13話:信用など必要ない
「信用がどうとか、裏切る保証がどうとか――お前ら、そんな小さな話で俺を測れるつもりか?」
俺の言葉に、魔将たちの間で微妙な空気が流れる。ザリウスの眉間に皺が寄り、リリスは冷たい目を一層鋭くした。
「俺はな、力が全てだと思っている。俺がやると決めれば、それが全て現実になる。お前たちがどう足掻こうが、俺を止められる奴なんていない。裏切るも何も、俺にとってその程度の議論は退屈で仕方がないんだよ」
俺は手を軽く振り、無意味な話はやめようと言わんばかりの仕草をした。
「お前らがどう思おうと関係ない。俺は俺の楽しむために動く。それだけだ。それが魔族を救おうが滅ぼそうが、俺にとってはただの結果でしかない。だが――」
俺はザリウスを真っ直ぐに見据え、にやりと笑う。
「もしお前らが俺を試したいってんなら、いつでも相手になってやる。だが、後悔するのはお前らだ」
エイシアスが隣で腕を組みながら呟いた。
「主よ、随分と楽しそうだな」
「当然だろ。こいつらがどう折れるか、それとも粉々になるか――見ものじゃないか」
その一言に、魔将たちの中から微かな殺気が立ち上る。だが、それがどうしたというのか。
俺の存在を前にして、歯向かう勇気を持てる者がいるとは思えない。
「さあ、どうする? お前らの言う信用だの保証だのって話が、俺の前でどれだけ通じるのか、試してみるか?」
俺の言葉に、ザリウスの手が一瞬拳を握りかける。
しかし、アスタリアが一歩前に出てそれを制した。
「やめなさい、ザリウス。彼に挑むのは愚かよ。それに――彼が言った通り、結果を見れば全て分かるわ」
アスタリアの言葉が、広間に再び静寂をもたらす。
「面白い展開になってきたな」
俺はその場の全員を見渡し、笑みを深める。
魔将たちの目の奥に宿る疑念や敵意を楽しみながら、俺はその場を支配していた。
広間に漂う静けさは、嵐の前のようだった。誰もが口を閉ざし、俺を睨みながらも動けずにいる。
そんな緊張感を楽しむように、俺は余裕たっぷりに笑みを浮かべ続けた。
「どうした? お前ら誇り高き魔将が、たかが人間相手に尻込みするのか?」
挑発的な言葉に、ザリウスが真っ先に反応した。
彼の赤い瞳が激しく燃えるように光り、立ち上がる勢いで前へと進み出る。
「貴様……!」
「やめなさい!」
しかし、その言葉が終わる前に、アスタリアが力強く遮った。
「ザリウス、何度も言わせないで。彼らはただの人間じゃないわ。私の命令を無視するなら、その覚悟を見せてちょうだい」
アスタリアの声には、鋭い威圧感が込められていた。普段は穏やかな態度を崩さない彼女が見せるこの強い表情に、ザリウスは一瞬ためらいを見せたが、ついに拳をほどいて下ろす。
「……畏まりました、魔王様」
悔しさを噛み殺すような口調だったが、彼はそれ以上言葉を重ねなかった。
一方、俺はその様子を楽しむかのように腕を組み、広間を見回す。
「他にはどうだ? まだ俺に何か言いたい奴はいるか?」
すると、ルギウスがゆっくりと前に出てきた。その青い瞳は冷静そのもので、余計な感情を感じさせない。
「言わせてもらおう。我々魔将の多くが、おまえたちを信用できないと思っている。それが理由のすべてだ」
「ほう、それで?」
「だが、魔王様があなたたちを選んだ以上、我々はその決定に従う義務がある。それが魔将としての役目だ」
意外な言葉だった。彼は俺に対して懐疑的でありながらも、主に対する忠誠を優先している。
「ふん、筋は通ってるな。だが、俺のやり方はお前らとは違う。アスタリアが正しい選択をしたかどうか、お前ら自身の目で確かめるといいさ」
ルギウスはわずかに眉を動かしただけ。
次に動いたのはネフィリアだった。彼女は妖艶な笑みを浮かべながら、ゆったりと俺の前へ歩み寄る。
「私は反対しないわ、アスタリア様。それに、この“テオ”という男……なかなか魅力的な存在に思えるもの」
彼女の言葉に、他の魔将たちが微妙な表情を浮かべる。ネフィリアは周囲の反応を楽しむように肩を竦めた。
「ただし――あなたが本当に私たちにとって必要な存在かどうか、確かめさせてもらうわ」
彼女の挑発的な口調に、俺は笑みを深めた。
「勝手にするんだな。俺は俺のやりたいようにやるだけだ」
その一言で広間の空気がさらに重くなる。
しかし、俺は気にしない。むしろ、この緊張感を存分に楽しんでいる。
「さあ、他に意見があるなら聞いてやるぞ。なければ、準備を始めようか?」
全員が黙り込む中、俺にボコボコにされたヴァルカンがようやく声を上げた。
「負けた身だが、これだけは覚えておけ。たとえ魔王様が許しても、お前が見限った時――その瞬間があんたの最後だ」
俺は彼の言葉に、愉快そうに笑った。
「楽しみにしてるぜ。その日が来るなら、徹底的に潰してやる」
ヴァルカンの瞳に宿る怒りと警戒が、俺の心をさらに楽しませる。俺はこの世界で何が起ころうと、退屈だけはしないと確信していた。