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ナイスタチン実験は成功だった。
僕は服用後に強い倦怠感と憂鬱感を感じた。
僕はドクターAに死にたいと訴えたらしい。
正直、うつ症状が強すぎたせいか、苦しかった時間の記憶はあまりない。
僕の希死念慮が強すぎたため、ナイスタチンの服用は途中で中断することとなってしまった。
しかし、ナイスタチン実験の成功によって、僕あ自分の病態が「腸管内腔のどこかにいる真菌が関与している」ということを確信したんだ。
そして、ドクターAも同じように解釈していた。
心強かった。
発症してから半年以上、1人でこの病気を模索してきた。
それに比べれば、医師が協力してくれているという状態はとても安心できたんだ。
ナイスタチンの服用を断念した僕に、ドクターAはサプリメントで治療してゆくことを勧めた。
それは、乳酸菌サプリメントだった。
乳酸菌にもまた、カンジダ菌を殺菌する作用があるらしい。
みんなも腸内環境をよくするために、ヨーグルトや発酵食品を食べたりするだろ?
メカニズムはそれと一緒だ。
難しい話はここでは割愛するけど、ざっくりとイメージを伝えるね。
僕らの大腸粘膜上には天使と悪魔が住んでいる。
天使は善玉菌、悪魔は悪玉菌と呼ばれている。
善玉菌は身体にとって有益なことをすることが多い。
逆に悪玉菌は身体にとって有害なことをすることが多い。
善玉菌と悪玉菌は常に戦っていて、善玉菌が勝つと体調がよくなり、悪玉菌が勝っていると体調は悪くなる。
乳酸菌は善玉菌に含まれ、カンジダ菌は悪玉菌に含まれる(厳密には違うけど)。
厳密には、その中間の日和見菌ってやつがいて、カンジダ菌はその日和見菌に分類されるんだけど、ここでは話を簡単にするために、カンジダ菌も悪玉菌みたいなものって考えてくれたらいい。
話を元に戻そう。
ドクターaはナイスタチンでは効き目が強すぎると考えたんだ。
だから、それよりも作用の弱い乳酸菌サプリメントによってゆっくりと治療を行えば、僕をあまり苦しめずに治療を継続できると考えたんだ。
(つづく)