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溺愛されるのは幸せなこと

作者: ましろ


アルファポリス様でR-18で投稿したものを、直接的な部分をカットして微調整しました。

これくらいならR-15で大丈夫でしょうか?

ちょっとドキドキ……





リュディガー伯爵夫妻は仲睦まじいと有名だ。


もともとは政略結婚のはずが、夫であるケヴィンがイレーネに一目惚れしたのだ。

結婚してから5年がたった今も、その溺愛は続いている。


「イレーネ!今日は一段と美しいね。どうしよう、夜会に行くのは止めようか。こんなに美しい君を誰にも見せたくない」

「ありがとう、ケヴィン。貴方も素敵よ」


確かにイレーネはとても美しい女性だ。甘い蜂蜜を思わせる様な柔らかく波打つ金髪に、エメラルドグリーンの蠱惑的な瞳。子供を二人も産んだとは思えない細身でありながらも、胸元は柔らかそうに誘惑する。

夫に愛され順風満帆でいながらも、何処か憂いを含んでいる様な危うい姿がより一層男性の目を引くのだ。


「今日はお義母様が子供達を独り占め出来るのを楽しみにしているのよ?私達が出掛けないとガッカリしてしまうわ」

「だって!」

「んっ」


一度拗ね出すとケヴィンの嫉妬は止まらなくなる。使用人が見ている前で見せつける様に妻の唇を奪った。


「やっ、だめ、紅がっ」

「っん。これで行けない?」

「~~っ!」


抱き締めていた手が背中を辿って太腿を撫でる。


「だめ。これ以上は怒るわよ」

「そんなに色っぽいドレスを着るから。やっぱり駄目だ。行くのを止めよう」

「ケヴィンっ!」


そう言うと、軽々と妻を抱きかかえてしまう。


「ミュンター家に使いを。妻が体調不良で行けなくなったと伝えてくれ」

「なっ!」

「私達が寝室に篭もれば子供達も出掛けたと信じるよ。母上に叱られることは無いさ」

「何を言ってるの?嫌よ、下ろして!」

「もう一人子供が増えたら母上達も喜ぶさ」

「!」


嬉しそうにそう囁くと、後はどれだけ妻が文句を言っても聞かずに寝室に連れ去ってしまう。


優しくベッドに下ろすと、イレーネは憤慨して起き上がろうとした。


「私は嫌だと言ったわ!今日はカリナにも会いたかったのに!」

「しーっ。私は例え女性であってもベッドの上で私以外の名前を出されると嫉妬する」

「そんなっ、ん~~~っ」


それ以上の抵抗は無駄だった。力で敵うわけも無く、嫌がっていても、その体は夫を受け入れる事にこの五年ですっかり慣れきっていた。妻の体にも溺れているケヴィンが毎日の様にその体を貪っているから。


