19
医学部5年生は基本的に講義室にはいない。
大学病院の中で様々な診療科に散らばって、実習を行っている。
外来の診察を見学したり、手術室で初歩的な補助業務を務めたりする。
そして、この病院実習には学生にとってとても厄介な点がある。
それは実習先がころころと変わることだ。
2週間に一度、実習先の診療科が変わるのだ。
例えば、2週間消化器内科での実習を終えたら、その次の週にはまた循環器内科での実習が始まる。
2週に1度、学ぶことも実習内容も人間関係も、全てが変わってしまうのだ。
中でも、その人間関係の変化に適応するのは、非常に難しかった。
先生によっては、学生に細かいことをあまり話しかけて欲しくない人もいる。
自分の業務に集中したいタイプの先生だ。
その一方で、逐一、学生がどこにいて何をしているか把握していたい先生もいる。
濃厚な対話でもって学生を育てようとしてくれるタイプの先生だ。
その空気感を読み続けるのは至難の業だ。
ただでさえ、病院の中には緊張感が漂っている。
いついかなるタイミングでどこに身を置き、何を口にし、何を飲み込むのか、それを絶えず頭の中で計算し続ける必要がある。
そして、やっと慣れてきたタイミングで新たな環境へ一新されてしまうのだ。
これは精神的に非常にタフだった。
僕の身体が健康体であったとしても、しんどかっただろう。
でも、そんな流動的な環境が、1つの奇跡を起こしたんだ。
「よろしくね、笹山君。しっかり私を支えてね。」