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【プロローグ】
世界はまだ、彼を英雄と呼ばない。
名もなき村の片隅で生まれたひとりの少年を、
誰ひとりとして気に留めてはいなかった。
少年の名は、エルド。
臆病で、小柄で、戦う力を持たない弱者である。
風に揺れる麦畑。
ささやかな笑い声。
ありふれた日々は、ただ静かに巡っていた。
だが——
歴史の歯車は、すでに回り始めている。
やがて訪れる戦乱の時代。
熾烈な争いの中、彼は何度も命を晒すことになる。
それでも彼は、剣を振るわない。
なぜなら、彼の戦場は
“誰かの心”の中にあるからだ。
弱い者が生き延びる術。
臆病な者が守り抜く覚悟。
エルドは、自らの弱さに涙するだろう。
何度も立ち止まり、震えるだろう。
それでも、彼は歩みを止めない。
他者を生かす力こそが、
いつか世界を救うことを信じて。
——これは、臆病者の物語。
弱さを恥じながら、
それでも前へ進んだひとりの少年が、
歴史に刻んだ軌跡の記録である。