「もう、あんなドレスは着ないで」


ケヴィンは閨の度に快楽でもって攻め立て、自分の望みを叶えようとする困った男だ。


「あれは今の流行りで……っ、それは嫌っ!やだやだっ」


ケヴィンはイレーネの体を知り尽くしている。

彼女の苦手とする行為ももちろん熟知していた。


「ん?私は可愛いから好きだよ」


分かっているくせに攻めるのを止めない。


「お願いっ!言うことを聞くからっ!!」

「よかった。やっと私の気持ちを分かってくれたんだね。愛してるよ、イレーネ」


溶ける様な笑顔を見せながら口付ける。深く、深く。その吐息さえ飲み込むかのように。


その後も、イレーネが疲れ果て眠りに落ちるまで、ケヴィンからの愛撫は続いた。





「……スプーンを返して」

「はい、あーん」

「………」


チュッ


「何をっ!」

「違った?」


どれだけ妻の機嫌が悪くても、それに苛立つこともなく、どちらかと言えば毛を逆立てた猫を愛でるかの様に楽しんでいる。そして、いつも折れるのはイレーネの方……


「……もう無理。もう我慢できないわ」

「え?」


そんな呪詛の様な地を()う声を初めて聞いたケヴィンは目を瞬かせた。


「ケーテ、パウルを呼んできて」

「奥様?」

「いいから、早くなさい」

「イレーネ?えっ、どうしたんだい?君のそんな姿を使用人とはいえ男に見せる気はないよ」


さすがのケヴィンも表情が険しくなるが、イレーネは答えない。


「奥様、連れてきましたが」

「パウル、入ってきたら即解雇だ」

「パウル、ケヴィンを拘束なさい」

「……承知しました。イレーネ様」

「なっ!パウルっ!?」


信じられないことに、パウルがケヴィンの腕を縛り上げた。騎士であるパウルに、体術で勝てる訳もなく、あっという間に縛り上げられ拘束される。


「ケヴィン。パウルは私が実家から連れてきた子よ。忘れたの?」


確かに、輿入れの際に連れて来た男だ。


「だが今はもう、私が主の筈だろう!」


そう叫んだケヴィンをイレーネは氷の如く冷たい視線で見つめながら宣った。


「なぜ?」

「え」

「どの辺りが貴方にそう思わせたのかしら。私のものは貴方のものなの?どうして?

私のものは私のものよ。パウルも。もちろん私自身も!

貴方のその傲慢極まりないところが本当に嫌だわ。

──私は実家に帰らせて頂きます」

「イレーネっ!?」


突然豹変したイレーネにケヴィンは目を白黒させながらも、里帰りと聞いては黙っていられない。


「駄目だ、そんなことは許さないっ!」

「ですから。何故私自身のことを貴方に指図されなければいけないの?

貴方はいつもそう。誰々と会っては駄目。何処どこに行っては駄目。この服は着るな。側を離れるな。………子供にすら嫉妬して、触れ合える時間を減らされて!それなのにもう一人欲しい?何の為に?

ああ、また赤ちゃんプレイを楽しみたいのかしら。

………気持ち悪いのよ、この変態がっ!!」


イレーネの言葉に、近くにいたケーテとパウルもドン引きしている。そしてケヴィンは顔面蒼白だ。


「とにかく。貴方の思いなど知りません。私は実家に帰ります。お義父様達には、今私が言ったことをそのままお伝えください。『妻は夫の身勝手な束縛と変態行為を嫌悪して家を出てしまいました。このままでは離婚の危機です』とね」

「………離婚?ありえない!」

「相変わらず人の話を聞かないのね。何でも自分の思い通りになると信じてる暴君様。それは幻想ですよ。

ケーテ、パウル。行くわよ」

「「はい、お嬢様」」

「待ってくれ!行くなっ!!」

「……うるさいわ。パウル。口を塞いでベッドにでも括り付けて」

「はい」


パウルは素直に言うことを聞き、テキパキと行動する。


ケヴィンは慌てて追い掛けようとしたが、後ろ手に両腕を縛られて、両足も束ねてベッドに括り付けられたせいで、起き上がるのもままならず、そんな夫をちらりと見ると「様を見ろ」と酷薄に言い捨て、本当にイレーネは屋敷を出て行ってしまった。



◇◇◇



「本当に帰って来ちゃったのか」

「こないだ伝えたじゃない。そろそろ本気で限界ですと」

「そうだね、言っていたね」


5年前に嫁いだ妹が帰っていた。騎士のパウルと侍女のケーテを連れ、荷物も無く身一つで。


「よく抜け出せたね?」

「パウルは拘束が得意よ。両手両足縛って口を塞いでベッドに括り付けてきたもの。夜だったし、暫く気付かれなかったのではないかしら。トイレに行けず、粗相をしていないといいのだけど」

「おやおや。溺愛する妻にそんなことをされて、さぞ傷付いているだろうね」


そんな兄の言葉に冷たい視線を向ける。


「溺愛?愛玩の間違いでしょう」

「そうなの?」

「ええ。あの男は私がどの様な人間かなど知ろうともしないの。身奇麗にして側に置いて弄くり回して楽しんでいるだけ。どれだけ私が嫌だと訴えても、怒ってる顔も可愛いとか意味の分からないことを言って聞いてくれないの。

