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第22話 雨音の下で

 外の雨音はしだいに強まり、

 建物の古い屋根を叩き続けていた。


サァァァァ……


 その音が、かえって心臓の鼓動を大きく響かせる。

 息を潜めながら、リオナは震えたリルに毛布をかけた。


「寒くない?

 濡れたところ、痛くない?」


 リルは小さく首を振るが、震えはまだ止まらない。


 エルドは隣に膝をつき、優しく声をかけた。


「リル……ここなら大丈夫だよ。

 ぼくらがずっとそばにいるから」


 リルはエルドの袖をつまんだまま、かすかにうなずく。



 しばらくして、リオナが問いかけた。


「ねぇ、リル。

 どうして一人で森にいたの?」


 リルは顔を伏せ、少しだけ口元を震わせた。


「……逃げたの。

 ……パパとママ、捕まって……

 声……いっぱい聞こえて……」


 それ以上言えなくなったリルの手を、

 エルドはそっと包んだ。


「もう大丈夫だよ。

 ここにいる間は、絶対に守るから」



 その時。


コン……コン


 扉を弱く叩く音。


 三人が同時に息を呑む。


 エルドはリルをリオナに預け、

 そっと扉へ近づき、声を潜めた。


「……誰?」


 外から雨に混ざる声が返ってきた。


「エルド、リオナ。

 僕だ――ユランだ」


 警戒は解かず、

エルドは慎重に問い返した。


「ユランさん……

 朝、ぼくに何て言いましたか?」


 短い沈黙。

 雨音の向こうで答えが返る。


「“昼前に雨が来る”……そう言ったよ」


(……本物だ!)


 エルドは急いで扉を開く。



「二人とも……無事でよかった!」


 雨に濡れたユランは、

 ほっと息をつきながら中へ入った――が。


 視線の先、毛布にくるまる小さな影に気づいた瞬間、

 ユランの表情が固まる。


「……子ども?

 どういう――」


 リオナが答える。


「森で見つけたの。

 隠れて震えてたから……連れてきた」


 ユランは一度、天井を見るように息を吸い、

 しばし言葉を失った。


 そして、ふたりに向き直る。


「……まったく無茶をする……」

 声は叱るようで、けれど震えていた。


「服も乾かさずに……火も焚かなかったのは、

 場所を悟られないためだね。

 ――よく、二人だけで守りきったね。

 後で詳しい話を聞くから」


 その言葉には本気の驚きと安堵が混ざっていた。



「ユランさん……街で何があったの?」

 エルドがたずねる。


 ユランは一度だけ雨音に耳を澄ませ、

 声を低くして言った。


「……やはり、この街と、近くの小さな村が

 “狙われた”らしい。

 詳しいことはまだ分からないけど……

 敵が近くに残っている可能性が高い」


 リオナが息を呑む。


「じゃあ……ここも危ない?」


「もしヤツらが気配を追ってきたら、

 この子の存在も目に留まってしまう。

 だから今は、街へ“まっすぐ戻る”のは避けるべきだ」


 ユランは三人を見渡し、


「……ひとまず北の丘へ退避する。

 そこに護衛団を集めて、状況を共有しよう。

 リルの話も聞いたうえで、

 “どう動くか”を決める」


 と静かに告げた。


(まだ何も決まっていない……

 でも、リルの親を助けたい……)


 エルドは唇を噛んだ。



 その時。


ドドッ……ドドドッ……!


 馬の足音が地面を震わせた。


 リオナが目を見開く。


「……誰か来る!」


 ユランは一瞬だけ耳を澄ませ、

すぐに言い切った。


「大丈夫だ。

 ……オレが連れてきた護衛団だ!」



 建物の外で馬が止まり、

 複数の足音が泥を踏んだ。


「ユラン! 合図を見た、ここだな!」


 ユランは扉を開き、

 濡れた護衛たちを迎え入れた。


 その中には、

 昨日、宿場跡で二人を庇った騎士の姿もあった。


「二人とも無事で……本当によかった!」

 彼はエルドたちを見るなり、ほっと息をついた。


「この子は……?」


「うん」

 リオナはリルの肩を抱きながら答える。


「森で震えてた。

 あたしたちで見つけたんだ」


「よく連れ出せた……本当によくやった」

 騎士の声は震えていた。



 護衛たちはすぐに周囲を調べ、

 雨の強まりを確認する。


「雨脚が強い今のうちに移動した方がいい」

 ユランが判断する。


「この場所は……長く隠れられる場所じゃない。

 北の丘に一度集まり、

 そこで“これからどう動くか”皆で決めよう」


「了解!」


 短い返答が続き、準備が一気に進む。



「……こわい……」

 リルが不安げにエルドの手を握った。


「大丈夫。

 ぼくらも一緒だよ」


 エルドは力強く答えた。



 準備を終え、

 護衛のひとりが扉を押し開けると――

 雨の幕の向こう、薄暗い道がのびていた。


「エルド、リオナ」

 ユランが振り返る。


「ここからは護衛も一緒だ。

 だが……雨が味方してくれるのは“今だけ”。

 気を抜かずに行こう」


 二人は強くうなずいた。


「うん」

「分かった」


 ユランはリルに手を差し伸べた。


「行こう、リル。

 君の両親を助けるためにも……まずは安全な場所へね」


 リルは小さくうなずき、

 その手を握った。



 三人と護衛団は、

 雨の中を北の丘へ向かって歩き出した。


 その時、森の奥で――

 わずかに“何か”が動いたように見えた。


(……まだ終わってない)


 エルドはわずかに振り返り、

 霧のような雨に沈む森を静かに見つめた。


――第22話 了/次話につづく

22話は、“雨に守られながら前に進む”回でした。

ユランの判断、二人の勇気、リルの震える手――

どれも大きな戦いではないけれど、確かな一歩でした。


そして、今回の更新で普段より多く読んでいただけたみたいで驚きました。

背中を押されたようで、とても嬉しかったです。

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