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11話:報酬は……

 アスタリアは俺の問いに少し考え込み、真剣な表情で答えた。


「報酬は……あなたたちが望むものを提示するわ」


 その言葉に俺は目を細めた。適当に約束させるつもりではない本気の態度だ。だが、それが実現可能かどうかは別問題だろう。


「俺の望むモノをお前に用意できるか?」

「……私が手に入れられる範囲で、という条件付きだけど」


 俺が欲しいものは大抵力ずくで手に入る。

 力ずくでも手に入らないのがある。一体、それは何か?


「お前にできることなんてたかが知れてる」


 俺の言葉に彼女はビクッと肩を震わせて見つめてくる。

 交渉は失敗したと思っているのだろう。


「俺がお前に要求することはただ一つ。退屈を忘れさせてくれる時間だけだ。簡単だろう?俺たちが飽きる暇もないくらい、楽しませてくれればいいだけだ」


 アスタリアはその言葉に一瞬驚いたようだったが、すぐに真剣な表情を浮かべた。俺の言う「面白い」が具体的に何を意味するのか掴みかねているのだろう。


「楽しませる……そんなこと、本当に私にできるのかしら?」


 彼女の戸惑いが言葉に滲んでいるが、俺はそれを楽しむように笑みを浮かべた。


「やってみなければ分からないだろう? お前が魔王としての力を誇るなら、俺を楽しませるくらい朝飯前じゃないのか?」


 その挑発的な言葉に、アスタリアの瞳が少しだけ鋭さを帯びた。彼女は自分のプライドを傷つけられたことを感じ取ったようだ。


「……分かったわ。約束はできないけど、あなたたちを魔王の名に賭けて、全力で楽しませてあげる」

「ハハッ、いいじゃねぇか。その意気だ」


 彼女の表情が険しさから何か別の感情に変わる。緊張と不安が交じり合いながらも、確固たる意思が感じられる視線だ。


「でも、その代わりに――私を裏切らないと約束してほしい。敵にならないと」

「裏切らない?」


 俺は少し眉を上げて言葉を繰り返した。


「お前は俺たちを信じるのか?」


「信じるというより、賭けるのよ。私には他に道がないから。このままでは、人間との戦争と同族による争いで魔族は衰退してしまう」


 その答えは正直だった。アスタリアの立場がどれほど追い詰められているのかが伝わってくる。

 俺は彼女の言葉を吟味するようにしばらく沈黙し、やがて静かに頷いた。


「いいだろう。ただし――」


 俺はアスタリアをじっと見つめる。


「俺たちが裏切るような状況を作るな。それだけだ」


 アスタリアは少し目を見開いたが、すぐに頷いた。


「……分かったわ」


 そのやり取りが終わった瞬間、部屋の空気が僅かに和らいだ。だが、これが単なる一時的な平穏であることは分かっている。

 この先、魔族の三魔公や他の勢力との衝突が避けられない以上、俺たちが望む「面白さ」が何かしらの形で訪れるだろう。


「それじゃあ、具体的な計画を立てようか」


 俺は笑みを浮かべながら言った。

 それから俺とエイシアス、アスタリアとゼフィルスを交えて話し合いが行われた。

 そして先に誰を攻略するのか決まった。

 その相手は北に構え、【氷槍】の異名を持つグリゼルダからとなった。


「お前の話を聞く限り、奴が最も戦略に長けた存在のようだ。そんな相手をどう攻略するか、考えるだけで面白そうだ」


 アスタリアは少し眉を顰めながら頷いた。


「ええ、グリゼルダは私に対して一貫して冷淡な態度を取っているわ。北方の魔族たちをまとめ上げるだけでなく、人間界に対しても何度か侵略を試みている。魔族が一つにまとまらない今、私はその動きを抑えるために手を尽くしているけれど、限界があるの」

「つまり、奴はお前の命令を無視して勝手に動いているってことか。何か目的があるんだろうな」

「そう思うわ。ただ、それが何かまでは掴めていない。グリゼルダは自分の考えをほとんど表に出さないの」

「なるほどな。なら、直接会いに行くしかないだろう。お前には無理でも、俺たちなら力づくで奴の真意を引き出せるかもしれない」


 俺がそう言うと、アスタリアは驚いた表情を浮かべた。


「あなたたちが直接? いえ、その力なら一人で魔族と戦争できるでしょうね」


 まあ、世界対俺とエイシアスでも余裕だけどね。


「奴の本気を引き出すのも、面白さの一部だろう? それに――」


 俺は不敵に笑い、エイシアスに視線を向ける。彼は静かにティーカップを置き、口を開いた。


「退屈な相手ではなさそうだな。グリゼルダとやらがどれほどのものか、確かめるのも悪くない」

「エイシアス、やる気じゃないか?」


 俺は楽しそうにエイシアスを揶揄うように笑う。


「主が楽しむと言うのなら、俺も付き合うさ。ただし、グリゼルダが面白くなければすぐに飽きるがな」


 アスタリアは俺たちの軽いやり取りに困惑しつつも、覚悟を決めたように頷いた。


「……分かったわ。北方への道案内を用意する。だが、くれぐれも油断しないで。グリゼルダの領地は過酷な氷雪地帯よ。そこに足を踏み入れた時点で、彼女の支配下にいると思った方がいいわ」


 俺たちは行動の方向性を定めた。グリゼルダという三魔公との対峙が、どんな刺激をもたらすのか。期待に胸を膨らませつつ、俺は冷えたティーカップを再び口に運び、最後の一口を飲み干した。


「それにしても、極寒の地は二度目になるな。前回のイシュリーナ以来だ」


 するとアスタリアとゼフィルスが驚いている。


「まさか、魔王軍ですら何度も進攻退けてきた氷雪の魔女を、か……?」

「うん? ああ、今は帝国に降ったよ」

「なっ……いや、そうか」


 驚いていたがそれだけだった。





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