ああ、あと、私を痴女だと思っているわ。嫌だと言いながらも喜んでいると信じているの」

「あ──。妹の閨事情は聞きたくないかな」

「あら、失礼」


ツンとすましてお茶を飲んでいる妹を見る。


「でも、そろそろ迎えに来るだろう。如何するんだい?」

「兄様よろしくね」

「やっぱりか」

「だって父様達だと、あの人の私への愛を聞いてすぐに絆されるじゃない?あの二人は恋愛結婚だもの。愛の信者よ。絶対に駄目だわ」

「俺は?」

「そんな二人を冷めた目をして見てたじゃない。愛に流されない兄様が大好きよ」

「はいはい。可愛い妹の為に一肌脱ぎますよ」

「よろしくね。私は少し寝るわ。部屋まで来させたらぶっ殺す♡」

「……お前をエロ可愛いだけの天使だと、五年も思い込めたケヴィンが信じられないね」

「ね?そう思うわよね?」


ため息を吐きながら、兄ヴォルフは妹の頭を撫でる。


「五年振りの我が家だ。ゆっくり休みなさい」

「……ありがと」




◇◇◇




「ヴォルフ殿!イレーネは!」

「はいはい。まずはきちんと挨拶しようか」


馬車ではなく馬で追い掛けて来たのだろう。髪は乱れ、額には汗を滲ませている。妻の実家とはいえ、他家に訪れる姿ではない。


「親しき仲にも礼儀ありだよ」

「あ、の。申し訳ありません。イレーネのことしか頭に無く……この様な姿での訪問をお許し下さい」

「うん。謝罪は受け入れよう。とりあえず座りなさい」


早くイレーネのもとに向かいたいが、これ以上失礼な真似も出来ないとケヴィンは渋々腰掛ける。


「さて。イレーネを迎えに来たようだが、なぜあの子が出て行ったのか理解できたのかな」

「それは……私が愛するあまり嫉妬して」

「うん。違うね」

「え?」

「違わないけど根本が違う。君はあの子の何を愛していると言っているんだ?」

「何……全部です!」

「その答えは狡いな。ちゃんと答えなさい」

「え、あの。ヴォルフ殿に語るのは少し気恥ずかしいのだが」

「では帰るといい」

「えっ!?」


その時になって、やっとケヴィンはヴォルフが静かに怒っている事に気が付いた。意を決して言葉を紡ぐ。


「……最初は本当に一目惚れで。あの天使の様な美しさに惚れました。でも、それだけではありません!彼女の優しさや、でもちょっとツンデレで素直じゃないところも大好きだし。どんどん好きになって、何処が好きかと言われると本当に困ってしまうんです」

「ツンデレか。まあ、言い得て妙かな。でもね、あの子は意外と素直だよ。あまり我慢はしない。嫌なことは嫌だとはっきりと言える子なんだ。君にもその都度伝えてるはずだけど?」


ヴォルフの言葉にケヴィンは狼狽える。


「……あの、嫌という言葉は照れ隠しでは?」

「まさか。本気で嫌なんだと思うよ。なに。ずっと君は照れ隠しだと思ってまともに取り合わなかったのかい?」


ケヴィンは頷きはしなかったが、蒼白な顔が肯定であると物語っている。


「とりあえず言ってご覧。何を嫌がられたのか」


優しい口調だが、それは命令だ。ここで話を止めたらイレーネに会うことは叶わない。


「……男性とは話さないで欲しい」

「なぜ?」

「彼女に惚れられたら嫌だからです」

「相手が惚れようが、あの子が(なび)かなければ問題ないだろう」

「でも!」

「はい、次」

「一人で出掛けないで欲しい」

「なぜ」

「だってどんな危険があるか!」

「外出には侍女と騎士を連れているだろう。それで守れない危機とはなんだ?事故か。それを言い出したら、君と一緒に出掛けても事故に合えば危険なのは同じだ。一人での外出を止める理由にはならない」

