物語はいつも気まぐれから
20xx年九月八日
思い返せば僕の人生はいろんなことに遅れてばっかりな気がする。
信号機の前でぼーっと立っている雪拓拓真は少し物思いにふけていた。
信号機もいつも僕の前で赤になるし
購買のパンだって僕がいくころにはコッペパンすら残ってないし
給食だって最後に食べ終わっていたし
好きだった先輩にも、告白することなく終わってしまった。
「好きな人には早めに告白しろ!じゃないと後悔するぞ」と言っている人たちに対して、
お前たちは成功してるからそんなことが言えるのだろ
と思っていたが全くの間違いだった。彼らは失敗をしたからこそあんなことが言えたのだろう。今ならばそう思う。
そんな考え事をしているといつのまにか信号が青になったみたいで、周りの人たちが一斉に信号を渡り始めた。
学生たちの話し声や、これから働きに行くであろうサラリーマンたちもたくさんいた。
信号を渡り終わり学校までの一本道を通っていると、同じクラスの男子が手を振ってきた。
彼とは前回のペアワークの際に少しだけ話した程度の仲だったが、挨拶してくれるとは、今日はいい一日になりそうだ。
僕はしっかりと彼の眼を見ながら、大きく手を振り返した。すると彼はこちらにきずいたのか少しだけ苦笑いをしながらぺこりと小さく会釈をした。その反応から僕は気づく。彼は僕に手を振ってきてなかったらしい。僕は行き場をなくした右手掲げたままにしていると、
「拓真くぅ~ん。残念ながら佐藤君は俺に挨拶をしてきていたんだぜ?」
そう言いながら煽ってくるのは僕の数少ない友人である宮島優である。
こいつはいわゆる、高校青春スターターセットのような奴だろう。
こいつは頭よし、運動神経よし、顔よし、の三拍子がそろった人間だ。辞書で宮島優と調べれば、容姿端麗、運動抜群、頭脳明晰が出てくるだろう。またその逆もしかりだ。
もちろん女子からの人気も高く、男子にも仲の良いやつが多いだろう。
しかしこいつは残念なことに煽りカスだ。隙あらば煽ってくるし、隙がなければ、無理やり隙を作ってくる。小学校からの長い付き合いだからか、僕が煽られないように隙を見せないようにしてもこいつには無意味だった。
「何言ってんだ優。僕は今ラジオ体操第一の5番をやっていたんだ。断じて自分に向けられた挨拶だと勘違いして、数少ない友人を増やせるかと思い嬉々として手を振っていたかわいそうな奴なんかじゃない」
「そうだったのか。すまなかったなかわいそうな奴」
「僕の言い訳聞いてた?」
「聞いたぞ。自分は友達の少ないかわいそうなやつです。だろ?」
「いらないところだけを聞き取るな。そこは重要じゃない。」
「だったら、掃除終わりの時に最後まで自分の席が下ろされていないってとこか?」
「無駄に解像度が高いのはやめろ。配られたプリントが椅子の上に置いてあると、どんなめんどくささがあるか教えてやろうか?」
「まぁそういうなよ。拓真、まだ来世があるじゃないか」
「なんで、高校生の段階から来世に期待なんだよ。僕の輝かしい未来はそのうち来るはずだ。俺たちの戦いはこれからだ!」
「その言い方だとお前の人生打ち切りになるぞ……」
「だとしたら編集者はお前だ」
まったくこいつは、朝だというのに元気なことだ。
優と話しているとどうしても会話のリズムを持っていかれる。というか僕の知り合っている人物はみんなそうかもしれない。今まで僕が一度でも主導権を握れたことなどないのだろうから。
「まぁまぁ拓真。こいつをやるから許してくれたまえよ」
そういいながら優がカバンから取り出したのは水着姿のグラビアアイドルがでかでかと乗ったヤンマガであった。
「そんなもので僕の気が収まるとでも……」
「収まったじゃねぇか」
僕はヤンマガを受け取り、じっくりと中身を黙ってみていると優から突っ込みされる。
今月のヤンマガは海での撮影らしく、アイドルたちがスイカ割をしていた。
「これじゃあどれがスイカかわからないな」
「拓真……そういうのは心に秘めておくものだぞ」
優があきれたような顔をしながら言う。
「そうだな、桃もあるのを忘れていた」
僕がそう言うと優はだめだこいつといった顔でこちらを見る。
「ハイハイそうですか……話は変わるけどさ、オカ研今日も来ないのか」
僕はその質問に一瞬どきりとしたが、問題ない。いつものテンプレートで返答する。
「……うん。ちょっと最近忙しくてな」
まったくの嘘である。優もそのことはうっすら感じているだろうがとくには触れてこない。
「そうか……長瀬先輩も心配してるから、顔を出してあげてくれ」
「あぁ、わかってるよ。それじゃあまた」
「あぁ、またあとでな」
