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第18話 騎士が残した影と、三人旅のはじまり

 朝の霧がまだ残るころ、

 エルドとリオナは村長の家の前で待っていた。


「来るかな……」

「来るよ。昨日の人、約束を破るタイプじゃない」


 リオナは腕を組んだまま、静かに辺りを見回す。

 エルドの胸の奥には、昨日の出来事がまだ重く残っていた。


(“影”って……何なんだろう)


 そんな不安がよぎったとき、蹄の音が霧の向こうから響いた。


「待たせたな」


 若い騎士が馬から降り、二人に歩み寄る。

 鎧は少し泥で汚れていて、眠れていない顔だった。


「話がある。ついてきてほしい」


 三人は村外れの丘へ向かった。



「昨日の盗賊の件だ」


 騎士は草を払って腰を下ろす。

 エルドとリオナも並んで座った。


「最近、この辺りで“人攫い”が増えている。

 村が襲われても、奪われるのは物より人だ」


 エルドは目を見開く。


「人攫い……?」

「ただの盗賊じゃないのか?」とリオナ。


「違う。やり方が妙だ」


 騎士は息を深く吸った。


「昨日の盗賊たちの手……あれは“武器の傷”じゃない。

 縄を扱う者の傷だった」


 エルドは背筋がぞわりとした。


(縄……

 街で声をかけてきた男たちも……同じだった)


 思い出すだけで、喉がひりつく。


「捕まえた者に話を聞いても、

 “指示している人間”の顔を誰も知らない。

 会った覚えがないと言うんだ」


「会ってないのに……動いてるの?」

 リオナが眉を寄せる。


「そうだ。

 ただ、“知らない旅人に声をかけられた”とは言う」


 騎士は低くつぶやいた。


『気づいたら、一緒に行動していた』

『“これをやれば金になる”と言われた』

『失敗した仲間は、戻らなかった』


 冷たい空気が三人のあいだに落ちる。


「それに……奴らは“人のいない道”を使って移動している。

 森の裏道、川沿いの細い道……地図にも載っていない道だ」


(だから……見つからない)


 エルドの胸がざわついた。


「裏道を全部知ってる人がいるってこと?」

「そうだ。

 そして……さらわれた人は、その道を通って運ばれる」


 エルドの手が震えた。


(ぼくたち……本気で危なかったんだ……)



「どうして、ぼくらにこんな話を?」

 エルドは勇気を出して聞いた。


 騎士は真っ直ぐエルドを見る。


「昨日、君は村の人たちの“できること”を見て、

 負けずに時間を稼ぐ作戦を作った。

 あれは簡単じゃない。

 私には……ああはできん」


 エルドは息をのむ。


「この地域には、あの“影”がまだ動いている。

 だが、我々だけでは追い切れない。

 姿が見えなさすぎるんだ」


「…………」

 エルドは言葉が出なかった。


「だから……もし何かに“気づいたら”教えてほしい。

 君には、人の“癖”を見る目がある」


 胸の奥に、小さく火が灯ったような感覚が走った。



 騎士は立ち上がり、馬へ歩き出した。

 が、ふと立ち止まって言う。


「この村にもう一泊するつもりだったが……考えが変わった」


「え?」


「盗賊は、恐らくもうここには戻らない。

 “影”は、一度騒ぎになった場所を避け、次へ移動する。

 だから私は──別の街へ先に戻って、護衛団と対策を練りたい」


「じゃあ……ぼくらは?」

 エルドが不安そうに聞く。


 騎士は首を横に振った。


「君たちだけで旅を続けるのは危険だ。

 影は、一度目をつけた相手を追うことがある。

 だから……護衛をひとりつける」


 そう言って、騎士は声をかけた。


「ユラン、頼む」


 村の裏側にいた若い男が近づいてきた。

 旅人の格好だが、目の奥に油断のない光がある。


「ユラン……?」

 エルドがつぶやく。


「彼は旅人に“見える”だけだ。

 実際は私の部下で、腕は確かだ。

 影に気づかれないよう、旅人に扮して同行させる」


 ユランは軽く会釈した。


「よろしく。

 あんまり堅苦しい感じじゃなくていいよ。

 護衛ってより、同じ旅人として一緒に歩くから」


 リオナはじっとユランを見てから言う。


「……まあ、悪い人ではなさそう」


「それ褒めてる?」

 ユランは苦笑した。



 翌朝、村を出る分かれ道で。


「私は北へ。護衛団と合流し、次の街で待つ。

 君たちは南だ。

 道中、影の痕跡があれば気をつけろ」


 そう言い残して、騎士は馬を走らせた。


 霧の向こうに騎士の背が消えていく。


「じゃ、行こうか」

 ユランが柔らかく微笑む。


 エルドとリオナは顔を見合わせ、うなずいた。


(影は……まだどこかにいるかもしれない)

(でも、もう逃げるだけの旅じゃない)


 三人はゆっくりと歩き出した。

 朝の光が差し込む細い道が、まっすぐ続いていた。


――第18話 了/第19話につづく

今回は、影の存在が少しだけ見えてきた回でした。


大きな戦いではなくて、

話を聞いたり、考えたり、選んだりする場面が多い回ですが、

エルドが“自分の目”をどう受け止めていくかを描けた気がします。


そしてユランが加わり、三人の旅が動き始めました。

この静かな一歩をこれからどう広げていけるか、

自分でも楽しみです。

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