「……男に絡まれるかもしれないじゃないですか」


ヴォルフが酷く冷たい目でケヴィンを見る。さすが兄妹。蔑む視線がよく似ている。


「ようするに。君はイレーネを信用していないんだね」

「そんなことは!ただ、信じていても心配なだけです!」

「それを信用していないというんだよ。あの子は人妻なのに、愛を囁かれたらすぐに蹌踉(よろ)めく阿婆擦れだと言いたいのだろう」

「違いますっ!本当に愛してるから心配なだけで!」

「じゃあ君は?女性とはもちろん話さないし、一人での外出も無いのだよね?」


そう言われてしまうと大変困る。付き合いと言うものがあるのだから、会話しないなど難しく、外出だって予定があれば一人で出掛ける。


「あれ?イレーネは駄目で君はいいの?それって何だろうね。あの子を下に見てるのかな。女なんてその程度でいいってことかい?」


違うと否定したくとも、上手い言葉が見つからない。イレーネは駄目で自分はいい理由。考えれば考えるほど、妻だから、女だからとしか言えなくなる。


「まあいいや。次」

「……閨でのことを……」

「ああ!言ってたよ。君はあの子を痴女だと思っているそうだね?」

「はっ!?それは無いですよ!」

「そう?それなら何故使用人の前でそういう事をするんだい?」

「そ……れは……」

「恥ずかしそうにしてる姿が可愛かった?」

「……はい」


だって本当に可愛いのだ。真っ赤になって目を潤ませながら睨み付けてくる顔が。ついつい興奮してしまって、度々やってしまっていた。


「それはかなりの悪手だ」

「……」

「あの子はね。しっかりと淑女として教育されて来たんだよ?人前でふしだらな行為をしたり、そういったものを匂わせる様なキスマーク等も苦手だ。付けて悦に入ってる恋人達を酷く嫌悪した目でみていたよ。それなのに、無理矢理その仲間入りをさせるなんてねぇ。

そういうプレイは相手の同意を得てからじゃないと精神的苦痛でしかないと俺は思うね」

「……申し訳ありません」


既にケヴィンの心はズタボロだ。今まで信じていた妻の可愛らしい行動は、本気の嫌悪だと知ってしまったのだ。更に自分がどれだけ身勝手なのかも。


「……これからは心を入れ替えます。イレーネの嫌がることは絶対にしません!だからお願いです!チャンスをいただけませんかっ!!」


ケヴィンは深く頭を下げた。


「あの子の言葉を理解出来ないくせに如何やって?」


しかし、ヴォルフから返って来た言葉は、許しでは無かった。


「そんな!あの、本当にこれからはイレーネの言葉を誤解しないようにしますから!」

「それを信用しろと?そもそも女性蔑視ともとれる行動はどうするんだい?本当に許せるのか?」

「それは……」

「はい。即答出来ないあたりでアウト。今日は帰りなさい。友人なりご両親なり。他の人の意見も聞くといい。子供の扱いについてもね?

ちなみに私は最悪だと思っているよ。子供にすら嫉妬するってどれだけ馬鹿なの?それなら最初から作らなければよかったんだよ。

じゃあね、帰りはもう少しゆっくり帰りなさい。これで何かあれば責められるのはイレーネだ」

「……はい……失礼致します」


ケヴィンは反論も出来ず、よろよろと帰って行った。




◇◇◇




「お前は馬鹿なのか?」


真っ直ぐ家に帰る気にもなれず、友人であるモーリッツを訪ね、すべてを話した結果がこの言葉だ。


「……そんなに駄目だったか?」

「おい。反省してないじゃないか」

「反省はしてるよ。でも、また同じことをしない自信が無いんだ。だってイレーネを愛してる」


それの何が駄目なのか、やはりよく分からない。だって私の妻なのに。


「おいおい。便利に愛という言葉を使うなよ。お前のそれは自己愛だろう?」

「自己愛?」

「そ。綺麗な妻が自分だけの物なのが嬉しい。子供も出来て幸せだし、でも、その子供すら自分への愛には敵わない。なんて幸せ者なんだ、俺は。

さしずめそんな所だろう。全部お前の幸せが一番に考えられているんだよ」


まるで金槌で頭を叩かれたような衝撃だった。


──自分だけが幸せな世界


ストンとその言葉が理解出来た。


それか。だからイレーネは……


「ありがとう。本気で教えてくれて」

「今度は上手い酒を持ってこいよ」

「分かった」





◇◇◇





「イレーネ、すまなかった」

「……何が」

「君を、ちゃんと見ていなかった。全部自分の為だった。全然夫婦になんかなれてなかったんだな、私は」


あれはただのひとり遊びだった。だってすべて私の希望を通しただけ。イレーネの気持ちなど聞いてこなかったのだから。


「これからはちゃんと君の話を聞くよ」

「……すぐに曲解するくせに」

「もし、そんなことをしたら殴っていい」

「嫌よ。貴方は喜びそうだもの」

「ん゛!いや!決してそんなことはっ!!」

「ああ、パウルに殴らせるわ」

「……それでいいよ」

「子供達に嫉妬しないで。貴方の子供でもあるのよ」

「本当にごめん」

「…………私は痴女じゃないわ」

「ごめん!ただ君がエロかわいくて! もっととか縋られたかったし、私のことを求めてほしくて!」

「私はそこまで貴方に打ち解けられていません!」

「!!」


それは、5年目にしてようやく伝わったイレーネの本心。


「だって政略結婚よ。全くの初めましてだったのに、会ったその場から貴方はおかしくて!

