第5話 泥と風の作戦会議
夕方の広場。風車の羽が、ゆっくり音を立てて回っていた。
負けたあとで、みんな言葉が少ない。土の匂いだけが残っている。
「――まずは、ライクは攻撃をやめようか」
エルドがそう言うと、空気が止まった。
「は? お前、なに言ってんだよ」
ライクが目を丸くする。ガルドも眉をひそめた。
エルドは二人を見て、静かに言った。
「その前に、まず“人”が必要なんだ。明日、集めたい」
「人?」
「誰を?」
ライクとガルドが同時に言う。エルドはうなずいただけだった。
◇
翌朝。空は明るいのに、風は少し冷たい。
エルドが歩き出すと、後ろからドタドタ音がついてくる。
「一人で行くなって!」
ライクが追いつく。
「わ、私も一緒に!」
赤いスカーフを押さえながら、ミーナも並んだ。
「ふたりとも……ついて来なくても」
「逆に怪しいでしょ」
「うん、ぜったい何か始めようとしてるよね」
三人の足音が、土の道にぽつぽつ続いていく。
◇
最初に向かったのは、村はずれの陶器工房。
中から、湿った土と窯のにおいがした。
リーノが壺の表面を、指でなでている。
「リーノ」
エルドは近づいて、まっすぐ言った。
「君、土のことをよく知ってるよね。扱いも上手い。……手を貸してほしい」
「え? ぼ、ぼくが? なんで?」
リーノの手が止まる。
ライクが耳元で小声。
「最初の一人がコイツって、どういうことだよ」
ミーナもひそひそ。
「ねえエルド、本気で勝つつもりあるの?」
エルドは小さく笑った。
「あるよ」
それだけ言って、工房をあとにした。リーノは戸を慌てて閉めながら、こくこく頷いていた。
◇
次は、小さな橋のそば。
川面に光が揺れて、二人の双子が石を投げて遊んでいる。
「おーい、ライク!」
「やっほー!」
ライクがひらひら手を振ってから、ぼそっと言う。
「なんだよ、普通に石を投げてるだけじゃんか」
「ライク、よく見て」
エルドは目だけで示した。
「彼ら、両手で石を投げてる」
「へえ?」
ミーナが首を傾げる。
「だから?」
エルドはライクに向き直った。
「ライク、左手で石、投げてみて」
「左手? う、うーん……やってみる」
ライクがぎこちなく左で石を放る。ぽちゃん、と水の音。
双子は顔を見合わせて笑った。
「二人とも、明日、来てくれる?」
エルドが言うと、双子は同時にうなずいた。
◇
村はずれ。麦畑のかげ。
エルドが立ち止まった。
「……ここに?」
ライクが辺りを見回す。
「誰もいないよ?」
「いるよ」
エルドがそっと声を落とす。
「そこ」
麦の影から、小柄な男の子が一歩出てきた。目が合うと、すぐに視線を落とす。
「いたのかよ!?」
ライクが本気で驚く。
「あんな奴いたっけか?」
「カイル、だよね」
ミーナが小声で教える。
「同じ村だけど、あんまり前に出ない子」
エルドはカイルの前にしゃがんで、同じ高さで言った。
「君は、気づかれないのが上手い。……お願いがある。明日、近くまで来てほしい」
「ち、近くまで……?」
カイルはきょとんとしたけれど、やがて小さくうなずいた。
◇
夕暮れの広場に、みんなが集まった。
ガルド、ライク、盾役の子。
工房のリーノ。
橋の双子。
列の端っこに、そっと立つカイル。
風車の影が、地面に長くのびている。
「……で、エルド。俺たちは何をすればいい?」
ガルドが腕を組んだ。
エルドは一人ひとりの顔を見て、静かに息を吸った。
「役目を決めるよ。“得意”を使って戦う。それが、ぼくらのやり方」
ライクが身を乗り出す。
「で、オレは?」
エルドはまっすぐライクを見た。
「ライクは――攻撃をやめようか」
「……はああ!?」
ライクが思わず大声を出す。
ミーナの視線が、エルドの横顔に吸い寄せられる。
エルドは、それ以上は言わなかった。
風が、麦の先をさらさら撫でていく。
「――明日の勝ち方を話すね」
その合図に、みんなが小さく息をのんだ。
夕日の色が、広場をゆっくり染めていく。