宮島優はいいやつである。煽ってはくるものの人が傷つくような発言はしないようにしているし、困っているときは真剣に助けてくれる。オカ研に来なくなった僕を心配してくれている。
本当にいいやつだ。
だから優が僕の好きだった先輩、長瀬由美と付き合っていることなどほんの些細な問題だった。
確かその時は長瀬先輩の誕生日だったと思う。
長瀬先輩が以前欲しがっていた、㊙オカルト大発掘第三号というなぜ三号も続くのかわからないようなネーミングセンスの本を欲しがっていたのでそれを誕生日プレゼントにしようと思い、近くの古本屋を探しに探しまくって、誕生日の日も
「ちょっと予定があるので……」
と言って古本屋を探し続け、見つけることができたのだ。
その日中に渡したかった僕は急いで学校に帰って、プレゼントを渡そうとした。
けれどそれがよくなかった。
普段は閉められていない部室のドアが閉まっていた。誰もいないのかとも思ったが外には靴が二人分あった。違和感を感じて僕は入る前に気づかれないように少しだけドアを開けてその中を見た。すると中では、長瀬先輩と優が一緒にいた。けど何か様子がおかしかった。僕が嫌な違和感を感じ、それが確信に変わる前にそこから離れようとした。
けど無駄だった。
二人は目を合わせるとお互いの唇をゆっくりと近づけキスをした。
僕は小さく声を漏らしたが、二人だけの世界に入っている優たちには幸いにも聞こえていなかったようだ。
僕はその光景を見て、本当に、本当に自分が情けなくて、僕の魂がまるで雑巾のように絞られる錯覚に陥った。
そこから先のことはあまりよく覚えていないが、あのオカルト雑誌を結局捨ててしまったことは覚えている。あの雑誌のことを見ると否が応でもあの時のことが思い出してしまうのだ。
その雑誌の内容はほとんど覚えていないが一つだけ覚えていることがある。それはなんでも願いが叶うという神社の話だった。その話の情報提供者の名前、『匿名希望の田中』という名前のせいもあるが、一番印象に残ったのは、自分の住んでいるところの近くということだった。
まぁなんで今こんな話をしているかというと、寝ていたせいで電車を降りそびれた場所がちょうどその神社がある場所だったのだ。
次の電車までは少し時間がある
時間を確認した僕は、その神社の場所まで行ってみることにした。まぁ三か月以上も前の話だから道を覚えているかは微妙なんだが。
駅を出ると夜だというのに、ほんのりと明るい空を見てみるときれいな満月が空に浮かんでいた。
それから道を進んでいくと目的の場所であろう神社へと着いた。
その神社はいろんなところがボロボロになっており、初詣であったとしても人が集まるか微妙そうな作りであった。確かに、幽霊か、神様かはわからないが何か出てきそうな雰囲気はあった。
「こんなところに肝試しでもなんでもなく一人で来るのは、俺ぐらいだろうな」
ゆっくりと階段を上り鳥居をくぐろうとした。すると
「っ……ふ……っ」
だれか泣くのを抑えるような声が聞こえた。
急いで周りを見渡してみるも、何処にも人影はなく、鳴き声もいつの間にかやんでいた。
「本当に何か、出そうだなここ……さっさと終わらせよう」
一応神社なので賽銭箱の前に立ち、五円玉を投げ入れる。
「そういえば、来たはいいものの。何を願うかは決めてなかったな」
我ながらにすっかりと忘れていたことを思い出す。
二例二拍手一礼をして真ん中にある鈴を鳴らす。
まぁ・・・願い事なんてこんなもんでいいか
「──────────────────」
大きく鳴らした鈴の音が聞こえなくなるのと同時に下げていた頭を上げる。
「まぁ、特に何か起きるわけでもないよな」
今は何時なのかと思い時間を確認するともう少しで電車がやってくる時間になっていた。
「やべぇ!早くいかないと」
僕は急いで駅に向かうべく、駆け足で神社をくぐった。
「…しい……もう…やだ」
また何か聞こえた気がしたが、急いでいた拓真は特に気に留めることもなくその場を去った。
▽▲
家に帰るまでの道中も、家に帰った後も特に何もなく、あっという間に寝る時間になっていた。
優からもらったヤンマガをもう一度確認してからベッドに横たわる。
こうすることでいい夢を見れるのだ。
目覚まし時計をつけようかとも思ったが、最近外でしている工事の音で起こされるので必要ないと思いつけなかった。
布団をかぶり目をつむる。しかしなかなか寝付くことができない。
拓真は寝ることはあまり好きではなかったが夢を見ることは好きだった。
夢の世界では、現実を忘れることはできる。
めんどくさい人間関係や、つらいことも夢の中では一時だけ忘れることができる。
だから少しでもいい夢を見れますように。
そう思いながら拓真は眠りについた。




