棗まこと転生奇譚 ~本と無双~ S美ショタ神の加護を添えて
「待って待って……何これ? ヤバすぎ……!」
ガラス窓に映った、長身の黒髪の女性。
控えめに言って、私の理想を体現した女性。
つい、歓喜の声を漏らしてしまった。
そこは、やっとたどり着いた街だった。
そこで、私は今の自分の姿をはじめて見た。
それが、自分の姿なんだと認識するのに、少し時間がかかった。
だって……
メイクもしていないのに、キリッと切れ長の瞳は力強くも色気がすごくて……
スッと通った鼻筋、スッキリとした輪郭、凛々しさのある眉、形と厚みのちょうどいい赤い唇……
何頭身なんだろうってぐらいの足の長さと、ウエストのくびれ……
王子様みたいなんだけど、スラリとセクシーで、確実に女性で……
それは、憧れの女優のような……私の理想だったのだ。
これが……あたらしい、私……!
「やったあああ!!!」
私は、天に向かって、高々と両手をあげて……叫んでしまった。
サッカー選手が逆転ゴールを決めた時みたいな、あんなやつを。
だって、前の私からは考えられないから。
キレイ系になれるよう頑張ってはいたけど、理想は理想でしかなかったからね。
――――
あの時私は……
神様に会った。
「ほー。こうやって捕まったのか……オレ」
「あらあら、そんな。捕まっただなんて……」
真っ白な部屋? いや、空間っていうのかな?
明らかに現実的じゃない場所に、私は突然いた。直前まで何してたのか、思い出せない。気付いたら、真っ白。
そして……目の前には、もんのすごい美女と、美少年がいて……こっちを見ながら何か話していた……んだと思う。
「えっと、君さ、名前とか覚えてる?」
とりあえず様子を見ようかなって観察してたら、美少年が、にこやかに話しかけてきて、ちょっとドキッとした。
おかしいな? ショタ趣味はないんだけど……。
そりゃ、顔面は大事ですよ? 見てる分には大好きだしぃ……。でもそれって目の保養的なやつで、三次元にドキッとするだなんて、ねぇ?
と、考えに気を取られてる間も、じーっと美少年はこっちを凝視してて。
そんなに見られると流石にちょっとね……
って、あ! そうだ。答えればいいんだ。うんうん。
「あ、えっと……棗まこと……19歳……理系のJD……ですわっ」
あ、しまった! 今配信じゃないのにですわって言っちゃったですわ!
「ふっ……あははは! そっかーこんな……! あははは……!」
私、ちゃんと答えたはずなのに、目の前の美少年、突然笑い出しちゃった。なんで? ですわ、って面白かったかな?
「ふふふ。まことさん、でしたわね。あなた、今、魂だけの状態ですから。考えていることは私たちに全部伝わるのですよ? ふふ。」
!!!!!!!????!!!??
きゃあああぁああああぁあああぁああ!!!!!!!????!!!?
うそうそうそうそうそ?!
待って待って待って待って!? ヤバすぎだってヤバすぎ!!!!
ええーーーーーーーーーーーー?!
考えてたこと全部ぅ?! ヤバすぎでしょ?! ええ?!
あ、いやでも、まだ最悪じゃない……か。
趣味のことちゃんと考えてなくってよかっ……
って、ああああ?! これも伝わってるんだったぁーーー?!
ガーン! しまったぁー!
「あはは! やっべ……! あはは! すっげ……妄想力パネェ……! あはははは……!」
美少年はツボってるみたいで、転げまわってるし、美女は口元押さえてクスクスしてるし、いったいなんな……ん?
さっき、魂って?!
「ああ、はい。魂ですね。あなた、先ほど地球で死にましたから」
にこーっと、慈愛に満ちたような笑顔で、そんな恐ろしいことをさらっと言ってくる美女。私は、背筋が凍るような思いをした。
「えっと、あなたたちはいったい……ここはどこですか……?」
って、魂だっていうんなら、死後の世界なんだろうけど……じゃあこの人たちって……まさか?
「はい。あなたがたのいうところの神という存在ですね」
「か、神様?!」
神様って、本当にいたんだ……。しかも二人も?!
「二人……だけではありませんよ? 正確には神族といって、私たちのような種族が――」
美女が、説明しようとしてくれていたのに……
「はは……はー……。あー笑ったぁ……。てか、それは別にいいっしょ。どうせ……記憶ある程度リセットするんだし」
それを、笑いのおさまった美少年が遮った。気になってたのに。
「まぁまぁ。まことちゃんだっけ? 気にしなくていいって。どっちにしろ、ひとつ能力を与えて、必要そうな記憶だけ残して、新しい世界に行ってもらうってのは決定事項なんだからさー。ま、諦めも肝心ってことさー」
「へ? ちょ……ま、待ってください! あ、新しい世界? え、私、死んじゃったんですか?」
ガーン。19歳、棗まこと死す! って? うそでしょー?! で、ここが死後の世界?!
