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19話:話を聞かずにリリスを揶揄う

 俺たちはグリゼルダの案内で城の中へと足を踏み入れた。

 中は思ったより殺風景で、面白みがない。

 一室に案内され、そこには俺たちが座れるくらい広々とした部屋だった。

 暖炉もあり、パチパチと炎が揺れ室内を温めていた。


 席に着くと、使用人がお茶を淹れて下がっていき、各々は冷えた身体を温める。


「暖かいです」

「だな。いくら大丈夫でも、寒いは勘弁だな」


 リリスの頭をなでなでしながらそう言うと、ハッと気付いて手を払われた。


「勝手に撫でるな、です!」

「気持ちよさそうにしてただろ?」

「……知らない、です!」


 プイッとそっぽを向いてしまう。

 これ以上は止めておこう。

 俺はゼフィルスに話しを振る。


「ゼフィルス、後は任せたぞ」

「ああ」


 俺はゼフィルスに話を任せた。俺は基本、交渉とかしないし。力さえあれば、何とかなるのが世の中だ。俺の場合、「話し合い」と書いて「暴力・脅迫」と読む。


 部屋の中で、ゼフィルスがグリゼルダと話し始めた。話題は当然、魔王軍への協力のことだろう。俺はその話を聞く気はない。どうせ、ゼフィルスがうまく話をまとめるだろうからな。

 俺は他のことに興味を持つことにした。

 エイシアスはとっくに、リリスに絡んでいる。リリスは口数が少ないが、甘い物には目がないのはキャンディで確認済み。

 俺たちが席に着くや否や、すぐに隅に置かれたお菓子に目を輝かせていたのは覚えている。


「リリス、お前、甘い物好きだよな?」

「……別に、そんなことない、です」


 リリスが少し不機嫌そうに顔を背ける。だが、目は確実にお菓子の方に向いている。俺はその様子を楽しむように、ニヤリと笑みを浮かべた。


「本当に? じゃあ、このクッキーを俺が全部食べるな。お腹空いていたんだよ」

「なら私もいただくとしよう」


 すると慌ててリリスが止めに入る。


「だ、ダメ、です!」


 俺とエイシアスはニヤニヤしながらリリスを見る。当の本人は顔を赤くしいぇ、俯きながら小さく。


「リ、リリスも食べる、です……」

「最初からそのつもりだよ。俺たちの分は気にしなくていいから、好きに食べるといいさ」


 顔を上げ、キラキラと目が輝いている。「いいの、です?」と物語っていた。

 俺とエイシアスが頷くと、リリスは遠慮しながらも食べ始めた。


「おいしい、です……」


 幸せそうな表情をするリリスを見れただけで幸せである。

 一方で、ゼフィルスの交渉がどう進んでいるのか気になり始めた。グリゼルダとの会話が長引いているようだが、俺は気にせず、リリスと少しふざけ合うことに集中する。


「チョコレートもあるぞ」

「……食べる、です」


 チョコレートを手に取り頬張るリリスは、幸せな表情をしていた。こんなのが魔将でいいのだろうか? まあ、他者から見れば強いのだろうが、俺とエイシアスから見れば可愛いでしかない。


 次にゼフィルスに目を向けた。交渉の進展具合が気になる。

 その時、ゼフィルスの声が少し高くなったのが聞こえた。


 「グリゼルダ、協力をお願いする。魔王様は魔族の未来を考えている。それには、グリゼルダの協力が必要不可欠なのだ」


 ゼフィルスは真剣な顔で続ける。


「それに、共に戦えば、お前が望む未来も実現するだろう」


 グリゼルダの沈黙が続く。

 どう反応するのかと思っていたその時、グリゼルダが低い声で答えた。


「……ゼフィルス。あなたが言うように、私もこの地の民を守りたい。しかし、それはこの地に限った話だ。それに信用してもいいのか?」


 ゼフィルスは頷くと、静かに答える。


「もちろん、信頼は時間が必要だ。しかし、今ここでお前の力を借りることができれば、より良い未来が待っている。人間との戦争に、この地の者たちだけで戦うと? 協力すれば我らも援軍だって出せる」


 交渉は続いているが、俺はリリスと一緒にそれを聞き流すことにした。結局、ゼフィルスが何を言っても、最終的に決まるのは力だろうからな。

 リリスがチョコレートをもう一つ取るのを見て、俺はまた少し笑った。


「これも美味しいな」

「うむ。変わった味をしている」


 リリスがチョコレートを口に運びながら、俺の言葉に少し頷いた。

 彼女の顔は相変わらず甘い物に夢中で、表情が柔らかくなっているのが見て取れる。俺はそんなリリスを見て、心の中で少し満足感を感じる。

 どうしても、彼女が少しでも楽しんでいるのを見ると、嬉しくなっちゃうんだよなぁ。


 一方で、ゼフィルスとグリゼルダの会話はまだ続いているようだ。

 話の内容から、かなりの時間を費やしているのが分かる。グリゼルダが信頼に足るかどうかを見極めようとしているんだろうが、どうせゼフィルスがうまくまとめるだろうと、俺はあまり心配していなかった。


「リリス、もう少しで全部食べちゃうぞ?」

「うっ、別にいいです、ですけど」


 リリスが少し慌てたように言いながらも、チョコレートをもう一つ取る。俺はニヤリと笑いながら、ゼフィルスに視線を向けたが、まだ話し合っている。


 その後、沈黙が続き、俺は再びリリスに目を向けた。

 リリスはもうチョコレートを半分以上食べてしまっている。少しだけ、俺は驚きの表情を浮かべてから、また彼女に声をかけた。


「ほんとに甘い物好きなんだな」

「……うるさい、です!」


 リリスは赤くなりながらも、黙々と食べ続ける。

 可愛げがありすぎて、ますます揶揄いたくなる。だけど、あまりいじめすぎないようにしよう。


 その時、ゼフィルスがグリゼルダに何かを言っているのが耳に入った。

 どうやら、グリゼルダが最終的に協力することを決めたようだ。ゼフィルスが落ち着いた様子で言った。


「ありがとう、グリゼルダ。これで共に戦うことができる。必ずお前の期待に応えよう」


 グリゼルダはその言葉に静かに頷く。


「分かった。だが、私が戦う理由はお前たちだけのためではない。この地を守りたいからだ」


 ゼフィルスがその言葉を重く受け止めると、少しだけ微笑んだ。

 交渉は終わり、協力の証として手を握り合った。俺はその様子を見て、ようやく一息つく。


「じゃあ、ゼフィルス、これで決まりか?」

「ああ、これで協力は決定だ」


 そして、グリゼルダとの交渉が終わったことで、俺たちは新たな一歩を踏み出すことになった。


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