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9話:魔王とお話し1

「立ち話もなんだ。座って話をしようではないか」


 エイシアスがそう言って指を鳴らすと、四つの椅子と一つのテーブルが現れた。

 空間に手を入れると、そこからティーポットと人数分のティーカップを取り出して注ぐ。


 アスタリアは驚いた様子もなく、その様子を眺めながら席に腰掛けた。

 小さな身体を椅子に沈めた彼女は、まるで大人びた雰囲気を漂わせながら、しかしどこか興味津々な瞳でこちらを見ている。


「珍しいわね、私の前でこんなに落ち着いている人間は」


 彼女がティーカップを手に取りながら言った。


「その程度でビビれと? 笑わせるな」


 彼女の目が細めれるが、俺は気にする様子もなく目の前のティーカップを手に取る。

 エイシアスが淹れた茶は、ほのかに甘く、それでいて奥深い香りを放っていた。


「……話に聞いていた以上に、高慢なようね。部下たちがお世話になったようだし」


 城前で起こったことは、すでに聞いているのだろう。面白くなさそうな表情をしていた。


「それで、何のお話をしましょうか」

「単純な話だ」


 俺はティーカップを置き、彼女に視線を合わせる。


「お前が何を考え、何を望んでいるか知りたかった。あとは、そうだな……世間話だな」


 アスタリアの眉がわずかに動いた。

「それだけ?」

「ああ、それだけだ」


 俺は笑みを浮かべたまま答える。


「面白いね。私に興味を持つなんて」


 彼女はカップを口元に運び、ゆっくりと一口飲んだ。その仕草は幼さを感じさせる一方で、どこか洗練されたものでもあった。


「魔族の頂点に立つ魔王だろう? 興味を持たない方が不自然だ」


 俺の言葉に彼女は少し考えるような仕草を見せた後、くすりと笑った。


「いいわ。なら、私の望みを教えてあげる」


 アスタリアはカップをテーブルに置き、身体を少し前に乗り出して答えた。


「私の望みは――邪魔な人間を滅ぼし、魔族の未来を守ることよ」


 その言葉には、幼い外見からは想像できないほどの確信と力が込められていた。広間全体が彼女の発する魔力で一瞬震えた気がする。


「それは随分と単純で、ありきたりな回答だな」


 俺は軽く笑いながら返したが、彼女からは覚悟と意思が伝わってきた。


「単純だからこそ、達成する価値があるのよ」


 アスタリアは胸を張り、目を細めて自信満々に言い切った。その姿は、幼いながらも確かに魔王の風格を漂わせていた。

 俺はその様子をしばらく見つめた後、微笑を浮かべながら言った。


「なるほどなぁ。俺が邪魔をすると言ったらどうする?」


 アスタリアはその問いに対し、片眉をわずかに上げた。驚きというよりも、興味深げな反応だった。


「貴方が、私の邪魔をする?」


 彼女は椅子の背もたれに寄りかかりながら、ゆっくりとした口調で言った。


「ああ、そうだ。俺は別に人間の味方でもないが、魔族の未来に特別な興味があるわけでもない。ただ――お前みたいな存在が世界をどう動かすのか、見てみたくなっただけだ。それに、人間を助けてほしいと言われていてな」


 俺は肩をすくめ、気の抜けた態度で答える。


「そう。それで邪魔をするというのね」


 アスタリアの瞳が細められる。その紫色の瞳は宝石のように美しく、しかし鋭い光を放っていた。


「邪魔をすると決まったわけじゃない。ただ、俺の興味が邪魔をする形になるかもしれないってだけだ」


 言葉の端々に余裕を滲ませながら、俺はもう一口茶を飲む。そんな俺の態度に、アスタリアは少しの沈黙を挟んだ後、口元に不敵な笑みを浮かべた。


「いいわ。なら、もし本当に邪魔をするなら、その時は全力で貴方を排除するだけよ」


 その声には、まるで遊びを楽しむような響きがあった。だが、その裏には明確な覚悟が隠されているのを感じ取れる。


「流石、魔王様だ。とても頼もしい答えだな。だが――」


 俺はティーカップをテーブルに置き、口元を歪める。


「お前程度の全力が俺とエイシアスに通じるとでも思っているのか?」


 その瞬間、空気が変わった。俺の放った濃密な殺気が一瞬で広がり、部屋の温度が一気に下がったように感じる。アスタリアの微笑みが消え、彼女の目がわずかに見開かれたのがわかる。


 すると彼女の身体が微かに震え、青ざめた顔が一瞬で現れた。目の前の魔王が、まるで恐怖に取り憑かれたように見えるのは、想像していなかった反応だ。


「……これは」


 その目には恐怖と同時に、何かを必死に押し殺すような感情がこもっているのが感じ取れる。


「……勝てる、勝てない、そんな次元の話じゃないわ」


 その言葉に、俺はほんの少し驚いた。アスタリアの瞳が、もう一度こちらを見据える。それは、最初の挑戦的なものとはまるで違う、純粋な恐怖と警戒心の色を帯びていた。


「どうした? 俺と戦うか?」


 どちらを選んでも、俺は歓迎だ。


「戦闘になった場合、死なないといいなぁ?」


 嗤った俺を見て、彼女からツーッと一筋の汗が流れる。そしてアスタリアは降参したように手を挙げた。


「私の負けよ。どう考えても勝てるわけないじゃない。あなたにも、そこの彼女にも」


 そう言ってエイシアスへと視線が向けられた。

 どうやらエイシアスの実力も感じ取ったようだ。俺が殺気を収めると、二人はふぅっと大きく息を吐いた。


「――あなたたち、一体何者なの?」





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