脱獄
「すいません。ここの兵士の配備はどうしましょうか。」
「すいませーん、こっちも人員が足りない気がするんですが…、」
戦場と比べ本部ではやることが多い。
雑務はあまり得意じゃないんだ。あーイライラするぜ。
「トランダー、そろそろ会議の時間だよ。」
「ああ、そうだな。」
「あれからもう3年もたったんだね。」
「キルラ、その話は俺たちの間では御法度じゃなかったのか?」
「うんごめん。けどやっぱり忘れられなくて。」
「俺たちは任務に集中するそれだけで十分だ。」
「これより、封術牢脱獄犯拘束作戦についての説明を行う。」
あれから俺たちは、あれよあれよと出世していき、今じゃ指揮官の中でも”若手の有望株”ではなく軍の”中心戦力”といえるまでになった。
「この作戦において重要な点は二つ。一つ目が正面門の存在だ。封術牢は、全体が超高性能の金属で構成されており、出入り口となる場所は正面の扉のみとなっている。この扉は。高性能の魔術が組み込まれており…、」
この脱走犯拘束作戦ももともと、囚人の中にスパイがいてそいつから情報が渡ってくるから行動が筒抜けなんだとか。
しかもその首謀者が元戦友のヨシフってんだからたちが悪いったらありゃしない。
分かってるんなら、事前に防げばいいのではと思うが、
ここはあえて脱獄の計画を遂行させるらしい。
そしてそれを制圧して、関係者全員を死刑にする。
国益のためなら命も人権も無意味になる。
それがこの国の全貌だ。
「おい、聞いているのかトランダー。」
「は、はいすいません。聞いてなかったです。」
「まったく、これだから若いのは。簡単に説明するとだな、正面の扉の近くでの消耗戦になるってことだ。そしてお前たちの役割はもしこの門が囚人の手で開けられた時、刑務所の外側から、囚人の制圧を行うものだ。いいな!。」
話を聞いてなかったので、全くついていけてない。
「今日の会議本当に理解できたの?」
「正直に言うと全くだ。」
「じゃあ、私が一から説明するからー、」
俺が聞き逃した情報はなかなかに多かった。
重要なのは、扉を突破させないこと。つまりそこに囚人側が割いてきた戦力をいち早く削りヨシフが魔法陣を解析し終わる前に制圧すること。
そして、突破されたとしても、兵士が脱獄犯を制圧すること。
「本当に、大丈夫なの?作戦決行日は三日後だよ。」
「大丈夫だ、もう理解した。」
正直に言うと、俺はあいつと戦いたくない。
出来れば刑務所内で完結してほしいものだ。
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私の名前は、ドルヴァン・スレイド。
今回の作戦において、刑務所内で行動する部隊の指揮官長だ。
今、私は刑務所内におり、人員を少しずつ刑務所内に誘導している。
これも、戦闘になったときにいち早く制圧できるようにするためだ。
「ドルヴァン様、全員刑務所内に入りました。それとあと少しで例の時間です。」
「わかった、持ち場に戻るように。健闘を祈る。」
「はっ。」
もう日が落ちてから四時間ほどが過ぎた。
つまり、
「消灯ー。」
もぐりこんでたやつの情報によれば消灯してから火災が発生するらしい。
来るなら来いってんだ。
消灯から三時間が過ぎたにもかかわらず何も起きなかった。
確か火災が発生するんじゃなかったのか?
看守に、ヨシフ・クイールの様子を見に行ってくるよう命じた。
「普通に部屋で寝ていました。」
「そうか。」
なんだ?
もしや自分たちの作戦がばれたと思って中止にでもしたのか?
