戦犯
その日は勝利したにもかかわらず、全員が沈黙したまま王都に帰った。
カエン・バーラン。今思えば不思議な奴だった。
室内にもかかわらずっと帽子をつけ、寮の風呂にも入らない。
トランダーは、自分のに自信がないだけだとか言ってたけどもしかしたら…、
亜人種だったのかもな。
寮に着いた。
兵士は各々自分の部屋に帰っていく。
タランダーとキルラは報告があるとかで、本部に行った。
とにかく今日は…、「疲れたな。」
昨日は疲れたのか、服も着替えないままベットで寝てしまっていたようだ。
今日からどうなるんだろうか。
そんな、期待とも不安ともとれる感情が今の気分を支配する。
「コンッコンッ。」
「はいはーい。」
窓を開けたらそこには、フル装備の兵士が20人近くたっていた。
「ヨシフ・クイール。ガルー地域争奪戦の戦犯として処罰する。着いてこい。」
「は?」俺が戦犯?誰のおかげで勝ったと思ってるんだ?
「連行するんなら。せめて理由くらい教えてくださいよ。」
「お前は敵の指揮官の策にハマり、英雄デグロムを打ち取らせてしまった。」
あきれすぎて。言葉が出ない。
「デグロムが打ち取られた?それは、カエンが裏切ったからで、俺というかそもそも管理がずさんだったお前ら本部が……。」そういうことか。
「氷寂天地」
その瞬間兵士の足元が氷で固定された。
「逃がすな!。絶対に捕まえろ。」
もうそこからは何も覚えてい。必死に逃げた。ただ必死に。
「はぁ、はぁ、はぁ。」
気が付いたら俺は、ボアを出たアリス王国最北の地に来ていた。
ここは廃墟だろうか。他に人が見当たらない。
「動くな。」
一瞬で首元に短剣を突き付けられた。
氷寂天地を放とうとしたが、もう魔力が残っていない。
「私の質問にだけ答えろ。お前は何者だ?なぜこの場所にいる?」
「俺の名前は、ヨシフ・クイール。ここに来たのは偶然だ。」
「偶然?随分疲れているようだが、そんなになって走っていたのは何故だ?」
「軍から逃げてたからだ。」
「軍?王国軍のことを言っているのか。犯罪者ということでいいんだな。」
「違う。俺は騙されただけだ。元軍人でガルー地域の戦争に駆り出された。そこで、要塞は落としたが指揮官のデグロムが死んだ。原因は仲間の裏切りだ。だから上の奴らは、俺に責任を擦り付けようとして…それが理由だ。」
「へぇ。軍人だったんだ。でも今の話には嘘があるね。」
「嘘って?」
「要塞を落としたって話さ。あそこの要塞は前からハンパーっていうとてつもなく優秀な指揮官の持ち場でねぇ。落とすんなら、相応の指揮官を連れてないといけない。あの戦争に向かった指揮官はみな若い。それが理由さ。」
「ハンパーってのは、見た目は70歳ほどの老人で白髪の亀人種の奴だろ。本当に要塞は落ちた、嘘だと思うなら、調べればいい。あんたなら一発だろ。」
「本当だとしてなんであんたが狙われてるんだ?」
「戦争の指揮を執ったのがほとんど俺だったからだ。」
「事情はわかった。絶対振り向くんじゃないよ。このまままっすぐ歩いて行け。」
「待ってくれ。俺の面倒を見てくれないか?ここを出てもどっちみち俺は終わりだ。金は稼げず、軍には追われている。」
「あたしがあんたをかくまうメリットは?」
「金だ。ありったけ稼がせてやる。もし使えなければ、軍に売り飛ばせばいい。懸賞金がかけられるはずだ。」
しばらく静寂が続いた。
「はぁ。短剣を首に突き付けてる奴と組もうとするとかあんたまともじゃないよ。私の名前は、アンキ・クーダー。アンって呼んでくれ。」
振り向いた瞬間に目に入ったのは茶髪の少女だった。
「金を稼ぐって言ってたけど、具体的な案は何なの?」
「武器を売る。」
「あんたが優れた鍛冶屋には見えないけど。そんなんで稼げるわけ?」
「問題ない。俺より優れたやつなんて国宝級の技術者くらいだ。」
今回の戦争で、魔法の要領はつかんだ。
「たいした自身ね。」
俺たちの拠点となるこの廃墟は元は学校だったらしく部屋がたくさんあった。
「食料は2食持ってくるから、あなたはここの部屋で寝泊まりして。」
「わかった。」
アンは、見た目は俺と同い年の少女に見えるが、恐らくはかなりのやり手だ。
なんでも、親父は反社会勢力の人間で独自のルートを持ってるんだとか。
「今日は、早く寝なさいよね。明日からはジャンジャン働いてもらうんだから。」
翌日の朝から、俺は学校の一室で武器作成に勤しんでいた。
材料は戦地に落ちていた剣や盾、鎧などである。
剣に使われている鉄を変形させ欠けているところを直し、魔法で加工する。
その日はぶっ通し働いたおかげでかなりの数が仕上がった。
振ると斬撃を出す斧を3つと受け止めた衝撃を跳ね返す盾が4つ、
打ったら魔法で標的を追い掛け回す弓矢が60本。
どれも使用者の技量に左右されるが最上級の代物だ。
「ヨシフ、あんたやるねぇ。今日だけで290万ポールも稼げたよ。」
俺をほめるアンも、今日作った武器をさっそく売ってしまうとは、大したもんだ。
「にしても、本当に利益の10%だけでいいの?」
「ああ、俺の主人はお前だ。それに金は生活できるだけあれば十分だ。」
「明日もこの調子でよろしくね。」
その日からは、働き三昧だった。
およそ、半年近く働き、
魔法を付与した剣、盾、弓矢、弓本体、斧、槍をそれぞれ
432本、500個、3012本、279本、367本、189本作り、合計で21億7289万ポールを稼いだ。
「こんなに稼げるなんて夢にも思ってなかったよ。」
アンは、興奮しながらステーキを頬張っている。
「そりゃそうだ。アリスも、エルリアも金はあるが技術者は不足している。」
「それでさぁ、この前自分で私が主人だって言ったのを覚えてる?」
「要件をさっさと言え。」
「今度開催される地下格闘技の大会に参加してほしいんだ。」
「なんで。」
「お得意さんがさ、ヨシフのことを話したらどうして出てほしいって。」
「そいつはなんで俺に出てほしいんだ?」
「なんでも格闘技大会って言っても八百長合戦らしくて、全然賭けても稼げないんだとか。ヨシフなら八百長があっても勝てるかもって。」
「分かった。参加する。」
「ホント?じゃあ明日昼には廃墟から会場に向かうから準備して待ってて。」
明日!?。まぁいいか。
魔法は使ってたとはいえ久しぶりの実戦。
果たしてうまくやれるんだろうかという不安はあるものの、
翌日、闘技場に足を運んだのだった。




