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虚構ノ神域  作者: 立耳 兎
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ep.1 拝啓、孤独な貴方へ




 東京の街はいつも通りの喧騒に包まれていた。通学路には制服姿の学生たちが行き交い、駅前では急ぐサラリーマンが携帯を耳に当てている。

緋周牡 幸(ひすお さき)は、いつも通りの時間に学校へと向かった。

「今日は神学の授業か……」

特に興味があるわけではないが、彼女の通う高校では、神学は必修科目の一つである。

この世界では神々が実在するため、神について学ぶのは現代社会の基礎教養の一つとされていた。


 教室に着くと、窓から差し込む光が黒板を照らしている。

授業のチャイムが鳴る中、号令がかかり、授業が始まる。

「では、教科書16ページを開けてください。」

教師の声が響く中、生徒たちは教科書を開き、教師は「神学基礎:役割と堕落」と黒板に書く。

幸はペンを回しながら教師の話を聞き流していたが、ある一言に引き込まれる。

「神々が堕落する主な原因の一つは、人間の負の感情によるものです。」

その瞬間、幸の頭に残ったのは「堕落」という言葉だった。

授業ではそれは当然のことのように扱われ、特に止めることもなく続くが、幸の心は上の空だった。

(どうして神が堕落なんてするんだろう? 神様なんて、人間からすれば完璧で遠い存在のはずなのに……。)

幸はこの授業の内容が、単なるおとぎ話ではないことを知っていた。


 授業が終わり、昼休みになった。幸は親友の篠原 結花(しのはら ゆか)と一緒に中庭へ向かう。

「また神学の授業でぼんやりしてたでしょ?」

結花が笑いながら聞いてきた。

「うん……なんか、神様って本当に不思議だなって思ってさ。」

「まあね。でも堕落とかの話になると、ちょっと怖いよね。あたしはあんまり深く考えたくないや。」

結花は軽く肩をすくめたが、幸の頭の中にはまだ授業の内容が引っかかっていた。

「ところでさ!幸はどの神様が好き?」

「え?」

堕落などの重い話から話が急展開で変わったので一瞬思考が止まってしまった。

「だーかーらー!前も言ってたけど、この文献に載ってる神ってめっちゃカッコいいよね!

ってことで幸はどんな人がタイプなのかなーって」

「いやいや、そんなの考えたことないし...」

実に恋愛話好きの結花らしい発想だ。と感心している間にも、結花は教科書を広げながら妄想に思いを馳せている。

「やっぱり私はアイス様かなー。白髪に碧眼でしかも歴史の途中で姿を突然消すとかちょーミステリアスじゃん‼」

「たしかにねw

でも、なんで姿消しちゃったんだろう?」

「それはね。その神様がみんなを裏切ったからよ。」

「せ、先生⁉」

結花に言われてふと疑問に思ったことを呟く。

すると神学担当の女性教師が近づいてきてその理由を教えてくれた。

「その神の名はアイス・フローズン。かつて創造神であるイヴに仕え、四季を管理していた四つの家系の一つ。フローズン家の当主だったらしいわ。」

「そんな偉い神だったんですか⁉」

結花がのけぞるほど驚いた。

「ええ、そうよ。あの事件があるまではね。」

「事件って...何ですか?」

「それは、これから真面目に学べばわかることよ。

ねぇ?結花さん?」

「はっ、はい!!!!!」

教師が静かに結花に圧をかけてきた。

すると結花は幽霊でも見たかのような表情で答えたため、思わず笑ってしまった。


 学校が終わり、幸は家の神社に戻った。そこには祖母が待っていた。祖母は飛鳥時代から代々続く神職を務め、神々について深い知識を持っている。

「おかえり、幸。学校はどうだった?」

「神学の授業でね、堕落した神様の話を聞いたんだ。どうして神様が堕落するの?」

祖母は静かに微笑んだ。

「神様もね、完全じゃないのさ。人間と同じように、感情や葛藤を持っているからね。」

「でも、それじゃあ神様って、私たちとそんなに変わらないってこと?」

「それが神と人との繋がりの本質なのかもしれないね。もしかしたら、神だって孤独なのかもしれないよ。」


 その夜、幸は自分の部屋で教科書を開いていた。「堕落した神」の章を繰り返し読む。

(もし、神様が本当に孤独を感じているなら――。)

頭をよぎったのは、教室で見た黒板の言葉。そして彼女はまだ知らない。この日常が、やがて非日常に引き裂かれ、彼女自身がその中心に立つことになるのだと。

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