そんな状況だと言うのに。いまだ呑気に声を上げる二人組。


「――……そもそも、私はなぜ殿下がこれほどアレに執着されているかが気になる。先ほどの取り乱しようを見るに、まさか弱みでも握られておられる……?」


「いや。弱みって感じじゃないだろ。……さっきのも今のも、あいつのことを好きだからじゃないか? 普通に」


「ッ馬鹿な! 高貴なるアトラス王の後継であられる殿下だぞ! あんな……宮廷に上がった年が若いだけで指南役を勝ち取った小僧などに……!」


「それだろ理由。殿下と年近いし、宮廷魔術師になれる才能だってあるんだから。……殿下だってこの環境じゃ、何かに縋りたくもなる」


 うーん。そういえば、そもそもどうして姫にここまで執着されるのか心当たりがない。


 この場の大半から胡散臭そうに見られてるけど、あの騎士さんは何か思うとこがあるみたいだし、今度詳しく話を聞いてみたいな。


 でもそれも、まずはこの場を乗り切った後の話。


 この僅かな間に、幾人もの魔術師と騎士、そして影たちが動き出してるし。


 姫だって、涙の跡を隠すことすらやめて、一人必死の表情で障壁魔術を編んでる。うん、教えをちゃんと実践できててえらい……。


 ……その強度なら、姫は十分一人で身を守れそうだし。じゃあ。


 挨拶がわりの一発を。


 練り上げた魔力を、すでにある程度臨界してた魔術陣に流し込む。


 そして。


「――【風】、落降風(ダウンフォース)


 唱えた直後。


 白い光を放ち、編み込んだ魔術が発動する。その効力は極めて単純。


 ――ただ、上から下に風を落とすだけ。


「ハハハ、なにを使うかと思いきや! 固有魔術でないどころか、風を吹かすだけの魔術とは! この程度なら私が防御するまでもないが、まあ容易く打ち払って――」


 ただし、その勢いは次第に増していくよ。


 そして最終的には……。


「ぁ、な? いづっ……」


 ――鎧くらいなら、簡単に凹ませる。




「……ッハ、カ……ッ!」


「ぐぅあああああ! い、だいッ!」


「ふうぅううう、ぐぅ……! も、無理……っ」




 ふふふ。みんな甘く見てたね。宮廷魔術師の彼なんて、いの一番にペシャンコだ。


 もちろん命を奪うほどにはしてないけど、骨の数本は折れてるかも。


「――油断大敵。ちゃんと僕、みんなに教えてたんだよ。魔力を隠蔽すれば不意をつけるって」


 地に臥す者の数はどんどん増えていく。やがては、この広間に展開した数十人、その九割方まで。


「……おいおい、嘘だろ! 俺たち騎士は抗魔力鋼の鎧を着てるんだぞ? これだけの規模、これだけの力をッ……あんな小さな魔術陣でだと!?」


「――でも、騎士のお兄さんは潰れてないですね。鎧と、気による強化もあるけど……純粋に、素の身体能力が高いんだ。騎士ってすごい」


「ッ現在進行形で俺たちを押し潰そうとしてるやつの言葉か!? ちょ、やばいやばい足折れそう……!」


「気を失ったら安全地帯に退避させますからご心配なく。ね」


「ね、じゃねええ! おいこれ、だれかどうにかできないのか!? ッというか、殿下はご無事なのかッ」


 騎士のお兄さんはハッとすると、さっきまでのちょっと軽い感じを投げ捨てて、真剣に姫の身を案じ始めた。


 実力があって、姫のことをしっかり考えてる。こういう人にはずっと姫のそばについてて欲しいな。それなら、もし僕がいなくなっても安心。


 ……と、そんなこと考えてるとまた姫に叱られちゃうか。それより、今はとにかく姫にクーデターをやめさせることが先決だから。


 じゃあ、姫。


 余計な外野は動けなくなったところで。




「さあ、姫。僕のエスコートはいかがでしたか?」


「ある、べるとぉ……!」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