綺麗可愛い大好きですばっかりで会話にもならない!

それなのに初夜からエロ魔神で私にまでそういうのを強要してくるし、本当に嫌だって泣いても聞いてくれないし!!

だいたい体を使って言うことを聞かせるってどうなの?あれはね、快楽に負けてるんじゃないの。本当に苦痛で諦めてたのよっ!!」

「苦痛っ!?」

「当たり前でしょう!気持ちも伴わず、無理矢理高められるだけの快感の何がいいというのよ。苦痛に決まってるでしょう?普通に1回やそこらなら夫婦の義務としてこなせるわ。でも、貴方は私ばっかり攻め立てて狡いのよ。本当に嫌だからやめてちょうだい。出掛ける時にもそういう行為で邪魔しないで。本当に不愉快極まりないから」


そこまで嫌がられてるとは思わなかった。

幸せな愛の営みだと思っていたのに、イレーネにとっては夫婦の義務でしかなかった?


「……もしかして……イレーネはわたしを愛していないのか?」


そこから?愛してもらうところからなのか!?


「あのね。何度も言うけど私達は政略結婚よ。それまで会ったこともなかったの。それなのに会話は成立しないで体目当てか!って言うくらいの扱いでしょう。

それに自分の欲求ばかりぶつけてきて私の気持ちは無視。意味不明の束縛をしてくる相手を貴方は好きになれるの?

私にしてきたことを自分がされたと考えてみて。

社交という夫人としての大切な付き合いを、愛してるを免罪符に邪魔されるの。

次の日には大切な茶会があるから早めに休みたいと言った一言に、自分よりも大切なのかと嫉妬して抱き潰された挙句、首筋から胸元までびっしりキスマークを付けられて、身体はクタクタ、ドレスも変更で大慌て。結局隠しきれず見咎められてお茶会の話題として揶揄われまくって。

女友達や自分達の子供にまで嫉妬したと言って会うのを邪魔されて。

どう?そんな人を貴方は愛せるの?」


言葉にされると酷い。何その頭のおかしい奴は。私か。


「本っっっ当に申し訳ありませんでしたっ!!」


この日、生まれて初めて土下座をした。








それから。


相変わらずリュディガー伯爵夫妻は仲睦まじいと有名だ。但し、最近ではその後にもう一言付く。


──伯爵は夫人の尻に敷かれている。


「ねえ。この表現もどうなの?」

「いや?確かに君のお尻には敷かれたい」

「……パウルを呼んでくるわ」

「冗談だよ!」


すでに、パウルには何度か殴られている。反省はしても、中々すぐには直らないものだ。


「アイツは顔を殴らずボディを狙ってくるから」


あれは内臓が破裂するかと思った。


「少しは私のことを好きになってくれた?」

「どうかしら」

「イレーネ……」

「先に言っておくわ。私は自分の足で歩くから」

「?うん、そうだね?」

「絶対によ。邪魔したらパウルのキックが追加されるわよ」

「それは怖いな。心配しなくても大丈夫。そんなことにはならないから」


さすがに自力移動を邪魔するなんてことはない。


「……子供ができたみたい」

「本当にっ!?」

「ええ。春頃に生まれる予定よ」

「ありがとう!ありがとう、イレーネ!

あ、無理しないでね、転んだら大変だ!」


そう言って思わず抱き上げようとして──

慌ててハンズアップした。


「残念。パウルの蹴りが見れなかったわ」

「……いや、本当に骨が折れるから勘弁して」

「貴方が抱っこ移動しようとしなければいいの」

「………はい」


それからも、何かと気持ちのすれ違いは起きそうになったが、都度パウルパンチとケーテキックで事なきを得た。




「ねえ、イレーネ。今は幸せ?」

「そうね。幸せかも」

「……愛してるよ、イレーネ」

「ふふっ」


イレーネはまだ愛の言葉を返さない。

それはいつになるか。



『好きよ。……ちょっとだけね』


「えっ!?もう一回!!」

「何のことかしら」

「お願いしますっ!」


ふふっ、だってツンデレですので?





【end】







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