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第24話 追跡班の影

 丘の下の木立が、わずかにざわめいた。


 雨は上がっている。

 そのぶん、音が通る。


 ユランが片手を上げ、護衛たちを止めた。


「……来る」


 斜面の奥。

 木々の影が、一つではない揺れ方をしていた。


 リオナが周囲を一瞬だけ見回す。


 地面の起伏。

 木の間隔。

 小屋へ続く道と、外へ抜ける細い獣道。


「……ここ、挟める」

 小さく、けれどはっきり言った。


「正面だけ見せて、左右に散る気だと思う」


 根拠は口にしない。

 でも、その声に護衛が反応した。


「左右、間隔を詰めろ!」

「背中、林側を警戒!」



 影が、斜面を登ってきた。


 一人、二人……

 いや、七、八人。


 数を見た瞬間、空気が張りつめる。


「多い……!」

 誰かが息を呑んだ。


 リオナは目を細め、位置を変えながら言う。


「右、来る。

 あそこ、抜け道がある」


 護衛が即座に動く。

 剣先がずれ、包囲が崩れかけるのを食い止めた。


 エルドは、リルを小屋の影へ押しやりながら、

 その光景を見ていた。


 ――動きは、追えない。

 速すぎる。


 でも。


(……あの人)


 護衛の一人。

 前に出ているが、足の運びが軽い。


(前じゃない。

 あの人は……横から回る方が、ずっと合ってる)


 別の護衛。

 盾を構えているが、構えが高い。


(守る役じゃない。

 合図を出す側の人だ)


 敵の中にも、目が行く。


(……あの人は、無理してる。

 力はあるけど、役目が違う)


 理由は分からない。

 ただ、そう感じてしまう。


 エルドは歯を食いしばった。


(でも……今は……言えない)



「来るよ!」

 リオナの声が鋭く飛ぶ。


 次の瞬間、敵が一気に距離を詰めた。


 剣がぶつかり、

 短い金属音が連なる。


「リルから離れるな!」

 ユランが叫ぶ。


 護衛団は踏みとどまったが、

 敵の動きは早い。


 リオナは、斜面と木々の間を見比べている。


「……深追いしない。

 “探してるだけ”だと思う」


 その言葉どおり、

 敵の一人が小屋の周囲を一瞥し、

 別の方向へ合図を送った。


 短い口笛。


 敵が、一斉に引いた。


「待て――!」


「追うな!」

 ユランが制した。


 敵は散り、

 森の奥へ消える。


 追えば追えたかもしれない。

 でも、その痕跡は意図的に乱されていた。



 静寂が戻る。


 護衛の一人が、悔しそうに地面を蹴った。


「……捕まえられたはずだ」

「あと少しだった……」


 その空気の中で、

 エルドは思わず口を開いていた。


「……さっきの……

 左にいた人……」


 全員の視線が向く。


「前に出るより……

 横から回ってたら……

 もっと、止められたと思う」


 誰も言葉を挟まない。


「あと……盾の人……

 合図を出す役の方が……

 向いてる気がして……」


 言ってから、

 エルドははっとした。


(……何、言ってるんだろ)



「……今の話」


 低い声がした。


 振り返ると、

 そこに立っていたのは――

 前の街で、二人を助けてくれた団長格の騎士だった。


 団長は、護衛たちを一度見回し、

 それからエルドを見た。


「君は……

 戦いを、どう見ていた?」


「……え……」


 答えに迷う。


「……動きじゃなくて……

 その人が……

 何をする人か……みたいな……」


 自分でも、うまく言えない。


 団長は、しばらく黙っていた。


 そして、ユランの方を見る。


「……ユラン」


 ユランは一歩前に出た。


「はい。

 私たちが何に向いているかも、

 敵がどんな役割で動いているかも……

 この子は、分かってしまうんです」


 団長の眉が、わずかに動く。


「……なるほどな」


 団長は、今度はリオナに目を向けた。


「そして――

 あの女の子もだ」


 リオナが一瞬だけ目を瞬かせる。


「戦闘中、

 地形と間合いを読んで、

 何度も指示を飛ばしていた」


「予測だな。

 だが……当たっていた」


 リオナは肩をすくめた。


「……たまたま、です」


 団長は、ふっと息を吐いた。


「たまたまで済む場面じゃない」



 団長は、二人を並べて見た。


「面白い組み合わせだ。

 ……いや、危ういか」


 その言葉に、エルドは胸がざわつく。


 団長は最後に言った。


「今日はここまでだ。

 敵はまだ近い。

 だが……覚えておく」


 その視線は、確かにエルドを捉えていた。


 森の奥で、

 風が揺れた。


 影は消えたが、

 気配は、まだ残っている。

第24話を読んでいただき、ありがとうございます。


今回は戦闘そのものよりも、

「誰が、どこで、どんな役割をしているか」を

エルドが自然に見取ってしまう場面を描きました。


本人はまだ自覚していませんが、

“戦いを人で見る視点”が、少しずつ表に出てきています。

それをどう受け取られるのか、

周囲の反応も含めて書いていて緊張しました。


次話では、この出来事が

もう一段、別の形で動いていきます。

引き続き、読んでもらえたら嬉しいです。

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