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7話:魔将

 ゼフィルスは死屍累々の光景を前に、焦りの色を隠せないようだった。

 俺の変装は一瞬で見破ったようだ。というよりも、戦い方と俺の態度で判別したんだろう。

 俺はゼフィルスへと視線を向ける。


「……俺の邪魔をする気か?」

「もう十分だ、テオ殿。この場でヴァルカンを殺しても何も得られない!」


 彼は俺に向かって歩み寄り、真っ直ぐに俺の目を見据えた。その瞳には揺るぎない決意が宿っている。


「違うな、ゼフィルス。コイツが俺に喧嘩を売ってきた。だから殺す。そこに利益は関係ない」


 するとゼフィルスと一緒に付いてきた四人の男女が、俺へと武器を向けた。

 魔力量はゼフィルスやヴァルカンと同等近くあるので、魔将なのだろう。視線からも警戒の色が見て取れる。


「ヴァルカンは魔族に必要な存在だ。どうか見逃してはくれないだろうか?」

「……チッ、興が削がれた。俺を楽しませたお前に免じて一度は許してやる」

「感謝する」


 重力を解除すると、ヴァルカンは荒い息を上げながらも俺を睨み付けていた。そこには怒りと恐れが入り混じっていた。

 俺はヴァルカンや他の魔将だろう者たちを無視して、ゼフィルスに尋ねる。


「魔王には伝えたんだろうな?」

「当然だ。魔王様は話してみたいと仰った。案内するが、くれぐれも暴れないでほしい」

「お前たちの出方次第だな。手を出してこないなら、殺しはしねぇよ」

「わかった。では案内しよう」


 ゼフィルスが城の中へと歩みを進めようとして、その前に四人が立ち塞がった。

 一人は鋭い青い瞳と白銀の髪が特徴的で、長身で筋肉質な体を持つ。獣のような牙が顔から覗いており、爪が鋭い。その身に纏う鎧は、白銀に輝く美しいデザインをしている。


 二人目は長く銀色に輝く髪を持ち、全身を覆う薄紫色の衣装。身長は誰よりも小さく幼く見える。目元には冷たい光が宿り、無表情だが俺を警戒している。


 三人目は鋭い赤い瞳と短髪で、髪の先端が雷のように鋭く尖っている。身の丈は中くらいだが、身体の中から放たれる強いエネルギーで、周囲に圧倒的な存在感を与えていた。


 四人目は長い紫色の髪に、ヴァイオレットの瞳が特徴の、優雅で美しい顔立ちに、妖艶な雰囲気が漂う美女。

 各々が武器を構え、俺とエイシアスに向けていた。


「何をしている?」

「魔王様のところに、その危険人物を通すと?」

「……危険」

「同胞を殺され、何もしないと言うのか?」

「私もザリウスに同感ね。このまま魔王様のところに通すと思います?」



 四人は敵意を剥き出しにしていた。ゼフィルスが声を上げようとして、俺は肩に手を置いて遮った。


「テオ殿?」

「どけ」


 俺は一歩前に踏み出して告げる。


「踏み込んで後悔するのはお前だ。選択肢は一つだ、死にたくなければ今すぐ道を開けろ」


 殺気を放つと、四人はビクッと身体を震わせ青褪 四人の動きが一瞬止まった。

 その瞳には恐れが色濃く表れていた。幼い顔立ちをした魔族の少女が口を開いた。


「……勝て、ない」

「リリス。あなた、視えたの?」


 リリスと呼ばれた少女は、美女の言葉にコクリと頷いた。


「全員でかかっても、一瞬で殺される」

「それほどかよ……ネフィリアの魔法でもか?」

「全て効かない」


 ザリウスの言葉にリリスは頷いた。そこにずっと黙っていた青い瞳と白銀の髪が特徴的の魔族が口を開いた。


「ゼフィルス。一つ聞きたい」

「どうした、ルギウス?」

「敵対さえしなければ、奴からは攻撃しないのか?」


 ゼフィルスが俺を見るので頷いてやる。


「ああ。敵対さえしなければ、問題ない」

「……わかった。一つ、お前に聞きたい」


 ルギウスは俺に尋ねた。


「お前は何者だ? お前のような強さを持つ魔族は聞いたことがない」

「そりゃあそうだろう。だって俺は――人間だからな」


 エイシアスに言って偽装を解くと、俺とエイシアスは元の見た目に戻る。それを見たゼフィルス以外の面々は驚いた表情を浮かべた。


「人間だと⁉ まさか、新たな勇者ではあるまいな!」


 ザリウスの警戒する視線に俺は肩を竦めながら答えた。


「俺からすれば、勇者ってのはただの道化に過ぎない。世界を救うとか、バカバカしい。何が正義だ。自分の行いを正当化するための便利な言葉なだけだろ」

「でも主、あの勇者は死ぬ瞬間まで、私たちを楽しませてくれたからいいではないか」


 エイシアスの言葉に俺は頷いた。その点に関してはよくやったよ。

 俺は「その通りだな」と笑う。


「違う、のか?」

「何度言わせるんだ。俺たちは勇者の死を楽しんでいるんだぞ。勇者なわけあるか」


 俺は告げる。


「俺が次の勇者に選ばれたところで、世界を救う理由なんてない。こんな世界、俺たちのための箱庭に過ぎない。だからこそ、好きに楽しむだけだ。理解できたか? 理解できたのなら、早く道を開けろ。殺すぞ?」


 俺が一歩を踏み出すと、面々は黙って道を開けたのだったのだった。




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