表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/33

第5話 泥と風の作戦会議

 夕方の広場。風車の羽が、ゆっくり音を立てて回っていた。

 負けたあとで、みんな言葉が少ない。土の匂いだけが残っている。


「――まずは、ライクは攻撃をやめようか」


 エルドがそう言うと、空気が止まった。


「は? お前、なに言ってんだよ」

 ライクが目を丸くする。ガルドも眉をひそめた。


 エルドは二人を見て、静かに言った。

「その前に、まず“人”が必要なんだ。明日、集めたい」


「人?」

「誰を?」

 ライクとガルドが同時に言う。エルドはうなずいただけだった。



 翌朝。空は明るいのに、風は少し冷たい。

 エルドが歩き出すと、後ろからドタドタ音がついてくる。


「一人で行くなって!」

 ライクが追いつく。

「わ、私も一緒に!」

 赤いスカーフを押さえながら、ミーナも並んだ。


「ふたりとも……ついて来なくても」

「逆に怪しいでしょ」

「うん、ぜったい何か始めようとしてるよね」

 三人の足音が、土の道にぽつぽつ続いていく。



 最初に向かったのは、村はずれの陶器工房。

 中から、湿った土と窯のにおいがした。

 リーノが壺の表面を、指でなでている。


「リーノ」

 エルドは近づいて、まっすぐ言った。

「君、土のことをよく知ってるよね。扱いも上手い。……手を貸してほしい」


「え? ぼ、ぼくが? なんで?」

 リーノの手が止まる。


 ライクが耳元で小声。

「最初の一人がコイツって、どういうことだよ」

 ミーナもひそひそ。

「ねえエルド、本気で勝つつもりあるの?」


 エルドは小さく笑った。

「あるよ」

 それだけ言って、工房をあとにした。リーノは戸を慌てて閉めながら、こくこく頷いていた。



 次は、小さな橋のそば。

 川面に光が揺れて、二人の双子が石を投げて遊んでいる。


「おーい、ライク!」

「やっほー!」


 ライクがひらひら手を振ってから、ぼそっと言う。

「なんだよ、普通に石を投げてるだけじゃんか」


「ライク、よく見て」

 エルドは目だけで示した。

「彼ら、両手で石を投げてる」


「へえ?」

 ミーナが首を傾げる。

「だから?」


 エルドはライクに向き直った。

「ライク、左手で石、投げてみて」


「左手? う、うーん……やってみる」

 ライクがぎこちなく左で石を放る。ぽちゃん、と水の音。

 双子は顔を見合わせて笑った。


「二人とも、明日、来てくれる?」

 エルドが言うと、双子は同時にうなずいた。



 村はずれ。麦畑のかげ。

 エルドが立ち止まった。


「……ここに?」

 ライクが辺りを見回す。

「誰もいないよ?」


「いるよ」

 エルドがそっと声を落とす。

「そこ」


 麦の影から、小柄な男の子が一歩出てきた。目が合うと、すぐに視線を落とす。


「いたのかよ!?」

 ライクが本気で驚く。

「あんな奴いたっけか?」


「カイル、だよね」

 ミーナが小声で教える。

「同じ村だけど、あんまり前に出ない子」


 エルドはカイルの前にしゃがんで、同じ高さで言った。

「君は、気づかれないのが上手い。……お願いがある。明日、近くまで来てほしい」


「ち、近くまで……?」

 カイルはきょとんとしたけれど、やがて小さくうなずいた。



 夕暮れの広場に、みんなが集まった。

 ガルド、ライク、盾役の子。

 工房のリーノ。

 橋の双子。

 列の端っこに、そっと立つカイル。

 風車の影が、地面に長くのびている。


「……で、エルド。俺たちは何をすればいい?」

 ガルドが腕を組んだ。


 エルドは一人ひとりの顔を見て、静かに息を吸った。

「役目を決めるよ。“得意”を使って戦う。それが、ぼくらのやり方」


 ライクが身を乗り出す。

「で、オレは?」


 エルドはまっすぐライクを見た。

「ライクは――攻撃をやめようか」


「……はああ!?」

 ライクが思わず大声を出す。

 ミーナの視線が、エルドの横顔に吸い寄せられる。


 エルドは、それ以上は言わなかった。

 風が、麦の先をさらさら撫でていく。


「――明日の勝ち方を話すね」


 その合図に、みんなが小さく息をのんだ。

 夕日の色が、広場をゆっくり染めていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