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14話:揶揄いたくなる

 アスタリアが指示を出し終わると、俺たちは各自必要な準備を整えるため一旦解散した。

 俺とエイシアス、そして同行を志願したリリス、ゼフィルスの四人が北方へ向かうことになった。

 リリスが同行する理由は明白だった――彼女自身の目で俺たちを「見極める」ため。


「信用できるかどうかなんて、現場で分かるもんでもないだろうに」


 俺は準備を整えるリリスに軽口を叩いたが、彼女は冷静に俺をジッと見つめた後に口を開いた。


「……私が信用するのは目に見えた結果だけ、です」

「そうか。勝手に判断するんだな」


 一方、ゼフィルスは何も言わず静かに準備を進めていた。魔王への忠実な彼の態度には疑念や不満は感じられない。

 ゼフィルスは、俺を疑っても無駄だと言うことは理解しているのだろう。魔王の言う通り、敵に回らなければそれでいいと。

 ただ、ゼフィルスはリリスの同行に対する警戒は隠していないようだった。


「リリス。頼むからテオとエイシアスに敵意を抱かないでくれ」

「……力量差は理解している、です」

「ならいいが……」


 不安を隠せないゼフィルスは、それだけ言うとリリスから視線を外した。

 そんな中、エイシアスは隣で退屈そうに景色を眺めていた。


「北方か。氷の世界なんて退屈だと思うが、グリゼルダのことはちょっと興味があるな」

「珍しいな。俺が興味を持ち、面白いと思える存在ならいいが」

「ふふっ、主のそういうところが私は好きだよ」


 そう言いながら、エイシアスは小さく笑う。

 ちなみに移動は幌馬車だが、馬の代わりに魔物が引いている。馬型の魔物で名前はバイコーン。二本の角を生やした馬で、ユニコーンの亜種とか言われているらしい。

 馬車は進み、少しずつ景色に雪化粧が混ざっていき、俺たちは北方のグリゼルダが支配する地域へと足を踏み入れた。


 程なくすると、空気が刺すように冷たく、地面は凍てつきはじめた。

 四人での道中、会話はほとんどなかった。リリスは終始無言でゼフィルスも必要最低限の言葉しか発さない。

 エイシアスだけが相変わらず飄々としておりいつも通りだ。


 途中、俺たちは小さな集落跡を通り抜けた。そこには、かつて――とはいっても数百年以上も前に人間と魔族の争いがあった地とのこと。

 雪に埋もれた建物の残骸や、凍りついた戦いの跡が悲惨な歴史を物語っている。


「グリゼルダがこの地域をまとめていると言っても、支配下にある者たち全てが従順というわけではないだろうな」


 俺の言葉に、ゼフィルスが口を開いた。


「その通りだ。北方の魔族たちは独立心が強い者が多い。グリゼルダはその才覚で彼らを従えてはいますが、完全な統一ではない」

「ははっ。なら、より混乱を楽しめそうだ」


 リリスはその言葉に目を細める。


「……あなたが楽しむためだけに、世界が動くとは思いたくない、です」

「思いたくないなら、それでいい。だが、俺が動けば結果はお前の望む形になるかもしれないぞ?」


 俺の言葉にリリスは黙り込んだが、その視線は依然として鋭いままだった。

 嫌われちゃったかな?

 地球に居た頃、子供は好きだった。もちろん、性癖などではなく。

 リリスを見て思う。

 ……アメちゃんあげれば機嫌が直るかな?


「……失礼なこと考えてた、です?」

「ちっこいなって」

「ぶっ殺す、です!」


 リリスが拳を握り締め、全身から怒りのオーラを放ち始めた。

 ゼフィルスは、諦めたような表情で「テオ、リリスにそれを言ったら……」と呟いていたが、リリスの声にかき消された。


「誰がちっこい、です! これでも成長期、です!」

「おお怖い怖い、ちっこいのに随分威勢がいいな」


 俺が両手を上げてわざと挑発すると、リリスはぷるぷると肩を震わせて今にも爆発しそうだ。

 見ていて面白いし、揶揄うのが楽しい。なんだろう、親戚の子を相手している気分だ。


「主よ、さすがに可哀想じゃないか?」


 エイシアスが笑いを堪えながら口を挟む。だが、その表情は明らかに面白がっている。

 お前も楽しんでいたのか。


「いや、こうやって怒る姿を見ると余計に可愛らしく思えるだろ?」

「か、可愛らしい……?」


 リリスの顔が一瞬だけ赤く染まる。だが、すぐに怒りの感情が上書きされた。

「馬鹿にしてるです⁉」

「いやいや、褒めてるんだぞ。お前くらいちっちゃくても根性ある奴って、中々いないからな」

「ちっちゃい、ちっちゃいって……!」


 リリスはとうとう堪えきれなくなったのか、俺に飛びかかってきた。


「今すぐその口を閉じる、です! 後悔させてやるです!」


 飛びかかってきたリリスを片手で軽々と受け止め、俺は面白そうに笑った。


「ほらほら、落ち着け。ちっちゃいのは成長期ならそのうち直るだろ?」

「やっぱり馬鹿にしてるです!」


 そんなやり取りを見ていたゼフィルスは、深々と溜め息を吐く。


「テオ、リリスを挑発するのはやめてくれ。これ以上彼女が怒ると、北方に到着する前に問題が起きそうだ」

「問題? 俺が全力で受け止めてやるから心配ない」


 俺がそう言うと、ゼフィルスはさらに深いため息を吐いた。


「リリス、お前も無駄に魔力を使うのはやめるんだ。グリゼルダのところに到着する前に余計な魔力を消耗したくはないだろう?」


 その言葉に、リリスは渋々腕を引っ込める。


「……分かったです。でも覚えておくです。絶対に仕返しする、です!」

「おう、その時は楽しみにしてるよ」


 俺がそう言うと、リリスは「むぅっ」と悔しそうに唇を噛んだ。

 エイシアスがニヤニヤしながら俺たちを見ている。


「主、相変わらずいい性格してる。リリスが本気で怒ったらどうするつもりだ?」

「その時はその時だ。怒ってもリリスの攻撃なんて蚊に刺されたようなもんだろう?」

「もう、うるさいです!」


 リリスがぷいっと顔を背け、俺たちは北の地への旅路を続けた。

 冷たい風が吹き込んでくる中、俺は少しだけ、この小柄で思いのほか根性のある少女がどんなふうに俺を見極めようとしているのか、楽しみに思い始めていた。




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