「あー、うん。死んで霧散する前の魂を、ここに移動させたって感じかな? 19年で終わるよりは新しく生きなおしたほうがいいっしょ?」
えっと……どうしよう? 理解が追い付かないし……そもそも、私どうして死んだんだろ?
「あー。死んだ瞬間の記憶はもう消しといたから! 思い出せないと思うぜー」
美少年はニコォっと笑ってた。
「信頼してた人から裏切られて死んだ……なんて、要らない記憶だろ……?」
そして、さっと右手を上げたかなって思ったら、そこで私の意識が途切れた。
神様たちのこと、うっすらとしか覚えてないけど……
今にして思うと、たぶん……あの子、Sだな。イタズラとか好きそうな感じだった気がする。
――――
気が付いたら、草原だった。
手に、何か本? みたいなのを持っていた……んだけど。
「……なにこれ? 冒険の書……?」
子供が手書きしたみたいなヘタクソな字で、そう書いてあった。しかも、日本語で。風景は全然日本っぽくないけど。
周りを見渡しても、腰ほどの草と、足首までくらいの草が生い茂ったとても広い場所で……どっちに向かっていいのか、ここがどこなのかもわからない。
その生えてる草も、日本では見たことないようなものしかない。
はぁ。どうやら、この冒険の書とやらを見てみるしかなさそう……。
と、表紙を開いてみると。
『街の方向は→』
とだけ、ヘタクソな字で書かれていた。
は? それだけ? うそでしょ? 待って、ヤバすぎだって!
と、内心焦ってもう一枚ページをめくってみた。
『棗まこと : 真実を見通す目/製薬』
と、やっぱりヘタクソな字で書かれていた。
そして続けて
『※能力一個って言ったけどさ、もう一個サービスね!』
と、注意書きがしてあった。
これ、絶対あの子のしわざだよね?
記憶をリセットするって言ってたけど……私は何を覚えていて、何を忘れてるのかな。
名前や年齢は覚えてる。配信とかたまにしてたのも覚えてる。ゲームが好きだったりとか、そういうことは覚えてる。
でも、どうやって死んだとか、友達や家族のことは……分からなくなってる……。
それが、悲しいことなんだろうなって、想像するしかなくなってる……。
「ねぇねぇ、お姉さん。」
え? 足元から声がした?
「お姉さん。お姉さん。」
声のする方を見てみたら、しゃべるハムスターみたいなのが! けっこう大きい!
「な、なんでしょう?」
おっかなびっくり答えてみたら、大きいハムスターみたいな動物は、クリクリのおめめを少し潤ませるように言いました。
「食べていい? お腹空いたんだー。お姉さんのイノチ、いただくね?」
「……え?」
言うが早いか、大きいハムスター。ギュバァっという感じで口が四方に裂けるように巨大化していって、深紅の口内に無数の鋭いサメのような白い歯が見えた。きもい。
さ、さっきまでリアルハム太郎かなって思ってたのに、さすがにヤバいって! 癖ェってレベルじゃないじゃん!
「いただきまーす」
口開きっぱなしなのに、よく発声できるね? 喉奥かな? 喉奥でお話しできるのかな?
あ、いやそうじゃない、何とかしないと食べられちゃう!
と、思った瞬間だった。
伸びた口じゃない、ハムの太郎部分に、『ここ本でなぐる』って書いてあった。
――殴った。
「ベゲェエッ!!」
ハム太郎もどきは、飛んでいった。脅威は去った! やったね!
『ってってれー! 棗まことは敵を倒した! でも残念! この世界にはレベルの概念はなかった! 地道にがんばって~』
本から、ひどいナレーションが聞こえた。
そうして、ちょっとイラっとしながら再び本を開いて、さっきの矢印が実は動くことに気が付いて……
さらに、じーっと見てると距離も分かるって判明して……
Go〇gle Mapみたいな感じで、ようやく街にたどり着いたというわけでして。
「やったあああ!!!」
自分の姿を見て、大歓喜なわけですよ!
そして、どうやら、この持ってた本。
ガイドブックみたいなものみたいで。とても役に立ちそうだった。というか、立った。
もらった能力は、本を見ながら道中試してみたけど、どうやら物の真偽とか、名前とかが分かるものと、薬を創れる能力だった。
『この本と能力駆使して、無双してドゾー』
っていうページを見たときは、地面に叩きつけてやろうと思ったけど。
道行く人の言葉もわかるし、本を見てれば今後の計画も立てやすいし……。
さっき作った薬を売れば、お金にもなるっぽいし……。
『とりま、魔王的なのも用意してあるからさー。がんばってたおしてねー』
とかいうのも……
『百合ハーでも逆ハーでもお好きにドゾー』
とかいうのも、ちょっと煽られてる気がしなくもないけど。
まぁ、もう元の自分には戻れないんだし、この姿理想通りだし、リアルゲーム的世界攻略、本と無双してやろっかな!
さってと。そうとなったら、先ずは計画をじっくりと練るために……アンティークなカフェでもいこっかな!
REALITYという配信アプリ内の企画で、xでお絵描き企画をやりまして。
それの景品です。