「指揮官長、今のところ何も起きていないのですが、いかがしましょう。」
「一応、今晩中はここで待機だ。朝になっても何もなければ外に連絡を入れて撤退の準備をするぞ。」
そして、朝になった。
結局何も起きなかったのだ。
「もしかして囚人の奴ら、俺たちや外の存在に気が付いたんじゃ。」
「俺も今そう睨んでいる。外に連絡を入れ、準備が整い次第撤退するぞ。」
「はっ。」
またしばらく時間がたった。
囚人たちも目を覚まし、食堂へと向かっている。
「すいません、指揮官長。外への連絡がつながらないんですが。」
「なんだと?こんな時にトラブルか。まったく、」
「もしもし、もしもしーったく、どうしたらいいんだ。」
「し、指揮官長、今見回りをしていた監守から報告がありまして、
囚人のヨシフ・クイールが部屋から姿を消したようでして。」
「何?食堂にもいないのか?」
「はい、監獄内隅々まで探したんですが姿がないようでいかがー、」
「姿がないようでーじゃねぇぞ。一大事だ。あいつに逃げられたとなっては、この作戦はしっぱいになるぞ。」
「す、すぐに外に連絡を。って、連絡が付かないんでしたっけ。」
「恐らく奴の仕業だ。」
「では、伝達魔法ではなく直接、言いに行ったほうが速いですね。」
ん?まてよ、
「待て、絶対に扉を開けるな。」
「?」
「開けた瞬間、奴が現れ、扉周辺を制圧したらどうなる。」
「詰みですね。」
「恐らくだが奴はまだ監獄内にいる。そして、俺たちが間抜けにも焦って扉を開けるのを待っているんだろう。」
「では今後どういたしましょう?」
「このまま待機だ。時間がたてば外の連中が異変に気が付くだろう。」
「分かりました、他の人間にも伝えておきます。」
「なんで朝飯がねぇんだよっ。」
なんだ?やけに騒がしいな。
「指揮官長、倉庫の食料がほとんどなくなっておりまして、」
「なんだと、くそ。」
まさかここまで計算のうちだったとは。
大人数で潜ったのがあだになってしまった。
「そして、緊急事態だということが囚人らに知られてしまって。」
「わかっている、とにかく各自待機だ。わかったな。」
「こちらが今日の食糧です。」
「ああ、ありがとう。」
たったこれだけとは。
早く外の連中に助けてもらわねば、三日ともたないぞ。
「ちょ、長官、囚人に俺たちで食料を回しているのがばれたみたいで、一部の看守が襲われ、奪われているようで。」
ばれないようにとあれだけ念を押したのに、馬鹿どもが。
「反撃して殺しても構わん。絶対にくたばるな。」
「はっ。」
あれからもう三日もたったのにもかかわらず一向に助けが来ない。
どうなっているんだ。
三日間囚人の暴動を抑え込むので心身はボロボロだ。
くわえて、ろくなものを口にしていない。
「長官、地下3階で大規模な火災が発生。囚人が取り乱しております。」
ここでか。
「全勢力を扉と管理室に集めろ、戦闘準備だ。」
「はっ。」
いつでもこい。
その腐った性根叩き直してやるわ。
「なんだ、これしかいないのか。」
「はい、これで一応全部です。」
せいぜい、6万。
はじめは15万近くいたはずが、ここまで削られていたのか。
「ええい、今更弱音を吐いても仕方がないわぁ。」
ここまで来たらとことんやってやる。
ヨシフ・クイール。少なくともお前の首はいただくぞ。
「そ、外にでろぉ。焼け死ぬぞ。」
「来たぞぉ、食い止めろ。」
「うおおおぉっ。」
「ドガンッ。」
なんという数だ。
物量で押し切られてしまう。
しかも、襲った看守の装備をつけている奴もいる。
「なめるなぁっ。このクズどもがぁ。」
その時、後ろの扉がきしむ音がした。
「ギィッ、ギイイイィィッ。」
「そんな。」
「扉があいたぞぉ。外だっ。」
そんな馬鹿な、管理室が制圧されたのか。
くそっ。
「クソったれがぁ。」
そこからはもう一瞬の出来事だった。
俺たちは外に出ようと躍起になっている囚人の猛攻を抑えきれなかった。
「三日か、案外もったほうだな。」
その瞬間、白髪の男が視界に入った。
「お、お前が、」
「ズドンッ。」
封術牢脱獄事件。
これは、10万人以上の囚人を脱獄させてしまった大事件としてこの先、永遠に語り継がれたのだった。




